初めての街道
朝。
焚き火の灰を土で覆い、野営の跡を丁寧に片付ける。
「忘れ物はないな?」
「うん、大丈夫!」
ミィナが荷台車の縄を握り直し、誠も荷物の固定を確認した。
改造した荷台車は、大量の革製品や陶器、保存食を積んでもしっかりと安定している。
「よし、行こう」
三人は朝日に照らされる山道を歩き始めた。
◇
山道を進むこと数時間。
木々の間から差し込む光が次第に強くなり、視界が開けていく。
そして――。
「……広い」
誠は思わず足を止めた。
目の前には一本の大きな道が、遥か彼方まで真っ直ぐ続いていた。
踏み固められた土の道。
村の細い獣道とは比べ物にならない幅がある。
ミィナが少し誇らしげに笑う。
「ここが街道だよ」
「これが……街道」
誠はゆっくりと辺りを見回した。
道の上には多くの人々が行き交っている。
荷台車を引く商人。
大きな荷物を背負った旅人。
剣や槍を持った冒険者らしき集団。
鎧を着て街道を巡回している兵士のような者たち。
「思ったより……人が多いな」
『交易路を確認』
アイが淡々と報告する。
『交通量は想定以上です』
『周辺地域の物流中心地と推測します』
「物流の中心か……」
誠は少しだけ胸が高鳴った。
今まで自分が知っていた世界は、あの小さな村だけだった。
だが、この街道はその先にある無数の村や町へと繋がっている。
世界が一気に広がったような気がした。
◇
しばらく歩きながら、誠は荷台車へ視線を向ける。
「……うん、問題ないな」
荷物はまったく揺れていない。
他の荷台車を見ると、
ガタン。
ゴトン。
車輪が石を越えるたび、大きく揺れ、積み荷が跳ねている。
「改造した甲斐があったな」
板ばねを組み込み、車軸を補強した効果は予想以上だった。
これなら荷崩れの心配もほとんどない。
その時、隣を歩いていた商人が不思議そうな顔で声を掛けてきた。
「兄ちゃん」
「はい?」
「その荷台車……改造してあるのか?」
誠は少し照れ笑いを浮かべた。
「ちょっとだけです」
商人は車輪や足回りをじっと見つめる。
「変だと思ったんだよ。石を踏んでも荷物が跳ねねぇ」
「うちなんか毎回荷崩れするのにな」
「足回りに細工でもしたのか?」
「まあ……そんな感じですね」
詳しく説明するのは少し面倒だったので、誠は曖昧に笑った。
商人は感心したように頷く。
「面白ぇこと考えるもんだ」
「長旅じゃ、その違いは大きいぞ」
誠は荷台車を軽く叩いた。
「作って良かったな」
『板ばねの効果は十分確認できました』
『長距離輸送への有効性も実証されています』
「これなら村との往復も楽になるな」
◇
再び歩き始める。
街道には絶えず人が行き交い、荷車の軋む音や人々の話し声が風に乗って流れてくる。
ミィナが周囲を見回しながら言った。
「街道に出ると安心だけどね」
「その分、人も多い」
「変な人もいるから気を付けて」
「解った」
誠は周囲を見渡した。
荷物を狙う盗人もいるかもしれない。
人が多いということは、それだけ様々な人間が集まるということだ。
『警戒は継続します』
「頼むよ、アイ」
◇
午後。
街道はゆるやかな丘へと続いていた。
三人は荷台車を引きながら坂を登る。
そして頂上へ辿り着いた瞬間――
「あっ……」
誠は思わず声を漏らした。
遠くに、一つの村が見える。
煙がゆっくりと空へ昇り、人々が行き交う姿も小さく見えた。
今までいた開拓村より、ひと回りもふた回りも大きい。
「あれが……」
誠は目を見開いた。
ミィナが静かに頷く。
「あれが、私たちの元いた村だよ」
誠はその景色をしばらく黙って見つめていた。
開拓村しか知らなかった自分が、初めて訪れる”外の世界”。
その先には、どんな人と出会い、どんな文化が待っているのだろうか。
期待と少しの緊張を胸に抱きながら、誠は荷台車の取っ手を握り直した。
「よし……行こう」
三人はゆっくりと坂を下り、村へ向かって歩き始めた。




