40話
あれから2か月半。
ロティ国に拠点を移したエリは、普段からエリと名乗るようになっていた。
前にも増して、女装は完璧。
化粧も前よりも腕をあげ、いまではナチュラルメイクなのに完璧に女性。
新しい地で、新しい友人もたくさん出来た。
初めは、興味本位や見た目で寄ってくる女性もたくさん居たけど・・
おネェだとわかると恋愛対象からは外れたみたいで友人として仲を築いていった。
ユーリエンス殿下に付いてくる前に、国で話をつけ、そのままロティ国の騎士団に預けられることになったのだ。
移住と定住は認められなくて、あくまでもミューテン国騎士団所属ということ、3か月に1度は帰国してロティ国での提携訓練の様子を報告することを言い渡された。
必然的に移動ポータルを持たされている。
その代わりと言ってはなんだが・・5年の間なら好きなだけロティ国に居ていいということもお許しをもらった。
ありがたい・・
あと1か月もしたら、ユーリエンス殿下は帰国する。
そのため、いまからこちらの騎士団に馴染むために普段からロティの騎士たちを行動を共にすることが多くなった。
とても充実していて、余計なことを考える暇はないくらいだ。
リリとのことがあってこちらへ来てすぐに実家から手紙がきた。
”体に気を付けること。
何かあったらいつでも実家へ連絡してほしいこと。
どこにいても貴方を心配していること。
最後に・・
二人の婚約は継続中だと。”
え?どういうこと??
リリはあたしのこと嫌いになったんじゃないの??
わからないわ・・
あたしだってリリのことは愛してるわ・・でも、あんな態度を取られたら・・
とにかく、いまは何も考えたくないわ。
それに、新しい環境に慣れるのにいっぱいいっぱいで、余計なことを考えてる暇なんてないんだから。
そう言って、するっっと左手首を撫でる。
チャリ・・ あの日、コレだけは外せなかったのよ。
キラリと光る鎖にリリの瞳色の宝石が見えるブレスレット。
嫌われてもあたしは愛しているんだもの。
コレだけは死守するわ。
そして、そっと何事もなかったように仕事の残りを片付けるために部屋へ移動した。
明日はユーリエンス殿下とロティ国の領地への視察だったわね。
荷物の準備やら確認しておかないと・・
一方、リリベル。
プリム領を離れて2か月半。
ロティ国の生活にも慣れて、近所の人々とも仲良くしている。
ここはロティの王都から少し馬車で1時間ほど離れた場所にあるシャリ町。
さすがに王都には敵わないけど、立派な町。
農作物はミューテン国からの輸入が多いけど、海側の国だけあって魚料理が絶品だし、魚の種類・海藻なども豊富。
柑橘類だけはしっかり植生していて、料理にも良く使われている定番食材。
香りが良くて、アロマにも使いたいくらいだ。
シャリ町の中心より南側にお父様が私名義で小さな一軒家を借りてくれていた。
2階建てで、白い岩の外壁、家の中はひんやりとしていて、海に面したこの地では湿気対策になっている塗装材で建物の壁を塗っているらしい。
屋根は素焼きの瓦屋根の下に板張り。
窓は丸い形で、ステンドグラスがはめ込まれている。
台風などもあるため、しっかりした板の雨戸も付いてる。
防犯対策にも良いと教えてもらった。
お庭付で、家庭菜園のスペースもあったので、自分で菜園を管理している。
そしてなんと。。2階建ての1階部分は店舗になっている。
2階は居住部分で、3LDKだ。
各部屋はそこまで広くないけど、一人が生活するには十分なスペースがあるから問題ない。
埋め込み式の収納と、タンス、ベッド、ナイトテーブルは備え付けられている。
LDKは広々としていて、大きなシステムキッチンに食洗器もあるから手間も減る。
ダイニングには可愛らしい丸いテーブルに椅子が3つの可愛らしいダイニングセット。
リビングは暖炉の前にゆったりとしたL字型ソファがあるし、窓枠の下側に低めの横長の本棚があるから、そこにお気に入りだけ持ってきた本が余裕を持って入れられている。
家具や照明は備え付けだったから、カーテンと寝具類だけ購入してきた。
テーブルに敷く食事マット、ソファカバー、クッションとカバー は自分で手縫いして刺繍も入れた。
食器は私の好みのものをお父様が送ってくれていた。
しっかりとお礼の手紙と家族分の刺繍入りハンカチを送っておいた。
引っ越してきた当時は、プリム領から持ってきた野菜や果物をご近所に挨拶の手土産として配りまくった(笑)
その時に、こちらでお菓子や軽食を出すカフェを始めることの断りを入れて、宣伝も兼ねて試食も渡してきたのだ。
そのおかげか??ご近所のみなさんとはすぐに打ち解けたし、とても親切丁寧にしてもらっている。
カフェにも足を運んでくれて、持ち帰りメニューもあるといいかも、とかアイデアもくれる。
いまではみなさんの宣伝のおかげもあって、繁盛している。
すでにこちらにきて、2通の手紙を実家へ送っている。
そろそろ3通目を書かなきゃな~と思っている頃だ。
ケイも本当に日々、手伝ってくれていて、こちらの2階で一緒に住んでいる。
もちろん、シャリに着いてから翌日には一旦、家に帰るように伝えてご家族用に謝罪の手紙と手作りのお菓子をこれでもかと詰め込んだバスケットを持たせた。
突然のことで驚いていたがなんとか許してもらえたらしい奥様から手紙をもらって戻ってきていた(笑)
”リリベルお嬢様へ
このたびは、突然のことでとても驚きました。
普段から時々しか帰宅しない人なので、もう帰ってこないのかと心配もしましたが、お嬢様の事情もさわりだけですが聞きしました。もちろん、他言はしません。
主人も週末は家族で過ごせるように帰ってくると約束してくれましたし、いままでよりも帰宅してくれることが増えるって子供たちも喜んでいます。
平民に対してこんなに良くしてくださって、感謝いたします。
お土産まで届けてくださってありがとうございます、子供たちも大はしゃぎでした。
ありがたくいただきます。
よければ、お嬢様もお休みの日にでもうちへ遊びに来て下さい!みんなでお待ちしてます。
ケイの妻リジ― より”
平民とか関係ないんだけどなぁ(クス)
とても優しい人なのね。会えるのが楽しみになったの♪
そうこうして、割とシャリに染まってきたと思う。
毎日充実しているし、友人と呼べる人たちも出来たの。
みんなで誕生会を開いちゃうくらい(笑)
友人の好みのケーキを焼くのが毎回楽しみ♪
もちろん、ご近所さんも呼んで、その日はお店を貸し切りにしてパーティーするのよ♪
前までのわたしったら、領地から出ないから、領民との距離は近かったほうだと思うけど友人は居なかった。
ロティ国に来て良かったわ。
ここのところ、エリのことも忘れつつある・・
いえ、ロティは知らない土地だから簡単に探しようがないということもあるけど、ここの生活に慣れるのに精いっぱいだしお店のこともあってバタバタしていたから・・
だからといって、他に好きな人が出来たわけじゃない。
あの人のこと忘れるなんて無理なの・・
期限は1年しかないのだから・・そろそろ本格的に動かなきゃ。
そう思いつつ、とりあえず明日の開店のための下準備をしてしまわないと!!
と1階の店舗へ降りていく。
今日はもうお客さんも来ないから店じまいして、店舗キッチンだけ明かりを灯す。
もう冬だわ・・
プラムカラーのような妖艶な空にシトリンのような星の輝きが美しいドレスのよう。
外からは、閉店したあとの店にほんのりとクロムイエローの灯りが見える。
道行く人はその温かさに今度来たいなと思いを抱きながら、通り過ぎていく。
キッチンで、明日のメニューやお菓子のことを考える彼女の左手首には、ウィスタリアブルー色の宝石が埋め込まれた飾りのあるブレスレットがキラリと輝いている。
明日も美味しいお菓子で皆が笑顔になりますように。
二人のロティ国での生活は充実しているようですね。
果たして出会うことが出来るでしょうか・・




