38話
翌日、早朝から起き出して準備をする。
休暇は今日含めてあと3日しかない。
この3日間はプリム領に泊まる覚悟で荷作りをした。
時刻は朝の7時、まだ世の中は動き出していない・・が早く行動するに越したことはないのだ。
深呼吸をしてから自宅の庭で移動ポータルを使用する。
1分後、プリム領到着。
ふぅ・・
さてと、まだ時間的に馬の貸し出しはしていないからな・・歩くか。
やっと起き出した街中をゆっくりと歩いて館へ向かう。
どこかで鳥の鳴き声が聞こえる。
今日は花束もしっかりと用意した。
爽やかなこれからの季節を思わせる、深い青のアネモネの花束。
”君への想いを誓う”
という意味を込めて。
「リリ・・」
1時間ほど歩いただろうか・・目的地が見えてきた。
門には姿勢正しく騎士が立っている。
そこへ近づいていくと、騎士がこちらに気づき声をかけてきた。
「リドール子息様!!お待ちしておりました!!」
ん??俺のことを知っている???
とそのまま手を上げて近づいていくと・・
「あぁ!貴方は昨日も門番をしてくれていた騎士さんじゃないですか、二日続けてとは珍しいですね?」
不思議に思った。
本来なら門番の翌日は休みなはずだ・・
「えぇ。本来は休みなのですが、旦那様からご希望で。リドール子息様がいらっしゃるから知ってる門番のほうがすぐに対応できるだろうからと、お心遣いでございます!我々もお会い出来て光栄です!」
一人が話している隣では、更に昨日と同じく無口な相棒が居て、笑顔で敬礼していた。
なるほど・・お義父様の配慮か・・
確かに止められることなくスムーズに行くに最適だが。
「だが、貴方がたの休日を潰してしまって、申し訳ない・・」
「いえいえ、我々も喜んでお引き受けしたのですよ!!その代わり連休を下さるとお約束まで下さって・・ありがたいことです!住み込みですのでなかなか家族にも会いに行けず・・ですので、幸運ですよ!」
と言いニカッと笑顔になった。
そうか・・そういうこともあるんだな。
「僕もお言葉に甘えますよ!!またお時間ある時は、今度こそみなさんと訓練しましょう!」
「「ありがとうございます!!!」」
「では、お通り下さい!(笑))
「あぁ(笑) では、また!」
二人にお礼を伝え、屋敷へ歩き出す。
昨日も思ったけど、やっぱり素敵な場所だなぁ。感慨にふけっていると・・
前方の屋敷前には執事がスタンバイしていた。
確かミッチェルさんだったかな。
仕事が出来るなぁ~
「ようこおそおいでくださいました、エリッシュ様。お待ちしておりました、こちらへどうぞ。」
「はい、今日もよろしくお願いします」
「敬語なんておやめください!私めは執事でございます、どうぞ普段通りでお願いいたします」
「ははっそっかぁ。うん、わかった。よろしくね?」
「えぇ!お任せ下さいませ!!早速ではございますが、朝食は召し上がられましたか?まだでしたら、庭のほうの東屋でどうでしょう?」
「ふむ・・食べてないから、ご馳走になってもいいかな?」
「もちろんでございます!!では、こちらのメイドに案内させますので、お先に休まれていて下さい、すぐに朝食をお持ちいたしますね。」
「ありがとう!!!楽しみにしてるよ!」
「では、リドール子息様、こちらへどうぞ・・」
ミッチェルと別れて、メイドの子が案内してくれた東屋はカントリー風の白い木組みで、まるで鳥かごみたいな様相。
屋根もしっかりあって、周りの壁が1枚おきに窓仕様になってるのと壁だけのものととあるから、雨も入りづらいだろう。
夜の庭園も楽しめるように、照明も設置されているし、壁をぐるっと回るように取り付けられているベンチにはフカフカなクッションシートが敷かれてお尻も痛くないし、壁側には座るのに邪魔にならないギリギリの大きさで背中を保護するクッションが置かれいて・・
ナニコレ快適。
僕もうここに住もうかな・・・意識が持っていかれそうだ。
って、違うっそれはダメ・・
王都の家だって、試行錯誤してあんな素敵な家に仕上げたんだし。シエルだって居るし(重要)
それにしてもここからの眺めもとても素晴らしいなぁ。
東屋の横には大きな木が立っており、いまは冬前の最後の紅葉を楽しませてくれている。
粋だねぇぇ・・
母上も義姉上も好きそうだ・・あの二人も可愛い物大好きだからなぁ。ついでに兄と父もだ。
そう・・うちの家系は男女問わずに可愛い物好き。
だから、俺の女装も認められてるし、なんなら面白がって化粧品とかくれるしな。
とても理解ある良い親族だ。
触り心地の良いクッションに顔を埋めていると、ミッチェルさんが直々に朝食を運んできてくれた。
「ミッチェルさん!ありがとう!!とても美味しそうな匂いがしていたよ!」
「お待たせしました、エリッシュ様用だと伝えたらシェフが張り切ってしまいましてね、少々お時間いただきました。こちらになります。」
「あぁ~本当に美味しそう!!!楽しみだよ」
「喜んでいただけで何よりです。・・・ベルお嬢様は大体9時以降はお部屋におりますので、その頃にご案内させていただきますね。」
ピクッとなる・・
「助かるよ・・そうだ、実はね。明後日までが休暇なんだよ、それで今日だけで解決しなかったら泊まり込みも覚悟で荷物を持ってきたんだ。 どこか宿屋を紹介してくれないかい?」
「えぇ!何をおっしゃいます!エリッシュ様でしたら、いつでもお泊りできますように前回お使いになられた客間をそのままエリッシュ様用として整えておりますとも!!是非、そちらの部屋へ。 お荷物はこちらですね?私が先に運び込んでおきますので、貴方はお時間までお寛ぎ下さい。」
ニッコリと大変素敵な笑顔で言われてしまっては・・ねぇ?
「えっと、もちろんお義父様には許可・・」
「もちろんでございます!!旦那様たっての希望ですので、何も遠慮せずにどうぞお使いください!ちなみに、明日以降の3食ももちろんご用意いたしますし、食堂で皆さまとご一緒しても、こちらの東屋が気に入ったのでしたら、こちらで食しても構いません。」
「な・・なるほど。いや、ありがたくそうさせてもらうよ!何から何までありがとう。お義父様には夕食時に僕からお礼を言うよ」
「旦那様もさぞお喜びになると思います!では、私はこちらの荷物を運んでそのまま仕事へ行きますので、また何かありましたらメイドに声をかけていただければ参ります!」
「本当にありがとう。よろしくね。」
ペコっと綺麗な礼をして去っていった。
よし、俺も朝食を食べるかな~
はぁ~~ナニコレ、ほんと美味しい!!!プリム家は野菜や果樹園も収穫が安定してるし、味も最高なんだよな・・
うーん、、王都に帰る前に街で買い物して、実家と騎士団とユーリエンス殿下のお土産にするかな!
もぐもぐもぐもぐ・・う~~~~ん最っっっ高!
素材もいいけど、この付け添えのドレッシングも最高に美味しい。
よし、、結婚したらプリム領の食材定期便を契約するぞ!肉や魚もどこがいいか吟味しておかないと・・
それしても、プリム家はシェフまで有能とか何事か・・
王宮おかかえでもおかしくないんだが・・でもまぁ、あの家族にだから仕えたいと思ったんだろうな。
なんとなくわかる。
おっと、食後の紅茶まで最高だ・・フルーティーな果実紅茶。沈むベリーの色鮮やかさが見てるだけでも楽しませてくれる・・
これで隣にリリが居て、リリの手作りのお菓子もあったら天国だな。
ただひたすら、リリとのことを考えて本当にゆっくりと朝食を済ませると。
んーそろそろいい時間かなぁ?
チラリと少し離れた場所に待機しているメイドを呼ぶために呼び鈴を鳴らす。
「朝食はお済みでしょうか? 味など問題はございませんでしたか?」
ゆったりした声のメイドだ。
「うん、とっても美味しくて本当に、僕好みだったよ!! シェフにお礼を伝えてもらえるかな?」
「それは、シェフも喜びます! しっかりと伝えさせていただきますね(ニコ)」
うん、とても対応がいいね。
「それでね、そろそろリリのところへ案内してもらえないかと思って、時間的にどうかな?」
チラリと懐中時計を見たら、大丈夫そうなんだけどな~。
「ふふ、えぇ、もうお嬢様もお部屋へお戻りになられている頃だと思います。 ・・その懐中時計、リリベルお嬢様とお揃いですよね? 身に着けておられるんですね。」
と、エリの手元に視線をやっている。
「ん?あぁ、コレだね。そう、リリがね僕に内緒でお揃いのを買ってくれていたんだ、初めてのお揃いのものだから僕にとっては宝物なんだよね。」
「お嬢様は幸せ者ですわぁ。 あ、失礼いたしました。では、ご案内いたいしますね!こちらへどうぞ」
先頭を歩いているメイドの後をついていく。
少し冷たくなった風に花の香が乗って頬を撫でていく。
数分歩いて、廊下の付き辺り可愛らしいアクアマリンとクリームイエローで彩られた扉の前に来た。
どうやら、誰の部屋かで扉のカラーが違うらしい。
なるほど、こういう可愛らしいお屋敷だからこその利点だな。
普通の貴族然とした屋敷だと、重厚さを重きに置いているから、むしろ扉の色なんて統一されていて、覚えるのに大変だ。
非効率的・・・ということがわかるな(苦笑)
コンコン
「お嬢様~サナです」
「は~い、入ってどうぞ~」
リリの声にドキリとする。
昨日の今日だから、リリの一挙一動に敏感になっている。
「エリッシュ様、私はお茶とお菓子を持ってきますので、お一人で入られて下さい。旦那様からはそう聞いておりますので。 あと、運んできたあとは私は扉の外へ待機しますので。 存分にお話合われて下さいね。」
ははは・・手の回し方がすごいぞお義父様・・
まぁ・・二人のほうがしっかり話せるか・・
「あぁ。配慮に感謝する。何か気になったらすぐに入ってきてくれていいから。」
「まぁ!そんな無粋なことしませんわ(笑)」
「そうか・・では、行ってくる」
「どうか、お嬢様のこと諦めないでください・・」
「もちろんだ!僕はリリ一筋だよ!」
一拍置いて、扉を開けて入室する。
ゆっくりと歩をすすめるが、リリは何かに夢中になってメイドが入ってきたと疑っていないのか。
部屋の中央のソファに座って熱心に何かをしているようだ。
どう声をかけようかと・・そっと近づいていく。
「・・リリ」
ガタンッ「ひゃぁ!!」
驚いたらしいが、こちらに振り向いてはくれない。
はぁ・・
本当にどうしたらいいんだ。
「ごめん、リリ。今日も来てしまった・・」
何も返事はない。
「リリ? 怒ってるの? 俺良くわかってないんだ、話し合いたいんだ」
出会った頃のよに、おネェ口調で喋ったらどうかと思って・・
「ねぇ?リリ? あなたいつまであたしのこと無視するつもりかしら? 昨日は・・まぁあたしが先触れ出すのが急すぎて、怒ってたのかもしれないけれど。 あたしだってずっと我慢してたのよ??
毎日会いたくて、会いたくて・・でも、連休取るために頑張ったし・・リリの贈り物だって、ちゃんと届いたわ。」
ずっと振り向かずに黙って聞いてるのかしら。
「もしかして、領地へ戻ってきて素敵な相手が出来た?
あたしと約束したから、合わす顔が無いとか思ったのかしら? あたしの何かが嫌いになったとか・・
あたしがこんなだから・・おネェやってるからやっぱり嫌とかそういうことかしら??
・・・
コレだけ言っても、何も返事してくれないのね。
いいわ・・あたしだってね覚悟してきてるのよ?
ダメみたいね?
ねぇリリ・・愛しているわ。
あたしは・・
俺はお前だけだよ。
お前じゃないと無理なんだ、だから嫌がることはしたくないし、何が好きなのかもん何が嫌なのかも知りたい・・
リリが嫌なら、おネェ口調だって女装だって辞める・・
でも、お前と居られないなら、俺は国を出るよ。
3か月後にユーリエンス殿下についていく視察の時に、そのまま向こうに移住するつもりだよ。
昨日ずっと考えてたんだ。
視線も合わせてくれないし、話もしてくれない。
せめて、嫌いになったならそう言って欲しい。
諦めるとか無理かもしれない・・でも、離れることで忘れる努力はするよ?
忘れられるまで好きでいることは許してくれ。
貴女に迷惑をかけるようなことはしないから。
コレ置いていくね。
リリベル嬢、貴女を愛していました。 」
振り向いてもくれない、何も言ってくれない婚約者に、理由も何もわからず・・でももう無理なんだと思った。
諦めるわけじゃない・・でも俺だって心は折れるよ。
なんで?? なんで何も言ってくれないんだ??
昨日もずっと自問自答してたけど答えは出ない。
今日は話し合えると思っていたけど。
違った・・無理だった。
ぎゅっっと痛いくらい拳を握りしめて・・血が滲んできていてもどうってことない。
心が軋む・・止まない雨が降り続いてるように頭の中でノイズが聴こえる。
真っ青なアネモネの花束を置いた横に・・
カチャリと 音を立てて、懐中時計と鞘飾り、ピアス・・お揃いの物をテーブルに置いた。
さよならリリ
もう去ろうと部屋を出た。
サナと鉢合わせたが、「ちょっと出るね」とだけ告げて、気づかれないように客間の荷物も収納して屋敷を後にした。
使用人たちにもご家族にも、家族になるんだと期待されていたのに・・申し訳ない。
お義父様にはあとで手紙で謝罪しておこう。
先ほどまで晴れていた冬空は、どんよりとしていて今にも一雨きそうだ。
俺の心のようだと思った。
家に帰ったら、自宅の管理を実家に任せてからリリから贈られてきた物をリリ宛に送り返さないとな。
彼女の痕跡を消さないと、俺はダメになる。
もう誰も好きになれない・・
彼女だけ・・いや忘れる努力はするべきだな。
シエルは連れていけないだろうから、実家に頼むか、そのままあの家に住まわせておいても餌とトイレさえ管理していれば問題ない子だからな。
少しプリム領をぶらついて、夢見た未来が崩れるのをひしひしと感じる。
深く溜息を吐いて、 移動ポータルで自宅へ戻った。
それからは早かった。
実家へ顔を出して、昨日と今日あった出来事を報告して、泣き崩れる両親と兄夫婦に大丈夫だよと逆に慰めてから、3か月後には家を出るから管理を頼んだ。
お義父様に謝罪の手紙と、婚約を白紙にすることを伝え、みなさんの家族になれなくて申し訳ありませんと綴った。
騎士団へは何も言わずに、団長とネルにだけ伝えておいた。
この先面倒ごと回避のためにもおネェとして過ごすことを伝えるのも忘れない。
家の中の私物も粗方荷造りしておいて、次の休暇でロティ国へ行って新居を探してくる予定だ。
もちろん、時間がないのでポータルで。
はぁ・・・白い息が空に溶ける。
もう冬だ、あと1か月したら・・・リリと・・無くなったけどな(苦笑)
やっぱりちょっとやそっとじゃ忘れられない・・
クシャっと顔を歪ませて・・目には涙が滲んだ。
冬の夕暮れは物寂しい。
ブルーグレーの瞳からハラハラと涙が零れる。
キラリと控えめに輝く星々だけが見ていた景色。
ねぇ!!どういうこと!?
関係修復なりませんでした。(土下座)




