鬼教官降臨 ― 無敵のクルーズ船を目指せ ―
かつてリヒトを鍛え上げたレジェンディアの元オフィサーが、再び登場します。
BMM本社に、あの鬼教官が帰ってきました。
BMM本社ビルのロビーに、視線が集まっていた。
自動ドアが静かに開く。
そこから入ってきた女性に、社員たちは一瞬言葉を失う。
細いヒールが、大理石の床を乾いた音で叩く。
カツ、カツ。
黒いタイトスカート。
上品に仕立てられたジャケット。
長い脚。
背筋の伸びた姿勢。
髪は夜会巻き。
唇は深い赤。
外資系エアラインのトップクラスの客室責任者のような華やかさ。
だが同時に——
空気を切り裂くような威圧感があった。
女性は迷うことなくエレベーターへ向かう。
社員たちは小声で囁き合った。
「……あの人って、まさか」
「エレクトラさん……?」
「元レジェンディアの……」
エレベーターの扉が閉まる。
⸻
数分後。
クルーズ部門フロアのドアが開いた。
「エリコ!」
明るく、それでいて力強い声。
エリコ・白鳥・アズナブールが振り向く。
そして思わず笑みを浮かべた。
「エレクトラ!ありがとう!感謝するわ!」
二人は軽く抱き合う。
長い付き合いの盟友同士の挨拶だった。
エレクトラは肩をすくめる。
「迎えの車で聞いたわよ。」
机に手を置きながら言う。
「ヴァルナーをキャプテンにするんですって?」
エリコは深く息を吐いた。
「そうよ。」
そして、ここまでの経緯を簡潔に説明した。
ニューヨーク。
ホルムズ危機。
クリスタニアの就航計画。
そして——
ロイヤルネイビーからの招待。
さらに。
レイコ・オーガスティアの存在。
話を聞き終えたエレクトラは、静かに腕を組む。
少し考える。
そして口元をゆっくり歪めた。
「ねぇ。」
エレクトラは言う。
「それってつまり——」
少し身を乗り出す。
「クリスタニアが、ロイヤルネイビーのお墨付きもらえるってことよね?」
エリコは頷く。
「ええ。」
エレクトラはさらに続けた。
「しかも、そのヴァルナーが——」
指を軽く振る。
「その令嬢とくっついたら?」
赤い唇が笑う。
「クリスタニアに喧嘩ふっかける馬鹿は、この世界から消えるってことね。」
少し肩をすくめる。
「どことは言わないけど。」
エリコも笑った。
「そうなのよ。」
椅子に腰掛けながら言う。
「本人はまだ浮上してないんだけど。」
ため息をつく。
「そんなこと言ってる場合じゃないの。」
エリコは真っ直ぐエレクトラを見る。
「覚悟決めてもらいたいのよ。」
一瞬の沈黙。
そして——
エレクトラは、ゆっくり笑った。
「なら。」
ヒールの踵を軽く鳴らす。
「私に電話したのは正解ね。」
その声には確信があった。
「ヴァルナーはね。」
エレクトラは言う。
「才能はある。」
そして冷たく続けた。
「でも、恋に弱い。」
エリコが苦笑する。
「分かってるわ。」
エレクトラは肩を回した。
「いいわ。」
軽く息を吐く。
「クリスタニアを世界一の船にしましょう。」
その瞬間。
クルーズ部門の社員たちは、本能的に背筋を伸ばした。
伝説の一等航海士。
レジェンディアを鍛え上げた鬼教官。
エレクトラ・デ・ラ・ヴェガ。
彼女は静かに宣言した。
「三週間。」
社員たちを見渡す。
「その間にクルーをまとめる。」
さらに一歩踏み出す。
「ヴァルナーも叩き直す。」
そして最後に、少しだけ楽しそうに笑った。
「クリスタニアは——」
「BMMの名誉を賭けた案件になるわ。」
一拍。
「忙しくなるけど、よろしくね。」
その日。
クルーズ部門に、
鬼教官が降臨した。
エレクトラの鬼教官ぶりを、どうぞお楽しみに。
……ヒェェ




