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虚構世界のナイトメア  作者: 夏芽 悠灯
南端の街の脅威
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第21話 ~絶対に守る~

『グルル……』


 しばらくして氷の結界が崩れ去る。


 刹那、ラヴィーネと愁翔の姿が掻き消えた。


「「!!??」」


 直後、灰葉とクロウの横を途轍もない突風が吹き抜ける。つまりラヴィーネが神速で滑空して愁翔へと突っ込んだのだ。


「黒井ッッ!!」


 灰葉は振り返りながら叫んだ。あの巨体にあれほどの勢いで激突されたら間違いなく即死だ。


 だが灰葉の考えは杞憂に終わった。


 愁翔は遥か後方、本郷たちがいる場所にまで押し飛ばされていたものの、大剣の面を向けてラヴィーネの突撃を凌いでいたのだ。


「本郷……! ここで放て……!!」

「!!」


 現在愁翔がラヴィーネの攻撃を防いでいる場所は本郷たちの真横。


 つまりここにラヴィーネを縫い付けておけば本郷の攻撃を確実に当てられるのだ。


 本郷は手に持つ黒剣を握りしめ、意を決して詠唱を始めた。


「【この(つるぎ)は主神にして戦争と死を司る神オーディンから与えられし万物を切り裂く怒りの剣】」


 本郷は顔の前で黒剣を縦に構え、強く目を瞑って自身のイメージを詠唱という形で確定させていく。


『!!??』


 愁翔に圧力をかけ続けていたラヴィーネが何かに気が付き標的を変更した。


 全体重を大剣にかけていた愁翔は前のめりに倒れ込む。それと同時に鉄槌のような尾が愁翔を横殴りに吹き飛ばした。


「がはッッ!!」


 愁翔はその一撃によって吐血し、遥か遠方の岩壁に叩きつけられた。


「ごはッ……本郷を……守れッッ!!」


 愁翔の指示に反応した二人は咄嗟に盾と、召喚(サモン)の一部である竜翼を展開した。それと同時にラヴィーネの氷の腕が振り下ろされる。


 不破の盾がそれを阻止するも、一瞬にしてヒビが入ってしまう。数秒間耐えたものの盾は砕け散り、音無が召喚した竜翼に迫る。


「【わたし達を守って】!」


 想いを言葉にしただけの音無の詠唱は、しかし形となって顕現する。


 翼だけであった音無の召喚獣は、数列が集合することによって全身が形作られて一匹の白銀の竜と化した。奇しくもそれはラヴィーネの美しい姿と酷似していた。


『ヴォォォォ!!』

『キュオッッ!!』


 鏡合わせのように、かつての美しい自身と酷似した竜を見て憎悪を爆発させたのか、ラヴィーネは地の底から這い上がってくるような唸り声とともに更に腕を加速させた。


 対する白銀の竜は音無の想いを蒼色の双眼に燃やし、両翼を交差させた。


 刹那、鉄槌の如く振り下ろされたラヴィーネの腕と交差された翼がぶつかり合って、二匹の竜を中心に突風が巻き起こる。


 音無が召喚した竜は不破の盾を打ち砕いた爪撃を完全に阻止した。


 心の底から本郷たちを守ろうとした音無の想いが、ラヴィーネの怨嗟の一撃を防ぎ切ったのだ。


 その隙を見逃さずに本郷が詠唱を再開する。


「【彼の神から英雄シグムンドに与えられ、やがてその息子へと受け継がれた】」


 まるで物語の語り部のように、顔の前で構えた剣に囁く。詠唱が進むにつれて黒剣が命を吹き込まれていくかのように脈動し始めた。


 魔剣グラム。ファンタジー設定のゲームなどでよく見かける伝説の剣。


 ただ、その出自や伝説まで詳細に知っている者はそうそういない。本郷はそれらを知識として蓄えており、こうして具現化することに成功しているのだろう。


 ギィィン、という甲高い衝突音を連続させながらラヴィーネと白銀の竜が互いの爪をぶつけ合う。


 片や詠唱を断つために、片や守るために。二匹の竜は対面して互いの目的を遂行しようとしている。


「うぅ……」


 竜を制御するために両手をかざしていた音無が地面に片膝をつき、次の激突で白銀の竜が押し負けて仰け反ってしまった。その隙を見逃さなかったラヴィーネは一瞬で口腔に冷気と魔力をチャージした。


 完璧なタイミングでのブレス。これは白銀の竜諸共三人が飲み込まれてしまう。


 愁翔が疾駆しながら焦燥していると、ラヴィーネの眼前に三重の盾が展開された。不破が咄嗟の判断で【想造】したのだろう。


 ラヴィーネはその盾に向かってブレスを――


 放たなかった。


「!?」


 直後、旋風が巻き起こってラヴィーネの姿が掻き消える。


『グルァッッ!!』


 そして本郷たちの背後に回り込んで、チャージしていたブレスを放とうとした。


「ざっ……けんなッッ!!」


 その瞬間に、灰葉がラヴィーネの側頭部に神速の飛び蹴りを叩き込んだ。


 だがラヴィーネがほんの少し首を逸らしたため、ブレスが本郷たちから外れるほど大きく蹴り飛ばすことは出来なかった。


 全てを凍結させ、死滅させる絶望のブレスが本郷たちに襲いかかる。


 全身を飲み込まれることはないだろうが、本郷たちの半身ほどは間違いなく直線上にある。この威力であれば半身であったとしても即死圏だ。


「ぜ……あぁッッ!!」


 そこに割り込む一つの影。


 それは先程尾の一撃を受けて遠方に吹き飛ばされたはずの愁翔であった。


 不破、音無、灰葉の防戦によって生じた時間が、彼に戦線へと戻る時間を与えていたのだ。


 愁翔は魔法によって緑色に輝いている大剣の面でブレスを横殴りに振り払った。


 それによってブレスは本郷たちの真横を通り抜け、切り立った岩壁を破壊し尽くして遥か彼方の空へと消えていった。


「大丈夫かい、コサキちゃん!」


 愁翔と共に現れていたクロウが膝を付いている音無の肩を揺する。


 彼は愁翔の大剣でもブレスを弾ききれなかった場合、魔法で逸らすために音無たちの元に来ていたのだ。


「は、はい……。架蓮ちゃんを守れて良かった……」


 安堵した音無はクロウにもたれかかってしまった。


 竜を操っていた力と、自分が最後の砦となるプレッシャーとで音無の精神は疲弊してしまったのだろう。


「【彼はこの剣で」


 ブレスの脅威から逃れた本郷が、グラムに最後のイメージを吹き込むために詠唱を再開すると――


 ザシュッ、と降り積もった雪を踏みしめたような音が響く。


「ぇ……?」


 次いで聞こえてきたのは動揺し、何が起こったのか理解出来ないといった様子の本郷の声であった。


 しかし周囲の五人はその瞬間を目の当たりにしていた。


 突如として本郷の足元に発生した魔法陣から、研ぎ澄まされた氷柱が本郷の左肩を穿ったのだ。


 その位置はほとんど胸と言っていいほど身体の中心に寄っていた。


 五人全員が目を見開き、絶句した。


 彼らはブレスを回避した直後に、本人たちが気付かないほどの一瞬、油断してしまっていたのだ。


 驚愕で圧縮された数秒間が過ぎ去ると、本郷の肩を貫いた氷柱が破砕音と共に砕けた。


 彼女の肩には風穴が空いており、そこから大量の鮮血が零れ落ちている。


「ぅ……ぁ……」


 本郷はその傷を見て気をやってしまったかのように、その場に倒れ込みそうになる


 。同時に彼女の手からこぼれ落ちた魔剣グラムが形を失い消失した。


「本郷ッッッ!!!」

「架蓮ちゃんッッ!!」

「クソがッッ!!」


 愁翔と音無が本郷に駆け寄り地面に倒れ伏すのを防ぎ、灰葉がラヴィーネを遠ざけるために全力の拳を放った。それを回避するためにラヴィーネは翼をはためかせて後方へと飛び退った。


「こっち来い不破! オレ達に治療なんてもんは出来ねぇからアイツが突っ込んできても守れるように、もしもの場合は盾張れ!」


 灰葉はそう言い残すや、地面を割り砕かんばかりの勢いでラヴィーネへの突貫を開始した。


 彼は自分一人がラヴィーネの相手をして、本郷の治療時間を稼ぐつもりなのだろう。


 あまりにも無茶で無謀だが、今はそうするしか方法がないのだ。


「早く回復しないと間に合わないかもしれない……!」


 クロウが本郷の傷の深さに、顔に焦燥を貼り付けてそう言った。


「治療……」


 愁翔は腕の中で苦しむ本郷を見て、それが早急に必要なことは理解出来た。


 しかし回復魔法は使用したことがない上、イメージが湧いてこないのだ。


「【大地に宿る生命の息吹よ――我が声を聞き汝の傷を癒したまえ】」


 即座に行われたクロウの詠唱の直後、本郷の傷の周りに白色の光粒が集まり始め、徐々に傷を修復し始めた。


「【宝獣(カーバンクル)】!」


 それに次いで音無によって召喚された、額に翡翠色の宝石が埋め込まれたリスのようなモンスターが本郷の腹部に乗った。すると額の宝石が柔らかな光を放ち始め、本郷の傷を癒し始めた。


 それはクロウの回復魔法の効果と相まって物凄い速度で本郷の傷を修復していく。数秒経つと肩に空いていた風穴が完璧に塞がれてしまった。


「本郷……! しっかりしろ、傷は塞がったぞ!」


 風穴が空いていた肩を未だ虚ろな目で見つめている本郷の意識を引き戻すために、愁翔は手を握りながら呼びかけた。


「……はっ! 私は……」


 本郷の瞳に生気が戻り、死の危険からは脱せたということに愁翔たちは安堵した。


「うぅ……」


 しかし本郷は愁翔の顔を見るや、表情を崩してその大きな双眸から玉の涙をこぼし始めた。


 突然のことで実感出来なかった恐怖が今になってやってきて、彼女の感情を決壊させてしまったのだろう。


「黒井……さん、私……」


 本郷は俯き、涙を流しながら愁翔の名を呼ぶ。愁翔はそんな彼女を抱き寄せ、落ち着かせるように背中をさすった。


 咄嗟にとった行動に、愁翔ははっとして身体を離そうとするが、本郷の言葉によってそれは中断された。


「ごめんなさい……。せっかく信頼していただいて、大役を任されたのに……」

「!!」


 本郷は恐怖によって涙をこぼしたのではなかった。ラヴィーネを討つための策を実行できなかったことを悔いていたのだ。


 あまりの誠実さに、愁翔は本郷を抱きしめる力を強めた。


 自分たちは知らず知らずのうちに、彼女へ計り知れないプレッシャーを与えてしまっていたのだ。


「もういいんだ……お前は十分頑張った」


 そう言って愁翔は最後に本郷の背を優しく撫でて身体を離した。そして地面に突き刺しておいた大剣を引き抜きながらラヴィーネへと向き直った。


「待っててくれ。ここからは俺達が……」

「ダメです!!」


 背を向けて言葉を紡ぐ愁翔に対して本郷は叫んだ。そのあまりの迫力に愁翔は振り返った。


「ダメなんです……。このままじゃ、私はただの足でまといにしかならないんです……」

「架蓮ちゃん……」


 本郷は地面に座りこんで俯き、両の掌で地面に降り積もる雪を握りしめていた。それを心配そうに音無が見守る。


「私は切り札として皆さんに守られ続けて、ほとんど戦ってないんです……。黒井さんや灰葉さんはボロボロになっても戦い続けているのに、たった一撃で折れてしまうなんてダメなんです……」


 本郷はばっ、と顔を上げて決意の篭った瞳を、半身で振り返る愁翔の左目へと向けた。


「だからッ!」


 ギィィィン、という鉄と鉄がぶつかりあったような大音が、本郷の言葉を断ち切ってあたりに響き渡る。


 それは遠方で灰葉と一騎打ちをしているラヴィーネが放った巨大な氷柱の流れ弾が、不破の作り出した盾によって防がれた際に生じたものであった。


「だからもう一度……もう一度だけ私を信じてくださいッッ!!」


 本郷は氷の破砕音に一切臆することなく自身の想いの丈を愁翔に伝えた。愁翔はその言葉に込められた信念を受け取りそっと瞳を閉じた。


「……分かった。本郷、もう一度頼むよ」


 愁翔は踵を返して本郷の元へと戻り、座り込む本郷へと手を差しのべる。


「はいッッ!!」


 本郷は目尻に溜まっていた涙を片手で順に払いながら、笑顔でその手を取った。


 遠方では灰葉がたった一人でラヴィーネと正面から打ち合っている。


 時折放たれる氷の魔弾もすんでのところで躱したり、手の甲で弾いたりして致命傷を避け続けている。


「ボクがエイくんの援護をするからシュウトくんはカレンちゃんについててあげて」


 そう言い残したクロウは光を纏って灰葉の元へと飛んでいった。


 灰葉の戦闘能力にクロウのサポートが加わればそう簡単にやられることはないだろう。


 そう踏んだ愁翔は振り向いて本郷に問いかける。


「どのぐらいで完成す……る……?」


 しかしその問が投げかけられる前に、本郷は瞳を閉じて【想造】を開始していた。


 彼女が前方にかざした手には見る見るうちに黒剣が再構築されていく。そして数秒後には先程と同じ、いや先程よりも強固に見える黒剣が顕現する。


「形はもう出来ました。あとは力を込めるだけです……!」


 本郷はグラムを胸の前で縦に構えてそう説明する。


「【この(つるぎ)は主神にして戦争と死を司る神オーディンから与えられし万物を切り裂く怒りの剣】」


 英雄の一撃を内包させるためにイメージを詠唱としてグラムに注ぎ込んでいく。グラムはそれに答えるかのごとく、生き物のように脈動し始める。


瞳を閉じて詠唱を続ける本郷の表情はまるで歴戦の騎士のように凛々しく、その光景は魔剣グラムの使い手に見合っていた。


「【彼の神から英雄シグムンドに与えられ、やがてその息子へと受け継がれた】」


 成り立ちを、使い手の変遷を物語として手中の剣に伝える。そうすることによってこの世界に生み出された黒剣が、魔剣グラムとして伝説の力を宿すのだろう。


『グルォォォォォォォ!!!!』


 二文目の詠唱を終えたところで遠方のラヴィーネが大咆哮を放った。それは音としての領域を逸脱して物理的な威力で近くにいた灰葉とクロウを吹き飛ばした。


 その直後、ラヴィーネの足元に巨大な魔法陣が展開される。


 今回のそれは今までのものとは比較にならない巨大さで、天変地異でも起こすのではないかと思われるほどの禍々しさを放っていた。


 その魔法陣は頭上に広がる空に鏡写しのように映し出され、そこから魔法が放たれるということが察知できた。


「不破と音無は本郷の周りに固まって防御を展開! 灰葉とクロウは魔法の圏外に出るか自分で守れ!」

「圏外って……、んなもんねぇぞ!」

「エイ君、こっち来て!」


 灰葉はそう促されてクロウの元に駆け寄る。するとクロウは即座に詠唱を完成させて頭上に光の壁を作り上げた。



「【絶対に守るよ】!」

「必ず……!」


 そして本郷を中心として集まった音無と不破は竜と盾によって、これまでで最大と言っていいほどの防御壁を形成した。


 音無の言葉によってさらに強化された竜の翼は、まるで鋼を纏ったように光沢を放っていた。それが寄り添って固まっている三人を包み込むようにして守っている。


そのさらに外側には不破が【想造】した大小様々な盾が隙間なく展開されている。


 それらはうっすらと純白の光を纏っており、これまでよりも防御力が向上しているように見えた。


「愁翔くん! 早くこっちに!!」


 不破は防御圏外にたったままの愁翔に、焦燥を隠すことなく呼びかける。このままではこれから起こるであろう魔法の暴風に飲み込まれてしまうだろう。


 しかし愁翔はその呼びかけに小さな笑みを返すだけで、防御圏内に加わろうとはしなかった。


「ダメだよ、シュウくんッッ!!」


 音無が愁翔に向かって泣き叫ぶように訴える。その声が放たれた直後、竜の翼が音無の視界を遮った。


 つまりそれはラヴィーネの大魔法の発動を意味する。


「いやぁぁッッ!!」


 叫びながら防御圏外へと出ていこうとする音無を、不破が肩を押さえつけるようにして止める。


「彼のことだ、何の策もなしに外にとどまるわけが……」


 不破の言葉の最中、彼が【想造】した無数の盾に何かが連続して叩きつけられ始めた。これまでのラヴィーネの魔法からして、巨大な氷柱かなにかであろう。


 その音はまるで天高くから落とされた鉄槌が大地を割り砕いているかのような大音で、不破に伝わる衝撃もそれに比例してとてつもないものであった。


「くッッ……!」


 一撃一撃の重さに膝を折る不破。しかし彼は立ち上がる。


「もう、さっきみたいにあっさりとは……いかないぞッ!」


 竜の翼に包まれているため自身から操作している盾は見えないが、この高威力の魔法を連続して受けているにも関わらず、彼の盾には未だひびの一つも入っていないことは分かる。それは彼の決意が純白の光という形で盾の性能を底上げしているからだろう。


 不破が攻撃を受け続けること三十秒ほど、ラヴィーネの魔法は止む気配すらなかった。


 ビキッッ、と外周側の盾に亀裂が入ったのを不破は感知した。


 それでもそこからしばらく耐え続け、やがてがくりと膝を屈してしまった。


「ごめんね、音無さん。限界……みたいだ……くっ……!」


 不破が柔らかな笑みを歪めると、盛大な破砕音を伴って盾が砕け始めた。それは連鎖して次々と内側の盾をも砕いていく。


「大丈夫です……。ここからは私がなんとかします……!」


 音無の真剣な声を聞いた不破は完全に床に倒れ込んでしまった。それと同時に音無が使役する竜の翼に魔法が降り注ぎ始めた。


 鋼鉄を打ち合わせるかのような金属音が絶え間なく続くものの、音無が使役している竜はなんとか魔法の暴雨から主たちを守っている。


「守り……きるよ……!」


 しかしその言葉とは裏腹に竜の翼にはダメージが蓄積され、段々とその強化外装のような鋼鉄が剥落し始めた。


「【頑張っ……て】!!」


 音無は言葉に想いを乗せる。それでも鋼鉄の剥落は阻止できない。


 やがて強度を桁違いに上昇させていた鋼鉄の鱗は全て無くなり、生身の竜に無数の氷柱が牙を剥き始めた。


『オォォォ……』


 音無には竜の弱々しい声が限界を知らせる鐘のように聞こえた。それに加え彼女自身の身体からも力が抜けはじめた。


「ごめんね、愁くん……。私じゃ守りきれない……!」


 音無は歯を食いしばってそう囁き、涙を堪えていた。


『グオォォォ!!』


 しかし音無の諦観を吹き飛ばすように、突然ラヴィーネの呻き声が響き、氷柱の暴雨がピタリと止んだ。


「「え……?」」


 その突然の出来事に守りを破られる間際の二人は情けない声を上げた。


 突如として止んだ氷柱の豪雨が再び降り注ぎ始めないことを確認して、音無は竜の頭を撫でた。


「もう大丈夫だよ……」

『キュゥ……』


 白銀の竜は安堵したかのように小さく鳴き、音無たちを覆っていた両翼を広げた。


 先程までの薄暗さに慣れていた二人の目には、雪に反射した陽光はあまりにも眩しく、一瞬目が眩んでしまった。しかしすぐに視界がはっきりとしていき、目の前に佇む竜の姿が目に映った。


「頑張ったね……」


 音無はくしゃっと表情を歪ませてから、自分たちを守ってくれた満身創痍の竜の顔に頬ずりする。


 すると嬉しそうに小さく鳴くと重心を失ったかのように倒れ込み、零と一の数列となって消滅した。

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