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決着!

 僕の身体は宙に舞った。


 いや、さっきから飛んでいたけど、そうじゃなくって――

 背中に強烈な衝撃を受け、ほうきから投げ出された僕の身体はまっさかさまに、大地に向けて落ちてゆく。僕の横を同じようにほうきが落下中。エルハの手から離れたほうきはただの竹ぼうき。重力に逆らえず落ちて行くだけ。思えばこのほうきとも長い付き合いだったね……


 ――だから、そうじゃなくってっ。

 僕は今まで自由に空を舞っていたのが、嘘のように空中で手足をばたつかせながら移動して、何とかほうきまで近づき手を伸ばして、それをつかんだ。

 とたん、浮力が復活する。ほうきが空中に静止して、僕は右手一本でほうきにぶら下がる。けど、身体は嘘のように軽く、苦にならない。

 うん。やっぱエルハとほうきは一心同体なんだね。思わず頬ずりしたくなっちゃう。

 けどそんな場合じゃないので、僕は左手でもほうきをつかみ、身体を持ちあげほうきに跨り直す。ふぅ。とりあえず、これで一安心。

 ずいぶん落ちちゃったみたい。下を見ると、高原みたいなところに、見事な宇宙人型ができていた。その近くにはほうきが落ちている。

 さっきの悲鳴(?)から想像はしていたけど、宇宙人はほうきから落ちて、地面に落ちちゃったみたい。

 大丈夫かなぁ……あの高さから落ちて。まぁ漫画チックな落ち方だし、宇宙人もこの世界では精霊なんだし、身体的には現実の世界じゃないだろうから、たぶん平気だと思う……ことにしておく。

 それにしても、何が原因で……

 僕は落ちた分を上昇して、その原因を見つけた。

 少し離れた所に数人の人が空に浮かんで集まっていた。

 一人は赤毛のアン。けどレース中に見せていた厳しい表情はなく、茫然自失といった感じ。彼女を囲むように浮いているのは、皆同じ制服を着た精霊。レースに参加しているエルハではないから、おそらく運営委員の精霊だと思う。

 彼女たちのただならぬ様子を見て、僕は状況を理解した。

 と、そのとき、頭の中にリーザの言葉が響いた。

『トキヒサ、何やってるのっ。早く飛んでっ!』

 いけないっ。レース中だった。僕ははじかれるように、飛び出した。途端リーザの怒声が響く。わぁっ、飛ぶ方向が反対だーっ。あわてて修正する。ふーっ。

 ピングリーヴ市杯では、召喚士との交信が二回まで使用可能になっている。

 もっとも市内を一周するレースと考えれば少ないけれど、精霊が自分の意思で自主性を持って飛ぶのが、本来のエルハローネなのだ。

 思わぬトラブルで、その貴重な一回を使ってしまったんだけど、おかげでレースに復帰できたわけで。さすがリーザ、ナイスな判断。

 ふぅ、とほっとした感じが伝わってくる。まだ通信中。僕はレースに集中しつつ、聞いてみた。


 ねぇ、リーザ、さっきのあれって……

『ええ。赤毛のアンが魔法を使ったようね』

 やっぱり――

 エルハのレースでは魔法の使用は当然禁止。おそらく、周りにばれないように小出しに使うとか考えていたんだろうけど、宇宙人の執拗な挑発に加え、思うように動かない体に苛立ち、赤毛のアンはつい使ってしまったのだろう。

 魔法使用による爆発的加速は、すぐ前にいた宇宙人を弾き飛ばし、その先にいた僕も巻き込んだ。

 彼女が我に帰った時には既に遅し。レースを監視していた運営委員に囲まれてしまった。そもそも通常に召喚されれば、エルハは魔法を使えない。つまり召喚士を含めた確信犯のはず。けど、どうして魔法なんか。

『さあね。私には分らないけど――』

 問うたつもりはなかったけど、それがリーザに伝わって、返ってきた。

『今はとにかく、レースに集中しなさい』

「うん、分かってる」

 口に出してうなずく。通信が切れ、僕はスピードを上げた。

 レースに集中しようと努力する。けど心のわだかまりは残っていた。赤毛のアンが魔法に頼ったのは、どうしてだろう。

 レースはしっかり監視されているから、去年も魔法を使って勝ったとは思えない。おそらく彼女の実力のはず。

 けれど今日は一年ぶりのレースだって言うし、やっぱり不調だったんだろう。にもかかわらず、前年覇者として、注目・期待されていた。そのプレッシャーに負け、つい安易な道に頼ってしまったんだろう。

 違反はばれる可能性のほうが高い。それは当然本人にも分かってたはず。それでも使ったのは、きっと勝ちたかったから。

 そこまでの覚悟が、僕にはあるのだろうか。

 ……だめだめ、弱気になっちゃ。僕だって――っ。

 そのときだった。いきなり視界が明るくなった。太陽じゃなく、下から強烈な光。思わず目を細めた先に広がっていたのは、陽光を浴びて光り輝く湖だった。

「あっ――」

 そっか。ここだったんだ……

 とても見慣れた光景。それは、いつも練習していた湖だった。チェックポイントの峰の辺りは高度が高かったから気は生えてなかったけど、少し下ったここは、湖を囲むように、紅葉した木々が燃えるような光を放っていた。こっちの世界に来て初めて見た、紅葉の赤。

 あれから一年、今僕は、リーザが目標にしていたレースにちゃんと出場できているんだ。

 いろんなことが不意に頭に浮かんでくる。山の右手には、小さな町が広がっていて。給さんに鰹節を買いに行かされたっけ。レース好きの店員さん。今日のレース見てくれてるのかな?

 ――何て言うか、思いっきり癒された感じ。

 不思議と力が湧いてくる。よしっ。やるぞーっ。

 スピードを上げて飛んでいると、前方にようやくエルハを見つけた。緑色の髪をしたお姉さん。ピングリーヴ市杯参加者の一人だ。僕はそのままのスピードを落とさず、彼女をぬいた。その勢いを保ったまま、さらに前方のもう一人も。

 少し早いペースに、さすがに疲れを感じ始めてきた。

 そのとき、紅葉に染まる山の上に、不自然な鉄塔が見えてきた。電波塔ならぬ魔力塔というものらしい。ここが第二コーナーだ。まだ見えないけど、その向こうには海が広がっているはず。

 ――これでようやく半分。

 だいぶ疲れてきたし、順位だって、きっとまだ後ろ。

 けど先頭との差は、残り半分でそのまま返せば、まだまだ十分追いつけるはず。

 鉄塔の周りにも熱心なファンが何人も集まっていて、僕の姿を見つけて歓声を送ってくれる。僕限定ってわけじゃないだろうけど、やっぱり嬉しいし、力 になる。

 思わず手を振り返したくなる感情を抑え、なるべくロスの内容に鉄塔を外から右折する。

 これで針路は北から東へ。さっきまで尾根伝いに飛んでいた山脈を一気に下る。左手には青く輝く海が目に入った。波風が結構強くて、意外と辛い。

 けれど、それはみんなにも同じだよね。



 調子は悪くない。何人抜いたかな。左側の変わらぬ海を見つつ考える。抜かれてはいないから、かなり順位を上げたはず。

 抜いた相手の中には、すでにばて気味だったり、僕に抜かれまいと競ってきた人もいた。けれど大半の人は、ペースをしっかり守り、僕のことを気にせず抜かれた感じ。ゴールするまで、順位は関係ない。今、何位でもゴールするまでに一着になればいいのだから。

 ふとはるか前方にきらりと何か光るものが見えた気がした。

 あれは……ミレイユだ。ようやく、彼女に追いついた。

 ……まぁ向こうは僕なんか、アウトオブ眼中なんだろうけど。

 ミレイユがちらりと振り向き、僕を確認した。気のせいか、ミレイユがスピードを落とした気がした。そのおかげで、僕はそれほど苦もなく、ミレイユに並んだ。

「ようやくまいりましたわね。待ちくたびれましたわ」

 えっ――? 僕はミレイユの顔を見る。ミレイユが僕を待ってた? まさかぁ。

 聞き返してみたかったけど、正直、脇見しつつ飛んで口を開くだけでもきついので黙ったまま。ミレイユも、それっきりだ。

 もしかして彼女もきついのかも。

「お気づきだとは思いますけど」

 と思ったら、しゃべってるし。

 僕はがっくりと肩を落とす。ミレイユはお構いなしに、ほうきに億指先を前方やや下に向けて続けた。

「あたくしたちの前を飛んでいるのは、彼女一人だけですわ」

 白く細い指の先に、ぽつんと人影があった。黒い長髪に隠れて、赤い着物がちらりと顔を見せている。――ぬんらだ。

 前を飛んでいるのが彼女一人だけってことは、ぬんらはスタートからずっと先頭を守っていたんだ。そして、僕はようやく彼女に追いついた。

 気になるのはぬんらの疲労度。表情は見えないので何とも言えないけど、まだ余裕があるのか、それとも……

 そんな僕の心を見透かしたように、ミレイユが続ける。

「彼女の飛び方はスタートからずっと見続けていますが、なかなか堂々としておりますわ。レースではじめて逃げをしたとは驚きですが、相手に惑わされず、自分のペースを守り続けながら飛ぶという点では、追い込みも逃げも同じということかしら?」

 ミレイユの口から褒め言葉が出るなんて。やっぱり、ぬんらって凄いんだ。

「飛行もぶれておりません。ゴールまで余力が残っているのは当然。それどころか、後半に向けて力をためている、というところかしら? つまり、このままあたくしたちが飛んでいても、追いつけないということ」

 ミレイユが挑発的な視線を僕に向ける。あれ? 前にも似たようなことがあったような……

 そのとき、ぬんらを追っていた視界が青に切り替わった。海に入ったのだ。上も下も、青一色だ。

 もう少し飛べば、海上に浮かぶ遊覧船(レースを観戦する観客付き)が見えてくる。それが最後のポイント。これを右折すればあとはずっとまっすぐ。海から湾内に入り陸に上がり、前に僕が「ここ東京?」って思ったような、開発された湾岸のビル街に入り、それを抜けて塔に戻る。

 あとちょっと……だ。

 そろそろ仕掛けどころ。けど疲れが溜まってきている僕はともかく、余裕ありげなミレイユも動こうとはしない。僕が仕掛けるのを待っているんだろうか。

 不意に、僕の顔に影がよぎった。その方向を見ると、ミレイユでもぬんらでもない、他のエルハがこっちを見るように右上を飛んでいた。彼女だけじゃない。

 気づけば、上に下に、何人かのエルハが僕たち(ってゆーか、ミレイユだろうけど)の様子を窺うように囲んでいた。

 レース中盤は、相手の姿を確認できないほど、皆それぞればらばらに飛んでいたけれど、レース終盤になって固まってきた。本当の勝負は、これからだ。


 僕は余裕を見せて飛んでいるふりをしていたけれど、正直疲労はピークに達していた。

 このままだとミレイユだけじゃなく、ほかのみんなにも勝てるかどうか分からない。だからって、一年間頑張ってきたのに、簡単に諦めきれるわけがない。どうすればいい……?

 僕は何度も周りをうかがい、状況を確認する。

 そして不意に、一つの考えが浮かんだ。不安だけれど、今の僕の状態だと、ミレイユに真っ向から勝負するのはキツイ。

 なら、これっきゃない。――ていうか、やるっ!


(……ねぇ? リーザ、聞こえる?)

 僕はあと一回の通信を、こっちから迷うことなく送った。

『ええ。聞こえるわよ。どう? 大丈夫』

(ちょっとお願いと、確認したいことがあるんだけど……)

『え?』

 僕のお願いにリーザは戸惑った様子を見せつつも、状況を報告してくれる。

 それを聞いて、改めて僕の意は固まった。よーぉし。



 同じ青の空と海の境の先に、天へと伸びる光線が見えてきた。チェックポイントである遊覧船から発せられている光だ。あの光のポールを右に曲がれば、もうレースは塔へ向かうだけ。

 先頭を行くぬんらとの差は、さっきからほとんど変わっていない。そのぬんらがまず先に、そろそろポールに差し掛かろうとする。

 それを合図に。僕は重心を前に傾け急降下。その勢いに任せて、一気にトップスピードに乗る。

「――ようやくっ」

 予想通り。ワンテンポ遅れて、ミレイユも追ってくる。そして彼女をマークしていた他のエルハたちも動く。

 ぬんらが丁寧にポールを曲がる。その直後に僕も曲がる。ミレイユももうすぐ後ろにつけている。ぬんらも僕たちに気付いたいのだろう。スピードを上げてきている。けどトップスピードに乗るはまだ先。ぬんらに迫り、並んだ。けどぬんらのスピードも乗ってきて、一気に抜くことはできなかった。

 彼女の向こう側に、ミレイユも姿を見せた。横一線。僕とぬんらとミレイユの三人が、並んだまま海上を飛んでゆく。

 他のエルハはついてこない。それはたぶん、ついてこられないだけではないはずだ。おそらく、仕掛けが早いから。

 毎年行われているから、当然レースには傾向がある。

 それによれば、大体エルハがラストスパートをかける地点は、まだこの先。湾岸にかかる大橋の辺りが平均。つまり、海上からラストスパートをかけるのは、早仕掛けなんだ。


 ううっ、つらい。

 海と空だった先に、ようやく建造物の影が見えてきた。あと少しだ。がんばれっ。港には何隻もボートやヨットが浮かび、僕たちを応援してくれる。

 高度を下げ河口にかかる大橋の上を通過する。先頭は僕。両脇にミレイユとぬんらが差なく続く。

 僕が一位。けど陸地に入ったとはいえ、ゴールはまだ先。正直、もう限界が近い。息はまともにできなくて、肺は苦しい。瞳には汗か涙で滲んで、前がぼんやりとしか見えない。手の感覚もなくなって、ほうきを握っているのか、離しているのかもよくわからない。それでもただ、前に飛ぶことだけを考えて進む。

 僕の左横で、ぬんらが遅れ始めた。先頭争いから一人脱落。けど喜んでもいられない。僕も、もう……限界。ミレイユの姿が前に出た。僕との差が少しづつ開いてゆく。止まらない……

 かすむ視界の上に、幻のようにほうきだけが飛ぶのが見えた。



   ☆ ☆ ☆ 



 勝ちましたわ――

 トキヒサの姿が後ろに下がっていくのを横目で確認し、あたくしは勝利を確信する。

 レースが始まる前から、ライバルは主人公体質の彼だと思っていた。一年間、体調不良でレースに出られなかった赤毛のアンを周りは対抗視していたようですけど、もとからあたくしにはアウトオブ眼中でしたわ。そしてあたくしの予想通り、最後はトキヒサと一騎打ち。

 スタートから、いつも前方にいる彼が後ろを飛んでいたのは予想外でしたが、やはり彼はやってきた。

 そして彼は例年より早い地点でスパートをかけてきた。あたくしも少し早いと思いましたけれど、彼に合わせてスピードを上げる。少々辛くても、彼に勝てば、それがこのレースの優勝につながる。そう確信していた。ぬんらもついてきていたけど、一度勝った彼女にはさほど警戒を感じなかった。

 そして――

 トキヒサもぬんらも姿を消して、あたくしは完全に先頭に立った。けれども自分も体力の限界が近い。早め仕掛けが響いているのは間違いない。それでも誰にも抜かれずゴールするまでは、持つはず。

 周りは完全なビル街へと変わっていた。道中とは比べ物にならないほど、人にあふれ、歓声も大きい。まるですべてがあたくしを祝福するかのように。

 さすがに余裕はないけれど心の中で、おーっほっほっほ。

 そのとき、あたくしは違和感を覚えた。なぜあたくしが通り過ぎた後にも、歓声が続いている? 誰かが僕のすぐ後ろに追ってきている?

 まさか、トキヒサ? そんなまさか。いくら主人公体質だからと言って、あの状態から逆襲するなんて、ありえない。では誰が?

 もう間違いない。歓声はあたくしと、それ以外の誰かを追っている。相手はあたくしの頭上を飛んでいる。そして相手の方があたくしより勢いで上回っている……

 視界の上方に、ほうきの影が見えてきた。ほうきにまたがる小さな影。

 その瞬間、あたくしは怒りを覚えた。――自分の考えの浅はかさに。

 なぜ自分は彼女(?)のことをノーマークだったのか。唯一、あたくしに勝った相手だというのに……っ。

 最後の力を振り絞ろうにも、それだけの力はすでに残っていなかった。

 ビルの合間に、大きな塔が見えてきた。ゴール地点。そこをめがけて、猫娘を乗せたほうきが上空から降りてきて、完全にあたくしの前に出た。もう逆転はできない。悔しいけれど、力が出ない。

 ゴールゲートに吸い込まれるように、給の姿が消えてゆき――あたくしは強く、唇をかみしめた。



   ☆ ☆ ☆



 もうほうきにしがみついているだけだった。何人に抜かれたかわかんない。僕に向けられる声援にも励ましに同情が含まれているくらいだ。それでもなんとか、前に前にと身体を持ってゆく。

 ようやくゴールの塔が見えてきた。ふらふら揺れるほうきに、ゴールゲートがとても小さく見える。最後の、ほとんど残っていない力を振り絞って、今、ゴールをくぐった。

 途端、僕はほとんど自由落下同然に、公園へと降り立った、というより、地面に座り込む。周囲からまばらな拍手を受けながら、僕は周りを見渡した。

 すでにゴールしていたエルハのもとには、召喚士が寄り添っている。けれど僕の所にリーザが来てくれない。けれどそれはたぶん……

 ひときわ大きな人だかりに目を向ける。あそこの中にいるのは? そっちに行こうと立ち上がる前に、ミレイユとユーリカさんが僕の前に現れた。ユーリカさんは意外とすっきりとした笑顔だった。

「お疲れ様~。トキヒサちゃん」

 その隣で、ミレイユが疲れた様子で、だけど気丈に立っている。もっとも表情はふくれっ面だけど。

「おめでとう、というのかしらぁ。リーザとの勝負、私たちの負けだわ――」

 ってことは……

「ええ。今年のピングリーヴ市杯の優勝者は給ちゃんよ。給ちゃんもゼロのエルハだから、この勝負、彼女の勝ちだわ」

 ……や、やったぁ。

 まだ声は出せなかったけど、その叫びは身体をめぐった。

 レース終盤、まだ遊覧船にたどり着く前のこと。何かないかと周りを確認していたら、すっかり存在を忘れていた(大変失礼)、給さんを上空に見つけた。

 あの時点で、僕の体力はほとんど残っていなかった。それでもミレイユは僕をマークしていた。そしてそのミレイユを他のエルハがマークしている。

 このままミレイユと勝負しても僕に勝ち目がない。でも給さんなら? テレパスを使ってリーザにそれを伝えて、リーザから給さんに伝わり、早めにスパートをかけた。

 予想通り、ミレイユもそれに乗った。それがペースを守った給さんとの最後の最後での差を分けたんだ。もちろん、給さんの実力あってのことだけど。

 ミレイユは納得していない様子だけれど、キリカさんとリーザの勝負は、先にどちらかがピングリーヴ市杯に勝つか、であって、僕限定ってわけじゃないもんね。

 僕が喜びに浸っていると、リーザがやってきた。僕は疲れも吹っ飛んで、リーザの元に駆け寄った。息を整え、声をかけた。

「やったね。リーザの勝ちだよね」

「……まぁね」

 あれ――? リーザ、あまり嬉しそうじゃない。戸惑っているのかな……

「給さんは、あの中?」

「うん。君がゴールしたようだから、と。抜け出してきたんだ」

 いつの間にか、キリカさんたちがいなくなっていた。リーザを追って報道陣がこっちにもやってくる。もしかして、僕にもインタビューが来るのかな。彼らが集まる前に、ポツリとリーザがつぶやいた。

「正直、複雑な気分だよ。僕は君に期待していたからね」

「えっ――?」

 何気ないその一言が、妙に心に残った。



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