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ライバル(が)対決

 ふっふっふ。

 僕は、浮かれまくっていた。

 レースに快勝した後ということもあるけれど、それだけではない。


「ほら、こっち。早くしないトレース始まっちゃうわよ」

 僕は競技場の中を歩いて、レースに参加する召喚士用の観戦席に向かっていた。

 午後にはAⅡレースがおこなわれるため、競技場には人がいっぱい。そこで、迷子にならないため、何と今の僕は、リーザに手をひかれているのだっ! 

 やっぱり女の子らしく、ちっちゃくってそれでいてしっとりとした感触に、僕は浮かれまくりなのさ! 


 ……とまぁ、浮かれるのはこれくらいにしないと、リーザに嫌われてしまうので、真面目に戻る。


 今日僕が召喚されたのは、レースに出場するだけでない。もう一つの目的は、これから行わる、メインレース二つ前のレースを見るためである。

 本日第七競走、プネガネン賞。ランクはB。このレースに、給さんが出場するんだ。

 このレースには、元Aランクだったエルハも何人も出場している。Aランクに上がると、レース結果が伴わない場合、降格される制度があるんだって。中でも玉子パンおばさん(中年女性かつ名前の発音が似ていて丸っこいので、僕が勝手に命名)は、ただのAランクではなく、重賞レースでも常連だったという実力者。おばさんパワー恐るべき。侮るべからず。

 けれど、元重賞常連や、猫かわいい給さんを押しのけて、一番人気になったエルハがいる。

「あらぁ、遅かったわねぇ」

 召喚士用の席に座って、ユーリカさんが僕たちに声を掛けた。


 僕も知ってる、みんなも知ってる、雑誌でも紹介された「期待の新鋭」こと、ミレイユだ。

 給さんVSミレイユ。僕的にも注目の一戦だ。



 周りの人たちの中には、次のレースに関係ない召喚士もいるみたいで、口々に予想を言い合っている。

 給とかミレイユとか。

 僕の知っている人の話題が、見知らぬ人の口から出ているのを聞くと、何だか優越感というか、嬉しい。僕がレースに出るときも、してくれているのかな?

「ねえ、リーザは誰が勝つと思う?」

 給さんの召喚士である彼に言うことじゃないけど、つい雰囲気に乗せられて聞いてしまった。

「うーん。どうかしら? たぶん、ぎりぎりだろうけど」

「ぎりぎり?」

 その意味を問いただす前に、歓声が響き、レースがスタートした。


 あわてて視線を競技場内に向ける。

 やっぱり爆走給さん。スタートから一気に飛ばして、先頭に立った――と思ったけど、それに競うように爆走するエルハがもう一人。

 玉子パンおばさんだ。さすが元Aランク。あの給さんが引き離せない。それにしてもスクリーンに映っている玉子パンおばさん、すごい形相。怖い……

 対照的に、ミレイユは涼しい顔でやや後ろから。

 そんな感じでレースが展開される。

 Bランクのレースともなれば、競技場の外に出ることも珍しくないが、このプネガネン賞は、飛行距離が短く、競技場を出ることなく、レースがおこなわれる。

 けど新人戦のようにくるくる回る単純なものではなく、上へ下へと、あの練習コースのように、かなり複雑。それを上位ランクのエルハたちがハイペースで回るのだから……ううぅ、目が回るぅぅ。

 そうこうしているうちに、レースも終盤。先頭はまだ給さんだ。玉子パンおばさんは、ばてたのか、ずいぶん遅れを取っている。

 そして彼女の代わりに二番手に入ったのは、きらめく金髪少女。うわぁ、ミレイユったら、いつの間にか二位?


 レースはあと少し。もう完全に給さんとミレイユの一騎討ちになった。


「いっけーっ」

 周りの人に交じって、僕も声を張り上げた。正直、どっちを応援しているのかわかんないけど……えーいっ、両方も頑張れっ。

 そしてゴール。一着になったのは、一度も先頭を譲らなかった、給さんだった。

「やったーぁ」

 僕は喜びの余りリーザに抱擁わざとじゃないよしようとしたけれど、あっさりとかわされてしまった。ひどい……

「うっしゃっ! ユーリカに一矢報いたわ!」

 って、そっち? ま、まぁ気持ちは分かるけれど。

 けれど、ユーリカさんは負けたにもかかわらず、余裕の様子を見せていた。

「まぁ、この距離ならね~」

「きょり?」

 僕は首をひねったが、リーザは痛いところを突かれた、って感じで口をつぐんだ。

「――ふん。負け犬の遠吠えよ。ほら、給を迎えに行きましょ」

 けれどリーザはすぐにいつもの調子に戻って、控え室に向かって部屋から出た。今度は行きと違って手をつないでくれない。うえぇーん。

 と、それはさておき、距離ってどういうことだろう。

 しばらく考えて、僕はリーザに尋ねる。

「もしかして、さっきユーリカさんが言ってたのは、今回のレースの距離が短かったってこと?」

「そう。少しは分かってきたようだね」

 リーザが笑顔を向けてくれる。いやぁんご褒美に頭なでなでして~、とすりよったら、あっさり身を交わされた。しくしく。まぁいつものことなので、気を取り直す。

 それにしても、確かにこのレースは距離が短かったけど、それって、どういうこと?

「給は、スタートから飛ばしてそのまま押し切るレースが多いのよ。性格的に真面目だから、力を抜くことができないみたいね」

 うーん。それは僕がいい加減って言われているみたいだけど、まぁ否定できないので、黙っておく。

「それにやっぱり猫だからかな。あまり長い距離は得意ではないみたい」

 歩きながら、リーザが冷静に分析する。

「それでも問題はない。短距離者にもそれに対応するレースは多いし、まだずっと上だけど、AⅠの中には、究極の直線レースもあるくらいだからね。給ならもしかすればそこまで上り詰めることができるかもしれない。けどそれじゃだめなんだよ。ピングリーヴ市杯に勝つためには、ね」

「あっ……」

 リーザの最大の目的は、ユーリカさんより先にそのレースに勝つこと。これは市内を一周するほどのレースなので、スタートから全力で飛ぶ給さんでは、とても回りきれない。

「だから、僕を呼んだの?」

「そういうこと」

 心のどこかで気になっていた。どうして給さんがいるのに、僕が呼ばれたのか。その訳は納得した。

 したけど……

「それに、ユーリカとの勝負するんならあいつに合わせて新人を呼んだ方が公平だから、ってこともあったけどね」

 確かにそうだけど、給さんの気持ちを考えると、ちょっと複雑。勝ってもだめなんて。


 控え室に向かう途中、ミレイユとユーリカさんに出会った。リーザの給さんに負けて、荒れてるかなぁと思ったけど、意外にも冷静な感じのユーリカさん。

「おめでとう。強かったわね。給ちゃん」

「そっちもね」

 おお、大人の会話! 互いを尊敬しあうこと。二人がずっと年上に見えるよ。……と思ったのもつかぬまで。

「まあ、二着だから計算通りなんだけどね。これでAランク入りだし。次はピングリーヴ市杯かしらん?」

「ふん。給に負けているようじゃ、望みは薄いだろうけどね」

「ほっほっほ」

「ふふふっ……」

 ああ、またはじまった……僕は難を逃れるため、そそくさと二人から距離をとると、同じように逃げてきたミレイユと目が合った。

 えーと、何て言えばいいのかな。負けはしたけど、二着でAランク入りしたわけだし。

「えっと、とりあえず、おつかれさま」

「どうも。ご丁寧に」

 あれ? こっちも普通だ。負けず嫌いのミレイユのことだから、内心はもっと乱れていると思ったんだけど。

「言っておきますけど、あたくしは負けたのではありませんわ。このレースはあくまで練習の一環。むしろ二着に入ってランクアップですから、ラッキーですわ。そう、これは勝利と言っても過言ではありませんわ。つまり、あたくしが勝者なのでーすわ」

「……なんだ。やっぱり無茶苦茶気にしてるじゃん」

「何ですって?」

 僕のつぶやきが耳に入ったのか、ミレイユがぴくりと言葉を止める。けどすぐ立ち直ったのか、手を口の下に当てて、僕を見下すように言う。

「文句がおありでしたら、あなたも早くAランクに上がることですわね。このままですと、今年はピングリーブ市杯を制するどころか、出場もできませんわよ」

 うっ、それを言われるとつらい。ミレイユは僕を黙らせたことに満足したのか、高笑いをしながらユーリカさんまで置いて、通路の奥へと行っちゃった。ユーリカさんも後を追ったため、召喚士同士の不毛な言い争いも終わったけど……

 なんか疲れたよ~。



 控え室の中はにぎわっていた。

 給さんの姿は見えないけど、あの人の集まりの中心にいるはず。と思っていたら、リーザが来たことを動物的感で知ったのか、小さい身体で人々の下を通り抜けて、猫のようにリーザに向かって、飛びついてきた。

「おめでとう。よく頑張ったね」

 腕の中の給さんをやさしくなでるリーザと、その手を心地よさそうに瞳を閉じてのどを鳴らす給さん。うーん、理想的な飼い主とペットって感じだなあ。給さんも僕の前とは大違いだ。

 なんて感じで見ていたら、僕の視線に気づいたのか、給さんがごほんと咳払いして、リーザの手から離れると、いつものように僕に言ってきた。

「何だい。お祝いの言葉一つなしかい?」

「えっ、そんなことないよ。おめでとうございますぅ。ほら、何てゆーか、二人の、じゃなくて一人と一匹の蜜月の邪魔したくないなーと思って」

「……何か気になる反応だねぇ」

 背の小さい給さんが下から覗き込むように、僕の目を見てくる。

 やっぱり猫の瞳なわけで……ううっ、心の中まで見られてしまいそう。

「もしかして、今日のレースの距離のことかい?」

 ぎくぅ。ばれてるぅぅ。

 僕としてはリーザからあんな話を聞いたあと、素直に祝福できないて言うか、その……そんな感じでろうばいする僕に対し、給さんは平然と言ってのけた。


「分かってたよ。リーザが目指すものとは関係ないレースだってこともね。けど勝てば賞金は手に入るだろう」

 給さんもここ最近のレースでは結果が出てなかったみたい。今日は距離が短くなってようやく勝利したとのこと。

「その賞金がたとえあんたのためだとしても、あたしはリーザの言うとおり飛んで、結果を出す。それが彼のためだし、ただそれだけなんだよ」

 そう言い残して、給さんはリーザの方へ行ってしまった。

 僕は、なにも言えなかった。

 分かってはいたけれど。

 やっぱり給さんって、すごいよ。



 その給さんは、レースの疲労が大きく、早めに帰った。残った僕はリーザと、今後について話し合った。

「記者から聞いたんだけど、ユーリカはピングリーヴ市杯の前に、もう一レース、ミレイユをどこかに使うみたいね」

「へぇ……」

 ピングリーヴ市杯は格式あるレースだけに、出場希望者が多い。だからミレイユもAランクになったからと言って、必ず出られる訳じゃない。希望者が多い場合は、選考になるの。

 目安とされるのは、賞金ポイント・実績・人気など。選考は非公開なんだけど、スポンサーや委員の人が結構好き嫌いで選んでいたりするとかしないとか。

 どっちみち、人気でも実力でも好みでもミレイユはほぼ確定な気がするけど。

「ピングリーヴ市杯はもう少し先なので、調整や練習の意味合いが強いと思うけど」

 とはいえ、目的のレースの開催日が、そろそろ近づいてきたのは事実。

 僕なんて一レース一レースが必死なのに。うーん、ずいぶん差がついてしまった感じ。

 僕がピングリーヴ市杯に出るためには、一つランクを上げればいいんだけど、さきほどの理由から、ただAランクになるだけでは厳しいとリーザに言われた。

 えーん、いくら僕がMでも、ヒドイ言いようだと思う。

 リーザがにやりと笑う。やっぱS、じゃなくて、何やら秘策があるみたい。

「そこで、トキヒサの次は、トライアルレースに使おうと思う」

「トライアルレース……」

 僕は神妙にうなずく。

「――って、何?」

「そうねぇ。分かりやすく言うと……」

 お約束のボケをしたのに、リーザの反応はない。ちょっとさびしい。まっ、実際にわからなかったんだけど。

 以下説明。

 ピングリーヴ市杯には、トライアルレースというものが設けられている。このレースでは、一着から三着までに入れば、優先的に本戦への出場ができる。これなら戦績も人気も関係なく、しかも三着の場合昇格できないのだから下位ランクのままでも、必ず出場権を得られるのだ。

「すごいっ。何それ、いいことずくめじゃん」

「誰もそう思うでしょ。だから当然、競争率・レベルは高いわよ。しかも出場者はA~Cランクのエルハと広いため、出場者も多いから」

 うっ。僕はすっかり意気消沈。やっぱり世の中いい話だけじゃないのね。

「けれど、相手がだれであろうとも、所詮は予選よ。このレースで勝てないようなら、本番のピングリーヴ市杯で、いい成績を残せるはずがないわよね?」

 うん。

 僕はリーザの言葉にうなずいた。確かに。そのとおりだ。

 目的はピングリーヴ市杯に勝つこと。一番になるには、ほかのレースで怖気づいちゃいられない。

 僕だってミレイユや給さんに負けたくないもん。


「分かった。僕頑張るよっ」




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