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試験勉強! ……つづき

「――で、あたくしに何をしろと?」

「英語を教えて❤」

 僕はとびっきりの笑顔をミレイユに向けて、お願いする。それはもぉ、リーザ以外なら絶対落とせる、ってくらい。

 何てったってミレイユは外国人。英語ぺらぺらのはず。そのうえ精霊の言語変換能力のおかげで、日本語も話せる。まさに教師に完璧な存在。

 それに気付いた僕は、ユーリカさんに無理に頼みこんでミレイユを呼んでもらったのだ。幸い、ミレイユも寝ていた時間だったらしく、召喚に応じて今目の前に彼女がいる。

「……まったく、予定外に呼ばれて何かと思ったら。どうしてあたくしがあなたに勉強を教えて差し上げなくてはならないの」

「いーじゃん。へるもんじゃないし」

 にもかかわらず、ミレイユは露骨に嫌そう。

「あなた、あたくしがどこに住んでいるかご存知? 世界で一番美しいフランス語を使用しているのに、なぜ英語などとつまらない言語を教えなくてはならないわけ?」

 とのこと。フランス人は英語を話せないって話を噂半分で聞いたことがあったけど、どうやら本当のことらしい。

「つまり、話せないんだ。英語」

「話せないではなく、話したくない、ですわ。お間違えのなさらないように」

「じゃあ、教えて❤」

「うっ」

 黙ってしまった。やっぱり英語は苦手なのかな。これ以上追求したら可哀想なのでやめる。それにミレイユの件で、妙案を思いついたんだ。

 ミレイユはだめでも、こっちにきている精霊はたくさんいる。なら日本人だっているわけで、中には現役東大生の美人のお姉さんとかも。……むふ。

 と言うわけで、僕はリーザの許可をもらって、空へと舞い上がった。目指すは給さんに連れて行ってもらったトレーニングセンター。……なんだけど。

「ちょっとっ、お待ちなさいっ。あなたあたくしを呼び出しておいて、放っておくなんて、どういうつもり?」

「……いや、悪かったと思ってるから、早く帰ってもらっていいんだけど」

「――人を役立たずみたいにっ」

 事実そうなんですけど。

 とまぁ、ミレイユがしつこく追っかけてくるので、それを振り切ろうと僕がスピードを上げると、ミレイユも追うためにスピードを上げ……。

 いつの間にか本気で競争になってしまい、市街地を暴走してしまったため、警察の精霊とも追いかけっこになって、厳重に注意されてしまった。


 まぁこれもトレーニングとポジティブシンキングして、いざ、トレセンへ。



 ミレイユが駄目でも他の精霊なら……って思ったけれど、よく考えると知り合いの精霊なんて限られている。

 というわけで、僕は自然とぬんらを探して回る。当然ナジカは論外。

 ミレイユも憮然としつつ、僕のあとをついてくる。

 ふと、こっちを見つめる視線に気付く。何人もの人が僕を見ているような……僕って有名人?

 なわけないか。ええ分かってますよ。どーせ見ているのは僕じゃなく、後ろのミレイユだよね。

 けどけど、一応確認してみようかな。

 僕は立ち止まってミレイユに寄りそう。怪訝そうな表情を見せるミレイユをよそに、何人かのエルハの視線が集まったところで、僕は抜き足忍び足で、そぉっと移動して、いっきにダーッシュっ。さぁ、みんなの視線は? ――おおっ。こっちに向いているっ。

「てことは、実は僕も有名人?」

「単に挙動不審だからじゃなくって?」

 ミレイユに言われてしまった。ふんだ。

「でもねぇ、いくらミレイユが綺麗だからって……」

「それだけじゃねーだろ。なんてったって、雑誌でも紹介された、期待の新進気鋭様だもんな」

「あっ、ナジカ?」

 聞きなれた声に振り向くと、相変わらず背の小さい生意気そうな子が偉そうに立っていた。ナジカによると、ミレイユはついこの間のレースに二番人気に推されて出場して、いつものように好位からレースを進めて抜けだし、後続を抑えて見事勝利を得たとのこと。これで彼女の戦績は3戦3勝(反則による繰り上がり有り)というわけだ。

「ってことは、もうBランクっ?」

「おほほのほ♪ どう、あたくしの凄さがお分かりになって? あと一つでAランク入りでーすわ」

 うーっ、おいていかれたって感じ。けど僕だって、そんなミレイユと互角の勝負ができたんだ。チャンスはあるはず。

 そのためにも、まずは試験勉強だよね。ナジカも日本人っぽいけど、正直、頭のレベルは期待できないし。――負けていたらそれはそれで腹が立つ。

 ナジカとミレイユに話をさせておいて、僕は再びトレセン内に目を巡らせて、お目当ての人物を発見した。

「おーい。ぬんらー」

「あっ……トキヒサさん」

 僕に気付いた彼女が視線をこっちに向けて……表情を曇らせた。あれ、僕何かした?

 きょとんとする僕の肩を、ナジカが引っ張って小声でささやく。

「ちなみに、さっき話したレースで二着に敗れたのが、ぬんら。レース前はぬんらの方が人気だったんだけど」

 なるほど。さっきの反応はミレイユを見たからだったんだ。ぬんらの成績は確か2戦2勝だったから、初めて負けたことになるわけだ。見た目や言動に似合わず、負けん気が強いところがあるのは、この間ここで給さんらと模擬レースをやったときで知ってるし。

「あの、こんにちは」

「あら、どうもご丁寧に」

 けど僕が呼び止めたせいで、ぬんらは律儀にこっちまでやってきて、ミレイユとあいさつを交わした。

 ミレイユも彼女がこの間のレースで負かした相手だと気付いているようで……えーん、重い雰囲気だよぉ。

 だからこそ、すぐ用事を済ませないと。僕は努めて明るく、ぬんらに話しかける。

「ねぇねぇ、実は勉強を教えて欲しいんだけど」

 僕は状況を説明する。長い黒髪に着物姿、古風で知性的なぬんらならばっちりのはず。……だったんだけど。

「……ごめんなさい。私ミナヒスチツニミ人だから」

「……はい?」

「あの……ですから、私は、トキヒサさんで言うところの地球人ではない、ということです」

「そうなんだ」

 意外な事実に僕はびっくり。もっともナジカは知ってたようだし、ミレイユはあまり興味ないみたい。でも言われてみれば、ぬんらの着物ってよく見ると日本のそれとはちょっと違うみたい。

 精霊もそれぞれだ。まぁ猫娘(給さん)もいるくらいだしね。いい勉強になりました。でもどうしよう。ぬんらに期待してたのに。

 駄目もとで、ナジカにも聞いてみる。

「じゃあナジカでもいいや」

「すんげー言い方が気になるけど、あたいもパス。日本のこと分かんないし」

「え? 日本に住んでるんじゃないの?」

「中国」

 ふぅん。ナジカって中国の人だったんだ。ぱっとめ分からないけど、なんか新鮮。けどまぁ、中国人なら中国史はまさにベストオブチェイスっ。

「わかんねーよ。誰でも学校行っていると思ったら、大間違いだ」

「あ、ごめん」

 どうやらナジカの家庭環境はいろいろあるみたい。まぁ、あまり興味ないからいいけど。

「――ってよくないじゃんっ! 僕の勉強はどうなるのっ?」

「やかましっ」

 ぽかりされました。この叩き方は……リーザ?

 振り返るとやっぱり彼女が立っていた。ちょっと怒り気味で。

「どうしたの? ここに来るなんて珍しいね」

 僕が笑顔を向けると、リーザは両の拳をグーにして、僕の両のこめかみに当てて力を入れる。

「そ・れ・は・君が交通法違反で捕まって警察に呼び出されたからだよ……っ!」

「あわわぁぁっ」

 ぐりぐりされる。ううっ、これ痛い。……けどこれはこれで新鮮かも。

 散々痛めつけらえてから、ようやく解放される。僕たちの愛の営みにぬんらとナジカは茫然と見つめていた。むふふ。で、ミレイユはというと……怯えている?

「リーザさんがいるということは、ユーリカも……?」

「えぇ。当然いるわよ~」

 僕たちの後ろから、まるで挟み撃ちするかのようにユーリカさんが現れた。うわっ、笑顔だけど笑ってないその顔が、怖い。

「おほ……ほのほー」

 あ、ミレイユが逃げた。

 待ちなさ~い、とゆったりと言いつつも素早い動きで、ユーリカさんが追う。警察に絞られたのは、ミレイユも同じだから、きっとユーリカさんの愛のお仕置きが待っているのだろう。

「……えっと私たち、練習がありますので」

「あぁ、じゃーな」

 ぬんらたちも逃げるように去って行った。てゆーか、実際に逃げたんだろうけど。

 これで僕はリーザと二人っきりなってしまった。けど、これはこれでおいしい状況?

「やっと二人っきりになれたね❤」

 ばさりされました。えーん、事実を言っただけなのにーっ。――って、ばさり?

 僕はリーザの手に目を移す。彼女は分厚い辞書のようなものを手にしていて、それで僕の頭を叩いたみたいだ。道理で痛いはずだよ。

「……リーザ、それは?」

「ん? これ? エルハ図鑑よ」

「エルハ図鑑?」

 リーザの説明によると、その本には、さまざまな場所や地域から呼ばれるエルハについて、その地域の文化や歴史、社会事情まで載っているという。これを見て、自分のエルハの生活環境を知って親交を深めるために使うらしいけど。

「ここに、トキヒサが住んでいるという『日本』のことも記されていたわ。これで少しは参考になるんじゃないかなって」

「えっ、それって……」

「時間がないんだから、さあ勉強するわよ」

「はいっ」



  ☆ ☆ ☆



 レースの日。僕が出場するCクラスのレースは、この日ここで行なわれる重賞レースの前座の前座の前座のようなものだ。


「アナタハ、9ニンチュウ7バンニンキ。ショウキュウショセン、ハ、1バンニンキダッタデスケド、ネ。マケスギ、マケスギ。コンカイ、ハ、サイカイデモフタケタジュンイニナラナイデスヨ。ヨカッタ、ヨカッタ」

 僕の隣に並んでレースを進めているエルハがそんなことを話しかけてくる。うーん。彼女(?)は一目見て宇宙人だって分かるなぁ。それはそうと、挑発しているつもりかな? ま、どうでもいいや。


 そろそろレース終盤。僕はスピードを上げて彼女(?)を引き離す。

「コンナハヤクスパート。マタ、バテマスヨ。アレ、アレレ……」

 宇宙人の戸惑った声も心地よい。けどその声もすぐに聞こえなくなる。

 あっさりと先頭を飛んでいた子をかわして、僕は先頭に立つ。

 視界の先に見えるのは宙に浮かぶゴールリングだけ。

 リングはまだ先。でも余力は十分。


「いっけーっ」

 この勢いのまま飛んでいても勝てるだろうけど、僕はあえてさらにスパートをかけた。ぐんっと、身体が引っ張られるように速度が上がる。まだまだ力を入れれば、もっとスピードが出そうな、そんな感じ。

 ん~っ、気持ちいい……

 心地よい風を浴びながら僕は後続に大差をつけて、ゴールゲートをくぐった。

 どんなもんよ?


 レース後は、圧勝っぷりや、中位クラスということもあって、初めて勝った未勝利のときよりずっと多い、祝福と、取材を受けた。

 リーザも笑顔で迎えてくれた。彼女の隣には、給さんも来ていた。

「おめでとう。少しはましなレースをしていたんじゃないかね」

 給さんなりに祝福してくれる。

 リーザが笑顔で続ける。

「どうやら、期末テストとやらも、無事乗り切れたようね」

 その言葉に、僕はぴくりと反応するも、リーザと同じように笑顔を作って答える。

「はっはっは☆ 結果なんてどうでもいいんですよ♪ 終わったという事実だけで、僕は幸せです」

 ちょっぴり引きつって、ちょっぴり涙が出たけど。

 リーザが教えてくれた勉強。為になったしありがたかったんだけど。いかんせん、エルハ全体の図鑑(しかも内容は聞き伝え)のため、高校の試験内容には、到底及ばなかったのだ。

 ――その程度でも、為になった僕って……?


「……ちなみに、赤点だと夏休み前半は補習授業でつぶれる予定です……」

 しくしく。

 リーザと給さんは互いに顔を見合せた。


「どうやら、またしばらくは不調が続きそうだねぇ」

「……えぇ」





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