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試験勉強

 僕の名前は白村時久。

 異世界でエルハローネとかいうプロスポーツ(?)の選手をやっているけれど、その実態は、はしゃぎたい盛りの男子高校生なのであるっ!

 ……そう、高校生。てゆーか、こっちの方が本職なわけで。しかも、はしゃいでばかりはいられないのが、高校生ていうか学生。

 ――例えば、期末試験だとか、ね。



「問題だ。関ヶ原の戦いが起こったのは、何世紀?」

「……えっと、十九世紀?」

 ぽかりされました。ううぅ、リーザ以外に叩かれたくないよ。

 ここはリーザの世界ではなく、こっちの世界のいつもの学校。今は休み時間に悪友の義隆と日本史の歴史問題を出し合っていたんだけど。

「ったく、十五世紀だろ。1600年だけど世紀は1601年から変わるから、十六世紀、って間違えるのを期待してたってのに。なんだよ。島津義弘が十九世紀まで生きてたって言うのか?」

「しまづよしひろ、って何?」

 問いの代わりに帰ってきたのは長ーいため息だった。よく分かんないけど、よしひろさんくらい知らなくても、試験くらいは大丈夫な気もする。

「どーするんだよ、時久、試験まで日がないぞ。赤点取るつもりか?」

「まさか」

 僕はぶんぶんと首を横に振った。

「だろ? だったら、徹夜でもして頑張ってみるんだな」

「……それって、義隆は手伝ってくれないくて、一人でやれ、ってこと?」

「とーぜん」

 ……親友って。

 まぁ仕方ない。けど試験前に徹夜で勉強。これも青春! って感じだよね。

 よしっ。がんばるぞっ。



 午後十時。自室にて。僕は指さし確認をする。

 全教科の教科書・ノート、準備よーし。筆記用具、眠気対策用コーヒー、よし。机の整理整頓よしっ。さらには息抜き用のラジオにお菓子もよしっ。最後にはちまき、装着っ。

 徹夜勉強の準備、万全だ。うんうん。なんかもぉ、勉強する前から、テストで好得点必死、って感じ? 自然と笑みが浮かぶ。漢字テストなんて余裕っ。

 時計を見ると、まだ十時。翌朝まで、なんと九時間も勉強できるなんて、ビバ徹夜っ。

 時間に余裕があるので、とりあえずラジオをつける。普段、テレビしか見ないので、新鮮。意外と面白い。案内に従って携帯で懸賞クイズに応募する。当たるといいな。

 そうだ。甘いものって、脳にいいんだっけ。お菓子をかるくぱくつく。

 あっ、そろそろ真面目に勉強しなくちゃね。大丈夫、時間はたっぷりあるもんね。

 まずは英語から。……

 う~ん……これ、ノートや教科書見てもよく分かんないや。明日義隆に聞こう(いま連絡すると怒られそうなので)。ついでに、これと、これも。あっ、こっちも。

 ぱくぱく、ずずず……

 あ、これなんかいい曲だな。何て曲名だっけ、ちゃんと聞いてなかったよぉ。

 いけない。勉強、勉強……

 その前にちょっとトイレ。あっ、ついでにお菓子を補充しよう。糖分は脳に必要だもんね。

 ぱくぱく。うーん、これ美味しい。

 数学……これは明日授業があるからいいや。

 まずは暗記ものからにしようかな。これなら机に向かわなくても、ベッドの上で寝転がってもできるしね。これなら楽チン。

 ごろごろ、ぱらぱら。もぐもぐ……すぴー。

 びしっ、ばしっ!

 寝るなーっ。寝たら死ぬぞーっ!

 やっぱりベッドは危険だ。机に向かおう。やっぱ勉強といったら机だよね。

 でもでも、机の上がずいぶん散らかっちゃったなぁ。これじゃ集中できないよ。まずは片付けナイトっ。

 かさかさ。ばさばさ。あっ、やっぱこの漫画おもしろいなぁ――じゃなくてっ、ばさばさばさ。

 うーん、完了。机の上はすっきり。僕の心もすっきり。そんな僕を祝福するかのように、カーテンの向こうも明るくなる。日本の夜明けだぁ。

 ――って、もう朝っ?



「おっ、その様子だと、徹夜敢行したみたいだな。どうだ? 成果は」

「……なんてゆーか、青春の無駄遣い、って感じ」

 数学の時間。試験前の大切な授業なんだけど、何がなんだかちんぷんかんぷんな僕にとっては、眠りへといざなう誘惑の呪文。

 うーふぁぁ…………ぁぁ


「おーいっ」

 リーザの声に、僕は意識を取り戻した。

 おっと危ない危ない。眠りに落ちる寸前、間一髪リーザに起こされた。セーフ。

 ………………

「って、寝てるじゃん! 思いっきり!」

 目の前には、リーザの呆れ顔。彼女が登場って時点で、すでにここは異世界。すなわち元世界では、爆睡中ということだ。

前方に見えるのは、見知った建物。いつも利用するレース場だった。

「まだ寝ぼけているようね。昨日レース時に召喚に応じなかったから、駄目もとで呼んでみたけれど」

「あ、はぁ、まぁ。昨日は寝てなかったから」

 そういえば、昨夜はレースがあるっていわれてたっけ。けど徹夜していたから当然召喚できなかったわけで。

「まぁいっか。今からでも別のレースの登録ができるから。さっそく準備して」

「えっ?。僕、一応授業中なんですけど」

「大丈夫だって」

 ……そーかなぁ?

 けど、リーザはどことなく不機嫌。そりゃそうだよね。レースすっぽかしたんだから。すっぽかしたレースの登録料はどうなるのか知らないけれど、いろいろ予定だってあるはずだし。

 というわけで、いきなりだけれど、レースに出場することになった。

 ま、いっか。勉強疲れのストレス発散にちょうどいいしね。向こうで眠りの呪文と格闘するよりは、すっきりして、後で義隆にノート見せてもらった方がお得かも。


 もうレースも六戦目。流れにも慣れたもの。緊張どころか、スタート地点に立っても、余裕を持って周りを観察。

 出場するのはCクラスの中でも比較的賞金の少ないレース、よって出場者、つまり対戦相手の質も実力もそれほど高くない。

 僕の他にいる十二人の精霊たちを見回しても、見知った顔はない。つまり無名の相手。これなら楽勝かも。むふふ。

 レース開始。歓声――って、マイナーレースなのでそんなに大きくないけど――を受け、僕はいつものように前を行く子の背後をとった。ペースは速くない。先頭の子、大したことなさそうだ。

 このままレースを進め、そろそろゴールが近い。僕はスパートをかける。ペースを上げて前の子を一気に抜いてゆく。……つもりだったのに、なぜか、伸びない。力がうまく出しきれない。もたもたしているうちに、大したことないと思った先頭の子を交わせるどころか離されて、しかも後ろの精霊にはどんどん抜かれてゆく……

 結局、順位は十一位。

 実を言うと、これで三戦連続の二桁順位だった。



「はぁ……」

 ため息が出る。息切れよりため息。なんていうか、不完全燃焼って感じだ。

「うーん」

 控え室で待っていたリーザも、怒るわけでもなく、思案気な溜息だった。なんかこれはこれで怖い。

「どうも上手くいかないわね。これで三回連続ね。ランクが上がって対戦相手のレベルが上がっているのは事実だけど、それにしてはちょっと極端よね」

 そうなんです。あのミレイユと競って二着(反則繰り上がり)のレースでクラスが上がってから、今日のレースを含めて三戦目。いずれもそれ以前の惜しい展開もなく、大敗続き。僕からすれば、そんなに相手が強くなった気もしないんだけど、むしろなんていうか、僕の調子が悪いみたい。決して力が劣っているわけじゃないと思うんだけど。

「……もしかして、給と契約したことが影響しているのかしら?」

「いやいやいや。そんなことないって! 僕の調子が悪いだけだよっ」

 顔を曇らせるリーザに、僕は慌ててフォローを入れた。

 確かにCランクのレースに参戦するようになったのは、給さんとリーザが契約した後だ。精霊を召喚すれば、召喚士に負担が行く。僕だけでなく給さんも召喚するようになれば、当然リーザの負担は二倍になるわけで。そして召喚士自身の魔力が、少なからず僕たち精霊の魔力にも影響する。

 けれど、リーザから感じる魔力が少なくなったようには感じない。今日だって、給さんは召喚されていないし。

 僕の負けの原因を、給さんやリーザに押し付けるわけにはいかない。

「まぁ仕方ないわね。今日は急だったし。早く帰って休んだ方がいいみたいね」

「……はい」


 はっ、と目を覚ます。見事に机に突っ伏していた。顔を上げる。黒板には数字と記号の羅列。教師は僕に気付いた様子もなく授業を続けていた。

 うう。眠りの呪文から逃れようと思ったのに、まだ数学の授業中だったとは。

 時計を見ると、授業終了まで十五分もあった。眠ってしまったのが、授業開始十五分くらいとすると、眠っていた時間は二十分。その間、僕はレースをしてきたわけだ。レース自体は、ほんの数分くらいだけれど、レース前の待機時間や、レース後の検査とか準備もろもろで、少なく見積もっても三十分。下手すれば一時間くらい向こうにいたかもしれない。

 呼ばれる間隔はばらばらだけれど、季節の移り変わりを見ていると、大体向こうの世界の流れは、こっちの世界に比べて二倍くらいのスピードで流れている感じがする。

 ん……?

 ……そうだっ!



「……で、勉強したい、と」

「はいっ」

 今夜、リーザにさっそく呼び出してくれるなり僕は切り出した。

 そう、何で気付かなかったんだろう。この世界なら二倍の時間すごせるのだ。九時間なんかめじゃない。十八時間学習。しかも身体的に寝ているのだから、寝不足になることもない。これぞまさに、睡眠学習! 僕ったら、勉強する前から、天才?

「うーん。ま、いいかな。話を聞くとトキヒサの不調の原因の一つは試験のことが頭にあるからみたいだし。たまには練習を中止して、違うことをするのもいいかもしれないね」

 僕の提案に、リーザは少し考えたけど納得してくれた。

 精霊の力は、現実の世界での精神的なものも影響されるという。つまり僕のスランプは、この赤天という名の、テストへの不安にあったのだ。これを乗りきれば、レースでも活躍できるはず。

 こうしてリーザのお墨付きをもらったし、さあ勉強頑張るぞっ! 


 …………。

 えっと、どうやって?

 ふと気付く。ここはいつもの湖畔。当然机や椅子はないわけで。

 というより、参考書も教科書も、ノートの鉛筆も義隆もない。

「もしもし、リーザ?」

 向こうにいるリーザに尋ねる。

「なぁに?」

「つかぬ事をお聞きしますが、日本史とかって、知ってます?」

「何それ?」

 うわぁ、そっけなー。まぁ当たり前のことだけど。

 仕方ない。このままじゃ勉強できないし、いったん戻って準備をし直そう。

 リーザにその旨を伝え、僕は元の世界に戻った。



 目が覚める。まだ真っ暗。幸い、調整されることなく、同じ夜の十二時をちょい回ったくらいだった。

「うー。ねむひ……」

 中途半端に起きたせいで頭がぼーっとする中、僕は眠い目をこすりながら、勉強道具をかき集める。教科書ノートに参考書、筆記用具。よし、準備は万全だ。

 ……

 …………

 えーと。これを、どうやって持っていけばいいんだろ?

「むぅ」

 なんか勉強する前から、頭を使うなぁ。

 とりあえず、枕の下・ベッドの上や周りに勉強道具置いて一緒に、寝てみよう。辞書はパジャマの中にもぐりこませる。

 こんな状態で眠れるかなぁ。ふと不安になりつつも目をつぶる。

 ――すぴー。



 あっさりと来てしまいました。ちょっと、自分の図太さがショックなんですけど。

 それはさておき、あたりを見回す。やっぱりあれだけ用意していた勉強道具は見当たらない。

「やっぱだめかぁ」

 服の中に入れておいた辞書もなくなっているし。って気付く。

 今着ているのはパジャマじゃない。トレーニング用のジャージだ。前にも聞いたけれど、これはアバター的なもので、召喚の際に召喚士が設定できるんだ。

 けれどそれを設定しない――初めてこの世界に呼ばれたときの僕の恰好は、向こうの世界で寝た時と同じ、パジャマ姿だったはず。

 それはつまり、着ている服なら、この世界にも持っていけるんだっ。

「リーザ、ワンモアプリーズっ!」

「またぁ……」

 リーザは呆れ顔+ちょっと疲れて見えたけど、再び逆召喚。僕の意識は飛んだ。



「どわっっ」

 何かうなされた夢を見た気がして、跳ね起きる。反動で頭の上に乗っていた英和辞典がずり落ちる。どうやら睡眠→異世界→(戻る)→睡眠、のわずかな時間に変な夢でも見たようだ。

 そりゃあ悪夢でも見るよなぁ、と散乱したベッドを見る。

 まぁ片づけるのは後にして、僕は早速秘策を実行する。

 ベッドから降りると、パジャマを脱ぎ、下着姿のまんまマジックで、脱いだパジャマに数学の公式や年表やら英単語を書き写す。

 そうこれなら、異世界までもっていけるはず。しかもこれを見るには、合法的に下着姿にならなくちゃならない。リーザの前で男の肉体美を披露できる、ってわけだ。いやん、トキヒサったら、だ・い・た・ん❤ 

 けど、よく考えたら持っていけるの? 近頃は召喚されたらすでにジャージ姿になっているし(さっきもそうだった)。パジャマに描いても持っていかれないんじゃないかな?

 と疑問が浮かんだのは黄色のパジャマを真っ黒に埋めて何がなんだかわかんなくなってきたときだった。リーザに言ってなんか調整とかしてもらえれば出来そうな気もするけど、言ってこなかったし。

 まぁいいや。ベッドに入って三度目就寝。すぴー。


「てなわけで、もう一度っ!」

「するかっ」

 ぽかりされました。えーん、駄目な頭がこれ以上悪くなったら、リーザが責任とってくれるんだよね?

 それはさておき、どうやらしばらくは召喚の行き来は駄目そう。リーザも、何度も召喚してお疲れ気味みたいだしだし。

 仕方ない。せっかくこっちの世界に来たんだし、飛ぶ方の練習でもしますか。僕はほうきを手に取って空に飛びあがろうとしたとき、

「あらあらぁ、やっぱりこんなところで練習していたんだ~」

 と女性の声が、森の中に響いた。振り向くと、珍しいことに、ユーリカさんが立っていた。

「余計なお世話よ。悪い?」

 相変わらず、リーザが嫌そうな顔を作る。

「別にぃ。けどあなたに少し用があったからねぇ」

 それでわざわざこんなところに来たんだ。

 あ、でも二人って幼馴染みたいな感じだから、意外とユーリカさんも近所に住んでいるのかな……

 なんて考えて、僕は妙案を思いついた。

「そーだっ!」

 いきなり叫ばれて、しかも突然、僕に指さされたユーリカさんは、目を白黒させていた。





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