うるわしの実沢 愛しのわが家
鑠石の陽に焼かれながら歩く、旅の一日目。
ただ暑いだけのはずなのに、
胸の奥が少しだけざわついた午後。
影に入った安堵と、三人との距離が交わり始める気配。
そんな夏のとある日の回。
鑠石の陽が、街道を焼いていた。
空気そのものが熱を帯びて、
まるで世界がゆっくり溶けていくみたいな午後。
かなたが前を歩く背中は、
その陽光に照らされて淡く揺れていた。
……暑い。
ただそれだけのはずなのに、
胸の奥がざわつくのは何でなんやろな。
鑠石の陽が、街道を焼いていた。
空気そのものが熱を帯びて、
まるで世界がゆっくり溶けていくみたいな午後。
──* * *──
▶……いやぁ〜〜少年、霧の日も危ないが、
こんな日に歩くのはもっと危ないぞぉ〜?
──* * *──
かなたが前を歩く背中は、
その陽光に照らされて淡く揺れていた。
……暑い。
ただそれだけのはずなのに、
胸の奥がざわつくのは何でなんやろな。
かなたは前を見据えたまま、
まるで暑さを意識していないかのように歩いている。
けれど、その肩の上下のリズムは
いつもよりわずかに早い。
……あいつも暑さにやられてるな。
それでも歩調を崩さないのは、
たぶん意地なんだろう。
こよりも小さく息をついた。
暑さのせいか、
それとも影が見えた安心感か。
俺も同じように息を吐く。
鑠石の陽光は、
もう身体の芯まで焼いてくる勢いやった。
街道の先に、影がひとつ伸びていた。
鑠石の陽光に焼かれながらも、
その影だけは涼しげに揺れている。
船長が前に出て、
「ちょうど、あそこに木陰あるしちょっと休もうか?」
と軽く手を振った。
彼女が指さしたのは、
大きな木の根元にできた涼しい影だった。
道の脇に伸びた木の枝が、
ちょうどいい具合に日差しを遮っていた。
風も通って、歩き続けた身体がふっと楽になる。
さっきまで直射日光にさらされていた身体が、
ふっと楽になる。
みんなで腰を下ろすと、
船長がふわっとした声で話題を切り出した。
「まずはジプシー君の“年”を聞かせてもらえるかな」
「あぁ〜、自分の年ですか?」
「そう。名前思い出すのに時間かかったけど、年はおぼえてる?」
「いや、年はちゃんと覚えてます(笑)
ちなみに、こっちにも学校ってあるんですか?」
「あるよ。村にも街にも学校はある」
「みんなが通うわけじゃないけどね。
勉強より手伝いの方が大事って子も多いし」
「そうなんですね〜。
おれは中等学校の2年です」
「そっか。まだ学校行ってたんだね。
それなりに背高そうだからわかんなかったよ」
「それはマリンの背が小さいだけでしょ」
「ちょっとかなた〜〜!」
「ところで、なんであんな場所にいたの?
あそこ、人ほとんど通らないよ」
「そうそう。運がよかったわね。
私たちが通らなかったら、何日も一人ぼっちだったかもよ?」
「あぁ〜、やっぱりそうなんですね〜。
いろいろ探してたんですけど、誰もいなくて途方にくれてました。」
「そうなのねぇ〜。大変だったね〜。
ところで、どこかに向かう途中だったの?
一緒に誰もいなかったみたいだけど?」
「特に目的地はなかったんですけど、
この年齢なんで社会経験積んでこいとの事で。
最低限の地図だけ持たされて、
近くに街があればそこに行こうとしてあの霧で迷いました」
「なるほどね……。
じゃあ、ほんとに一人で来たんだ」
「社会経験ってやつね〜。
でも、ひとりであの霧はキツかったでしょ〜?」
「なら、ジプシー君。
この先、うちらの地元まで少し距離あるから……
よかったら一緒に行こ?ほらほら〜〜」
三人が軽くうなずき合う。
俺は、少しだけ息を飲んだ。
「……えっ、ほんとに俺、ついて行っていいの?」
こよりは、さっきよりも俺の横に近い位置を歩いている。
船長は前で鼻歌を歌いながら、時折振り返ってはニヤニヤしてくる。
かなたは後ろで、いつもの歩幅のままついてきていた。
(もしかして俺にも──ついにモテ期が来たのか?
この歳まで一度もなかった“モテ期”という奴が。
……なんやこれ。ほんまに“モテ期”ってやつ、来てるんか。
……なんにせよ、今の状況を楽しむことにするか〜。)
──* * *──
▶……おいおい少年、モテ期ってのはなぁ〜〜
そう簡単に来るもんじゃないぞぉ〜? ふふ〜ん。
だがまぁ……楽しむくらいならいいんじゃないかぁ〜。
──* * *──
「何、急にニヤニヤしてどうしたのぉ〜? ははぁ〜ん!?
さてはこんな美人で綺麗でかわいいおねぇさん方と旅できるのわかったから、
うれしくなっちゃったんだなっ。
その気持ち、わかるっわかるぞっ少年、うんうん」
「ほら、まりんもいつまでバカ言ってないで。先に進むわよ。
早く愛しのわが家に戻るんだから」
「でも、こういう掛け合いがあるから今までも仲良くやってこれたし、
旅も退屈しなかったのよね」
「ふぅ〜 でもそんな話ししてる間に見えてきたわよ、
うるわしき実沢 愛しのわが家たちが。」
「その実沢ってのは 何かの名前でしょうか?ペットとか?」
「あぁ~ごめんねぇ テンション上がって わたし達の
地元の名前なのよ」
「でも、おどろいたでしょう〜 何もなくて……なんていったかなぁ〜?
田舎よりさみしいとこ……そぅ僻地っていうの。
でもねぇ〜、空は広いし、空気はいいし、緑はいっぱい。季節によるけど、
夜はうるさい位の虫の声だったり(笑)、
日中は森の中から鳥の声が聞こえてきたり……いい場所なんだぁ〜」
「いやぁ〜、そんな事無いですよぉ〜。自分のいたとこも
ほぼ同じようなもんでしたよ。原風景っていうんでしたっけ?
自分も詳しくないですけど、逆に気持ちが落ち着きますね」
「そぅ、気に入ってもらえたならよかったわ。
夏は常に避暑地みたいなとこだらねぇ〜(笑)。
その代わり、冬の寒さはちょっと厳しいけどね。
でもそれもなれれば意外といいものよ。住み続けるのはあまり
おすすめしないけど、ちょっとだけ遊びに来るにはいい場所よ」
「春が来るのが楽しみになったり、鳥が羽ばたき動物が顔を出し始めて、
山菜も芽吹き……やっと春が来たぁ〜っていう、あの感じがいいのよね」
「ところで皆さんは、それぞれおうちに帰られるんですか? 地元って
仰ってましたけど」
「う〜ん、帰ってもいいんだけど……見た通りわかるでしょ〜?
家と家がすっごい離れてるのよ。これでまた出るときに呼びに行くと大変だから、
今は一緒に住んでるの。その方がいろいろと楽な事もあるし、
おまけにここにずっと長くいる訳じゃないしね。
時々戻ってきて様子見て、すぐ次の旅って感じかなぁ〜?」
「だねぇ〜。何回か近くに来た時、ちょっと様子見に立ち寄る感じかなぁ〜。
他の家族もいるし、きほんはお任せかなぁ〜。
その代わり帰る時はお土産だったり、旅先からいろいろ送ったり……
そんな感じかなぁ〜」
「もう、時間も時間だし……今日はつかれたからもう休まない?
明日また時間あえば家のまわり案内するよ。
といっても、なんにも無いんだけどね(笑)」
「じゃあ、ジプシーの寝る部屋案内するねぇ〜。
といっても、ほんとになんにも無いんだけど……
寝るだけなら十分だと思うから」
案内された部屋は、木の匂いがほのかに残る静かな空間だった。
窓の外では、夜の虫の声が遠くで続いている。
「今日はもう疲れたでしょ〜? ゆっくり休んでね。
明日、時間あえば家のまわり案内するから。ほんとになんにも無いけど(笑)」
「はい、ありがとうございます。今日はもう休ませてもらいますね」
「うん、おやすみ〜」
扉が静かに閉まり、部屋の中に夜の気配だけが残った。
旅の一日目は、こうしてゆっくりと終わっていった。
──* * *──
▶……ふふ〜ん、旅の一日目は、無事終わりだな
また 明日を楽しみにゆっくり寝るんだぞ〜。
──* * *──
───立秋/眉月/大安/一白水星/未の刻/晴光───
次回 朝の光、果樹園へ続く道 へ続く。
鑠石の陽に焼かれた一日目は、
木陰の涼しさと、三人との距離の変化でゆっくり終わりました。
次の第8話では、
“家に着いたあとの時間” と “実沢の生活圏” が動き始めます。
実沢という耳慣れない地名が出てきました。
異世界でおっさんの旅は続いていきます
少しずつ、この異世界での旅は進み
人々の営みや暮らしの音が見えてきます。
ご案内の語り部は、次回 またあなたを特等席へ。
どんな誘いになるのか、次の Causerie (物語)をお待ちいただければ幸いです。




