三人と歩く最初の村
今回は、生活の温度がゆっくり流れる回です。
光のやわらかさ、風の静かなあたたかさ、
三人の歩くテンポ──
その空気をそのまま味わっていただければ幸いです。
中盤では、
どこか懐かしい“説明にはかかせない”語り部が
そっと顔を出します。
異世界の貨幣が一気に並ぶ場面を、
軽く整理してくれる役目です。
歩く音と、村の空気と、
今日の出来事の余韻をそっと感じながらお読みください。
光はやわらかく、道の先を静かに照らしていた。
風もどこか人の生活を含んだ温度を帯びていて、
三人の足取りはいつの間にかゆっくりになり
なんとなく、三人とも口数が減っていた。
けどそれは気まずいとかやなくて、
ただ歩いてるだけで十分っていう、妙な空気。
俺もその雰囲気を味わい、三人と一緒に村へ向かうのだった。
光はやわらかく、道の先を静かに照らしていた。
風もどこか人の生活を含んだ温度を帯びていて、
三人の足取りはいつの間にかゆっくりになり、
なんとなく、三人とも口数が減っていた。
けどそれは気まずいとかやなくて、
ただ歩いてるだけで十分っていう、妙な空気。
俺もその雰囲気を味わい、三人と一緒に村へ向かうのだった。
あれからどれくらい歩いただろうか。
さいしょは小さく見えていた家々が、いまは目の前に並んでいる。
この村が、三人が話していた村なんやろな。
こより
「ふぅ〜〜、ようやく着きましたね〜。
ここまで何もなかったですし、まずは一安心ですね〜。」
おっさん
「ここが皆さんの話してた村ですか?
村って聞いてましたけど……思ったより活気あるじゃないですか?」
第1村人
「おぉ〜、誰かと思ったらこよりちゃんじゃねぇ〜かぁ〜。
ずいぶん戻り速いけど、途中でなにかあったかい?」
かなた
「何いってんですか〜、ちがいますよ〜。
もう依頼は終わらせました。」
船長
「そうですよ〜。
優秀な私たちにかかれば、こんな依頼なんてあっという間ですよ〜。」
こより
「はいっ、ありがとうございますっ。お邪魔しますね。
じゃ〜ジプシーさん、お店に見に行きましょうか?」
おっさん
「あの〜……俺もあいさつとかしなくてもだいじょぶなんでしょうか〜?」
かなた
「何心配してるのよ〜。
ジプシーくんだって仲いい子にはいちいち挨拶しないでしょ。
それと一緒よ〜。」
船長
「それよりもまずは何があるか見に行きましょう〜。
早めに行かないと、なくなっちゃう物もあるかもしれませんよ〜。」
おっさん(心の声)
(そんなもんなのかな〜?
仲いい人ね〜?
うっ……頭が……転移の時にどうやら忘れてしまったようだ……)
──* * *──
▶「──説明しようっ!
ジプシー君が日本の“仲いい人”を思い出せないのは、
転移の衝撃で記憶が一部 多分とんだためである!
間違っても1人さみしく……──」
──* * *──
おっさんは村の入り口に立ち、目の前の景色をゆっくり見渡した。
(……異世界の村って、こんな感じなんだな)
こよりが横から声をかける。
「ここは依頼で使った分をちょっと補充するために寄るだけの場所なんですよ。
お店も必要最低限って感じで、そんなに種類はないんですけど……」
こよりは軽く笑って続ける。
「もっと大きい街に行けば、ちゃんとしたお店がいろいろ揃ってます。
道具屋さんも素材屋さんも食堂も……
おっさんさんが見たことないような店もありますよ」
おっさんは何も言わず、その説明を聞きながら村の中へと足を向けた。
こよりが屋台の台を見て、少し困ったように言う。
「……あ、これちょっと足りないですね」
船長が横から覗き込む。
「ほんとだ〜。どうします〜?」
おっさんは何も言わず、ただ財布を取り出し、
屋台の台の上にお金をそっと置いた。
こよりがその置かれたお金に視線を向ける。
「えっ……これ、何ですか?」
おっさんは軽く答える。
「いや、お金だと思うんですけど」
船長も覗き込む。
「見たことないですよ〜。どこのお金ですか〜?」
こよりが少し首をかしげる。
「異世界のお金に似てますけど……なんか違いますね」
船長が続ける。
「他のお金とかも持ってるんですか〜?」
おっさんは財布を開いたまま、
中身をそのまま女の子たちに見せた。
──* * *──
▶ 「──説明しようっ!
ここでジプシー君が取り出したのは、
彼の元いた世界の“貨幣”である。
形も色もほとんど同じなのに、
絵柄だけが違うという……
異世界間でまれに見られる“類似貨幣現象”なのだ!」
──* * *──
こよりが置かれたお金を見て、少し首をかしげる。
「異世界のお金に似てますけど……なんか違いますね」
船長が横から覗き込む。
「ほんとだ〜。形も色も同じなのに、ちょっと違う感じしますね〜」
おっさんがそのまま返す。
「自分がいたところでは、これが使われてたお金ですよ。
こうして見ると……たしかに似てますね。模様が違うだけで」
こよりが自分の貨幣を一枚見せる。
「こっちはこういう絵柄なんですよ。
数字は──一万、五千、千、五百、百、五十、十、五、あと一。
この数字で全部そろってます」
船長がうんうんと頷く。
「そうそう〜。こっちもその数字で使ってますよ〜。
形も色も同じなんですけど、絵柄だけ違うんですよね〜」
おっさんは財布の中身をそのまま見せながら返す。
「自分のところも、その数字でしたね。
紙のお金も、硬貨も……形も色も同じでした。
ただ、描かれてる模様が違うだけで」
かなたが横から覗き込む。
「へぇ……そんなことあるんですね。
見た目はほとんど同じなのに、絵柄だけ違うなんて」
こよりが軽く笑う。
「世界が違うのに、ここまで似てるなんて……不思議ですね」
船長もぽつり。
「ほんとですね〜。なんか面白いです〜」
こよりが、おっさんの財布の中の一円玉を指先でつまむ。
「これ、一円って呼んでるんですよね?」
おっさんがうなずく。
「ええ。自分のところでは、一円玉って呼んでました」
船長が横から覗き込む。
「こっちだと軽白貨って言うんですよ〜。軽い白いお金だから〜」
かなたが穴開黄貨をひょいっと持ち上げる。
「これは五円と同じ価値ですけど、こっちでは穴開黄貨って呼んでます。
穴が開いてて、ちょっと黄色いから」
こよりが百円玉──銀貨──を見せる。
「百円は銀貨、五百円は大銀貨。
数字は一万、五千、千、五百、百、五十、十、五、一。
全部そのままです」
おっさんは自分の硬貨と見比べながら、静かに言う。
「呼び方は違うんですね。
でも……価値も数字も、全部同じなんですね」
船長が硬貨の模様を覗き込む。
「ほんとですね〜。形も色も同じなのに、絵柄だけ違うんですよね〜」
かなたが軽く笑う。
「世界が違うのに、ここまで揃うなんて……ほんと不思議ですね」
おっさんが最後に、ゆっくりと締める。
「……違う世界でも、使うものは案外同じなんですね。
呼び方が違うだけで、ちゃんと通じるんですから」
今日の出来事が胸の奥でまだ温度を持っていて、
その余韻を壊したくなかった。
今日の出来事が胸の奥でまだ温度を持っていて、
その余韻を壊したくなかった。
こより
「ふぅ〜、こんなとこですかね〜。補充はこれで全部ですよ〜。」
かなた
「だね〜。じゃあ、いよいよ愛しの我が家へ!
あともう一息、気合い入れていくわよ〜!」
船長
「でもね〜、ここは船長の私にまかせなさいっ。
最後まで面倒見るわ。」
───立秋/三日月/大安/一白水星/未の刻/晴光───
次回 うるわしの実沢 愛しのわが家 へ続く。
今回は、歩いているだけで温度が伝わるような、
そんな静かな回になりました。
三人の足取りがゆっくりになっていく空気や、
村へ向かうまでの“ただ歩くだけで十分”という感覚──
その生活の温度をそのまま描きました。
途中では、
ジプシー君の“仲いい人”の話に、
まさかの 「──説明しようっ!」 が逆フォローになったり、
異世界と元の世界の貨幣がそっくりだったりと、
少しだけ笑いの温度も混ざっています。
大きな事件はないけれど、
今日の出来事が胸の奥でまだ温度を持っていて、
その余韻を壊したくない──
そんな一日でした。
次回は、
三人の“家”へ向かう場面から始まります。
また少し違う温度が見えるはずです。
ご案内の語り部は、次回 またあなたを特等席へ。
どんな誘いになるのか、次の Causerie (物語)をお待ちいただければ幸いです。




