おっさん、異世界で初めての出会い
──* * *──
▶「さてさてぇ……
今回の Causerie(物語)では、ところどころに
わたくしめの“茶化しナレーション”が入りますぅ……。
▶で始まる行は、
おっさんの行動を見守りながら、
つい口を挟んでしまう……
そんな、わたくしの語りでございますぅ……。
肩の力を抜いて……
昭和のほのぼのアニメを見るような気持ちで……
お楽しみくだされぇ……。」
──* * *──
異世界の空気に少し慣れ始めたおっさん。
三人の女の子に案内されながら、初めての“暮らしの場所”へ向かう。
ここから始まるのは──
派手な冒険でも、急展開でもなく、
ただ静かに流れる“異世界の日常”。
その日常が、どれだけおっさんを振り回すかは……
語り部たちだけが知っている。
朝霧が谷の底にたまって、白い層みたいに漂っている。狭い谷だから、
霧の密度が少し濃い。
その向こう──霧の白さが少し薄くなったあたりで、
何か“影のようなもの”がゆらりと揺れた。こっちに向かって動いている
……気がする。
おっさん
「……霧でなんにも見えないし、こんな時は焦ってもしようがないし……
下手に動いたら余計まずいだろな〜……うん、しばらく様子見るか……」
(霧の向こうで、複数の“気配”がゆっくりこっちへ寄ってくる……
風もないのに、霧の層がわずかに揺れた気がする)
やがて、霧の層の向こうから三人の女の子たちが姿を現す。
──* * *──
▶「──さてさてぇ……
異世界に転がり込んだおっさんが……
鼻の下を伸ばしながら、美人のお姉さんたちと初対面でございますぅ……。
こりゃあ……おしおきの気配がしますなぁ……。」
──* * *──
「あの〜……大丈夫ですか〜? ここって、ほんと人が来ない場所なんですよ。
何かあったのかなって……」
「そうそう! 迷ったとか〜? 誰かとはぐれたとか〜?」
「ねぇねぇ〜〜? こんなところでひとりって、ちょっと危なくない?
怪我とかしてない? どこか痛いとこない?」
……声が落ち着いてて、なんか安心する。
「歩けそうだし、無理してる感じもなさそうね〜。ならひとまず安心かな。
この先、村まで少し距離あるから……よかったら一緒に行こ? ほらほら〜〜」
(三人が軽くうなずき合う)
おっさん
「……えっ、ほんとに俺、ついて行っていいの?」
(いや、いきなり知らん人らについて行くのってどうなんや……
このまま流れで歩いたら、変なとこ連れていかれたりせんよな?)
「ここまで濃い雲合は久しぶりやし、このままじゃ危ないぜ。
疑雲にでもなったら当分の間はれないしな〜」
おっさん
「いまの雲合とか疑雲ってなんですか?」
「このあたりの巡りの呼び方です。……村の人はみんな自然に使うので」
おっさん
「巡り……?」
「巡り知らないっ? なんて言ったらいいのかな〜?
どうやったら伝わるかな〜? ん〜……さっき濃い霧出てたじゃない?
まわり見えないくらいに」
おっさん
「あ〜、はい……?」
「さっきみたいに霧が出てる時を、雲合っていうのよ。
あれよりもっと霧が濃くなって、すぐはれない霧の場合は疑雲っていうのよ」
おっさん
「なんていえばいいんですかね〜? 例えばですけど今って晴れてますよね……?
それが急に雨が降ることあるじゃないですか?
そういう空模様が変わることを“天気”って、自分がいたとこでは呼んでました……」
(どこでとは言わなくていいよな〜。転移なんて信じてもらえないだろうし)
「へぇ〜、そんな呼び方があるんだね〜。
いろんな場所に行ったけど、天気っていうのは初めて聞いたよ〜。
君が言ってた、その空模様が変わることを、ここでは巡りって呼んでるの。
空ってさ、晴れから曇り、曇りから雨って、いろんな表情が巡っていくでしょ?
その変わっていく流れのことを、ここでは巡りって呼んでるんだよ。」
おっさん
「へぇ〜……巡り、か……。
なるほど……空の表情が巡っていく……って、そういうことなんですね〜。
いや〜、なんか……おもしろいですね。
自分のいたところでは“天気”ってひとまとめにしてましたけど……
こうやって細かく言葉が分かれてると、空の見え方まで違って感じますね……」
(霧にも名前があって、空の変化にも名前があって……
ほんまに“別の場所”に来たんやな……
言葉の違いだけで、世界の見え方がこんなに変わるんか……)
「なんか……ちょっと不思議ですね〜。
空って、ただ変わるだけだと思ってたんですけど……
ここではちゃんと“日々の暮らし”に組み込まれてるんですね……」
「あ、そうだ。あと一緒に行くなら……私たちの名前、教えておくね?
あと、改めて……あなたの名前も聞いておきたいな?」
おっさん
「あ……俺の名前、ですか?」
自分でも驚くほど声が震えた。(えっ……なんで出てこないんだ?
何故思い出せない?)
「俺の名前は……」
言おうとした瞬間、頭の奥がざわつく。
(おかしい。なんでだ。俺の名前が……出てこない?)
──◆◆◆ 後半へ続く ◆◆◆──
「ぼく〜、だいじょぶ〜? 顔色悪いけど? 何かあった?」
おっさん
「だ、だいじょぶですっ!」
(ダイジョブじゃないんだけどな〜(笑) 一体どうしたんだ俺?
名前が思い出せないって?)
「いきなりこんなとこに来ちゃったら、そりゃ混乱するわよね〜?
あせらなくていいから、ゆっくり思い出してみて?」
その言葉で、おっさんの中で何かが繋がった。
(……女神様。“地球の名前は使えない”って言ってたけど……
まさか、これのことか?そっか……異世界の名前って言われたもんな……)
おっさん
「俺の名前は──Gypsy Wolf (ジプシー・ウルフ)ですっ」
「おぉ〜 ジプシー君ていうんだぁ〜。もしかして名字があるって事は、
どこかいいとこのお生まれなんですかねぇ〜?(ニヤニヤっ)
ところでさぁ〜 ここにものすっごいスタイルが
よくて綺麗で可愛くて美人なお姉さんが目の前にいるわけなんだけど、
こんなお姉さんのことを少年はどう思う〜?」
──* * *──
▶「船長さん……
ここで、いきなりフルスロットルでございますぅ……。
こりゃあ……少年の鼻の下が……さらに伸びる予感が……。」
──* * *──
「こらっまりんっ、いきなり何言ってるのよ。自己紹介が先でしょ
名前はジプシー君ね よろしく。」
──* * *──
▶「いやいやぁ……
こよりさんのフォローが入って……
場の空気がなんとか整いましたなぁ……。
この三人、なかなか賑やかでございますぅ……。」
──* * *──
「覚えた〜! ジプシー君ね!ふふっ、よろしくねジプシー君。
じゃあ私たちも自己紹介するね〜」
「私はこより。こんな場所で人に会うなんて思ってなかったから、
ちょっと驚いたけど……よろしくね?」
「私はかなた! 出会ったのも何かの縁だし、よろしく〜!」
「私はまりん。でもみんな親しい人は船長って呼ぶの〜。
君も、もし呼ぶなら船長でいいわよ。あと、何かあったら遠慮なく言ってね?
ほら、行こ行こ〜〜」
「じゃ、行こっか。村まで少し距離あるけど……大丈夫だよね?」
「途中で変なもの出ても、私たちがいるし〜!」
「ゆっくりでいいからね〜。無理しないでついてきて?」
こうして、見知らぬ三人の女の子と一緒に、村へ向かうことになった。
いや、ほんとにどうしてこうなった俺。
──* * *──
▶「出ましたぁ〜〜!
鼻の下、伸びましたぁ〜〜!
これはもう……
“おしおきだべぇ〜〜〜!”
と言いたくなる展開でございますぅ……。」
──* * *──
「さっき私が話した村に向かってるんですけど、
依頼の帰りにいつも寄るんですよ。
食料とか水とか、最低限は揃ってますから。」
「確かに補給くらいでしか寄らないな〜。」
「でも……静かで、落ち着くいい村ですよ。」
おっさん
(こうして俺は、“左遷(笑)”という名の強制転移で、
夢にまで見ていた異世界に足を踏み入れた。
初めて会ったはずの三人なのに、どこか“初めてじゃない”ような雰囲気があった。
この世界では──せめて少しくらいは落ち着いて過ごしたい。
そんな淡い期待を胸に、三人と歩みをともにした。)
───大暑月/下弦/大安週/一白水星/卯の刻/雲煙───
次回 三人と歩く最初の村 へ続く。
──* * *──
▶「いやいやぁ……
おっさん、初遭遇から鼻の下を伸ばしっぱなしで……
こりゃあ、わたくしも“おしおきだべぇ〜”と
言いたくなる展開でございましたなぁ……。
三人のお姉さん方も……
なかなか賑やかでございますぅ……。
この先にも、どんな騒がしい出会いが待っているのか……
わたくしも楽しみでございますぅ……。
次の わたくしの担当まで また……
おっさんの行く末を、
そっと茶化しながら見守らせていただきますぅ……。」
──* * *──
ご案内の語り部は、次回 またあなたを特等席へ。
どんな誘いになるのか、次の Causerie (物語)をお待ちいただければ幸いです。




