龍と精霊とおっさん 厨二病がさわぐ見知らぬ空の下
本日の Causerie は
……人は、見知らぬ場所に立ったとき、
まず自分がどこにいるのかを知ろうとするものです。
けれど、この物語のおっさんは──
そんな当たり前のことすら、まだできません。
空は知らない色で、風は知らない匂いで、
そして、そばにいるのは……人ではない“何か”。
その“何か”は、ただ静かに彼を見つめていました。
まだ名前も、正体もわからないまま。
けれど──この出会いが、物語の最初の一歩になるのです。
そして、この物語を見届ける語り部は……
少しだけ、彼の行動に“厳しい視線”を向けています。
まるで、海外ロケで調子に乗った芸人を
淡々といじるあの声のように。
さて、この先で彼を待つのは……
女神様のあの子たちと、風の気配をまとう精霊たち。
それは、もう少し先のお話。
──静寂。
女神はぽつんと残され、息を吐いた。
「……間に合った。
よかった……。」
歩き出した女神はふと足を止めた。
「……あれ?
ちょっとのはずだけど……
なんか違和感あるのよね……?」
指先の光の余韻は、“ちょっとだけ”ではなかった。
女神は肩をすくめた。
「……まぁいいわ……
今はおやつの方が大事……」
靄の向こうへ視線を向ける。
「……はやく戻らなきゃ。みんな待ってるし……
……おっさんのことはあの子達にお願いしてるし──
向こうで何かしらうまくやるでしょ……」
ひらりと手を振り、女神は神界へ戻っていった。
閉じゆく靄だけが、異世界への気配を淡く残した。
──眩い光が消えた瞬間、おっさんはふわりと地面に足をつけた。
「ほんとこっちの確認もせずいきなり飛ばすなんて、
まったく酷い女神様だよっ。
あんな女神様でも敬われてるんだから驚きだよな。
敬われてる (女神自己申告)(笑)だけどな。
こんな事言ってみられたら終わりだってのっ、お願いだから誰かツッコんで〜。
とは言っても異世界来たばかりで天罰は遠慮したいけどなっ(笑)
……でもよ──空気が違う、景色も違う……
こういう非日常、たまんねぇんだよ……
ふぅ〜……厨二病が疼きやがるぜっ!!」
──* * *──
▶「……異世界の空気に触れた途端、少し浮つく。
その足取りは、まだこの世界の重さを知らないまま、
軽く前へ進んでいく。」
──* * *──
風が足元の草を揺らした。
おっさんは高ぶる厨二病を抑えきれず、気配のする方へ歩き出す。
草原の奥で、淡い光がゆらりと揺れた。
「……なんだ? あれ……?」
光はふわりと形を変え、ひとつの輪郭を作り始める。
その奥から、小さな声がした。
「……ひと……?」
ゆらめく光がほどけるように消え、少女の姿が現れた。
髪は風の色、瞳は水面のように揺れている。
どこか精霊めいた雰囲気をまとっていた。
「あなた……人よね? 何故こんなところにいるの?」
「えぇぇぇぇ!? 精霊!? マジで!? ほんとに!?
いやいやいや、異世界来たばかりだぞ!?
こんな展開、俺の読んでたラノベでもなかったぞっ!?」
精霊は首をかしげる。
「あなた……言葉、分かるの?」
「分かるよ!? なんか分かるっ!? えっ、なんで俺わかってるんだ!?」
精霊はふわりと笑った。
「人の気配がしたから……気になって。少しだけ様子を見に来たの。
……それに……あなた“そんな年なのに”、ここまで……よく無事に……」
おっさんは一瞬だけ眉をひそめた。
「えっ 今なんてっ? あなた“そんな年なのに”?って聞こえた気が……
やだな〜 こんなおっさん捕まえて〜(照れ)
そりゃ〜年も年ですから驚くのはわかりますけど、
見た目はまだ悪くないと思うんですよ〜(キリッ)」
──* * *──
▶「……自分の姿に少しだけ期待を寄せる。
その勘違いめいた明るさが、どこか危うい影を落としていた。」
──* * *──
精霊は少し困ったように微笑む。
「そうじゃないの……あなた、もしかして気づいていないの?」
「だから、何にですか?
申し訳ないですが、もう少しだけおっさんの頭でも理解できるように
教えていただけるとありがたいんですが?」
精霊は小さく息を吸い、優しく微笑んだ。
「なら……ちょっと待ってねっ。」
精霊が指先を軽く振ると、空気が水面のように揺れ、
目の前に“水鏡”のようなものがふわりと現れた。
「これで確認できると思うから、ゆっくり見てみなさい。
ただし──どんな事があっても驚いたり大きな声を出しちゃだめよ。」
「わかりました。それじゃぁ失礼して……えっ? んっ?
なんか知らない子どもの姿が見えたぞ?もう1回念のため見てみようかな〜?」
おっさんは某下町派出所ハチャメチャ警官ばりの二度見をかます。
「……あの〜、なんか知らない少年ぽい人がいるだけなんですが〜?
俺はどこにいるんでしょうか?まさかっ異世界に来たからうつらないとか?」
精霊はそっと首を振った。
「安心して。ちゃんとうつってるわよ。
そこにどこにでもいる少年がいるじゃない?
その十四歳の少年──それが、あ・な・た・よっ。」
おっさんは水鏡を見つめたまま固まる。
「まさかっとは思うけど……これが転移前に女神様が言ってた
“ご褒美”じゃないよな〜……まさかな〜(ジト汗)これじゃぁ〜
身体まで厨二病じゃねぇかぁっ〜〜〜〜〜!!」
その瞬間──大地が低く唸った。
「……え?」
精霊が小さく肩をすくめる。
「だから、さっき大きな声出しちゃだめって言ったでしょ。」
──* * *──
▶「……静けさを乱す声は、この場所ではよく響く。
その一瞬の高ぶりが、周囲の気配をわずかに揺らした。」
──* * *──
風が巻き、影が伸びる。
草原の向こうから、巨大な影がゆっくりと姿を現した。
鱗が陽光を反射し、空気が震える。
──龍だった。
「りゅ、りゅ、りゅ、龍ぅ〜〜〜!? 本物だよな!?
俺ほんと異世界に来ちゃったんだよな!?
いやこれ運使い果たしただろ!? この先ダイジョブなのか!?」
「何を興奮しているの?それにそんなに慌てなくてもダイジョブよ。」
精霊はおっさんをそっと見つめた。
龍の瞳は、おっさんの全てを見透かすようにまっすぐ向けられた。
「ほう……異界への迷い人か。我はただ、
異界の理の揺れを見届けに来ただけだ。して──何の用だ。
ここは人が妄りに踏み入ってよい場所ではない。
用がないのなら早々に立ち去るのだ……わかったなっ!!」
龍はそれだけ告げると、静かに空へ舞い上がり、遠くへ消えていった。
おっさんは喉を鳴らしながら、龍と精霊から視線をそっと外した。
草原の風が背中を押す。
「ちょっと不安はあるが……まずは、行くか。いつまでもここにいられないしな。」
「えっ、行くってどこへ行くの?」
「まずは、人のいそうな所へ行ってみようと思うんです。
これと言って目的はないんですけど……」
「それは理解したわ。理解はしたけれど、どこに行けばいいかあてはあるの?」
「あて……と言われると、正直ないんですけどね。異世界に来たばかりで、
何をどうすればいいのかもわからなくて。まずは色々見ながら歩いてみる
……そんな感じですかね。」
「となると……そうね。私は人の暮らしはよく知らないけれど……」
精霊は少し目を細め、風の流れを感じ取るように周囲を見渡した。
「……たまに、この辺りに“人の気配みたいなもの”が流れてくることがあるの。
本当に人なのかはわからないし、どこへ続いているのかも知らないけれど……
なんとなく、こちらのほうから“気配が漂ってくる”ことがあるの。」
「そうですね……まずは人のいる場所。それが一番安心できるし、情報も手に入る。
よし、決めた。まずはその“気配の方”へ歩いてみます。」
──* * *──
▶「……草原の風は、まだどこへ続くのかを語らない。
ただ、彼の歩き出す足音だけが、静かにその先を選んでいく。」
──* * *──
次回 おっさん、異世界で初めての出会い へ続く。
……気配の漂う方へ歩き出したおっさん。
その足取りは、決して軽くはありません。
けれど、止まることもありませんでした。
精霊の言葉は曖昧で、
道があるのかどうかもわからない。
それでも、人のいる場所へ向かおうとするその背中は──
どこか、不思議と頼もしく見えたものです。
語り部は、その背中を静かに見届けています。
ほんの少しだけ、厳しい視線を混ぜながら
淡々といじるあの声のように。
さて、この先で彼を待っているのは、
人なのか、別の何かなのか……
それは、もう少し先のお話。
ご案内の語り部は、次回 またあなたを特等席へ。
どんな誘いになるのか、次の Causerie (物語)をお待ちいただければ幸いです。




