旅のはじまりと不思議な縁、そしておっさんはいつもドタバタ
今回の章は、旅の途中でふと出会った人たちとの会話が、
思いがけず昔話へとつながっていく一幕です。
おばぁちゃんの話、旅先の噂、
そしてジプシ〜のおっさんらしい いつものドタバタ。
にぎやかで、ちょっと照れくさくて、
でもどこかあたたかい──
そんな旅の空気を、ゆっくり味わっていただければ幸いです。
「そうかいっ、そうかいっ。そんな年なのかいっ。
いやぁ〜若いころ思い出すねぇ〜。身体は自由自在に動くし、
何でもやりたい放題じゃないかいっ。うらやましぃねぇ〜。
ちょっとは このおねぇさんに若さを分けてくれないかいっ?(笑)」
「もしそれが出来るならそうしたいですよねぇ〜。
旅はにぎやかな方が楽しいですもんね。
あ〜でもない、こ〜でもない言いながら、
次の街では何を買うんだとか、何を食べるんだとか、
そんな話しながらの道中はいいですよねぇ〜。」
「でっさっき、あんたらのおばぁちゃんの名前聞いたけど、
ほんとに間違いないんだよね? その名前で。」
「そうですよぉ〜。おじぃちゃんを旅先でつかまえたって、
何度のろけ話し聞かされたか(笑)」
「あの伝説のひとがねぇ〜。そんな田舎にいたとは。
そりゃぁ〜誰も気付かん訳だわ〜(笑)
むかしからいろいろ噂は聞いてたけど、
ほんとに“これ”って思ったらまっすぐな人だったらしぃからねぇ〜。
その時も何か勘がはたらいて、
そのあんたらのおじぃちゃんをつかまえたんだろねぇ〜。」
「えぇ〜、そうなんですかねぇ〜?
じぶん達から見たおじぃちゃんはどこにでもいるおじぃちゃんで、
そんな風に見えなかったんですけどねぇ〜?」
「おばぁちゃんに会った事がないからわからないけど、
逆におじぃちゃんのそんなとこにひかれて結婚したのかもね。
あんたらだって、すでにもの凄いの見つけてるじゃないかぁ〜。
あんな奴はそうそうにいないんだから、
絶対に逃がしちゃだめだからねっ。」
「えっ、すごいの? わためぇ〜? なんか見つけてたぁ〜?」
「ころね? なんか思い当たる〜?
わたしも思い当たりがないんだけど〜?」
「今、むこうのテーブルで呆けてるあいつだよ。
旅の仲間なんだろ?」
「まさかねぇ〜? それってジプシ〜の事いってますぅ〜?
確かに旅をこれからいっしょにしていく予定ですけど。」
「ジプシ〜っていうのかい?
さっきは“にぃちゃんにぃちゃん”で終わっちまったけどね(笑)
背中も嫌がらずにながしてくれたり、
わたしら見ても視線も泳がんし、
そうそうあれは出来ることじゃないよ。」
「えぇ〜、うっそだぁ〜。
わたし達といる時なんて視線、自由自在に泳がせまくりですよ〜。
わたしの双丘を見たらわための双丘を見たり、
かと思ったらすれ違う人の双丘に目が向いて。」
「そうかい、そうかい。
ならそのジプシ〜っていったかい あの子だけには、
おごりは無しだねぇ(笑)」
「ぶぇっくしょ〜いっ。
だれだぁ〜、また人の噂してやがんのはぁ〜。
でもある意味ぜいたくな朝風呂だったなぁ〜。
むかしの事は本で読むより、その時の人に聞くのが1番だしなっ。
そのときのほんとの動きなんて、読んだところで偏った話しかのせてない。
情報の“じょ”の字もないひどい奴もあるしなぁ〜。」
「おぉ〜、ジプシ〜こんなとこにいたのかぁ〜。
ぬれた服とか乾いたから持ってきたぞ〜。
着替えたらすぐ出るんだろ?」
「あぁ〜おやっさぁ〜ん、すいませぇ〜ん。
わざわざほんと、とんでもない目にあいましたよぉ〜(笑)
まぁ〜おやっさんとかおかみさんのおかげで誤解とけたからよかったですけど。
さすがに自分からはいきませんって(笑)
くるものは拒まずの精神ですけどね(笑)」
「そうかぁ〜、そこはちゃんと考えてるんだなぁ〜。
ならあちらのおねぇ様方に、ジプシ〜からご指名があったって伝えておくな(笑)
また身体冷えないうちに着替えちまえよっ。じゃなっ。」
「そんなぁ〜、それは伝えなくていいですぅ〜(笑)。
って言っちゃったよぉ〜。
ほんとにむかしの事聴くときは指名するけど、
それ以外の指名はする気ないんだけどなぁ〜。」
「ジプシ〜、こんなとこで何やってんのよぉ〜。
あちらのおねぇ様方がご指名だってさぁ〜(笑)。
はやく行きなさい。」
「行きなさいって(笑)。
服がやっと乾いたからさ、これから着替えてこようと思ったんだけど、
いつまでも服を借りてここにいる訳にもいかないだろ。」
「なら、さっさと着替えてきなさいよぉ〜。
あんなふうに獲物に飢えたままほっといたら、
どうなるかわからないよ。」
「そんな恐いこというなよぉ〜。
このまま着替えようって思わせて、
脱出してもいいかなぁ〜?」
「そんなの無理に決まってるじゃない。
各出入り口に誰か立ってて、出たらすぐわかる様になってるわよ。
むかしは凄腕の冒険者だったんだって。」
「いやぁ〜、そんな話し聞いちゃったら、
よけいに行くの恐くなるじゃないかぁ〜(泣)。」
「まずは早く着替えてきなさい。
その間に、次にどの道で行くのか決めておくから。」
「頼むよ。まだまだこっちの地理は明るくないから、任せて悪いけど……
行きたいところがあるなら、そっちを優先してもいいしな。
旅は始まったばかりだし、終わりは特にない旅なんだから……
のんびりゆっくり行けばいいさ。」
「それなら、ちょっと行ってみたいところがあるの。
さっき教えてもらったんだけどね……歌にも出てくる丘が近くにあるんだって。」
「そんなところがあるのか……どんな場所なんだろうな。
そう聞くと、少し寄り道してもいいかもしれないな。」
「でしょ?
地元の人も、ちょっとした散歩や天気のいい日はお弁当を持って行ったりするんだって。
それでね、その丘から見下ろす街の風景がまたいいんだってさ。」
「そうなのか……それはますます行ってみないとな。
なるべく急いで着替えてくるから、少し待っててくれ。」
「ころね〜、ジプシ〜〜。何してるの〜?
ころねはジプシ〜を呼びに来たんじゃないの〜?
まさかまだ着替えてなかったの〜?
あちらのお姉様方、よほどジプシ〜を気に入ったみたいでね……
“早く連れてきて”ってご要望いただいてるんだから。
なるべく急いでね〜(笑)」
「それにしても、あのジプシ〜の気に入られよう、すごいわね。
何もしてないのに、ただ話してただけであそこまで気に入られるなんて……
よほど何かあるのね。」
「それがね、ころね。
待ってる間に、わたしも気になって聞いてみたのよ。
“ジプシ〜のどこをそんなに気に入ったのか”って。
そしたらね……なんて言ってたと思う?」
「ずるいよ〜、わため。そこまで言っといて(笑)
で、なんて言ってたの?」
「それがね……なんと。
“気に入ったところなんてない”んだって。」
「えっ、ないのに?
あの歓迎ぶりなの?
ほんとに?」
「なんかね、“手のかかる弟みたい”なんだって。
ちょっと目を離せないというか……
ほっとけない感じがするらしいの。」
「へぇ……まぁ確かに見てるとおっさんなんだけど、
ときどき“えっ、年下?”って思うことあるし……
そういうことか。」
「かもしれないね。
あとね、本人は気づいてないと思うけど、
それを無意識でやってるのが“たちが悪い”って、ほめてたよ。
“年が若かったら絶対つかまえてた”って(笑)」
「へぇ〜、あのおっさんにね(笑)
そんな熱いラブコールが(笑)
ジプシ〜には黙っておこうね。
すぐ調子に乗りそうだから(笑)」
「ジプシ〜が戻ってこないうちに、
わたし達もお姉様方のところに戻ろうか(笑)」
みこちは、ころねとわためのやり取りを聞きながら
少しだけ肩をすくめて、静かに笑う。
「……ほんとに、ジプシ〜って……
どこへ行っても、なんだかんだで人に囲まれるよね……
旅って、こういう賑やかさもあるんだな……」
───立秋/望月/仏滅/一白水星/巳の刻/晴光───
次回 丘へ向かう前の大騒ぎ おっさんに迫る中年太り へ続く
今回の章は、人の縁が旅の道をそっと形づくる一幕でした。
ジプシ〜の“ほっとけない感じ”が、また静かに物語を動かしたように思います。
次の寄り道がどんな景色を見せてくれるのか、楽しみにしていてください。
ご案内の語り部は、次回 またあなたを特等席へ。
どんな誘いになるのか、次の Causerie (物語)をお待ちいただければ幸いです。




