おっさんの“むかしはおねぇさんだった方々”への背中流し
今回も、旅に出る前の“いつものドタバタ”が積み上がる回です。
露天風呂にとびこみ客の【おっさん】が現れ、ころねとわためが走り回り、
そしておっさんは──むかしはおねぇさんだった方々の背中流しの餌食に。
生活コメディと旅の導線がゆるやかに混ざり合う、
あなたの作品らしい柔らかい回になっています。
「もぉ〜、ジプシ〜はどこまで逃げたのよぉ〜。」
(そんな理不尽なぁ〜……あれだけ自分がとばしておいて……)
「ほんとに近くにいませんねぇ〜。
どこまでいっちゃったんでしょうか?
ころねが恐くて、どこかの物陰とかに隠れてるんでしょうか?」
「あぁ〜、ころねおねぇちゃ〜ん、わためおねぇちゃ〜ん!」
「んっ? ずいぶん早い旅立ちねぇ〜。
キャロルちゃんも、もうどこか旅に行くのかなぁ〜?(笑)」
「もぉ〜、そんなんじゃないですよぉ〜(笑)。
うちの露天風呂に、ことば通り“とびこみ”でお客様が飛び込んでいらっしゃったので、
探してたんですよぉ〜(笑)」
「わたし達をですか?
それは……もしかして、とびこみのお客様がわたし達に関係あると?」
「そうなんですよぉ〜。
まずは早く行きましょ〜。
いまの時間なら、ちょうど朝のオヤツの時間なので、
何かいい物が待ってるかもしれませんよぉ〜。」
「キャロルちゃん、それほんとっ?
“いい物”って今、間違いなく言ったわね〜。
こうしちゃいられないわ、わため!
ジプシ〜のことは後回しよぉ〜。
わたしには10時のオヤツが待っているっ!」
(あわれ、おっさん!
10時のオヤツに負けてしまうとは……なにごとだ!)
「おぉ〜、キャロル。悪かったねぇ〜。
ころねちゃんとわためちゃんには逢えたのかい?」
「おかみさん、さきほどぶりですっ(笑)。
どうしたんですか?
なんかわたし達に関係のあるお客様が“とびこみ”で来たと
キャロルちゃんから聞いたんですが。」
「そうなんだよぉ〜。
ほんとに“とびこみ”でねぇ〜。
わたしも生きてて初めて体験して、おどろいちゃったよ。」
「それで、そのお客様は今どちらにいらっしゃるんでしょうか?」
「キャロルからも聞いたんだろ?
空からふってきたと思ったら、露天風呂にそのまま飛び込んで
ずぶ濡れになったからねぇ〜。
いま着ていた服が乾くまで、代わりの服に着替えてるところだよ。」
(いっぽう その頃 別室では……)
「おぉ〜、ジプシ〜。ずいぶんとお早いお帰りだなぁ〜(笑)。
そんなにうちの宿が気になったのかぁ〜?
それとも──うちの可愛くて器量よしで美人なお姫様、キャロルのことでも気になったか〜?
もしそうだとしても、娘は嫁にやらんからなっ(笑)。」
「いやいやいや……。
たしかに大きくなったら、おかみさん並み、もしくはそれ以上の美人になるって
今の段階でわかっていますけどね(笑)。」
「それよりもどうしたんだ?
うちの露天風呂に飛び込んでくるなんて、そんなに気に入ったのか〜?」
「それもあるんですかねぇ〜。
見事に露天風呂に服着たまま、とびこみましたからねぇ〜(笑)。」
「でっ、何があったんだ?
同じ街の遺跡を見てから、次のとこに向かうって聞いてたんだが?」
「あんたぁ〜、着替えは終わったのかぁ〜い?
終わったなら降りてきておくれよぉ〜。」
「おかみさぁ〜ん、こちらから行きますからいいですよぉ〜。
すぐ行きますからぁ〜。
ころねはいい〜? いける? ……うわっ! ころねっ!?
いつの間に! ころねっ?」
「ここの部屋ですねぇ〜──って、ぎゃぁ〜〜〜〜〜っ!
なんてもの見せてんのよぉ〜〜っ!
このへんた〜いっ!
うら若き乙女に飢えてるからって、そんな露出狂みたいなことしないでよぉ〜!
ジプシ〜のおばかぁ〜!」
(あわれ、おっさん……
おっさんは今日もそらの星になったのだった……)
「おぉ〜、これかぁ〜。
これでうちの露天風呂まで飛んできたんだな。
なっとく、なっとく。
この力があれば、たしかにどこへでもとばせるな〜(笑)。」
「ころね、だいじょぶぅ〜?
……って、ころねはだいじょぶね。
ジプシ〜がこれはまた、とばされたのね?」
「おぅおぅ、こんな若い子に背中流してもらえるとはな〜。
長生きしてみるもんだねぇ〜。
Fanks さんも粋なことするじゃないかぁ〜。」
「これで寿命が何年のびるかねぇ〜。
こんないいことがあるなら、あっちの世界に行ってられないねぇ〜。」
「そうだなぁ〜。
今日来てない連中にも話してやらんといかん。
わしらだけいい思いしたなんて知れたら、しめしがつかんしなぁ〜。」
(ころねぇ〜……わためぇ〜……
助けてぇ〜……はやくむかえに来てぇ〜……
おっさんは、昔はおねぇさんだったであろう方々の
“背中流しサービス”の餌食になっている……)
「では、改めまして──若輩者ではありますが、
自分が諸先輩方の背中を流させていただきます。
よろしくお願い致します。」
「それではみなさん、並んでくださいねぇ〜。
まずお一人目……べっぴんさん。
次のかたぁ〜……べっぴんさん。
は〜い、次のかたぁ〜……
1人とばして、次のかたぁ〜……べっぴんさん。」
「兄ちゃん、よぉわかってるじゃないかぁ〜(笑)。
お酒とか飲めるのかい?
気分いいから、おねぇさんが何でもおごってあげようじゃないかぁ〜(笑)。」
「ジプシ〜、何やってるのよぉ〜……って、そちらの方々は?」
「あぁ〜、ころねっ、わためっ。
そちらの方々? はて……?
こちらのおねぇさん方のことかい?
今、背中流して──これから食堂で風呂上がりの一杯を飲まれるんだってさ。」
「それはわかったけど……
何でそこにジプシ〜がいっしょにいるわけぇ〜?」
「それなんだけどな……
おねぇさん方の背中を流させていただいたわけよぉ〜。
そしたら……」
「そしたらぁ〜?」
「お嬢ちゃん2人はなんだい?
この子にでも用事かい?」
「用事というか……
これからいっしょに旅に行くので探していたんですよ。」
「あんたも隅におけないねぇ〜。
こんなかわいくて美人をつかまえて……
どうやってだましたんだい?」
「だましたなんて、そんな事ないですよぉ〜。
やだなぁ〜……。」
「わためっ……
わたし達、ジプシ〜にだまされてるんだって。」
「おいっ……2人とも変なこと言ったら余計にややこしくなるじゃないかぁ〜……
やめてくれよぉ〜(泣)」
「まぁまぁ冗談はさておき(笑)。
お嬢さん方、一緒にいかないかい?
風呂上がりには、やっぱりキンキンに冷えた──あの子が待っている(笑)。」
「えぇ〜、ご一緒していいんですかぁ〜?
ありがと〜ございます〜。
わたしはころねっていいますっ。
こっちが、わためです。」
「わためっていいます。」
「おやおや、そうかいそうかい。
なかよさそうでいいねぇ〜。
そんな荷物かかえて、旅の途中なのかい?」
「途中というか……まだはじまったばかりというか……
目的のない旅っていう感じですかねぇ〜。」
「ほぉ〜、それはうらやましぃじゃないかぁ〜。
時間なんていくらあってもいいもんだからねぇ〜。
先の予定は決まってるのかい?」
「具体的にはまだなんですよぉ〜。
このすぐ後は、うちのおばぁちゃんから聞いた──
海をわたった先に、むかし巨人が住んでたっていわれる場所があるらしくて……
そこにまず行ってみようかと。」
「その後、またこっちに戻ってきて、北の方に行って……っていう感じですかねぇ〜。
ただ、北には“いなか者は入れてくれないお城”があるって、おばぁちゃんから聞いてるので……
そこだけが心配ですねぇ〜。」
───立秋/望月/仏滅/一白水星/辰の刻/晴光───
次回 旅のはじまりと不思議な縁、そしておっさんはいつもドタバタ へ続く
今回も、おっさんは星になりました。
しかしその裏で、ころねとわための旅の目的が静かに形になり、
むかしはおねぇさんだった方々との交流が、
この街の生活の厚みをさらに深くしてくれました。
背中流しの騒動は、旅立ち前の“街との最後の思い出”として積み上がっています。
ご案内の語り部は、次回 またあなたを特等席へ。
どんな誘いになるのか、次の Causerie (物語)をお待ちいただければ幸いです。




