ラウンジの余韻、異界の気配
本日の Causerie は
**ラウンジに残った静けさと、
その向こうに揺らぐ境界の気配を描く回です。
女神は淡々と、
おっさんは相変わらず痛いまま。
夜の空気がわずかに揺れる中、
どうやらまた、ひとつ厄介ごとが動き始めるようです。**
この Causerie (物語)では、ところどころに語り部の声が入ります。
──* * *──
囲みでかこまれ ▶で始まる行は、その語り部によるナレーションです。
──* * *──
読みながら、そっと補完してお楽しみください。
おっさんの姿が光の中へ消えたあと、ラウンジには一瞬だけ光の余韻が残り、
それからゆっくりと静けさが戻った。
「……行ったねぇ」 カウンターの奥で、ママがグラスを拭きながらつぶやく。
カードの音が一度止まり、誰かが小さく息をつく気配がした。
さっきまでの騒がしさが嘘みたいに、店内の空気がふわりと落ち着いていく。
「いやぁ、最後まで騒がしかったなぁ」 課長が肩をぐるりと回しながら、
どこか安心したように笑った。
「向こうでも絶対ああいう感じなんだろうな」 別の部長がカードを机に置き、
「まぁ、あいつらしいよな」と小声で続ける。
「……あの人、最後まで飲み代の心配してたわね」 ママがため息をつくと、
周囲の同僚が「らしいよなぁ」と苦笑した。
その笑い声は大きくはないけれど、ラウンジの夜にゆっくり溶けていく。
いつもの空気が戻ってくるのが分かった。
女神は指先に残る光を払うようにして、「ま、向こうで勝手にやるでしょ」とだけ
言った。その声は淡々としていたけれど、どこかほんの少しだけ楽しそうだった。
ママはカウンター越しに、ぽつんと立つ女神を見つめた。
「……あなた、ちょっと疲れてるように見えるわ。ほら、よければ飲んで。」
女神はグラスを受け取り、ほんの少しだけ眉をゆるめた。
「……ありがと。少し落ち着くわ。」
ママはふと靄の方へ目を向けた。 「……あの人も、最後まで騒いでたものね。」
同僚が小声で続ける。 「まぁ、あれだけ騒がれたらな……」
女神は何も言わず、静かにグラスを傾けた。その仕草が、
ラウンジの夜にゆっくり溶けていった。
──* * *──
▶──さてさてぇ。
あのおっさん、とうとう光の中へ消えていきましたなぁ。
いやぁ、最後まで騒がしいこと騒がしいこと。
向こうでも、きっと同じ調子でやらかすんでしょうなぁ……ふふん。
──* * *──
靄がふわりと揺れ、ラウンジの空気が遠ざかっていく。
──白い靄の中、気づけば足が着いた。
雰囲気は厳かで、どこか冷たく、先程までの喧騒は見当たらない。
女神は靄の中心で腕を組み、淡々とした表情で立っていた。
「え、え、え……? そこにいらっしゃるのは、多分先程の女神様ですよね〜……?」
女神は半眼でため息をついた。
「決まってるじゃない。他に誰がいるのよ。まず落ち着きなさい。
厨二病がビビってたら余計に面倒くさいでしょ。」
「はぁ〜……かしこまりました。それでは何点かお伺いしてもよろしいでしょうか?」
「分かる範囲なら答えるわよ。何が聞きたいの?
(あ〜お茶用意して待ってるって言ってたわよね〜。今日のおやつ何かしら〜。)」
「では、単刀直入にお伺い致しますが──今、自分がいるここは……
どんな場所なのでしょうか?」
女神は肩をすくめた。
「そんなに難しい場所じゃないわよ。いい年してラノベ好きっていう
変わったあなたなら……だいたい想像つくでしょ。
“異世界に来た人が次に行く前に寄る場所”。
そういう“通過点”みたいなところよ。」
「そうですよね……能力とか……そういうイベントが起きる場所だ、
間違いないっ……!!」
「ではっ、お言葉に甘えて──うぉ〜〜〜……ここがそぅなのかぁ〜!!
いや〜いつかは来てみたかったと思ってたけど、やっぱすげぇなぁ〜……。
というか、女神様?」
女神は半眼で振り返った。
「……何よ。今度は何?」
「自分がラノベ読んでたの、よくご存知でしたね?」
女神は“はぁ?そこ?”という顔でため息をついた。
「……あんたの言動見てたら分かるでしょ。さっきから“イベント発生!
”みたいな顔して騒いでるし、敬語も変だし……隠す気あったと思う?」
「いやだなぁ〜そんな訳ないじゃないですか〜……!ほ、ほら……自分、
普通ですよ? ええ、普通の一般人ですから……!」
女神は半眼のまま、軽く肩をすくめた。
「……ほんと、痛いわね。で──そろそろ送るわよ。」
「いやいやいや、よくないですっ!」それはおかしいですって!
だって異世界ですよ!?何があるか分かんないですよ!?
急に神様の都合で“厨二病が痛すぎるから出向”って──
どう頑張ったっておかしいでしょ!」
女神はこめかみを押さえた。
おっさんの厨二病が完全に火がつく。
「ちょっとだけ!? いやいやいや、女神様! “ちょっとだけ”って何ですか!?
そこをなんとか、こう……ドーンと! ガツンと! バーンと!
お願いしますよ!」
女神は眉をひそめた。
「擬音で押し切ろうとするな。内容がゼロよ。」
「じゃあじゃあじゃあ! せめて必殺技の名前だけでも決めさせてください!
“闇黒冥界爆裂覇断斬”とか、“虚無深淵輪廻滅葬牙”とか──」
「向こうで勝手に決めなさい。」
「いやいやいや、それはダメですって!
名前は“この場所”で決めるのが伝統なんですよ! ラノベ的に!」
女神は額を押さえた。
「そんな伝統はないわ。」
「じゃあ黒歴史ノート持ってきてください!
あれがないと設定がまとまらないんですよ!」
「持ってこなくていい。」
「いやいやいや! 封印がまだ解けてないんですよ!
“右肩に宿る闇の龍”がまだ目覚めてないんですよ!」
「目覚めなくていい。」
「いやいやいやいや! じゃあせめて“闇の龍の名前”だけでも──」
「黙りなさい。」
女神の声が、空気を震わせるほど鋭く響いた。
おっさんはビタッと止まり、口を閉じた。
女神は深くため息をつき目を細めた。。
「……あなた、ほんと面倒くさいわね。加護は付けるって言ったでしょ。
“そういう場所”じゃないって言ったでしょ。ここはただの通過点。
出向 それも片道切符なんだから、能力付与なんてあるわけないでしょ。
黙って受け取りなさい。」
…… Causerie(物語)にも、ラウンジと同じく灯火が灯るようです。
ここから始まる Causerie の頁を、お手を携えてご一緒におめくりいただけますか。
次回 忌み名を授かり、靄の向こうへ。続く
**ラウンジの余韻から異界の気配へ、
今回はゆるやかな流れでした。
女神の辛口も、おっさんの痛さも、
まだ序章にすぎません。
次は “付与と加護、そして名前”。
靄の手前で、このおっさん……また何か揺らしそうですね。**
ご案内の語り部は、次回 またあなたを特等席へ。
どんな誘いになるのか、次の Causerie (物語)をお待ちいただければ幸いです。




