痛すぎるおっさん ----- 異世界への出向辞令を受けるの巻
はじめまして。
厨二病が痛すぎておっさんが異世界へ出向させられる Causerie(物語)が始まります。
おっさんの 異世界での追憶を時間が許す限り 覗いていただければと思います
Causerie(物語)は とあるラウンジでほろ酔いのおっさんから紡がれます
ママがグラスを拭きながら、ふと俺の方を見て言った。
「ねぇ、あなたが若い時の、前にわたしだけにしてくれた あのお話し……
みんなにも、もしよかったら……少しだけ話してあげて。
今日みたいな落ち着いた日にはぴったりだと思うの。」
おっさん
「そうか? ならちょっとした時間つぶしになるかわからないけど……
とあるおっさんの記憶のどこかにある追憶を、酒の肴の代わりに。
もし、よろしければ耳を澄ませて……」
あとがきは 日曜夕方6時の某国民的アニメ 語り部風でお届けします
この Causerie (物語)では、ところどころに語り部の声が入ります。
──* * *──
囲みでかこまれ ▶で始まる行は、その語り部によるナレーションです。
──* * *──
読みながら、そっと補完してお楽しみください。
──白環宮。
光がゆるやかに満ちる、神々の静かな座所。
白環宮の天蓋は淡く光り、円卓の周囲には八百万の神々が静かに座していた。
光の粒がゆらめき、神域特有の柔らかな空気が満ちている。
光の神は羽根をたたみ、机の上に散った光粒を指先で拾い集めていた。
風の神は紙片をふわりと浮かせては、隣の神に睨まれて肩をすくめる。
土の神は石の椅子を勝手に増やし、円卓の形を変えてしまい、
火の神は炎の玉を弄び、時折それを弾けさせて周囲をびくりとさせる。
水の神は足元に小さな水溜まりを作り、そこに波紋を描いていた。
その中心で、白髪の女神が一枚のカードを胸に抱きしめていた。
カードの縁は淡く光り、まるで呼吸しているようだった。
「……見てこれ。なんか気になるんだよね、このカード。」
光の神は柔らかく笑った。
「また直感で選んだのね。あなたらしいわ。」
風の神は紙片を揺らしながら肩をすくめた。
「説明したけど……まぁ、聞いてなかったんだろうね。いつものことだし。」
女神はむっと頬をふくらませた。
「だって長いんだもん。
それに気になったんだから仕方ないでしょ。
説明より直感の方が大事なの!」
火の神は炎を指先で消しながら笑った。
「ほら、やっぱり聞いてなかった。」
水の神は優しい目でうなずいた。
「昔からだよね。気になったら止まらないんだよ、この子は。」
神々は誰も否定しない。
ただ、幼子を慈しむ様に見守っていた。
呆れ半分、諦め半分、そして少しの愛情。
カードの光が強まり、円卓の中央に裂け目が生まれる。
女神は裂け目を見て、露骨に顔をしかめた。
「え〜……よりによってあのおっさんなの〜?
やだよ〜……絶対めんどくさいじゃん……
おっさんのとこ行くなんて言ってなかったじゃん。
わたし聞いてないしこれは無効です無効! もう1回!」
土の神が肩をすくめた。
「選んだのは自分だろう。」
風の神が紙片を揺らしながら笑った。
「ほら、だだっ子モード入った。」
火の神がため息をつきながらも微笑んだ。
「はいはい、行ってらっしゃい。」
水の神は優しく手を振った。
「気をつけてね。戻ってきたらお茶淹れるから。」
女神は裂け目へ向かい、
不満を残しつつ地上へ降りていった。
──夜のラウンジ「Aratayo」。
白い壁紙が 足元まで延び、静かに映えていた。
スポットライトがテーブルを照らし、
間接照明が白い壁を淡く染める。
BOX席には会社帰りの客が座り、
カウンターには静かな音楽が流れていた。
グラスの触れ合う小さな音が、夜の空気に溶けていく。
その一角で、おっさんはグラスを両手で包みながらため息をついた。
「……また昇進かよ。いいよなぁ、あいつは。
俺なんて、今日も平社員のまんま。
いや、別にいいんだけどさ……いや、よくねぇよ……
あぁ〜俺にも辞令とかねぇのかな〜
例えば異世界にとか(笑)」
同僚が吹き出した。
「お前それ本気で言うなよ。
また“影がざわつく”とか言い出すぞ。」
おっさんは肩をすくめて笑った。
「いやいや、冗談だって。
異世界転移なんてあるわけ──」
その瞬間、ラウンジの空気が
水面に石を落としたようにゆらりと揺れた。
照明が一瞬だけ揺らぎ、
空間の奥に白い亀裂が走る。
音もなく光が広がる。
白い髪の女神が、静かに降り立つ。
同僚は震える声でつぶやいた。
「……え……女神……様……?」
女神はおっさんにゆっくり歩み寄り、手をかざした。
「そこまで 心から真摯に思う──
汝の切なる願い、ここに叶えよう。」
おっさんは口を開けたまま固まった。
「えっ……えっ……えっ!?」
女神は淡々と、しかしどこか事務的に言った。
「ちょうどよかったわ。
本人が希望してるんなら、神界からあなたに辞令よ。」
「辞令!? ほんとに!?
えっ、俺? 俺だよな?
いよいよ俺も出世街道!?
異世界って……新部署!? 新天地!?
課長!? 部長!? いや、もう専務クラス!?
俺、選ばれし者だったのか!?
ついに来たか俺の時代──!」
同僚が小さくつぶやいた。
「……痛い……」
女神は続けた。
「ただ、今回の辞令は──
よろこびなさいっ 異世界へ片道切符の出向だけどね。
八百万の神とか、他からもクレーム来てるから。」
「出向!? 異世界!? それも片道切符って
それって戻ってこれないってことじゃん なんで!? 俺、今すごい上がってたよね!?
なんで落とすのぅ〜〜〜!?」
女神は肩をすくめた。
「でもね──
あなたの事、実はちょっと気になってたの。
だから担当に私からなったの。
感謝しなさい。」
おっさんは目を丸くした。
「気になってた!?
いや、それって……俺、選ばれた……?」
女神は軽く微笑んだ。
「そうよ。
あなた、ちょっと痛すぎて──
その痛さが怖いけど、ほっとけないから。」
おっさんは半泣きで同僚を見る。
同僚は目をそらした。
「……いや……痛かったよ……普通に……」
女神は指を軽く振った。
「じゃ、行くわよ。」
「ちょ、ちょっと待っ──
俺まだ今日の飲み代払って──!
それにそこまで異世界なんて願った事なぁぁ〜〜!」
光が広がり、おっさんの姿は
薄くなり霧のように消えた。
──* * *──
▶……さて、ここまで騒いでいたおっさんだが、
このあと本人が想像もしなかった“現実”が待っているのであ〜る。
──* * *──
次回 ラウンジの余韻、異界の気配 へ続く。
神界と人間界の温度差が、
ふとした軽口ひとつでつながってしまった最初の一歩でした。
女神は直感で動き、おっさんは冗談半分で願い、
その二つがひとつの辞令として重なった瞬間です。
龍や精霊たちの影も、まだ静かに揺れたまま。
さて、このおっさん……次はどんなことを言いん出すんでしょうね〜。
ご案内の語り部は、次回 またあなたを特等席へ。
どんな誘いになるのか、次の Causerie (物語)をお待ちいただければ幸いです。




