はじまりはいつも誤解!?
この街での最初の出来事は、まさかの“誤解”から始まりました。
にぎやかな大通りで巻き込まれたスリ騒ぎ。
ただ拾っただけの袋が、気付けば“お手柄扱い”になってしまい、
そこから一気に宿との縁がつながっていきます。
キャロルの勘違いテンションと、ジプシ〜君の心の声が交差する、
ちょっとドタバタで、でもどこか温かい──
そんな“はじまりはいつも誤解”な一話です。
「いやぁ〜、やっぱり大きな街ですねぇ〜。にぎやかですねぇ〜。
皆さんいろいろ忙しそうに左へ右へと……」
「気をつけろっ、小僧! どこ見てやがる!」
「待ってぇ〜! 誰かぁ〜! その人捕まえてぇ〜!」
「ちっ、小僧じゃまだっ。さっさとどきやがれ!」
「小僧って失敬なっ。こっちはお前より年上のいい歳した……」
(ふぅ〜、あぶないあぶない。そういや見かけは変わってるんだったなぁ〜。
女神様も“ご褒美”とか言いつつ余計な事してくれたもんだよっ。
まぁ万年の腰痛やら肩こりやらなくなったし、そこだけは感謝かな(笑))
「んっ? なんだコレ? ずいぶんと立派な袋だけど…… さっきぶつかってきた男のものか?」
「ふぅ〜、助かりましたぁ〜! 君が取り返してくれたのねぇ〜? ほんとにありがとねぇ〜。
なんてお礼を言っていいか……そのお金がなかったら仕入れができずに 困るとこだったから、
もう一度お礼を言わせてね」
「いやいや、自分なんて特に何もしてませんし…… ましてお礼だなんて……」
(まいったなぁ〜……ほんと何もしてないんだけどなぁ。 気付いたら足元に落ちてて、
それ拾っただけなんだけど…… 今さら言い出せないよなぁ〜……)
「ジプシ〜君、お手柄だねぇ〜! 初めて来る街なのにスリからお金取り返すなんて、
中々やるじゃない」
「ほんとほんと。怖くなかったの? 普通の人ならそのまま見逃しちゃうのに〜」
(ほんとどうしたらいいんだよぉ〜(泣) そんなつもりなかったのに〜。
どんどん大きくなっていく〜。 誰か助けてぇ〜……)
「ところで、ここいらじゃ見ない顔だけど旅行かなんかの途中かい?
もう時間も時間だし今日の宿とか決まってるのかい?
この騒ぎで時間潰させちゃったみたいだし、申し訳ない事したねぇ〜」
「いやぁ〜、まだなんですよ〜。 さっき着いたばかりで、これから宿とか探して街の中を
見てみよかって 話してたところで」
「そうかいそうかい。ちょうどよかった。これも何かの縁だし、 もしよければおばさんに恩返し
させてくれないかい? 実はおばさん、宿をやっててね。これからその仕入れに行くとこだったんだよ」
「あぁ〜、そうだったんですかぁ〜。 だからちょっと大きめの袋だったんですね。
重みもありましたし」
「ころね、わため、どうする? こう言ってくれてるし、これから探すのも大変だし……
いい機会だし、お世話にならない?」
「「ジプシ〜君が誘われたわけだから好きにしたらいいよ」」
「ならっ、決まりだねっ!! おばさんはこれから仕入れ行くから案内できなくて悪いんだけど、
娘の Carolに案内させるから、先に行って部屋でゆっくりしてくれたらいいからね」
「なら、お兄ちゃんたち着いてきて〜。宿まで案内するから〜」
「逆に、なんかすいません……お言葉に甘えさせていただきます」
「そんな気にしなくていいよぉ〜。こっちこそ大助かりなんだから。
ほんと、お金取り戻してくれてありがとね」
「ところで、お兄ちゃんたちの名前聞いてもいい? 宿帳にほんとはお客さんに書いてもらうんだけど、
わたしが代わりに書いておくからさ」
「俺は Gypsy Wolf。
ジプシーとでも気軽に呼んでくれたらいいよ。よろしくね」
「わたしはころね。
そしてこっちにいるのが、わため」
「わためっていいます。よろしくね」
「みんなよろしくね〜。 話してる間にうちの宿が見えてきたよぉ〜。どう? 立派でしょ〜?
みんなで毎日一生懸命掃除してるから、気持ちよく過ごしてもらえるといいなぁ〜。
あっ、ちょっと紹介遅れたけど、宿の名前は FANKS INN っていうの。
今後ともご贔屓にね(笑)」
「でも、お兄ちゃんたちはこの街になにか用事があって来たの?
あぁ〜わかったぁ〜、ちょっと待って……もうここまで出てるから言わないでね。
当ててみせるんだから。来週から始まるお祭りを見に来たんでしょ〜?
どう? あたったでしょ〜? わたしねぇ〜、そういう勘だけはするどいんだぁ〜」
「えぇ〜っと……キャロルちゃんって言ったっけ?」
「そんなぁ〜、よそよそしくなくていいよ。お母さん助けてもらったんだし、キャロルでいいよぉ〜」
「じゃ〜キャロル。まず答え合わせからいこうか?答えは──ハズレっ。残念。
今回は自慢の勘もちょっとお休みみたいだね(笑)」
「えぇ〜〜!? そんなぁ〜〜!」
「でもキャロル、そのお祭りって気になるから、もうちょっと詳しく教えてもらえるかなぁ〜?」
「なら、ここで立ち話も何だし……夜は酒場になるんだけど、今は席も空いてると思うし、
あっち行こうか? あぁ〜、あと今回は──娘のわたしからお母さん助けてもらったお礼に、
なにか一杯おごるね」
「それじゃ〜、わためぇ〜何にする〜? 決まったぁ〜?」
「まだ決まってないのぉ〜?ちなみにキャロルのおすすめって何かあるぅ〜?」
「わたしのおすすめはねぇ〜……ちょっとクセあるんだけど、女の人には絶対オススメのお水が
あるんだぁ〜。飲むとねぇ〜、身体にいいって言われてるお水なんだよぉ〜」
「えっ、お水? それはどんなお水なのかな〜?」
「んとねぇ〜……温泉あるでしょ?そこから毎日汲んできてるお水なんだって。
ただ、詳しくは知らないんだよねぇ〜(笑)」
「わためっ」「ころねっ」
「「それでっお願いっ」」
(どっかで見た風景だなぁ〜……どこ行ってもこういうのは変わらないんだねぇ〜(笑))
「ジプシ〜君、そんな顔してどうしたの?なんか今の話に不思議に感じるところあった?」
(ふぅ〜……ほんと勘するどいよなぁ〜。気をつけないとあぶないあぶない。
“個人差ありますよ”なんてあとを考えたら恐くてとても言えないな(笑))
「ちょっと思ったんですけど……飲んで効果あるってことは、
例えばお肉の料理に使ったら、お肉がやわらかくなったりするのかなぁ〜とか考えてました」
「あぁ〜〜ジプシ〜君ありがとぉ〜!そうよねぇ〜、当たり前すぎて考えつかなかったわぁ〜。
お母さん帰ってきたら相談してみよぉ〜。これでもっとお客さん増えるかなぁ〜?」
「おぅキャロル、帰ってきたのか? お母さんは一緒じゃなかったのか?」
「あっ、お父さん。お母さんはまだ仕入れ行ってるよ。それでね──お母さんがスリにあって、
そこを助けてくれたお兄ちゃんたちが今日の宿決まってなかったから、うちに案内してきたんだよ」
「初めまして。Gypsyといいます。あと、一緒にいるのが──」
「ころねっていいます」 「わためです」
「そうかいそうかい。それは世話になったな〜。何もなくて悪いんだけどよっ、料理と酒は自慢だから
楽しみにしててくれよ。祭りも近いから人が多くてびっくりしたろ?この時期はいつもこんな風に、
祭りを見に人が増えるんだよ」
「お父さん、わたしはお兄ちゃんたち部屋に案内してくるね。お母さん助けてもらったお礼に、
お料理もちょっと豪勢にねっ。じゃっ、わたしに着いてきてねっ」
───立秋/栗豆/先負/一白水星/未の刻/晴光───
次回 白露の朔、宿屋の温もりとパンの香り へ続く。
気付けば“誤解”がすべてをさらった一話でした。
スリ騒ぎに巻き込まれただけのはずが、
いつの間にか“お手柄扱い”になり、
そこから宿との縁までつながっていく──
こういう予想外の流れこそ、旅の醍醐味なのかもしれません。
キャロルの勘違いテンションと、
ジプシ〜君の「いやいやいやいや」という心の声が重なるたびに、
この世界の“生活の空気”が少しずつ形になっていきます。
はじまりはいつも誤解。
そんな言葉がぴったりの、にぎやかで温かい一話でした。
ご案内の語り部は、次回 またあなたを特等席へ。
次の Causerie(物語)も心待ちにしていただければ幸いです。




