おばぁちゃんの伝承と旅の支度
暖炉の火がゆっくり揺れる家で、
おばぁちゃんの昔語りと、ころね・わための旅への思いが
少しずつ形になっていく。
伝承の残り香が、ふとした会話の端に漂い、
旅立ちの支度はまだ始まったばかり。
ジプシ〜君は、生活圏の温度に包まれながら、
自分がここへ翔ばされてきた理由を
まだ言葉にできずにいる。
これは、旅の前に流れる
“あたたかい朝の匂い”の話。
暖炉の火は、ゆっくりと形を変えながらみんなを見守るように揺れていた。
「そうなんだぁ〜。 それで一緒に行くことにしたのに…… なんでジプシ〜君1人だけここにいるの?
何かあってはぐれちゃったの?」
「まぁ、ある意味ハグレたといえばハグレた事になるのかな?(笑)
でっ、そのお世話にになった 果樹園のおうち が内陸で、 移動するのに時間がかかるからって……
なんだったっけ? なんか鳥の魔物だっけ? 今はいないっていってた“その羽みたいな物”で
みんなで移動しようとした時に──なぜか俺だけ翔ばされちゃったんだよ。」
(ちょっと濁しておくかぁ〜…… 知ってるけど、そのまんまはさすがに言えないよなぁ〜(笑))
「あっ〜それ知ってる〜。 うんうん、わたしも噂に聞いたことあるよぉ〜。ほんとにあるんだぁ〜。
鳥の魔物らしくて、確か名前が──キッ……モゴモゴモゴモゴ……ちょっと何すんのよぉ〜、
わためぇ〜!」
「ころね、それより先はだめなんだよ。おばぁちゃんだってホントは知ってるけど、
何も言わないでしょ。」
「それで、ここまで飛ばされてきたんだよ。」
「そうだったのかい。 まぁいろいろと大変だったねぇ〜。
でもここは落ち着いたところだから、ゆっくり休んでくといいよ。」
「おばぁちゃん、お願いがあるの。
前にも言ってたけど……わたしとわため、旅に出たいの。
こうしてジプシ〜君がここに来たのも、なにか理由があると思うのよ。お願いだから、いいでしょ?」
「おばぁちゃん……ころねが言うように、わたしからもお願いしたいの。
わたし達も充分おとなになったし、もうちょっといろいろ見てくることも必要だと思うの。
確かにここはみんな暖かくて優しくて居心地はいいけれど……
いったんは離れないとだめだと思うの。 おばぁちゃん、お願いっ。」
「う〜ん……もうそういう年になったのかい。
時がたつのは早いもんだねぇ〜。 あんなに小さくて、すぐ転んでは泣いてばかりいたのに……。
ジプシ〜君、私からもお願いしていいかい? この2人はいろいろと世話をかけると思うけど……
一緒に連れて行ってやっとくれ。」
「そんな……こちらの方こそですよ。
こんな得体の知れない自分を受け入れてもらっただけじゃなく、
泊めていただけるだけでもありがたいのに……。まだいろいろと決まってない事も多いですが、
それでもよければ……逆に自分の方こそ感謝しかありません。」
「なら、今日はもう遅いし寝るとしようかね。 ころね、わため……知ってると思うけど
──とある城には近づくんじゃないよ。自分達がもし行ったとしても、 門番に“いなか者”扱いされて
追い返されるからね。」
「ころね、わため、朝だよ。 もう起きなさい。いろいろ見に行くんだろ?
ジプシ〜君も、ちょっとせまくて悪かったけど……ゆっくり寝れたかい?」
「そんな、せまいだなんて。 こんなにふかふかのベッドで、ものすごい熟睡できました。
これも羊の毛で出来てるんですよね?」
「そうだよ。充分寝れたなら何よりだね。 朝食は地鶏の卵、搾りたてミルク、それに焼きたての
パンだよ。 それにチーズもあるよ。 まずは3人とも顔を洗っておいで。 水は冷たいけど、
目はさめるだろ(笑)」
「ころね、わため……ちょっと聞きたいんだけど。
朝ごはんって、いつもこんなに豪華なの? それとも俺がいるから、おばぁちゃんが
頑張ってくれたとか? それならなんか申し訳なくてさ。」
「あぁ〜、これはいつものご飯だよ。
そんな豪華だなんて。 ぜんぶ 出荷したあとの残り物 だから気にしなくていいよぉ〜(笑)」
「ごちそうさまでした ジプシ〜君 それで次に行くとこは決まってるのかい? どこか決まってて
それで翔ばされて来たってんなら そこに向かうのがいいと思うんだけど」
「特には決まって無いんですよ 自分は そのお世話になった PT の子達がどこか行き先あるらしく
それに付いていこうとしたら 自分だけ翔ばされてっていう感じなので」
「そうかい〜 それなら ころね わため 海をわたった向こう側に行ってみるといいよ あそこなら
むかう途中にもいろいろあるし 行っても退屈はしないだろうさ」
「海のむこうって、もしかしておばぁちゃん……例の伝承のこといってるの?あそこなら確かに場所は知ってるけど……ジプシ〜君もいるんだよ?」
ころねが少し声をひそめる。
わためは水差しを抱えたまま、ちらっと主人公を見る。
「だからこそじゃないかぁ〜。男の人が1人でもいればね、
大抵のことは何とかなるもんだよ。
おばぁちゃんも若い時はいろいろ旅してたけど……
そこで爺さんに惚れられてねぇ……ここにお嫁に来たんだから」
おばぁちゃんは、湯気の立つ茶碗を手のひらで包みながら笑う。
「そうなんですかぁ〜。もう何年になられるんですか?」
主人公が素直に聞くと、
おばぁちゃんは少しだけ遠くを見るような目になった。
「さて……もう何年になるかねぇ〜。
昔すぎて忘れちゃったよ。 でもね……あの頃の海は、
今よりずっと静かでねぇ……
向こう側がよく見えたもんだよ」
ころねとわためが、同時に えっ……? という顔をする。
“向こう側が見えた”──その言葉が、伝承の残り香みたいに
部屋に漂う。
主人公は、胸の奥が少しだけざわつくのを感じた。
「わため ころね まずはおばぁちゃんが教えてくれた
その伝承の地に向かってみない? 実際に行ってみないと
わからない事もあると思うしさ」
「だねぇ〜。ジプシ〜君のいう通りかもね。
わためは、あとどれくらい時間あれば準備できそう?
わたしもそんなに時間かかんないと思うけど」
「ころねぇ〜、いつもそう言って時間かかってるじゃない(笑)
まずは ジプシ〜君待たせないように準備しちゃお」
「それと……またおばぁちゃんの気が変わらないうちにね。
今度は、いつ旅に出れるかわからないよ(笑)」
「ころねや、わためだけ外に出してもいいんだよ。
家にはいくらでも人手がいるんだから。
なんなら、まだ時間も早いし羊の放牧に行ってくるかい?」
「おばぁちゃん……えぇ〜っと、どこから聞いてたのな?」
「“まずはおばぁちゃんが教えてくれた”あたりからだよ」
「最初から全部じゃないかぁ〜!
おばぁちゃん、酷いよ。そんなおばぁちゃんに育てたつもりはありませんっ」
「おやおや、いつの間にかころねに育てられてたんだね(笑)
ほら、2人とも。ジプシ〜君が待ってるよ。
準備するなら早く準備しちゃいな。
忘れ物ないようにね……旅は、準備が半分だよ」
「そうだね。いつもおばぁちゃん言ってるもんね。
よしっ、わたしは準備できたよ。
ころねはどう? どんな感じ?」
「わためぇ〜……おいでがないでぇ〜(泣)
もうちょっとで、でぎるがらぁ〜(泣)」
「ころね、だいじょぶだよ。ゆっくり待つから。
忘れ物ない様に準備していいよ」
───立秋/平月/友引/一白水星/辰の刻/晴光───
次回 女神様は見たっ!! へ続く。
今回の話は、旅立ちの前に流れる
“家のあたたかさ”がいちばん強く出た回でした。
おばぁちゃんの昔語りは、ただの思い出じゃなくて、
ころねとわためが旅に出たいと思う理由を
そっと背中から押してくれるみたいで──
伝承の残り香が、暖炉の火と一緒に
ゆっくり部屋に漂っていました。
ジプシ〜君はというと、
生活圏の空気に埋もれながらも、
自分がここへ翔ばされてきた理由を
まだ言葉にできずにいます。
でも、それでいいんです。
旅の支度は、こうして少しずつ形になるものだから。
ご案内の語り部は、次回 またあなたを特等席へ。
次の Causerie(物語)も心待ちにしていただければ幸いです。




