羊のミルクと暖炉のやすらぎ
「放牧地の風が冷たくなり、
家々の煙突からは、ゆっくりと白い煙が立ちのぼる頃──
旅の一行は、ひとつの“やすらぎ”へと足を踏み入れます。
羊のミルクの温度、暖炉のゆらぎ、
そして迎えてくれる人のぬくもり。
今回もまた、読者の皆様の歩みに寄り添いながら、
Causerie(物語)をそっと供えさせていただきます。」
「あっ、そういえばまだ名乗ってなかったね。
俺は Gypsy Wolf。
気軽に“ジプシー”って呼んでくれたら嬉しい。
……それと、寒いのにわざわざ迎えに来てもらってごめんね。」
「気にしないでください。
ころねが急に跳び出して……その後を追いかけてきただけなので。」
「でもさぁ〜、急に空に人が見えた時は驚いたよ。
最初は何かの見間違いかなって思ってたのね。
でも、よくよく見たら……多分、人なんじゃないかって、
わためが言い出してさ。おおよその降りる方角を見たら、うちの土地の放牧地に
落ちるんじゃないかって思って、急いで来てみたんだよ。」
「そうだったんですね。わざわざありがとうございます。
ところで“お家まで”って先ほど言ってましたけど……
近くには見当たらないんですが、少し離れてるんですか?」
「歩いて行くから、一刻くらいかな。
でもまあ、そこまで離れてないから安心して。で、他に何か忘れ物とかない?
なければ……寒いし、だんだん身体も冷えてくるから、向かっていい?」
「家に着いたら、身体も冷えてると思うし……
暖かい飲み物を用意してあるから、まずはそれを飲んで一息つきませんか?
その時に、色々お伺いできればと思いますので。」
「ところでお二人は、どのようなご関係なんですか?
見たところすごく仲が良さそうなので……昔からの幼馴染とか、
そんな感じですか?」
「惜しいね〜。幼馴染じゃないよ。
確かに仲はいいかもしれないけど……こう見えて、双子の姉妹なんだよね。
で、生まれたのが同時だからさ、どっちが上下っていうのもないんだよね。
普通なら“先に生まれた方がお姉ちゃん”って決めると思うんだけど、
うちは親が決めなかったんだよ。」
「まずは生まれてきただけでもありがたい。
あとは普通に、お互い助け合って仲良く育ってくれたらそれでいい──
それがうちの親の考えみたいで。だから自分たちも、
それが普通だと思ってたから……
どっちが姉とか妹とか、考えたこともないんだよね。」
「ふぅ〜……やっと着いたね〜。
ジプシ〜君、寒くなかった?
ここ標高が高いから、天気がすぐ変わるんだよ。
突然の雨や深い霧が出たり、風が強くて遮るものがなくてさ。
吹きさらしの地形だから、夏でも肌寒いし……冬は雪が降ることもあるんだよ。
だから時期によっては防寒着が必須なんだよね。」
「じゃあ、中に入りましょうか。
栄養満点の羊のミルクを用意してありますので。
今日みたいに寒い日は、少し濃いめにしたミルクに……お好みで砂糖とか、
他にも色々足して飲むと身体の疲れが取れるんですよ。」
「なるほど……確かにそれは温まりそうですね。
それじゃあ、改めてお邪魔いたします。」
(んっ……?今、羊のミルクって言ったよな……?
ということは……わためさんの“あそこ”から絞り出したってことかな……?
そしたらもう……栄養満点は間違いないよね……(ニヤッニヤッ))
「ジプシ〜君、なんか嬉しそうな顔して……いいことでもあったのか?
まずは入ろう。このままだと本当に身体が冷えちゃうから。
──ただいま、おばあちゃん。お客さん連れてきたよ。
お客さんって言っても、普通なら歩いてくるんだろうけど……
空から飛んできたお客さんだよ。珍しいだろ〜。(笑)」
「おやおや、旅の方ですかい?
ここは夏でも涼しいんですが、季節がひとつ進むと急に冷え込むんですよ。
まずは中へどうぞ。外に長くいると身体が冷えますからね。」
「ありがとうございます。お邪魔します……うわ、暖炉……。
いやぁ〜こういうの、ずっと憧れてたんですよ。
子供の頃に読んだ物語に出てきてて……本物を見てみたいと思ってたんです。」
「ジプシ〜君、そんなに喜ぶとは……。
ここいらじゃ暖炉は必需品だよ。石の家は冷えるからねぇ。
暖炉がないと冬は本当に病気になるんだよ。」
「病気って、どんな感じになるんですか?」
「まずは家の薬で様子を見るね。それでダメなら医者を呼ぶけど……
この辺りは道が細いし、この集落は離れてるから来るまで時間がかかるんだよ。
だから普段から気をつけるしかないんだ。」
(……加護もらっといて本当に良かった……。
ラノベ読んでなかったら、今頃どうなってたか……考えたくないな……)
「でっ、よければ何でここまで来たのか聞いてもいいかい?
ほら、羊のミルクだよ。栄養もあるし身体も温まるから、遠慮しないで飲みな。」
「ありがとうございます。何から何まですいません。
羊のミルクですかぁ〜、初めて飲みますねぇ〜……
うっわ〜味が濃くて美味しいですねぇ〜。うちにいた時は山羊のミルクを
小さい頃によく飲んでいて……初めて飲んだのに懐かしさがありますね。
小さい時は身体がものすごく弱くて、山羊のミルクなら栄養があるって
聞いて飲まされてました(笑)」
「ほぉ〜そうかい。山羊のミルクねぇ〜、あれも栄養はあるからねぇ〜。
気に入ったなら何よりだよ。よかったらチーズもあるけど食べるかい?
腕によりをかけて作ったから自信はあるんだよ。どうだい?」
「ほんとですかっ、もちろんいただきますっ。
ほんとにこんな贅沢でいいんでしょうか?
どこに行くかものすごい不安だったので……やっと実感がわいてきました。」
「おばぁちゃん、ジプシ〜君。
二人ばっかりで話してないで、何でここまで来たのか聞いていい?」
「そうだね、ごめんごめん(笑)。
ミルクはもちろん、おばぁちゃんが作ってくれたチーズがあまりにも美味しくて、
夢中になっちゃってたよ(笑)」
「おばぁちゃんのチーズが美味しいのは分かるけど、
それでも夢中になりすぎよ(笑)。でも初めて羊のミルク飲むにしては、
ほんとに平気みたいだね。人によっては匂いとか味でクセがあるから
苦手な人もいるんだけどね。」
(ん〜? どう話したらいいもんやら……。
“異世界から来ちゃいました〜テヘペロ☆”なんておっさんがやったら
キモいだけだろ……。どうしたもんか?しゃ〜ない、場所は言わずに
“家を出てきた”ことにするか。それしかないよな……うん、そうしよ。)
「でっ、俺がどこから来たのかだったね。
話すと長いんだけど……住んでたところから“年も年だし、
一旦外の世界を見てこい”って言われてさ。それで僅かなお金と地図を
持たされて地元を出てきたんだけど──途中で通った谷を歩いてる時に、
ものすごい濃い霧に包まれて道に迷って……。その時に依頼を終えたっていう
3人組の女の子のPTに助けてもらって、それで一緒に動いてんだよ。」
「そうだったんだねぇ〜。
でっ、そのあとはどんな事があってここまで来たの?」
「ほらほら、3人とも。
だんだん日も落ちてきて寒くなってきたから、暖炉のそばに寄りなさい。
夜は長いんだし、ゆっくり話を聞けばいいじゃないか。
ジプシ〜君っていったかねぇ〜。もしよければ今日は泊まっていきなさい。
今からじゃどこにも行けやしないしね。」
───立秋/臯月/先負/一白水星/午の刻/晴光───
次回 おばぁちゃんの伝承と旅の支度 へ続く。
「羊のミルクの甘さと、暖炉のゆらぎが
読者の皆様の心にも、そっと温度を灯していれば幸いです。
放牧地の静けさの中で交わされた言葉は、
旅人にとっての“ひと休み”であり、
次の巡へ向かうための小さな息継ぎでもあります。
ご案内の語り部は、次回 またあなたを特等席へ。
どんな誘いになるのか、次の Causerie (物語)をお待ちいただければ幸いです。




