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特別とは無縁の異世界転生物語  作者: 十土川三


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9「隠れ里」

 フィールドワークの話が終わったあと、俺がカエサルに発見されたときの状況について話していた。


「カエサルは『にゃん兵』がよくいる場所でジオンくんを見つけたのよね。距離で言うと村から十キロないくらいの場所か」


 リズィさんは地図を広げて見せてくれた。


 村の北と南にそれぞれ道が続き、村の南には森が、東には大きな湖があるようだ。


「南の道にジオンくんがいたということは誰(・)か(・)が(・)意(・)図(・)的(・)に(・)ジ(・)オ(・)ン(・)く(・)ん(・)を(・)置(・)い(・)て(・)い(・)っ(・)た(・)可(・)能(・)性(・)が(・)あ(・)る(・)わ(・)ね(・)。記憶に封印術をかけてから置いていったのかしら?」


「そうなんですか?」


 リズィさんが自信を持って言ったため、俺は理由が気になった。


「ええ。南の町は他の町に続いているのだけれど、北には人里がないのよ。北の先には山があって『特定危険地域』と言われているわ。危険なモンスターがいるから人は近付かないし、基本そっちから人は来ないから、大抵の場合、外から人が来るときは南の道から来るのよ」


 言ってリズィさんはカエサルとシィルヴィアを見た。


「ジオンくん以外に人影はなかったのでしょう? 追跡してくる人とかもいなさそうだった?」


 リズィさんの質問にまずカエサルが言う。


「はっはっはっ! 母上。追手がいたとして私が気づくとお思いか?」


「そうね。あんたに聞いた私が馬鹿だったわ」


 サムズアップして答えるカエサルにリズィさんは呆れて首を振る。


 となるとシィルヴィアが答えるしかなかった。


「はい。『にゃん兵』を倒したあと、すぐキューちゃんに乗って村へ移動しました。そこそこ早いスピードで移動しましたし、誰かが追ってきたとはとても思えないです」


 簡潔に要点をまとめて言うシィルヴィア。


 普段から仕事を手伝っているそうだが、その仕事振りの優秀さが窺(うかが)える気がした。


「リズィさん。誰かが俺を置いていったといいますが、もしそうならどうしてそんなことをするんですか? それに追跡って……」


「あれ? ジオンくん。この村について何も聞いてないの?」


 リズィさんが目を丸くする。


 そしてシィルヴィアを見た。


「すみません。まだ話してません」


 シィルヴィアが申し訳なさそうにする。


「一応、記憶喪失ということで追々説明すればと管理人さんからも言われたので……」


「ああ、なるほどね」


 納得するようにリズィさんは頷いた。


「はっはっはっ! 母上。そんなに重要なことですか?」


「一応ね。この村の原点でもあるからさ」


「すみません。さっきから何の話をしてるんですか?」


 話の流れがわからず、俺は聞いた。


 村の原点ってなんだ?


 この村曰く付きなのか?


「この村に入るとき、外から見えなかったでしょ? 隠れ里ってことは聞いてる?」


「はい。隠れ里ウッチャ村って聞いてましたけど……」


 確か最初にカエサルが「モンスターから見えないように結界がある」と言っていた気がする。


「そう。ここは隠れ里ウッチャ村。別名”逃げ込み村”とも言われているの」


「逃げ込み村?」


 逃げ込みって……何から逃げてくるんだ?


「行き場を失くした人たちを受け入れる村。理由は様々人それぞれ。戦いや差別から逃げてきた人もいれば、職を失った人や騙されてお金を失った人とかもいるわね」


 リズィさんが話す。


 結構ヘビーな内容だった。


「と言っても、最近は戦争もそんなに起きてないし、国の方でも難民保護だったりで福祉活動に力を入れているから、新しく人が来るなんて滅多にないことだけど……」


 そう言ってリズィさんは頭に人差し指を押し付けるようにする。


 嫌そうな表情だ。


「何を勘違いしたか……この村の噂を聞いた馬鹿な連中が村を襲おうと稀に侵入するための小賢しい罠を張ることがあるのよね」


「罠?」


 俺が聞くとシィルヴィアが代わりに説明する。


「はい。人が道で困っているように見せかけて、村の人が助けようと声をかけたら、近くで見張っていた仲間の人たちが襲ってきたりとか……」


 マジかよ……。


 カエサル、よくそれで俺に声をかけたな。


「でも、私も話に聞いただけで実際に襲われたことはありません。村が狙われるのも昔の話だと聞いています」


「そうそう。私がボコボコにしたからね。もう前みたいに馬鹿な連中が出ることも早々ないはずよ」


 シィルヴィアの言葉を肯定しながら鼻息を荒くするリズィさん。

 

 リズィさんがボコボコにした?


「母上は”天才美少女魔術師”として各地で有名なのだ。その実力は国軍が真正面から戦うことを避けるほどの強さなんだぞ。凄いだろ? 私(・)」


「なんでお前が凄いんだよ。リズィさんが(・)凄いんだろ」


 カエサルが何故か自分自身を持ち上げて言ったので、俺はそれを訂正してツッコんだ。


「まあまあ。昔の話ね」


 昔の話と言いつつ、満更でもない様子でむふーっと頬をだらしなく緩ませるリズィさんだった。


「そんなことがあったのに、よく俺のことを村のみんなは受け入れてくれましたね」

 

 俺はカエサルの行動はもちろん、シィルヴィアや村の管理人であるポム爺さんの行動を改めて考える。


 あんな簡単に俺を受け入れてくれたけど大丈夫なのかと逆に心配になってしまった。


「まあ外から人が全く来ないわけじゃないし、さっき言った逃げ込み村としてのポム爺さんの考えもあるから、その辺は結構緩いのよ。ポム爺さんに嘘なんてつけないしね」


「サトリの能力で嘘は見破る。ジオンも目を見られただろう?」


 リズィさんの言葉をカエサルが補足する。


 確かにポム爺さんの能力なら嘘は見破れるため、人の受け入れ可否を見極めるにはうってつけである。


「さっきも言った通り、ここウッチャ村は逃げ込み村としてそこそこ人に知られているの。どこの誰がやったかわからないけど、わざわざわかりやすいようにジオンくんを道のど真ん中に置いて行ったのなら、もしかしたらこ(・)の(・)村(・)に(・)保(・)護(・)さ(・)れ(・)る(・)こ(・)と(・)を(・)期(・)待(・)し(・)て(・)た(・)ん(・)じ(・)ゃ(・)な(・)い(・)か(・)な(・)? じゃないときみの置かれた状況に説明がつかないしね」


「なるほど。そういう意味だったんですね」


 リズィさんの言葉に俺は納得できた。


「もっと言うなら記(・)憶(・)喪(・)失(・)は(・)き(・)み(・)に(・)記(・)憶(・)が(・)残(・)っ(・)て(・)い(・)る(・)と(・)不(・)都(・)合(・)だ(・)か(・)ら(・)消(・)し(・)た(・)の(・)か(・)も(・)ね(・)。でもきみの保護を期待したならきみ自身のことを想ってのことかしら?」


 リズィさんは腕を組んで考える。


 しかし、途中であきらめたようにすぐにそれを解いた。


「でもまあ、手がかりも何もないから結局は憶測止まりね。わからないことに変わりはないわ」


 言ってリズィさんは肩をすくめる。


 記憶喪失の状態で俺をここに置いていった誰か。


 もしそうなら置いていった誰かはどこへ行ったのだろうか?


 俺は記憶がないためか、忘れたことを思い出したいとは強く思っていない。


 けれど、全く知りたくないわけでもなかった。


 知ることのできる機会があるなら積極的に調べてみよう。


 俺は改めてそう考えるのだった。




 ーーー




「でもこうして実際話してみても、ジオンくんって普通の人間だね」


 リズィさんが俺の前に立って言う。


 すると問答無用で頬を引っ張ってきた。


 いきなり何するんだこの人。


「転生者なのに記憶に封印術を施されたってどういうこと? それって転生の意味があるの? ポム爺さんも言ってたけれど、疑問が尽きないわ」


「あの(はお)、やめてもらって(ひゃへへほはっへ)いいですか(いいへふは)?」


「母様!」


 俺が頬を引っ張られているとシィルヴィアが注意して、リズィさんが引っ張るのをやめた。


「ごめんなさい。触り心地が良くてつい遊んじゃったわ」


 俺は頬を労わるように撫でる。


 さっきのD溶液と言い、突拍子のない行動するなこの人。


「私は転生の被験者と会ったことがないから、きみがどういう人間か気になっちゃってね。ポム爺さんからあらかた話は聞いてたけど、実際こうして会ってみてもわかることは何もないわ。強いて言うなら普通の人間と変わらないってことだけね」


「だからって、頬を引っ張らないでくださいよ……」


 俺が言うとリズィさんは楽しそうにカラカラと笑った。


 するとデスクにあった一冊の本を取って俺に差し出してきた。 


「はいこれ。お詫びというわけじゃないけれど、もしかしたらあなたの役に立つかもしれないから渡しておくわ」


 そこそこ分厚い本である。


 題名は書かれておらず、無地の緑色が特徴であった。


「なんですかこれ?」


「『魔法辞典』よ。戦闘用ビルドギアを貰ったのなら、戦うためにも使えるものは増やさないと勿体ないからね。それはジオンくんに譲るわ」


「本当ですか!? ありがとうございます!!」


 中を見ると、そこには魔法の名前と共に実際に繰り出されるものの図が描かれていた。


 ポ〇モンの技〇シンのようである。


 やったね。


「自分が使える魔法は試すまでわからないから、片っ端から試してみてね。詳しくはシィルヴィアに聞いたらわかるから」


「母上。私が教えますよ」


 カエサルが胸を張って自信満々に言う。


「あんた全部試さずに『断空破』しか練習しないじゃない! あんたも他の魔法の練習をしなさい!」


 カエサルが言うと、リズィさんが説教する。


 しかし、言われた当人に反省する気はなさそうだった。


「私が使える唯一にして絶対の『断空破』。これを極めるが我が騎士道と心得たり」


「使える魔法が無さ過ぎて途中で諦めたからでしょ! もう一度使える魔法がないか、一から試しなさい!!」


「嫌です」


 プイッと顔を背けて拒否するカエサル。


 大人げないな。


「もう…………とにかく、魔法が使いたくなったら、シィルヴィアに声をかけて習得方法を教えてもらってね。シィルヴィアも、ジオンくんに声をかけられたら、そっちを優先していいから」


「わかりました」


「あとジオンくん。実家の私の部屋使っていいから。物が多いから片付け大変だと思うけど、頑張ってね」


 自分の使ってた部屋だろうに他人事だな。


 いまいる部屋から見てもリズィさんは整理整頓が苦手らしい。


 こうして俺はリズィさんの部屋を使わせてもらえることになったのだった。


 


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