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特別とは無縁の異世界転生物語  作者: 十土川三


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10「ビルドギア講習」

「シィルヴィア。戦闘用ビルドギアの使い方を教えてもらってもいいかな?」


「はい! いいですよ」


 俺が言うと、ニコリと笑って承諾するシィルヴィア。


 ああ可愛い。天使だ。


 研究所にリズィさんへ会いに行った翌日。


 リズィさんが使っていた部屋を片付けて俺は見事自分の部屋をゲットした。


 リズィさんは研究所ができるまで、こっちの部屋を使っていたらしくやたらと物が散乱していた。


 大事な物は研究所に移動する際に持っていっていたらしいが、それ以外は置きっぱなしのまま放置されていた。


 過去にシィルヴィアが片付けようとしたが、リズィさんに「あのままでいいよ」と言われ、ずっと手付かずの状態だったらしい。


 一日かけて片付けてようやく部屋として使えるようになり、俺は早速シィルヴィアに戦闘用ビルドギアの指南をお願いしていた。


「明日、村の外で教えますね」


「ありがとう。よろしくね」


 こうしてシィルヴィア先生によるビルドギア講習が決定したのだった。




 ーーー




「ではこれよりビルドギアの使い方及び魔法について説明していきます」


「はーい! よろしくお願いします。シィルヴィア先生」


「キュー!」


 村から出て東の方へキューちゃんに乗って二十分ほど。


 この前、リズィさんと会って話したときに地図で見た大きな湖のある場所へ俺とシィルヴィア、そしてキューちゃんの三人で来ていた。


 一緒に行こうとカエサルを誘ったが「私には巡回という仕事がある」と言われ断られてしまったのである。


 仕方がないので一人で講習を受けることになった。


「キュー!」


 訂正。


 一人じゃなくて二人で講習を受けることになった。


 俺はキューちゃんと並んで体育座りをしていると、シィルヴィア先生が何故かクスクスと笑っていた。


「ふふふ」


「先生? どうしましたか?」


「キュー?」


 俺たちが聞くと「いえ……」と先生は首を振った。


「ジオンさん。私、先生ですか?」


「はい。教えていただくので先生と呼ばせてください」


「キュー!」


 俺が言い、キューちゃんが鳴くと嬉しそうにするシィルヴィア先生。


 先生と呼ばれるのがもしかしたら嬉しいのかもしれない。


「ふふふ、はーい。わかりました。今日は私がみっちり教えますので、わからないことがあったら随時聞いてくださいね?」


「はーい!」


「キュー!」


 返事をするとビルドギア講習が始まった。


「まず戦闘用ビルドギアについて軽く説明します。通常のビルドギアはマナをエネルギーに変換して動力源としてその力を発揮しますが、戦闘用のビルドギアだけ他のものといくつか違うことがあります」


 言ってシィルヴィアは指先のない手袋、フィンガーレスグローブを取り出す。


 よく見ると手の甲にビルドコアらしき宝石のようなものが付いていた。


 あれがシィルヴィアのビルドギアか。


「戦闘用ビルドギアは魔法の名前を口ではっきりと声に出すことで魔法を発動します。これは戦闘用ビルドギアのみの特徴です」

 

「キュー!」


 シィルヴィアがグローブを手に着けると、湖の方へ向けて手を構える。


「試しに魔法を放ちますね。氷のつぶて(アイス・ブロック)!」


 シィルヴィアが詠唱すると、手のひらに氷の塊が生成され、勢いよく射出される。


 水上を滑るように進み、五十メートル進んだあたりで失速してザブンッと湖へと墜落した。


「戦闘用ビルドギアは叫んだ瞬間にマナをエネルギーへと変換し、魔法を発動させます。魔法を言い放つことを詠唱と言い、これ以外で魔法を発動させることはできません」


「先生! 質問です!」


 俺は手を上げてシィルヴィア先生に質問する。


「はい、ジオンさん。何ですか?」


「無詠唱魔法ってないんですか?」


「ありません。それは物理的に不可能なんです」


 シィルヴィア先生は指で✕印を作って答えてくれた。


 可愛い。


「そもそも魔法は詠唱による音を認識してビルドコアが作動しますので、声による音の空気振動が発生しない限り発動することはありません」


「キュー?」


「はい、キューちゃん。良い質問です!」


 キューちゃんを褒めるようにシィルヴィア先生が言う。


 なんて言ったんだ?


「いまキューちゃんは音が発生するのなら、ビルドギアと持ち主が離れて詠唱しても発動するのかという質問をしてくれました」


「いまの『キュー』って声でそんな細かく質問したの?」


「キュー! キュー!」


 俺の困惑を置き去りにキューちゃんは褒められたことを嬉しそうにして胸を張った。(胸がどこかわからないが)


 誇らしげである。


 可愛い。


「答えは原則ノーです! 発動しません。さっき音による振動と言いましたが、そもそも戦闘用ビルドギアがどうやって人の命令を受理して魔法を発動するのかを説明していきます」


 そう言ってシィルヴィア先生は懐から一枚の紙を取り出した。


「これを見てください」


 紙には絵が描かれ、ビルドギアと丸い身体を持った可愛い顔のキャラクターが描かれていた。


「研究者ワイルズはビルドギアのコアは物ではなく、生物だと提唱し、現在もその説が濃厚だとして活用されています」


「コアが生物? 生きてるのこれ?」


 俺はポム爺さんからもらった剣を見る。


 柄のところに赤い宝石のようなビルドコアがあるが、これが生物らしい。


「あくまで一説です。というのもこれが確かだと誰も証明できていないのです。けれど、それを裏付けるような事例が多々あり、いまもワイルズビルドコア理論として人々の間で知られています」


 言ってシィルヴィア先生はグローブを外して地面に置く。


 そのまま少し離れた場所に移動した。


「この状態で湖の方へ魔法を発動してみようと思います。氷のつぶて(アイス・ブロック)!」


 しかし、魔法は発動されず、グローブのビルドギアも何も変化は起きていなかった。


「次にこのビルドギアを装着した状態で魔法を発動してみます。ですが、私は発(・)動(・)す(・)る(・)気(・)が(・)な(・)い(・)まま詠唱だけします」


 言ってシィルヴィア先生は地面に置いたグローブを手に着けて詠唱する。


「発動する気はありません。氷のつぶて(アイス・ブロック)!」


 グローブを装着して魔法の名前を声に出しているのに、シィルヴィア先生の手のひらからは魔法が放たれることはなかった。


「これは、私の持つこのビルドコアが私(・)自(・)身(・)に魔法を発動する気がないと聞いてマナをエネルギーに変換しなかったのです」


「つまり、ビルドコアが意思を持って魔法を発動しないようにしたということですか?」


「そうです! その通りなんです!」


 シィルヴィア先生は頭の上で丸を作って「素晴らしい理解力、花丸です」と褒めてくれた。


 あー好き。


「ビルドコアは明らかに人の言葉を理解して、そのうえで魔法の発動有無を判断していると考えられています。これは同じビルドコアを使い続けることで魔法の発動内容が変わることからもビルドコアには意思があると見て間違いないと思われます」


「先生! 魔法の発動内容が変わるとはどういうことですか?」


「はい! それをいまから実技で説明します。ジオンさん、剣を持ってこちらに立ってください」


 シィルヴィア先生に言われ、俺は立ち上がって湖を正面に見る位置に移動した。


 剣は腰の左側に帯刀したままである。


「いまから試しに魔法を発動してもらいます。『にゃん兵』に襲われたとき、一度『断空破』を発動してましたよね?」


「はい。そうです」


 カエサルと一緒に『にゃん兵』と戦ったときに上空へ『断空破』を一発放ったのである。


「あのあと気分が悪くなりました。先生」


「はい。それは恐らくマナ酔いだと思います」


 シィルヴィア先生は言うと、今度は別の紙を取り出して見せてくれた。


 立って見せてくれるために距離が近くなる。


 先生、好きです。


「ビルドギアのコア、ビルドコアが魔法を発動する際、まず空気中のマナを吸収してエネルギーへと変換します。マナを吸収するため、ビルドコアの周囲には空気中のマナが集中して集まります。慣れていない人が濃度の高いマナを身体に浴びると倦怠感や気持ち悪さを感じるようになります」


 戦闘用ビルドギアの魔法発動手順が絵で丁寧に描かれたものを見ながら、シィルヴィア先生が説明してくれる。


 これもしかしてシィルヴィア先生の手書きか?


「これ先生の手書きですか?」


「はい、そうですよ」


「先生、めちゃくちゃ絵が上手いですね!! 見やすいし可愛いし、好きです!!」


 先生が、とは言わない。


 好きでもない人からの好意が一番、気持ち悪いからである。


 好意は胸に秘めておくものだ。


「そ、それは褒め過ぎですよ~」


 二へラッ~と顔がゆるゆるになるくらいニヤつくシィルヴィア先生。


 恥ずかしくなったのか両手で顔を覆って隠すシィルヴィア先生。

 しかし、嬉しさが止まらないのか身体をくねくねと捻(ひね)ってしまうようだった。


 一緒に暮らしてわかったが、シィルヴィアは褒めると尋常じゃないくらい照れて喜ぶ。


 褒められ慣れてないのか、何かお礼を言うときも「シィルヴィアってよく気が付くよね。気配り上手さんだ」とか「シィルヴィア偉いね。誰にも出来ることじゃないよ」などと言うと毎回、顔を押さえて身悶える姿が見れた。


 普段のシィルヴィアも可愛いが、嬉しさを抑えきれないようにじたばたするシィルヴィアもとにかく可愛かったため、定期的に褒めることにしていた。


 あまり一日に連続して褒めると、慣れてこの光景が見られなくなるんじゃないかと思い、褒めるのは二、三日に一度とマイルールを決めて俺は実行するのであった。


「もう~。そういうジオンさんも褒め上手じゃないですか?」


「いやいや。本当に思ったことをいってるだけだよ」


「もう~!」


 そう言うシィルヴィアは、もう一度身体をくねらせていた。


「キュ~!」


 何故かキューちゃんも真似してくねらせていた。


 可愛い。


 シィルヴィアとキューちゃんが落ち着くまで俺はその光景を楽しく眺めるのであった。




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