5「労働は大変、素直さは宝」
「よし! 早速この村のなかを案内しようじゃないか!」
元気よく言い出すカエサル。
朝食を食べ終えたあと、シィルヴィアは仕事に出かけ、キューちゃんもそれについて行った。
残った俺はカエサルと二人きりになり、村を見て回るぞと言われ外に連れ出されたのだ。
「昨日はキノ先生の診療所とポム爺さんの家に行ったから、今日は広場にでも行ってみるか」
そう言いながらカエサルは先導するように歩き出す。
俺はそれについて行きながら村を見た。
昨日は夜の暗さのなか、幻想的な景色が印象的だったが、日の光に照らされた昼間の景色は夜とはひと際違って見えた。
時刻は八時頃、朝日に照らされた村は人が動き始める時間のようで、あちこちで開店準備をしようと店の前に看板や商品などを並べている姿が目に入った。
村の周囲は緑豊かな景色が多かったが、広場を中心とした村の中央は働く人の姿が多く見られた。
「なあ。みんな働き出しているけど、カエサルは普段何をしているんだ?」
俺はなんとなく聞いてみた。
「何を言っている? 私は騎士だと言っただろう。村の巡回が私の仕事だ」
カエサルは元気よく答える。
なるほど。村の中を見て回るのが仕事か。
それなら確かに騎士らしい。自称だけど。
「心配するな。みんな私のことを知っている。私が一緒に行けば、ジオンを蔑ろにする奴など一人もいやしないさ」
何を心配すると言うのだろうか。
カエサルが案内人で俺は心に小さな不安が生まれていた。
ーーー
「カエサルっ! お前、いつになったうちで買ったパンの代金支払うんだ!? ツケにするにも限度があるんだよ!?」
「はっはっはっ!! そう言っていつも支払いは待ってくれるじゃないか」
「あんたが金もないのに食べちゃうからだろっ!!」
俺たちは『ベーカリーカリカリ』という店に来ていた。
開店時間が早く、九時前なのにもう既に店が開いていた。
店に入ると同時に店主と思しき女性がカエサルを見て目の色を変えたのである。
俺が挨拶する間もなく、いきなり怒鳴り上げられ、カエサルはそれを笑って受け流していた。
無銭飲食してるのかよこいつ。
「出禁だ出禁!! 溜まっているツケの支払いをしないなら、二度と店の敷居は跨がせないからね!!」
そう言って俺とカエサルは店を追い返されたのだった。
ーーー
「馬鹿野郎!! お前が売りに来た素材まともなもの一つもねえじゃねえか。持ち込んだ素材の買取はもうしないからな!!」
「はっはっはっ!! そう言っていつも買い取ってくれるじゃないか」
「お前が泣きながら頼み込んでくるから仕方なく買い取ってやってるんだろうが!! せめて使えるくらい状態が良いものを持ってきてくれといつも言っているだろ!!」
俺たちは『アイテム処ヤソップ』という店に来ていた。
広場のなかでザ・RPGと言えるような店だと俺が口にすると迷わず店に入ったカエサル。
いつも村の外で得た素材をここに卸しているらしく、そのことを話していると店主らしき男性がカエサルに日頃思っていたことをぶつけるように怒鳴り始めたのだ。
いつもゴミを売ってるのかよこいつ。
「出禁だ出禁!! 使える素材を持ってこなければ、二度とうちの敷居は跨がせないからな!!」
そう言って俺とカエサルは店を追い返されたのだった。
ーーー
「また来たのかい!? あんたが働きに来る度に皿を割られてうちは大損害だよ!!」
「はっはっはっ!! そう言っていつも私を雇ってくれるじゃないか」
「あんたがシィルヴィアちゃんのために金を稼ぎたいと言うから仕方なく雇っているんじゃないか!! そんな鎧を着けて働くもんだから、あっちこっちぶつけて食器を落とされてばかりでうちも我慢の限界だよ!!」
俺たちは『定食屋くりきんとん』という店に来ていた。
アルバイト募集の張り紙があったため、ここで働けるのかと俺が見ていると、カエサルが紹介すると言って店に入ったのであった。
店主さんに挨拶しようとしたら、いきなりこの様である。
脱げよ鎧。なんでそこまで頑なに脱がないんだよこいつ。
「出禁よ出禁!! 鎧を着る前に常識を身に着けて来ないなら、二度とここの敷居は跨がせないよ!!」
そう言って俺とカエサルは店を追い返されたのだった。
ーーー
「ふう……………………ざっとこんなものだな」
「どんなもん!? 散々な目に遭っただろうがっ!?」
俺とカエサルは村の外れにある小さな橋の上に並んで座っていた。
川の上に架かった木製の橋で手すりがないために、川のほうへ足を投げ出す形で俺たちは座っていた。
「お前ふざけんじゃねーよ! カエサルのせいで俺の第一印象最悪じゃねーか!」
「でも顔は覚えてもらえただろ?」
「悪い意味でな!? カエサルの知り合いというステータスがこんなにもデバフになるとは思いもしなかったわ!」
俺は頭を抱えた。
シィルヴィアが、カエサルは村の人間にまともに取り合ってもらえないと言っていたが、それもそのはずである。
迷惑をかけているのに、こいつ自身が己の行いを反省していないからだ。
どこに行っても厄介払いである。当然みんな距離を置くようになるはずであった。
寧ろこれと一緒に暮らしてきたシィルヴィアが凄いと言わざる負えなかった。
「落ち込むな。そんな日もあるさ」
「お前のせいじゃねーか!!」
慰めてくるカエサルに俺の怒りゲージが溜まっていた。
これがゲームなら今頃、大技を繰り出してカエサルをボコボコにしていただろう。
「村の人に挨拶しに行ったのに、お前の知り合いだって知られて俺まで気まずい空気になったじゃねーか!!」
「ご愁傷様だな」
「お前ぶっ飛ばすぞマジで」
駄目だこいつ……早くなんとかしないと……。
俺は昨日キノ先生に言われたことを思い出す。
いまならわかる。
毒を盛って死なせてやることがこいつを含めた全員の幸せになるんじゃないかと俺も本気で思い始めているからだ。
まあ実際に盛るかと言ったら絶対にやらないが……。
「はぁ…………村の案内はとりあえずもういいよ。今日は別のことをしたい」
「そうか。なら一緒に巡回に行こう」
カエサルはそう言って立ち上がる。
「いや、その前に金を稼ぐ手段を教えてほしい。この村でいま人手が足りていない仕事はなにがある? 需要がある仕事なら人手はいくらでも必要だろ?」
俺は現在、カエサルとシィルヴィアの家に住まわせてもらっている居候である。
少しでもお金を稼いで自分の生活費分は自分の手で稼ぎたい。
カエサルの様子から恐らく生活費の大半をシィルヴィアが稼いでいるのだろうと俺は思った。
そうじゃないとカエサルが無銭飲食なりアルバイトなりする理由がないはずだ。
「店で働くのもそうだが、一番需要があるのはマナの結晶を集めることじゃないか?」
「マナの結晶? なんだそれ?」
マナとは昨日カエサルが説明していた言葉である。
確かビルドギアを動かすためのエネルギー体を意味していたはずだ。
「モンスターはマナを吸収して凶暴化した存在といっただろう? 稀にモンスターを倒すと結晶化したマナが落ちることがある。これを欲しがる人は多いんだ」
「へぇー。具体的にどれくらい稼げるんだ?」
俺は何となく聞いてみる。
「そうだなぁ。私が聞いた話だとこのくらいの大きさで一つ5万ゴルドはするはずだ」
カエサルは親指と人差し指の間、一センチ離して説明する。
「ごめん。そもそも金の単位がわからないんだ。それは多いのか少ないのか?」
「ああそうか。それも覚えてないんだな」
カエサルは言って説明してくれた。
「金の単位をゴルドと言って、パン屋であんぱんを一つ買うとしたら100ゴルドする。因みにさっきの『定食屋くりきんとん』で一日働いたら5000ゴルドだ」
「ってことはマナの結晶一つで『くりきんとん』バイト十日分ってことか……悪くねえな」
そんな小さいものでそれほど高価なのか。
ただ話を聞くだけならそれを集めようと思うが、そんなうまい話があるとは正直思えなかった。
「それって昨日『にゃん兵』を倒したとき落ちなかったよな? かなりレアものじゃないのか?」
俺が訝しんで聞くとカエサルは頷いた。
「よくわかったな。その通りだ。モンスターの個体によって体内で生成するというものだからな。モンスターを何百体と倒して一個出れば儲けものであろう」
「却下だ。博打で稼ごうとは思わねーよ」
カエサルの提案に俺は腕で✕印を作って答えた。
まずは先立つものが必要である。
堅実な稼ぎをしていかなくてはならない。
そもそもモンスターを倒せないので無理である。
「なあ、さっき『アイテム処ヤソップ』って場所で素材が売れるって話していたよな? あれってどういう意味だ?」
俺は先ほど怒鳴っていた店主とカエサルのやりとりを思い出しながら聞いた。
「素材とは、村の外で得られる薬草とかモンスターが落とすもの全般をひっくるめてそう呼んでいるんだ」
薬草採取や鉱石採掘、モンスターが消えて残った物などが『アイテム処ヤソップ』で売れて現金化してもらえるらしい。
「私の主な収入源がこれだ。村の外に出る人は少なくてな。裏山があるだろう?」
カエサルは俺たちが座る向きから後ろに位置する山を指で示した。
この村へ入ったときに真正面から広場を見て奥に続いていた山のことであった。
「一応あそこで薬草が取れたり、更に奥へ行くと畑があったり湖があったりして素材は取れるんだ。けれど村の外でなければ取れない素材もあるから常に一定の需要がある」
カエサルは言って剣を鞘ごと持った。
「戦闘用ビルドギアはみんな持っているが、わざわざ村の外へ出てモンスターと戦うなんて危険なことはしたくないと、大半の村人は外には出ないんだ。たまに出かける人はいるが、数えるくらいだろう」
カエサルは言って嬉しそうにする。
「騎士として、村の安全を維持するために強くなろうとした結果、私は『断空破』を習得した。昨日は当たらなかったが、次こそは必ず命中させて素材を取ってみせるさ」
カエサルは歯を光らせてドヤ顔で語る。
こうして見ると本物の立派な騎士に見えるが自称である。
しかもNTRするために騎士に拘る奴だ。
見た目詐欺にも程があるだろうに、無駄にイケメンなせいで騙されそうになる。
「アルバイトなら他にもあるし、どう稼ぐかはジオンが決めることだが、素材採集なら一緒に村の外に行ける。どうだ? 一緒にやってみないか?」
カエサルは剣を腰に戻して言った。
「…………さっき店主さんに使える素材をもってこいって言われたよな? 普段どれくらい稼げるんだ?」
俺が目を細めて聞くと、カエサルは顔を逸らした。
言いたくないのか、口笛を吹き始める。
しかも無駄に口笛がうまいため腹が立ってきた。
「おい…………なんでそっぽ向くんだ?」
「ヒュ~! ヒュヒュヒューっ!」
よほど言いたくないらしい。
あれだけボロクソに言われていたのだ。
全く稼げていないのだろう。
「はぁ……なら畑のほうで求人があるか見てくるか。さっきの店でアルバイトするにも気まず過ぎるからな」
俺は言って立ち上がろうとしたが、俺の服の裾をカエサルは握っていた。
なにすんだこいつ。
「カエサル……なんだこれは?」
「…………手伝ってくれてもいいのだぞ?」
顔を背けたままカエサルが言う。
おい、ツンデレか?
野郎のツンデレなんか需要ねえぞ。
しかもクズのツンデレなんて尚更な。
「記憶がなく、一般常識も欠けている状態なのだ。気の置けない友人と一緒に働くのが無難だと思うが、ジオンもそう思わないか?」
カエサルは言う。
一理あるように聞こえるが、事情を話したうえで働く意思を伝えれば雇ってくれそうなところはある気がした。
わざわざ素材採集に拘る理由など、俺にはなかった。
「確かに村の外に行って素材採集となると、モンスターと戦うためにビルドギアを使ったり冒険したりと男心をくすぐるような魅力的提案だとは思う」
「おお!? ジオンもそう思うか?」
カエサルは背けていた顔を戻して俺を見た。
その瞳が輝いているようだった。
「けれど、モンスターを倒せる力もなく、それぞれの素材についての知識もなく、使える状態の素材を持って帰るノウハウも今はない状態だろ?」
俺の言葉にカエサルの瞳は輝きを失い、気まずそうに俯いてしまう。
事実を指摘されたからだろう。
「時間があり、金に余裕があるならともかく、そうでないなら確実に稼げていける仕事を俺はしようと思う」
ここまで言えばカエサルも諦めるだろう。
俺はそう思い、カエサルの手を振り払おうとしたが、予想とは裏腹にカエサルは諦めが悪かった。
俺の服を力一杯握りしめ、中々離そうとしなかった。
「いいのか? 仕事で失敗すればガミガミと口うるさく説教されるのだぞ? 客からもクレームが入るし、稼ぎも天井が見えているのに」
「当たり前だろ? だからこそ安定して稼げる旨味があるんだから」
確かに素材採集なら上手くいけばより稼ぎを増やせるかもしれない。
けれど、最初に働こうとする今するべきことではないと俺は思っていた。
どうしてこんなにも頑なに食い下がるのだろうかこいつは。
「…………なあ。思ったんだけど、もしかして自分一人では稼げなくなったから、俺に手伝ってもらいたくてこんなにも食い下がっているのか?」
「…………いや」
カエサルは顔を背けながら否定する。
どうして顔を逸らすんだ?
「まさかとは思うけど……自分が稼げないなか、俺が真っ当に稼いでしまったら肩身が狭いから同じ地獄に足を引っ張ろうとするなんてこと、考えてないよな?」
「…………そんなわけないだろう」
またもや顔を背けたままカエサルは言う。
図星か?
「カエサル……村の案内を買って出たのはこれを見越していたのか? 俺のためじゃなくて自分のために?」
「…………騎士はいいぞ。稼げるし、女性からモテる」
「嘘つくな。話逸らすな、こっち見ろ」
俺の言葉にカエサルはようやく顔を見せる。
滂沱の涙を流して顔がグチャグチャになっていた。
「すまない。全部ジオンの言うとおりだ」
俺はその情けない顔を見て軽くため息を吐くのだった。
ーーー
恩返し。
俺は心の底からカエサルとシィルヴィアに感謝していた。
カエサルが声をかけてくれなければ、シィルヴィアが助けに来てくれなければ、俺は命を落としていたと思っている。
だから二人のためになることなら力になりたいと考えていた。
特にカエサルは本音のクズの部分を時折見せるが、毎度毎度ふざけたことを言っては素直な気持ちを聞けていない気がしていた。
相手を想ったときにどう行動するのか。
もし間違った行動をしているなら、それをちゃんと口に出して言ってやるのも友情の一つだと俺は考えていた。
「カエサル。お前がまず最初にやることは頭を下げて謝ることだと思うぞ」
ひとしきり泣いたカエサルに俺は少々説教染みたことを言ってしまう。
あまりにもそれぞれのお店に迷惑をかけていて尚且つ反省した態度が見られなかったのだ。
村八分みたいな扱いをされても文句は言えないだろうと俺は正直にカエサルに伝えた。
「あんなに怒られて出禁だと、今後村で暮らしていくにも不便過ぎるだろ? 謝って許してもらうのが一番じゃないか?」
カエサルの善意で村のなかを紹介してもらえると思ったが、実際にはカエサルの都合の良いように利用されかけたのであった。
それでもそれを素直に認めたことで、俺はまだ更生の余地があるなと思っていた。
「い、嫌だぁ~!! 私はまだ、騎士として志を曲げることはしたくないんだぁ~!!」
じたばたとその場で駄々をこね始めるカエサル。
幼児退行するなよこいつ。
鎧を身に着けていたため、ガッシャガッシャと音を立ててとにかくうるさかった。
「パンも消費期限が迫った割引セールのものだけ食べているし、『断空破』を食らったモンスターの素材は焦げちゃうし、アルバイト中であろうが騎士として鎧を脱ぐことなんか私はしたくないんだぁ~!!」
「…………こいつ」
俺は怒りを通り越して呆れが勝っていた。
「謝れない騎士より、謝れる騎士の方がカッコいいと思わないか?」
俺はカエサルが耳を傾けやすいように言葉を選んで言った。
「確かにぃっ! それはそうだな」
「おい、そこは素直に聞くのかよ」
むくりと起き上がって納得するように頷くカエサル。
そこだけ聞き分けは良いのか。
こいつの考え方はよくわからん。
「ならば頼む。一緒に謝ってくれないか?」
「何でだよ。一人だと謝れないのか?」
「うん」
「うんじゃねーよ」
俺は肩を落としてため息を吐いた。
なんだか出来の悪い弟と話している気分になってきた。
「私は一人だとダメ騎士だが、ジオンがいればほんの少しまともな騎士に成れそうな気がするんだ」
「ほんの少しかよ」
カエサルの言葉に拍子抜けしそうになるが、自分の過ちを自覚しやり直そうとする部分は褒めるところだと俺は思った。
「ったくしゃあねえな。わかったよ。一緒に謝りに行こう」
俺が首の後ろを搔いて立ち上がるとカエサルは感動したように震えていた。
「それでこそ我が親友!! ありがとう心の友よ!!」
カエサルは興奮のあまりかその場で勢いよく俺に抱き着いてきた。
「お前馬鹿!! 落ちるだろっ!?」
橋の縁に立っていた俺はバランスを崩し、抱き着いてきたカエサルと共に仲良く川へとダイブすることになった。
ーーー
「ご迷惑をお掛けし、申し訳なかった」
「おいおい、あのカエサルが素直に謝る日が来るなんて……」
ずぶ濡れになった俺たちは最初に『アイテム処ヤソップ』にお邪魔していた。
入店早々不機嫌な顔をされたが、俺が一緒に話して謝ると素直に話を聞いてくれた。
「こいつは確かに馬鹿な部分はあると思います。けど、本人が悪いことを認めたうえで今後同じようなご迷惑はお掛けしないようにと心を改めると共に、俺も目を光らせるので謝罪と挽回の機会をいただきたいです。身勝手な頼みですがどうかお願いいたします」
俺はカエサルの隣で一緒に頭を下げた。
『アイテム処ヤソップ』の店主さんことヨハンさんは恰幅の良い親父さんという印象の人だった。
パッと見の顔はひげ面で強面な印象だが、話してみると人情派で思いやりのある良い人ということがすぐにわかった。
「…………明日の天気は石でも降るのかと思ったが、ここまで素直に謝るカエサルは初めてだな……よしわかった!! 今回は大目に見てやろう。二人とも、顔を上げなさい」
俺たちは言われて顔を上げた。
「ジオンって言ったか? カエサル、お前いい奴と友達になったな」
「ああ、親友だ! 我が心の友だ」
「肩を抱くな。鎧姿で抱き着くと痛いんだよ」
俺が嫌がる素振りをするが、それに構わずカエサルは手を俺の肩に回してきた。
「ちょっと待ちな。…………ほれ、このタオル使いな」
言ってヨハンさんは俺とカエサルそれぞれにタオル一枚ずつ手渡してくれた。
「ありがとうございます。ほらカエサル、お礼をちゃんと言えよ」
「大儀である」
「お前ぶっ飛ばすぞこの野郎!!」
俺はカエサルの口の端を両手で摘まんで引っ張った。
「謝罪に来たのに、そういうところだぞお前!!」
「痛い痛い! やめて!!」
俺たちが揉みくちゃになって騒いでいると、ヨハンさんの豪快な笑い声が聞こえてきた。
「わっはっはっ!! いいなお前ら! 良いコンビだよ!! 見ていて愉快だわ!!」
「わっはっはっ!!」と大きく口を開けて笑うヨハンさんに俺とカエサルも自然と笑みが零れていた。
ーーー
その後、『定食屋くりきんとん』と『ベーカリーカリカリ』にもそれぞれ同様に謝罪しに行った。
『アイテム処ヤソップ』のヨハンさんと同じく二店舗とも店主さんが良い人で、誠意を持って謝罪したら許してくれた。
『定食屋くりきんとん』では今後、鎧を着ずに働くことを約束し、『ベーカリーカリカリ』への支払いは『定食屋くりきんとん』さんで働いて得た賃金を分割でお支払いすることで話は幕を閉じた。
因みにカエサルが働く際は俺が一緒に働くことを条件として出され、俺はこれを了承した。
お目付け役ということだろう。
ーーー
「いらっしゃいませ~!」
俺は元気よく挨拶した。
『定食屋くりきんとん』に来店したお客様に対してである。
「あらぁ、初めましての子ね~」
「はい! 最近働かせてもらうことになりました。ジオンです」
俺はお客様に低姿勢で自己紹介する。
空いてる席に案内してお冷を出す。
俺の仕事は基本ホールスタッフであった。
「あいよ、これも洗っておいてくれ」
「承知した!! 鎧を脱いだ我が奥義を見せてくれるわ!!」
カエサルは洗い場で使い終わった食器を洗っていた。
厨房で調理する店主の旦那さんから調理器具を渡されているところだ。
時折厨房の方から変な掛け声が聞こえてくるが、皿を割られるよりかはよっぽどマシだと店主さんに言われていた。
「ジオン、先に休憩行ってちょうだい。カエサルと一緒にね」
『定食屋くりきんとん』の店主さんことマメさんが言う。
頭に頭巾を被った和服姿のおばあちゃんであった。
年齢は診療所のキノ先生より若そうではあるが、それでも真っ白になった髪の毛が特徴的であるため、そこそこ高齢だと思う。
旦那さんと二人で切り盛りしている『ベーカリーカリカリ』は常連の多いウッチャ村きっての老舗で有名らしい。
「わかりました。カエサルーっ? 先に休憩入ってくれだってさ」
俺が厨房の洗い場にいるカエサルに声をかけるとカエサルは必死な形相で洗っていた。
「待ってくれ!! キリの良いところまであと少しなんだ! これが終わったら私もすぐに行くからちょっと待ってくれ!!」
「はいはい。わかったよ」
こうして俺とカエサルはバックヤードもとい、マメさん家の居間に向かうのだった。
ーーー
「こっからまた一日が長いなぁ」
俺はそう言って背筋を伸ばした。
飲食店は昼頃が客入りのピークのため、俺たちは十時前後に休憩を取ることが多かった。
一時間休憩したあと、五時まで働き通しである。
「情けないなジオン。こんなことでへこたれてからに」
カエサルは賄いの炒め野菜おにぎりにかぶりつきながら言う。
「仕方ないだろ? 慣れてないんだから。というかカエサルってなんだかんだ体力あるよな」
「鍛えているからな」
俺の言葉にカエサルは腕を曲げて力こぶを隆起させる。
普段鎧を着て過ごしているのもあるのか、体つきも筋肉質で凄かった。
「鍛えてるって何してるの? 筋トレ?」
「毎日朝と夜に剣を使った修練を積んでいるぞ。シィルヴィアもたまにやってるし、一緒にやるか?」
マジか!
そんなのやっているなんて俺は全く気付かなかった。
「ていうか、シィルヴィアに働き始めたことを言ったら凄かったな」
俺は『定食屋くりきんとん』で働くことになった日を思い出す。
シィルヴィアにカエサルと一緒に働くことを伝えると、「兄様が真っ当に働くなんて……」と感動していた。
目を輝かせ口を押さえる仕草に、今までの苦労が垣間見えた気がして俺は何とも言えない気持ちになった。
「『ベーカリーカリカリ』への支払いもとっとと済ませないといけないし……6万ゴルドだっけ? 溜まっていたツケの支払い金額」
「そうだ。我ながらよくここまで貯めたと感心するな」
「威張るな! 反省しろ!」
俺がツッコミを入れるとカエサルは笑っていた。
こいつ、追い詰められて泣きべそを搔いていたくせによくそんなこと言えるな。
ポジティブさもここまで行くと尊敬すら抱き始める。
「労働は大変だけど、素直さは宝だな。カエサル。謝ってこうしてまた働けるようになったことを感謝しないといけないぞお前」
俺が言うとお茶を飲んでいたカエサルが不敵な笑みを浮かべる。
「ふっ……言われなくともわかっているさ」
「本当かよ……」
俺は疑うようにカエサルを見たが、馬鹿馬鹿しくなって自分の賄いを食べ始める。
炒め野菜おにぎりに鶏のから揚げと緑茶であった。
咀嚼して緑茶で流し込むと、俺は気になることを思い出して疑問を口にする。
「……………なあ、この村って結構人多いよな? 昼頃には客の入りがヤバいくらい多いし。何人くらいいるんだ?」
俺が聞くとカエサルは腕を組んで考え込む。
「正確な人数は私も知らないな。千人はいるんじゃないか?」
「結構多いな……でも俺が見た限り、そんなに家があるとは思えなかったぞ」
俺は広場から見た周りに建つ民家の数を思い出して言った。
「裏山に畑や湖もあると言っただろう? そっちの方にいくつか民家や店が密集してる場所があるんだ。シィルヴィアの働いている場所も村の奥にあるし、探そうと思えばそこそこ人のいる場所はあるぞ」
カエサルは鶏のから揚げを頬張って言った。
「不思議な村だな。ウッチャ村って隠れ里だって聞いたけど、何で隠れてるんだ? 里の外からはまるっきし見えないし、逆に中からは普通に外の景色が見えるし、結界ってなんなんだ?」
「それはな――」
カエサルが答えようとすると、店の方から足音が聞こえてきた。
店主のマメさんが慌てた様子で俺たちのところに来たのだった。
「あんたたち、休憩中悪いけど、ちょっと店まで来てくれないか? 体調が悪いってお客さんがいて診療所まで連れてってほしいんだよ」
「なに!? 騎士として、それは見過ごせないな」
カエサルは立ち上がるとすぐに店の方へと向かった。
「わかりました。すぐ行きます」
俺もそう言って向かおうとするとマメさんが声をかけてきた。
「ジオン、お客さんもそうだけど、カエサルのこともお願いね?」
そう言われて俺は頷く。
言われなくてもそのつもりであった。
「もちろんです。任せてください」
先に行ったカエサルに追いつこうと俺は早歩きで店に向かうのであった。
読んでいただきありがとうございます。
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