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特別とは無縁の異世界転生物語  作者: 十土川三


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4「恩返し」

 キノ先生がカエサルを永眠させようと茶番を繰り返すこと三十分経過した。


 キノ先生も満足したのか、診療所のなかに入るとすぐに矢を引っこ抜いて、動けなくなったカエサルに治癒魔法をかけた。


 最後に薬を処方して終了である。


「カエサル坊や。怪我したら治しはするけど、まずは怪我をしないことを学びなさいね」


「はい。承知いたしました。騎士としてこの剣と命に懸けてお約束いたします」


 鎧を着け直したカエサルが剣を掲げて誓う。


「あと騎士はやめなさい。もういい年なのだから」


「嫌です。ありがとうございました」


 そう言ってカエサルはキノ先生から逃げるように診察室を出ていった。


「やれやれ、シィルヴィアちゃんも大変ねぇ」


「いえ、こちらこそ兄様がいつもすみません」


 気遣うキノ先生と頭を下げるシィルヴィア。


 カエサルはいつもあんな調子で周りを不快にしているのだろうなと俺は理解した。


「それとジオンちゃんだったかねぇ」


「あ、はい」


 呼ばれて俺はキノ先生に近付く。


「あの子と一緒にいるのは大変かもしれないけど、友達として仲良くしてあげてちょうだいね」


 キノ先生は俺の手を握って頼み込んできた。


「…………わかりました」


 知りませんあんな奴、友達ではないですよ、なんて俺には言えなかった。


 さっきまで本人が泣くほど罵倒していたのに、こんなこと言うなんて……。


 よっぽどカエサルのことを考えているようだ。


「あと隙があったら殺しちゃっていいからねぇ」


「キノ先生、さっき言ったこと本気だったんですか?」


 冗談なのか本気なのかわからなくなってきた。


 憂さ晴らしに罵ってたんだよな?


「いつか騎士だからと言って取り返しのつかないことをすると思うの。だからその前に誰かが死なせてあげることが幸せじゃない?」


 俺に同意を求めないでくれ。


 それを妹であるシィルヴィアの前でよく言えるなこの人。


 俺は傍らにいるシィルヴィアを見る。


 彼女は顔を逸らして死んだような目をしていた。


 否定しないことからシィルヴィアもどこかでキノ先生と同じように考えているということだろうか。


「無理にとは言わないけど、もしやる気なら毒薬を上げるから一服盛っておやりなさい」


「は、はは」


 俺はツッコむ気力も湧かずにただただ苦笑いするしかなかった。


 その後、シィルヴィアが治療費を支払い、俺たちは診療所を後にした。




 ーーー




「では管理人であるポム爺さんのところへ行こうか」


 診療所を出るとカエサルが早速、言ってきた。


「ポムじいさん? なんでその人のところへ?」


 俺はキューちゃんと戯れながら聞いた。


「このウッチャ村の管理人だからだ。記憶喪失なら尚更会っておいた方がいい。物知りだから何か知っているかもしれないぞ」


「記憶喪失? ジオンさん、そうなんですか?」


 カエサルの言葉に驚いた様子でシィルヴィアは俺に聞いてきた。


「うん。村の外で寝てたらしいけど、何も覚えてないんだ。名前も仮につけた名前で本名も不明」


 俺は肩をすくめて言った。


 こうやって説明していても不可解である。


 どうして何も覚えていないまま俺は一人、モンスターの縄張りで寝てたのだろうか。


「記憶喪失の人って初めて会いました。頭を打ったりしましたか?」


 シィルヴィアが心配そうに俺の顔を覗き込んでくる。


「いや、怪我してないみたいだし……キノ先生に診てもらったほうが良かったかな?」


「先にポム爺さんと会ったほうがいいと思うぞ。前に記憶喪失の人と会ったことがあると話していたからな。それからキノ先生に診てもらっても遅くはないだろう」


「へぇ~そうなんだ。なら先にポム爺さんって人に会いに行こうか」


 今度はカエサルの先導で隠れ里の管理人ことポム爺さんの家に向かうことになった。


 右にキューちゃん。左にシィルヴィアと両手に華の状態で歩き始める。


「なんで管理人って言うんだ? 村を治めてるなら村長って言うだろ?」


 俺は隣を歩くシィルヴィアに聞いた。


「管理人さんは村長って呼ばれるのが嫌いらしいんです。前に理由を聞いたら『村長って呼ばれると責任感出て嫌いだ』と仰ってました」


「またなんか癖のある人そうだな……」


 カエサル、キノ先生と濃い性格の人が続いたのでまだまだいるのかと思うと少々気が重くなってしまう。


 シィルヴィアやキューちゃんみたいな人当たりの良さそうな人であってほしいよ。


「キュー、キュキュ、キュー!」


「なんて言ってるんだこれ?」


 キューちゃんが俺に何かを伝えようとしているのか、さっきからキューキュー鳴いていた。可愛い。


「管理人さんは優しい人だよ、と言っていますね」


 シィルヴィアがキューちゃんの言葉を翻訳してくれた。


「凄え! キューちゃんの言葉わかるの?」


「はい。子供の頃から一緒に過ごしていたせいか、私はキューちゃんの言葉がわかるんです」


 ふふん、と鼻高々に自慢げに話すシィルヴィア。


「キュー、キュー」


 キューちゃんもなんだか自慢げに鳴いているような気がした。


 鳴き声本当に可愛いなこの子は。


「これから会う管理人さんは少し変わっているかもしれませんが、とても優しい人なのでそこまで緊張する必要はありませんよ」


「変わってるってどのくらい? 俺がここまで会ってまともそうなのってシィルヴィアとキューちゃんしかいないけれど……」


 俺がズレているのかわからないけど、少なくともキノ先生はまともじゃないだろあの人。


「兄様ほどじゃありません。キノ先生よりも普通かもしれません」


「それでも変わっている類の人なのね」


 どんな人物が出て来ても動じないように心の準備だけはしておこう。


 そう言い聞かせていると、その管理人ポム爺さんの家にたどり着いた。


「家は普通だな……」


 レンガ造りのこじんまりとした平屋が一軒、他の家とは離れた場所に建っていた。


 管理人の家と言われなければ、ただの一軒家としか思わないだろう。


 カエサルが家の扉にコンコンッとノックをする。


 ガチャリと音を立てて家主が扉の向こうから現れた。


「どうした? こんな夜にわざわざ訪ねて来て」


 そこにはひと際小さなおじいさんが立っていた。


 背の高さは一メートルもなさそうである。


 鼠色のあごひげが特徴的だった。


 黒ぶち眼鏡に赤いニット帽を被り、絵本のなかに出てくるような小人を連想させる姿であった。


「夜分遅くに申し訳ない。村の外で記憶喪失の人間を保護したため連れてきた。どうか彼の話を聞いてもらえないだろうか?」


 カエサルが俺を指して説明する。


 俺はポム爺さんと視線が合ったため、軽く会釈した。


「こんにちわ」


「はいどうも。カエサルの連れにしてはまともそうだな」


「何を言いますか。私はいつもまともな騎士ですよ」


 胸を張って答えるカエサルに全員がジト目で見返した。


 俺含めて絶対まともじゃないと全員思っているのだろう。


 断言してもいい。


「記憶喪失か。何も覚えてないのか?」


 ポム爺さんは前に出てくると、俺を嘗め回すように上から下まで観察した。


「ふむ……とりあえず中に入りなさい。温かいお茶を入れてあげよう」


 ポム爺さんに招かれその場にいたキューちゃん以外の全員が家の中に入っていった。


 中は質素な家具で揃えられていた。


 平屋だが、奥行きはあるみたいでそこそこ広かった。


 ソファとテーブルが一式並べられ、座るように促される。


「はいどうぞ。自慢のドル茶だ。そのまま飲むと甘すぎるからお好みで塩を入れてくれ」


 オレンジ色の温かいお茶だった。


 香りは甘い柑橘系の匂いがする。


 シィルヴィアはそのまま飲むのに対して、カエサルは塩を五回匙で掬(すく)って飲んでいた。


 甘いのが苦手なのか?


「遠慮しなくていい。それともドル茶は初めてかね?」


 ポム爺さんが俺に聞いてきたため、俺は慌ててカップを手に取る。


「はいっ。初めてだけど美味しそうです。いただきます」


 塩を入れずにそのまま飲んでみる。


「美味しい…………まろやかな甘さだ」


 塩を入れなくても丁度良い甘さであった。


 ジュースと言われればそうかもしれないが、お茶と言われて飲んでもおかしくはない不思議な味わいであった。


 俺の様子を見てポム爺さんは嬉しそうにニッコリと笑顔になった。


「ふふ。そうか、美味しいか。それは何よりだ」


 ポム爺さんも言って自分のカップに口をつけていた。


「改めてはじめまして。このウッチャ村の管理人をしているポムというものだ。きみの名前を聞いてもいいかね?」


 落ち着いた口調で話すポム爺さんに俺は自然と背筋を伸ばすような姿勢で挨拶する。


「初めまして。ジオンと名乗ってます。本名がわからないので仮の名前です。どこから来て、なんでここにいるのか、何も覚えてなくて困ってます」


 俺は正直に話した。


 嘘を言うつもりはないが、目の前のポム爺さんは妙な迫力があった。


 少しでも嘘を言えば見破られるような気がしたのである。


「『にゃん兵』の縄張りで寝てたらしくて、そこをカエサルに助けてもらいました。正確には二人ともやられそうになったところをシィルヴィアに助けてもらいました」


「はい。兄様の帰りが遅いと思い、村の外を探していたら兄様の『断空破』が見えたのでキューちゃんに乗って行ったらモンスターに囲まれていました」


 俺の言葉にシィルヴィアが補足するように付け加える。


「空に向かって撃った『断空破』のことか? ならば私ではなく、ジオンが放ったものだぞ」


「えっ? そうなんですか?」


 シィルヴィアが目を丸くして聞いてくる。


 どうやらあのとき上空に撃った俺の『断空破』はシィルヴィアが俺たちを見つける手がかりになったらしい。


「カエサルが動けなくなって、村が近くにあるって言うから誰かに見つけてもらおうと必死になって撃ったんだ。シィルヴィアがそれを見つけてくれて助かったよ。本当にありがとう」


 俺は改めてシィルヴィアに頭を下げた。


「いえいえ! 兄様が倒れていたからどういうことかと思っていましたが、そういうことだったんですね」


 シィルヴィアは納得したように手を合わせた。


「そうか。モンスターの縄張りでか……」


 ポム爺さんはそう言うと座っていた椅子から立ち上がって俺の目の前にやってきた。


「ちょっと目を見せてくれ」


 そう言うと至近距離で目を見ようと両手で顔を持たれてしまった。

 

 老人独特のシップのような匂いが鼻を突くが、それを口に出して言おうとは思わなかった。


「これは……驚いたなぁ。お前さん、転生者か。しかも記憶を封印されとる」


「えっ? どういう意味ですか?」


 ポム爺さんが目を見開き、驚いた様子でいた。


 俺は思わず聞き返した。


「管理人さん。転生者って……?」


「ポム爺さん。記憶を封印されていると言ったか?」


 シィルヴィアとカエサルもそれぞれ疑問を口にする。


 ポム爺さんは俺から離れると自分の席に戻ってドル茶を啜った。


「……ふう。久しぶりだな。転生者を見るのは何十年ぶりだ」


 カップの中身を見つめてポム爺さんは言う。


 質問には答えず、何かを懐かしむような顔になっている気がした。


「一つずつ話そう。まず転生者だが、一度死んだ人間が生まれ変わって生きることを転生という。その当事者のことを転生者と呼ぶ。具体的に言うと、死んだ人間の魂が別の肉体に宿ることを意味する。生まれ変わるとは全く別の存在になることもあれば、死ぬ前の自分と同じ姿かたちになる場合もある。生き返るというよりも新しい肉体を得ると言ったほうが正確だろう」


 言ってポム爺さんは俺を見た。


「転生は他者が転生術を施すことによって発動される魔法だ。私が知る限りでは単独でそれを成しえることは不可能だと聞いている。きみは誰かの力を借りて転生したのだろう」


「誰か……?」


 言われて思い出そうとするが…………うん。全く身に覚えがない。


「次に記憶の封印だが、これは私も初めて見たな。転生術のメリットは人格及び記憶の継続保持にある。例えば、死期の近い身体を持つ人間が延命しようと転生するなど、その人本人を生き長らえさせるために転生術は使われるが、そのメリットを打ち消すようかのように君は記憶の封印術による魔法がかけられている。いったいどういうことだろうか?」


 ポム爺さんが長いあごひげを撫でるようにして考え込む。


「あの、その前に一ついいですか?」


 俺は手を上げて質問した。


 ポム爺さんは鷹揚に頷いた。


「構わないよ。なにかね?」


「どうしていま俺の目を見ただけでそんなことがわかるんですか? 確信しているような言い方で少し気になったんですけど……」


「ジオン。ポム爺さんはサトリと呼ばれるモンスターの混合種だ。人の心が読めるんだよ」


 カエサルが説明する。


「混合種?」


「人の身でモンスターの力を宿す人間を混合種と言うんだ。ひと言で言うなら祖先にモンスターがいてその力を受け継いだ子孫のことを指す」


 ポム爺さんが説明する。


 モンスターと人の血を継いだ人間ということか。


「結婚できるんですね。モンスターと」


 俺が言うとポム爺さんは口の端をニヤリと上げてほくそ笑んだ。


「怖いかね? 人とモンスターの混じり者は」


「いえ。寧ろ俺の結婚相手にモンスターが候補として挙がってきました。好みが増えるって最高ですよね」


 人だけじゃなくてモンスターとも結ばれる可能性があるなら、恋愛対象がグッと広がるってことだよな?


 なにそれ最高じゃん。


 俺が断言するとポム爺さんはコロコロと笑った。


「ほっほっほっ! 面白いことを言うなきみは。嫌いじゃないぞ、そういうの」


 嬉しそうに笑うポム爺さん。


 モンスターとの混じり者が怖いかという質問はもしかしたら、ポム爺さんが実際に怖がられた経験があったから質問したのかもしれない。


「ここに来るまでに『にゃん兵』に襲われたのでモンスターって怖い生き物なんだなって思いましたけど、でも最初にあったモンスターがそれだったって話なだけで、友好的なモンスターがいるなら直接会ってみたいってのが本音です」


 俺は正直な気持ちを言った。


「おや? 友好的なモンスターならもう会っているじゃないか」


「えっ? どこに?」


 俺が聞くとシィルヴィアが扉の外を指した。


「キューちゃんは紫色の雲っていうモンスターなんです」


「あっ、そうなの!? あんな可愛い子がモンスターなんて最高じゃん」


 そう言うとシィルヴィアはこれまでで一番の笑顔になって嬉しそうに笑った。


「ふふふ。そうですね。最高ですね」


 めっちゃ美人だな、シィルヴィア。


 こんな笑顔を見ちゃうとドキドキして求婚したくなっちゃうね。


 そんな度胸はないけど。


 俺は直接見るのが恥ずかしくなってポム爺さんに視線を逸らした。


「俺が転生者で記憶を封印されているのはわかりました。これって珍しいことなんですか?」


 さっき転生のメリットが打ち消されるように記憶の封印術がかけられているとポム爺さんは言っていた。


 そのことが俺は気になっていた。


「珍しい。というよりも初めて見たというべきか。私自身転生した者に会ったのはきみで二人目だ」


「二人目……」


 もう一人、俺と同じような人がいるのか。


「前に会った転生者は記憶もあったし、転生術についても詳しかった。そのときに知った転生者の心の色がいまのきみと同じだった。間違いないだろう」


 ポム爺さんは言うと持っていたカップを揺らして中身を見つめた。


「それとは別に封印術が施されている痕(あと)があった。私は人の心を読めるが、それとは別に魔法による影響も見ることが出来る」


 ポム爺さんはそこまで言うとカップに入った残りのドル茶を一気に飲み干した。


「…………ふう。封印術は魔法が使えなくなったり、身体の機能の一部を制限したりと様々な用途で扱われるが、記憶の封印は初めて見たな」


「初めて、ですか?」


「ああ。記憶は人格に影響を与える重要な要素だ。骨組みと言っても過言ではない。一つ一つの経験、記憶の積み重ねがいまの人物を形作ると言っていいものだ。それに封印を施しては人格破綻を招いて最悪廃人になる危険性がある。だから記憶に封印を施すとは非人道的であると封印術を用いる人間は常々口にしていたはずだ」


 俺、廃人になってたかもしれないってこと!?


「でも俺は普通に動けてますよ? 廃人になっていない」


 俺は健康的に五体満足で動けていることを示すように身体を動かした。


「ああ。その通りだ。はっきり言ってお手上げだ。私にもわからない」


 ポム爺さんはカップを置くと両手を上げて降参するようなポーズを取った。


「下手に調べれば逆に危険な可能性もある。心や身体に異常がないのならそのままで問題ないと思うがね」


 言ってポム爺さんは再びドル茶を注いだ。


 湯気が立っていないために冷めてしまったようだ。


「この話を聞いたうえできみはどうする? 記憶を取り戻したいと考えるかね?」


 ポム爺さんが質問する。


「…………俺としては記憶は取り戻せたらいいかなって最初は思ったんですけど、危険があるなら無理に取り戻そうとは思わないです」


 正直な気持ちである。


 危険を冒してまで記憶を取り戻したいとは思わなかった。


「そうかい。ならこの話はここまでだ」


 するとポム爺さんは眼鏡を外してレンズを拭き始める。


 汚れていたのかな?


「きみ、これからどうするんだ? 行く宛てもなさそうだし、良かったらこの村に住んでみたらどうだ?」


 唐突である。


 しかし、行く宛てもない俺にとってその言葉は非常に有難かった。


「…………いいんですか?」


「私は構わないと思うが……カエサルとシィルヴィア」


 ポム爺さんが名前を呼んだ二人を見た。


「お前さんたちは一緒にいてジオンをどう思った? 村の住人として足る人物だと思うかね?」


「はい! 問題ありません。騎士として公明正大な判断をした結果、彼の人柄に問題はないと提言いたします」


 カエサルが胸に手を当てて言う。


 その様は主に対する騎士としての振る舞いに見えた。


 自称騎士のくせに見た目と言動のせいで本物っぽく見えるんだよなぁ……。


 追い詰められると根っこのクズ部分が出てくるみたいだが。


「そうか。シィルヴィアはどう思う?」


 ポム爺さんの言葉にシィルヴィアが顔を向ける。


「いいと思います。兄様と一緒に仲良くしてくださって私個人としても村に住んでくれるならとても嬉しいです」


 シィルヴィアは言いながら俺を見てニコリと笑う。


 その笑顔に俺の胸はキュンキュンしてしまう。


 ああ、恋するってこういう気持ちなのね。


 こうしてトントン拍子で俺はウッチャ村で暮らすことが決定した。


 俺自身行く宛てもないし、シィルヴィアやキューちゃんが可愛いからウッチャ村に住んでいいなら嬉しい限りである。


「俺、どこに住んだらいいですか?」


 ポム爺さんに俺は聞いた。


「村の決まりでは案内役の家に住むか、それが難しいなら家を紹介することは可能だがどうするかね?」


 ポム爺さんがカエサルたちに聞く。


「私たちの家に住まわせたいと考えます!」


 カエサルが言う。


「兄様が言う通り、私も一緒に暮らしていくぶんには問題ありません。幸いにも一部屋空いているので」


 「いいですよね?」と上目遣いで聞いてくるシィルヴィアに俺はインコのような挙動で頷いた。


「めっちゃ嬉しい。けどいいのかな? 助けてもらったうえでこんなに至れり尽くせりで」


 俺はここまで二人に助けられてばかりであった。


 住む場所も提供してもらえるなんてもらい過ぎな気がする。


「ほっほっほっ。そう思うなら恩を返すつもりで報いればいいんじゃないかね」


 ポム爺さんが笑ってそう言った。


 そうか、そうだよな。


 助けてもらった恩返しだな。


「そうですね! ポムさん。ポムさんの言った通り恩返しのつもりで頑張ります!! ありがとうございます!!」


 俺がお礼を言うとポム爺さんは指を鳴らした。


「これを受け取りなさい」


 煙がポワンッと目の前に現れ、俺の手にはシィルヴィアが持っていたものと同じ葉っぱが握られていた。


「それはこの村に住むための証だ。失くしても再発行できるが、金がかかるから注意しなさい」


「そうだぞ! くれぐれも気を付けるようにな」


 ポム爺さんの言葉に続いてカエサルがサムズアップで言う。


「因みにカエサルは五回失くしているぞ」


 ポム爺さんが付け加えるように言った。


「おかげで再発行の度に金額がかさ増しで増えるんだ。どうだ? また一つ学びが増えただろう?」


「お前こそ失くさないように学習しろよ」


 ドヤ顔のうえ歯を光らせているのが絶妙にうざかった。


「それともう一つ渡すものがある。ちょっと待ちなさい」


 ポム爺さんは椅子から立つと部屋の奥にある扉の先へ行ってしまった。


 しばらくすると一本の剣を持って戻ってきた。


「これを渡しておこう。ビルドギアだ」


「これ……」


 カエサルの持つ剣とは装飾が違ったが、同じように柄にビルドギアが埋め込まれていた。


「村の外に行くなら護身用に戦闘用ビルドギアを持っていた方がいいだろう。私のお古だが、これで良ければ持っていきなさい」


「ありがとうございます!!」


 うぉおおおおっ! 剣だ!! ゲームに出てくるような剣を貰っちゃったよ。


 カエサルが持つビルドギアを見せてくれたときもそうだが、剣を見ると心の中の少年が目を輝かせてしまう。


「もし別の武器を使いたくなったなら、コアを移して使うように。詳しくはシィルヴィアに聞きなさい」


 ポム爺さんから剣を受け取った俺は嬉しくて鼻の下を伸ばしてしまう。


 大人になっても武器の魅力には抗えないね。


「これで全部だ。外は暗いから足元に注意して帰りなさい」


「はい! ありがとうございました!」


 そしてポム爺さんに見送られながら俺たちは家を出た。


 今日何度目かわからないお礼の言葉を言って。




 ーーー




「……………………んっ?」


 俺は寝ていたところ目を覚ました。


 そこはソファであった。


 …………そうか。俺、カエサルたちの家に泊まったんだ。


 首を動かして周囲を見るとそこはリビングであった。


 物は比較的少なく、テーブルとソファ、食器棚がそれぞれ置かれていた。


 装飾や部屋全体の壁紙はモダンなデザインである。


 キッチンを見ると冷蔵庫やシンク、コンロなどがあり、生活用ビルドギアとして使われているものだった。


「なんか……重いな……」


 掛け布団を使って寝たが、腹に妙な重さがあった。


 布団がこんもりと山になっていて尚且つ腹が温かい。


 俺は気になって布団を剝いでみた。


「……………………キューちゃん?」


 そこには紫色の雲ことキューちゃんが小さくなった身体で俺の腹の上で寝ていた。


 どうやら自在に身体の大きさを変えられることが出来るらしい。


 柔らかすぎて布団と触感が変わらず、まさかそこにいるとは思わなかった。


 撫でると気持ちよさそうに寝息を立てていた。


「キュー…………」


 ああ可愛い。俺が犯罪者なら誘拐して一生幸せにしてあげちゃう可愛さだね。


 三食昼寝付きで好きな物なんでも買ってあげちゃうよ。


 しかし、気持ちよさそうに寝ていたため起こすのも忍びなく、俺は起き上がらずに壁時計の時間を見る。


 部屋が暗くて見にくいが、夜光タイプなのかそこだけはっきりと見えた。


 まだ四時か…………昨日寝たのが十一時とかだから五時間しか寝てないじゃん。


 俺はもう一度寝ようとして目を閉じるが、階段から降りてくる足音が聞こえて目を開ける。


 二階は確か……シィルヴィアの部屋があったはず。


 カエサルは一階で寝ていたから、違うだろう。


 もう起きてきたのか。


 朝が早いとは言え早い、早すぎる。


 けれど、ちゃんとしてそうなシィルヴィアが早起きと言うのも納得できてしまう。


 居候という立場だからこそ、俺も目が覚めたなら何か手伝ったほうがいいのだろうか。


 朝食の用意とか、洗濯とか、ゴミ出しに家周りの掃き掃除とか。


 考えるだけでやることは多そうである。

 

 仕方がない、起きるか。


 キューちゃんを起こしてしまうかもしれないが、仕方がない。


 俺は起きようとするとリビングの明かりがついた。


「おはようシィルヴィ…………」


 俺は上体を起こしておはようの挨拶を言おうとする。


 そして絶句した。


 シィルヴィアが起きてきたのには間違いなかったが、問題はその恰好であった。


 丈の短いTシャツに、下着姿と破廉恥な姿だったのだ。


 そう、破廉恥である。


 水色の下着が目に入り、俺はそこに釘付けとなってしまった。


 まるで一秒でも見逃さないようにと本能が視線を捉えて離さない。


「あっ……おはようございま~す」


 本人は寝ぼけているのか、特に気にする素振りもなく、そのままお手洗い室へと入っていった。


「……………………」


「…………キュー?」


 腹の上にいたキューちゃんが一声鳴く。


 俺は無言で抱き上げるとキューちゃんを吸うように猫吸いならぬキュー吸いを行う。


「すーっ、はぁーっ、すーっ、はぁーっ」


「キュー」


 キューちゃんも満更ではない様子で鳴いた。


 しかし、俺の頭はそれどころではなかった。


 シィルヴィアの下着姿が頭の中を駆け巡り、他のことなど何も考えられなくなってしまったのだ。


 やばいやばいやばいやばいやばい。


 なんで? ねえなんで?


 なんであんな無防備なの?


 少しは恥じらったり、嫌がったりするならまだしも何のリアクションもなく普段通りに接してくるなんてどういうこと?


 見られてもいいってこと?


 いや見てもいいならいくらでも見たいですけど、あんなあからさまにセンシティブな恰好してどういう気持ち?


 誘ってますか?


 んなわけあるか。


 それとも男として、異性として見られてないってことか?


 確かに、シィルヴィアがあっさり倒せる『にゃん兵』に俺は苦戦してたからな。


 その可能性はあるが…………それでも見られると嫌になるのが普通じゃないのか? 


 俺がおかしいのか?


 気持ちの整理が出来ず、悶々とした気持ちのまま俺は朝を過ごした。


 朝食時には昨日と変わらず、やかましいカエサルと対比するように落ち着いた口調で話すシィルヴィア。


 俺は上辺だけ平気な振りをしたが、しばらくシィルヴィアの顔をまともに見ることができそうになかった。




 読んでいただきありがとうございます。


 感想投稿、ブックマーク登録、リアクション、好評価してくれると作者は喜んで朝にエッッッッッな恰好になるかもよ。

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