13「知恵を絞って」
『ガメゴン』がいた。
まさか俺が座っていた岩がガメゴンの甲羅だとは思わなかった。
手足は出してないが、首の長いリクガメが巨大化したようなモンスターであった。
「ふはははっ! よくぞ我が前に姿を現したな『ガメゴン』よ! 我が『断空破』の前にその身を晒して無事で済むと思ったか? 馬鹿め!!」
そう言って立ち上がり剣に手を回すカエサル。
昼食の途中のため、兜は脱いだままであった。
「馬鹿っ、やめろ!」
俺は『ガメゴン』か距離を取ると、手で制してカエサルが切りかからないようにする。
「止めるなジオン。我が聖剣エクスカリバーが疼いて仕方ないんだ」
「何がエクスカリバーだよ!? 前に『断空破』で素材駄目にしたんだろ? 甲羅を手に入れるには『断空破』以外の方法で倒さないといけないんだよ」
そう言って俺は目の前の『ガメゴン』を見た。
「グエェ~」
危機感のないのんびりとした鳴き声を上げる。
ヨハンさんの言った通り大人しいモンスターのようであった。
岩に擬態していたらしく甲羅の色と模様は周囲の景色に見事同化していた。
首を出すまで甲羅だなんて全く気付かなかった。
身体は大きく『アイテム処ヤソップ』で見せてもらった『ガメゴンの甲羅』の二倍近い大きさはあるだろうか。
ヘタしたら一メートル近くあるかもしれない。
俺の持っているパンが余程美味しかったのか、じっと食べる機会を窺うようにこちらを見てきた。
「倒すと言ってもこの『ガメゴン』は硬く、私の剣でも倒せないぞ? どうするんだ?」
カエサルの意見は最もであった。
ヨハンさんも倒すには魔法を使うことが基本と言っていたが、俺もカエサルも使える魔法は『断空破』しかない。
他の魔法が使えない以上、知恵を絞ってこのモンスターを倒さなければならないわけだが……。
「甲羅は鉄で出来てるって言ってたよな? なら甲羅以外を攻撃しよう」
いま目の前には、無防備にもパンを見つめる『ガメゴン』がいた。
その首になら剣でダメージを与えられるんじゃないか。
そう思った俺は『ガメゴン』を見ながらカエサルに向けて指示を出そうと声をかける。
「カエサル。俺がガメゴンの注意を引く間に反対から『ガメゴン』の首に剣で切りかかってっくれ」
「ふ……共同戦線というわけか。面白い」
「お前それ言いたいだけだろ」
最初から協力して『ガメゴン』を探していたのに、何故か決め顔で格好良く言うカエサル。
俺は持っていた残りのパンで『ガメゴン』の注意を引くように正面から見て右手に少しずつ移動した。
それに合わせて『ガメゴン』も首を回して俺の持っているパンを見た。
その隙にカエサルが首を回した方とは反対方向へ回る。
剣を鞘から抜き、じりじりと距離を詰めていた。
俺はカエサルに注意がいかないように『ガメゴン』の目から視線を逸らさないようにする。
きみ結構つぶらな瞳をしてるのね。
「終わりだーっ!!」
そう叫びながらカエサルが『ガメゴン』の首に向けて切りかかった。
ガキンッ、と硬い物同士がぶつかる音が響く。
首は切断されず、カエサルの剣は弾かれてしまった。
「ぬおっ、我が聖剣エクスカリバーが利かぬだと!?」
カエサルが弾かれた衝撃で後ろに後退する。
「グエェ~」
攻撃された『ガメゴン』は意に介さない様子でまた一鳴きした。
「ジオン。甲羅並みに首も硬いぞ」
「マジかよ、甲羅いらないだろこいつ! 首が弱点じゃないならどうして甲羅の中に引っ込めるんだよ!?」
俺は半ば逆切れするように『ガメゴン』に向かって叫んだ。
「グエェ~」
今もなお、俺の持っているパンに夢中のようで『ガメゴン』はこちらを見ていた。
「くっ、どうするジオン。やはり『断空破』しかないんじゃないか?」
カエサルの言葉に俺はすぐ返事が出来なかった。
基本魔法で倒すモンスター。
甲羅は鉄で硬く、首も同じくらい硬い。
他に弱点はないだろうか?
俺は『ガメゴン』をよく観察した。
よく見ると甲羅から出しているのは首だけらしく前と後ろの足、それと尻尾は甲羅の中に収納されたままであった。
「カエサル。試しに甲羅の中に引っ込めた後ろ足へ向かって剣を突き刺してほしい。首と同様に硬いか確認したい」
「わかった。任せろ!」
カエサルは『ガメゴン』の甲羅の中にある足へ向かって剣を突き刺そうとする。
しかし、またもガキンッという音と共にカエサルの剣は弾かれてしまった。
「駄目だ。まるで歯が立たない」
言いながらカエサルは二、三歩下がる。
クソッ。物理的な弱点がないのかこのモンスター。
俺は心の中で悪態を吐いた。
「グエェ~」
『ガメゴン』は攻撃されてもあまり気にしないらしく、のんびりと俺のパンに向かって長い首を更に伸ばしていた。
俺は取られないように少し距離を取る。
「なあジオン。先ほどから手こずってばかりで私はもう我慢ならないぞ。甲羅とか最早どうでもいいから『断空破』さえ撃てればもうそれだけでいい気がしてきた。お前もそう思わないか?」
「思うか馬鹿! 俺たちの目的はあくまで『ガメゴンの甲羅』なんだぞ。人のための仕事に私情を挟むのは騎士じゃないだろ?」
「もう騎士とかどうでもいいからとりあえず『断空破』だ。私は『断空破』が撃てればあとはどうでもいい」
「『断空破』に意識を持ってかれてんじゃねーよ!! 騎士としての誇りはどうした!?」
「捨てた。あとで拾ってくる」
「捨てるなっ!! 都合良過ぎるだろお前」
キノ先生に言われても捨てなかった騎士としての誇りをあっさり手放すカエサルに俺は呆れてしまう。
こいつただ『断空破』を撃ちたいだけじゃないか。
頭『断空破』のカエサルを無視して俺は考える。
ヨハンさんから魔法が通用すると聞いたが、どういう魔法が利くのかとは聞かなかった。
水や炎が苦手なのだろうか?
そう考えて俺は持っていた水筒を取り出した。
「何をする気だ?」
「『ガメゴン』の弱点を探るんだ!」
勢いよく蓋を開けるとチャプンと中に入ったお茶の音が聞こえる。
その瞬間、『ガメゴン』の様子が一変した。
「グェエエエエエエエッ!!!」
大きく叫び声を上げると首をすぐに甲羅の中へとしまったのだ。
まるでお茶の音に怯えたようである。
顔までスッポリとしまった『ガメゴン』の見た目はただの岩と見分けがつかない姿であった。
「水が苦手なんだな」
「どういうことだ?」
カエサルが『ガメゴン』と俺を見比べつつ、困惑した様子で聞いてきた。
「ヨハンさんが魔法で攻撃して倒すのが基本だって言ってた。けど、どんな魔法が利くかは特に言ってなかったんだ」
俺は『魔法辞典』に載っていた魔法を思い出しながら説明する。
魔法は様々な種類があるなか基本、炎や雷、水と言った物質を生成してぶつける技が多い印象だった。
「多分大抵の魔法は何でも効果があるから特に何も言わなかったんだと思う。それなら魔法で生成されるもの……例えば水。液体が苦手なんじゃないかと思って水筒を開けたらこの結果だ」
首を甲羅の中に入れた『ガメゴン』は気のせいか怯えて震えているようにも見えた。
「…………凄いな。『ガメゴン』が水を嫌うなど私は気づかなかったぞ。流石我が親友」
「たまたま思いついただけだよ。試しにお茶をかけてみよう」
俺はそう言うと持っていた水筒の中身を『ガメゴン』の甲羅にかけた。
しかし甲羅は濡れただけで特に変化はなかった。
「濡れても変化なしか……」
剣の柄で甲羅を叩いてみるが、特に壊れやすくなったといったことはなかった。
「首を引っ込めたってことはそこが弱点か」
お茶……液体の音に反応して首を引っ込めたなら、お茶をかけた状態で首を攻撃したらどうなるか。
「カエサル。引っ込めた首にお茶を掛けるから攻撃してくれ」
「よし、任せろ」
俺は残り半分のお茶全てを首のある穴へと掛けた。
「グェエエエエエエエッ!!」
「うぉっ!?」
すると『ガメゴン』は叫びながら顔を出してきた。
お茶が掛かった首をブンブンと振り、嫌がる素振りを見せる。
真正面にいた俺は思わず、尻餅をついてしまった。
「ジオン!」
言いながらカエサルは俺に背を向ける形でガメゴンの前に立ち、その首目掛けて剣を振るった。
「終わりだっ!!」
すると今度は弾かれることなく剣が首を切りつけた。
『ガメゴン』は最期の叫び声を上げると同時にその身体が粒子となって消える。
あとには甲羅だけが残るようにその場へゴトリッと音を立てて落ちた。
『ガメゴン』は見事倒せたのであった。




