14「後日」
「はっはっはっ! やったぞジオン! 私の武勇とジオンの知勇の前に『ガメゴン』など襲るるに足らずだ!!」
「わかった。わかったから引っ付くな! 暑苦しい」
抱きしめてこようとするカエサルを引き剝がし、俺は残された『ガメゴンの甲羅』を近くで見ようとしゃがんで観察した。
「錆びなし、傷なし、変色なし。これならヨハンさんも文句ないだろうな」
「そうだ! これで文句など言わせてなろうものか!」
「文句言われるようなものを売ってたのはお前だろうが」
これまで『アイテム処ヤソップ』に駄目な素材を売っていたカエサル。
自分のことを棚に上げて調子の良いことを言っていた。
「……ったく。まあでもカエサルが一緒に来てくれて助かったよ。俺一人だと体力的にキツイし」
「その通りだな。感謝しろ私に」
「どの口が言ってんだこの野郎!」
目に余る図々しさだったため、俺はカエサルの頬を掴んで思いっきり引っ張ってやった。
「痛い痛い痛い痛い痛いっ! 悪かった! 私が悪かったからいますぐ離すんだ!」
「調子に乗るのもいい加減にしろ」
俺の気が紛れるまで引っ張って放すと、ヒリヒリとした頬をカエサルは労るように撫でていた。
「さて問題はここからだ。どうやってこれを持って帰るか……」
俺は甲羅を持とうと掴んで持ち上げようとしてすぐ諦める。
あっ、無理だこれ。重すぎる。
「カエサル。前にカエサルが『ガメゴンの甲羅』を運んだときってどうやって運んだんだ?」
「ふ……そんなの決まってるだろう」
そう言うとカエサルは甲羅に近付く。
甲羅は『ガメゴン』が甲羅を被っていたときとは違い、ひっくり返ったような状態で地面に置かれていた。
傍目から見たら巨大なお茶碗のようである。
その縁に手をかけるカエサル。
するとそのまま地面を引きずる形で甲羅を運び始めた。
「おい、嘘だろ。それで村まで運ぶのか?」
「そうだ」
「そうだじゃねーよ! 何時間かかると思ってんだっ!?」
俺は頭を抱えた。
店で見せた貰ったものはまだ二人掛かりで運べそうだと思う大きさと重さであった。(ヨハンさんは一人で軽々と持っていたが)
しかし、これはその倍近くある大きさで重さもそれに比例して重くなっている。
村からここまで歩くのでさえ三時間近くかかっているというのに、この調子で進んではいつまで経っても村には到着出来なさそうであった。
クソっ! こんなことになるならヨハンさんから『ガメゴン』の情報だけじゃなくて運ぶための道具か何かを借りればよかった。
「なあ。素材ってこうやって人の手で運ぶしかないのか? 他の人たちも似たような感じで運んでいるのか?」
俺はカエサルに聞いた。
「他の人のやり方なぞ知らん。私はいままでこうやって運んでいたんだ。シィルヴィアと一緒に来たときはキューちゃんに運んでもらったしな」
カエサルは甲羅を運びながら答える。
「キューちゃん! やっぱりキューちゃんは全てを解決するのか……!」
俺はキューちゃんと一緒に来なかったことを先ほどよりも深く後悔した。
「ジオン。文句を言っても始まらないぞ」
「カエサル…………」
カエサルは真面目な顔で俺に言う。
先ほどまで調子の良いことを言っていたカエサルだが、その熱意は本物であった。
切実なカエサルの姿に俺は考えを改める。
そうだな。文句を言っても仕方ないよな。
「初めてまともに取れた素材なんだ。どれだけ時間がかかっても私はこれを運びきるぞ。ジオンは私の兜と背嚢を代わりに持ってくれ。私がこれを運びきってみせる!」
「ああ、わかった!」
カエサルの熱意に押され、俺は文句をいうことをやめた。
カエサルがあんなに頑張ってるんだ。
いまはできることをやろう。
感動した俺はカエサルと共に少しずつ村の方へと進むのだった。
ーーー
「やっぱり無理だ。捨てようこれ」
「すぐ諦めてんじゃねーかよっ!!」
カエサルが最初に運び始めて約十分。
進んだ距離は約三メートル。
カエサルは手を放すと両手をその場に上げて諦めていた。
「前に私が運んだのとは比較にならん。このままでは暗くなってモンスターの餌食になってしまう」
「さっきまでの熱意はどうした!? 運びきるって啖呵切ってただろうがっ!」
「ときには諦めも肝心だぞジオン」
「俺の感動を返せ!!」
やっぱりこうなるんじゃねーか。
俺は再び頭を抱える。
他に運ぶための方法を考えるが、何も思いつかなかった。
「……駄目だ。今日は放置してこのまま帰ろう。明日、キューちゃんに頼んで運んでもらうのがベストだ」
「そうだな。自らの手で運ぼうなどと考えるのではなく、使えるものを利用して楽に運ぶべきだったな」
「嫌な言い方するなよ! こういうのは戦術的撤退って言うんだ!」
こうして俺とカエサルは手ぶらで村へと戻ることになった。
ーーー
「それは大変でしたね」
夕食を食べ終えたシィルヴィアが同情するように慰めの言葉をかけてくれる。
結局あのあと、『ガメゴン』を倒した俺とカエサルは甲羅を運ぶことを諦め、早々にウッチャ村へと戻っていた。
村に到着した頃には既に日は傾き、夜の入りを思わせる暗さになっていた。
家に帰るとシィルヴィアが夕食を作ってキューちゃんと共に待っていてくれたのである。
「まさか甲羅の運搬にあんなに手こずるとは思わなかったよ……」
俺は甲羅を運べなかったことを悔やんでいた。
シィルヴィアとキューちゃんにそのことを話すと同情するように労わりの言葉をかけてくれた。
「キュキュ。キュー」
「ありがとうキューちゃん。何て言ってるのかわからないけど」
キューちゃんがその柔らかい身体で俺の頭を撫でてくれた。
ああ本当に良い子だわキューちゃん。
「『次からは自分も一緒だから落ち込まないで』、と言ってますね」
シィルヴィアがキューちゃんの言葉を翻訳してくれる。
「そうなの? ありがとうキューちゃん!」
「キュー! キュキュ―!」
俺は嬉しくなってキューちゃんの頭(と思ったが、頭かどうかわからない)を思いっきり撫で回した。
「素材が重かったり、大きい場合は荷車を使う人もいれば、馬や飼いなれたモンスターに運んでもらう人もいますね」
「うう……それを出かける前に知りたかった」
ヨハンさんと話したときは、店にある大きさなら重たいけれど運べるから心配しなくていいと言われていた。
まさかあんな大きい『ガメゴン』がいるとは思わなかった。
「おーい! ジオン。いまから鍛錬で汗を流そうじゃないか」
居間でゆっくりと過ごしていると、扉を開けてカエサルが入ってきた。
上半身裸でむさ苦しい鍛え抜かれた身体が露となっている。
「なんで裸なん? 見せつけてんのか?」
「うん」
「うんじゃねーよ」
俺はそう言ってキューちゃんから手を離すと、椅子から立ち上がった。
昼間、カエサルと話していた鍛錬を一緒にやらなければならない。
「兄様、鍛錬ですか?」
「ああ。食後の運動に行ってくる」
サムズアップでシィルヴィアに応えるカエサル。
カエサルが裸でもシィルヴィアは特に何も言う様子はない。
見慣れているのだろう。
「俺も行ってくるよ。シィルヴィア、悪いんだけど皿洗いは――」
「いいですよ。私やっておきますので。外は暗いので気を付けてくださいね」
「ありがとう。ちょっと行ってくるね」
そう言ってカエサルと共に俺は家を出た。
「そうだジオン。お前、母上の仕事受けたらどうだ?」
「なんだよ突然」
家を出てカエサルが俺に言う。
藪から棒になんだ?
「今日一緒に『ガメゴン』と戦って思ったが、ジオンは頭を使ってモンスターと対峙していると私は思った」
カエサルが真面目な口調で言う。
「あれならば、母上の要求も問題なくこなせるような気がした。素材採集もいいが、ジオンはモンスターの研究調査の方が向いている気がする」
「そうか? テンパって慌てふためいていただけな気もするが――」
俺の言葉にカエサルが首を振る。
「謙遜するな。『ガメゴン』の弱点を探そうとして水筒を取り出したときはトチ狂ったかと思ったが、甲羅は持ち帰られずとも『ガメゴン』は倒せているのだから」
素直な称賛に嬉しい気持ちになるが――
「トチ狂ったは余計だよ」
俺が口をへの字にするとカエサルはニヤリと笑って、剣を鞘から抜いた。
「ふ……さあ、話は終わりだ。身体を動かして汗を流そうぞ」
カエサルの言葉に俺は頷いて自身の剣を抜く。
素振りから始めると言われ、カエサルの指示のもと俺は汗を流すのであった。
お世話になります。作者の十土川三です。
「特別とは無縁の異世界転生物語」をお読みくださり、ありがとうございます。
本作品の執筆を中断していることを報告いたします。
申し訳ございません。
理由を述べますと、作者が本作品を読み返したときに直したいと思う部分が全体のストーリーを始め、各キャラのインパクトの薄さ、主人公の心理描写を始めとした演出不足、無駄に凝った設定、文章の読みにくさ、投稿文字数の分割割合及び投稿頻度等々、上げればキリがなくなってしまい、編集して直すよりも新しく書いた方がいいなと思ったからです。
そもそも本作品は今までの作品と同じように書くのをエタったものではありますが、闇に葬るくらいならいっそ一度くらい投稿してみるかと思い、このような形で世に出したという経緯があります。
作者の都合で更新を止めたことを再度謝罪いたします。
申し訳ございません。
今度また別作品をお読みくださる機会がありましたら作者としては大変ありがたいと思う一方で、また更新停止をするんじゃないかと読者の方に思われても当然だと考えております。
それに関しては情けない話ですが否定できません。
そしてここで期待させるようなことを書く方がよっぽど失礼かと思い、このような形で文を綴らせていただきました。
これにて後書きの文を締めさせていただきます。
改めてここまで目を通してくださりありがとうございました。




