099⚫️二兎を追う & 100⚫️呪か病か
099⚫️二兎を追う
高熱が出る。
老若男女にかかわらず、発症する。
全身が脱力し、脱水症状が見られる。
発疹が出る。皮膚の色が黒くまだらになり壊死する。
錯乱状態になるものも出始めた。
’伝染る’恐怖に押しつぶされる前に
治療法を見つけなければならない。
バルハインとその仲間たちは、発病者への対応と
根治の究明の二兎を追う。
100⚫️呪か病か
バルハインは老人の皮膚に触れた指先を、そっと離した。
脈は弱く、速い。
皮膚は乾ききり、まるで水分が抜け落ちているようだった。
・・・感染症にしては、脱水が早すぎる。
彼は老人の口元に鼻を近づけた。
呼気に、わずかな海の匂いが混じっている。
「ガルドン。昨日、この老人は何を食べた?」
「何って・・・いつも通りだ。海で獲れた貝と、干し魚と。」
「貝?」
バルハインの声が低くなる。
「貝は、どこで獲った?」
「近くの浅瀬だ。最近は海がぬるくてよ。魚も貝も、やけに獲れやすい。」
バルハインの胸に、冷たいものが走った。
海がぬるい?この時期に?
彼は立ち上がり、周囲の患者を次々と診ていく。
全員に共通しているのは
高熱、激しい脱水、全身の脱力、皮膚の黒ずみ・壊死の前兆、
そしてもう一つ。
発症者の全員が特に海のものを多く食べていた。
「感染症ではないのか?」とカナタが問う。
「わからん。」バルハインは首を振った。
「だが、人から人へ感染っている様子はない。症状の出方も、感染症の広がり方とは違う。」
彼は地面に膝をつき、老人の口を開かせた。
舌の裏に、小さな黒い点がいくつも浮かんでいる。
これは、寄生虫か?いや、それによる毒素だ。
バルハインは立ち上がり、数人の人々に向き直った。
「これは海の変化がもたらした’毒’によるものだ。」
村人たちがざわめく。
「毒・・・?」「伝染らんのか?」
「海底が動いたのだろう。」バルハインは応える。
「海がぬるくなったと言ったな。それが’眠っていた何か’を目覚めさせたのだ。」
カナタが息を呑む。
「海底火山か?」
「可能性はある。」
バルハインは頷いた。
「海が温まれば、毒を持つ虫や微生物が増える。それを食べた魚や貝を口にすればこうなる。わたしも初めて見た。だが、複数の症例をあわせれば、そうだと考えられる。」
ガルドンが震える声で言う。
「では・・・慣わしは?」
「極端だが間違いとも言い切れない。昔の者は、理由はわからずとも対処法だけは経験的に知っていたのだろう。」
バルハインは静かに言った。
「毒を持った死体を埋葬すれば、他の動物を介して広がるかもしれん。だから’火に飛び込ませる’という形になったのではないか。」
村人たちの顔に、恐怖と理解が入り混じる。
「だから・・・」バルハインは力強く言った。
「人を焼く必要はない。毒は物に残る。衣服、寝具、調理器具・・・それらを消毒すればいい。人は救える。救うんだ。」
カナタが頷き、声を張り上げる。
「聞いたな!衣服と寝具を集めろ!湯を沸かせ!身の回りのものを鍋に入れるぞ!」
ガルドンも、深く息を吐いて言った。
「わかった。あんたらを信じる。」
村人たちが動き出す。
バルハインは再び患者のもとにしゃがみ込み、
その皮膚の黒ずみを見つめた。
毒素性・・・寄生虫性・・・どちらにせよ、海が原因だ。
だが。
胸の奥に、別の不安が芽生える。
海底火山が動いたとすれば、この後は何もないのか?
治療テントの外、穏やかな波音が聞こえていた。
100話をこえて もう少し続きます。




