055⚫️ゆれる振り子 秩序のありかた
秩序とは、人間が生存し続けるための装置である。しかしその装置は、常に「多人数による緩やかな拘束」か「少人数による強権的な統制」かという二律背反の間で揺れ動く。
前者は同調圧力やマナーとして現れ、社会に安定をもたらすが、人間関係の煩わしさを伴うとともに、ドラスティックな変革を阻む。後者は独裁者のように迅速な危機管理を可能にするが、権力の暴走と腐敗、抑圧というリスクを孕む。ワイマール共和国が独裁を招き、ローマの独裁官が帝政へ転じた歴史は、合議制の不全が強権への渇望を生むという皮肉な真理を示している。
完璧な秩序は存在しない。前述のような両極論ではないとしても、私たちは、あやふやな空気に疲れ、時に強力な指導者を望む。だが、秩序を維持する力がそのまま争いの火種になるという矛盾を忘れてはならない。結局、私たちが選べるのは、どちらがより「マシな不自由」かという選択となり得る。同調圧力による微かな窒息感は、破滅的な動乱を避けるために人類が支払い続けている、最低限の代価なのかもしれない。
なぜ、公国は予の提案をこのような形で応えとするのだ?
ジンが言わば’世界の支配者’になるのだぞ。
予の企みに気がついたのか?
いや、この自我が覚醒したことは、誰も知らぬ。
・・・まあ、よい。
’ジンの半身’を残していく、ということで今は良しとしよう。
公国に対してのこの遠大な計画。
やや決定力に欠ける人質だがな。
ふん。
秩序は予が作り維持する。
臣下や、ましてや民の意思など不要、無用、虚用。
手駒として、このカナタを如何に使うかだな。
レグナスは公国からの手紙を忌々しそうにテーブルに置く。
今や彼がアルコールを愛飲することは、日常の風景となっている。




