ぜんぜん必要じゃない戦いの始まり
「遅いよ!!!」
公民館的な施設でマリウス王子と合流した瞬間、なぜかキレられる私達。
ヤマトを追いかけつつ面倒な仕事もこなしてたっぽいので忙しかったんだろうなとは思うが、こっちだって色々やることあったのにそんな事言われてもな。
「貴方達最強の二人を相手に勝負を挑むようなものだったんだ!時間まで出来る限り粘ろうとめちゃくちゃ色々考えてたのに!!もう夕方だよ!!!」
「何の話?こっちだって色々忙しく頑張ってたんだぞ」
「そもそも朝起きるのが遅すぎる!!!」
「えっなんで知ってんの?まさかお前私のプライベート覗いてる?」
「きっと早朝から動くと思って連絡に行ったんです!『あと数時間はスヤスヤだからお引き取りを』って言われたよ!!」
どうやら私はお手伝いさん達にもだいぶ甘やかされているらしい。
「仕方ないだろ。なんか最近夜遅くにヤモリが魔石のパズルをちょっとずつ持ってくるんだよ」
「何の話です?」
「私もよく分からないからちょっとずつ組み立ててる」
「タリア、ちなみに全然遅いって程の時間でも無いわよアレ」
アネモネの突然の裏切りによって私がただ朝弱いだけだとバレてもっと運動しろと怒られる。動くなだの運動しろだの、どいつもこいつも。
心配が理由でも何を言っても良いわけじゃないし、心配ってのは自分のストレスなんだから当人に気軽に押し付けるなよって話だし、別に王子の場合あんま心配されている訳でもない。
なんならこいつ私の事を過剰に高く見積もりすぎだろ。
「王子、お前最近ちょっと事務とか慣れて身体能力も自慢だからってちょっと調子に乗ってるだろ。言っておくが私だってスポーツ的な事も智将役で出来る気配してきてるからな」
「智将がチョロすぎて勝負する時間も無くなっちゃったんです!!」
「何の話?」
「あ、あー。それでデータの方はどうなんです?医学的な診断はさすがにタリア王女の力をどうしても借りたい」
「もう知ってるんだその話?なんかねぇ、でっかい封印で包んで隔離するような事をすると、サキュバスみたいな完全に魔力を基準にした生態系の人らは何かと断絶されて息苦しさを感じるっぽい」
「あれ?もっと具体的な健康への影響とか世界の状態とか……気象データや魔力の観測みたいな分析用の書類も色々届けた筈ですが?」
「え?あ、じゃあ入れ違いで家に届いてるかも。もっと具体的な話とかは当然もっと時間かけて精査しないとすぐは分からないし、一緒に調べとくよ。とにかく封印に悪影響があるのだけは断定出来たから、先に止めようと思って」
「……賢者ってもっとなんでも即答出来る筈じゃないんですか?」
「だからぁ。もうしつこいくらい毎回皆に言ってるんだが、答えってのは沢山あるものなんだって。それも何がどうなってどう悪影響なのかって式をふっ飛ばしてる答えなんだぞ。こういうのは精査しなきゃ駄目に決まってるだろ」
もはや口癖みたいに皆に言ってると思うんだが、いまいち浸透しないんだよなこれ。別に賢者の力に限らず、大体の物事でそうだろ。
うーむとか言って腕を組み、なんか反省してるような変な表情をする第一王子。
「──ところでタリア王女、僕はこの時間を浪費する謎会議で完全に目的を果たしてしまったんですが、『こんな話をしてる場合じゃないから急いでヤマトくんを捕まえなきゃ』とか一度も思わなかったんですか?」
「ふざけるなよ!?割と中心的に頑張ってるお前の話は緊急でも一旦聞くべきだと思うからこうやって一旦合流して話してるんじゃないか!」
「そう言われるとちょっと胸が痛い気もする。無敵の天才に挑もうと僕的にはかなり一大決心した挑戦だったのになぁ。お人好しを騙しただけになってしまった。本当にチョロすぎる。なんだか申し訳無い」
よく分からん事をぶつくさ言いながら、大きな机にでかい紙を並べる王子。
……分かりづらい絵とか図。感覚的に雑に簡易化してたり、変な記号が散らばったり重なったりしてて見づらかったり、身内ノリの暗号みたいなやつ。
まずい。これ地図だ。
「さて、ヤマトくんは現在この区画にある山のどれかに潜伏しているようです。ウラニア博士が空を、僕の兵がこちらを。隊長のチームが北を抑えています」
「うん。なるほど」
「……なぜ方位磁石を?」
「隊長が北ね?」
「それは東ですが?まさか北を太陽の反対だと誤って覚えていませんか?」
「……地図の太陽はどっち?」
「嘘だろ!?まだ地図が読めないんですか!!?賢者が!!?」
「うるせぇ!!地図を読むってなんだよ!!読むほど色々丁寧に書いて無いじゃないか!!」
「ヤマトくんに地図の練習帳を貰ってたじゃないか!!まだ駄目なの!?」
くそっ人の弱点を突いて良い気になりやがって!簡単になんとかなるなら人間に得手不得手なんて存在しないんだよ!
「仕方ない、アネモネ様が付近まで案内してあげて下さい……アネモネ様?」
ふと隣を見ると、いつも必ず一緒に居る筈のアネモネが居ない。どうやら地図を見た瞬間に逃げて隠れたらしい。
「ずるいぞアネモネ!!私だけに恥をかかせるのか!!!」
「聖女様もまだ駄目なんですか!!?」
騒然とする公民館。ヤマトを急いで捕まえなきゃいけないんだけど、確かに遅すぎると怒られる程度にはちょっと進みが悪いかも。ちょっとだけね。
「本当は多少引き延ばせたら御の字で、後は上手いこと駆け回って誘導したりする筈だったんだけどなぁ……」
そしてずっと何かぶつくさ言っている王子。疲れが溜まっているようだ。
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ヤマトが居ると言われた区画で中央の中間管理職な隊長と合流する。
「今日はもう別に良くないですかね?」
「諦めるなよ!」
「いやもう完全にしてやられてましてね。王子は裏切り者だ。恐らく勇者様はこっちには居ない」
「はぁ!!?」
突然の信じられない情報に耳を疑う。
「賢者様はなぜここに?」
「い、いや、地図で説明されて……」
「ほらぁ」
「何がほらなの?」
やれやれと言った顔のおっさん。うざ。
「賢者様の索敵は最強だって話だったじゃないですか。なんで地図で指定されなきゃならんのです。自分で探した方が絶対に正しかったでしょう」
「……!?」「!!?」
驚愕する私とアネモネ。
そもそも地図がよく分からなかったので、無駄に時間を食いながら上空に飛んで実際の風景と照らし合わせながら教えて貰っていたのだ。
「地図を教わっていたあの時間は……恥をかいただけで何の意味も無い……!?」
「そんな……!」
そういえば隠れたアネモネを見つけ出して、恥の道連れにしたのは私だ。索敵は得意なので。
うわ確かに、意味無いよ地図!!やっぱり要らないんじゃん地図なんか!!!
「我々もそろそろ日暮れからの真面目な警備に備えて戻らないとなりません。また明日、今度は直接合流しましょう」
「……待って欲しい隊長さん。嫌だ。絶対許せない。今すぐ捕まえよう」
白衣の内ポケットから純魔力の入った水筒のような小さな容器を取り出す。かつてアネモネが見つけ出した、普段の魔力に色々付着している非物質的な何かを色々剥ぎ取ったすごい素材だ。
そしてその最初の使い道。ふわふわと浮かぶ、光る牢。あれを真似してぼちぼち再現した。
本当は私もあわよくば活躍してヤマトを捕まえちゃおうと思って持っていた切り札の一つだが、どうせこんなもん逃げてる相手には当てられないので、今使ってしまおう。
「あの、賢者様、これはなんなんです?なぜ我々をこの中に?」
「ちょっと待ってね、こう、アネモネが持てるように取っ手的な何かを付けないと」
「あ、私出来るわよ」
突然ジャラジャラという音が鳴り、光って浮かぶ牢屋にグルグルと黒い鎖が巻き付いていく。
さすがアネモネ。魔法粘土の操作に更に磨きがかかっている。そしてどうやら私の意図も理解したようだ。戦いっぽい事になるほどアネモネは冴えていく。
「残った皆はちょっと頑張っておいて。隊長さん他数名は完全に夜になる前に返すから」
「はい!」「了解です!」
「はいじゃないが。部下も南の兵も何も疑問に思わないのか?ちょっと待って下さい。まさか我々を誘拐するつもりですか?」
「うん」
「うんじゃないが!いや今日はもういいでしょうって!!」
アネモネに目配せを送ると、私を左の小脇に抱え、右手には鎖を持ち、一度軽く跳ねると着地時に足が若干浮く。恐らく圧縮空気のバネだ。
これが出来るなら広く柔らかく壁を作るのも出来るんじゃないかと思うんだけど、広範囲をそっと支えるみたいな方が狭くギュッと固めるより多分難しいんだろうな。
そもそもアネモネの魔法は何もかもが全く理解出来ないので、何がどう難しいのかなんてレベルに辿り着けるわけも無いのかも知れないが。
「「「うわああああああああああ!!?」」」
私はもう慣れたものだけど、光る牢屋の中からは隊長と数名の仲間の悲鳴が聞こえる。アネモネのスーパージャンプと、謎の上空足場着地だ。3階建ての建物や塔より遥かに高い。
「アネモネ、隊長さん、多分……あっち!」
「分かったわ」「降ろしてくれ!!高くて怖い!!です!!」
今にして思えば、私は最初からヤマトを捕まえるのにこの隊長さんが大事で、逆にマリウス王子は頭数になぜか入れなかった。
きっと気付いていたんだろう。数々のBLエロ同人によって、あの二人が硬く結びついていることを。
確かに、あの王子がヤマトを尊重しない筈が無いんだ。
そしてこの隊長さんの体術は多分本当に別格に強い。ヤマトと肉弾戦で戦えたという話もだが、アネモネとまともにやりあえる人は相当レアだ。
かつてスポーツに人生の全てを費やしていた異世界人相手に、スポーツ的な戦いを挑む。これが思ったより大変なのはもう先日じゅうぶん思い知った。
本来の目的はあいつの健康とか倫理観を守る為だが、強さと策略にしてやられて、さすがに「もう負けたくない」という純粋な欲求も出てきた。
だってムカつくもん。勇者がセコい策略ばっかり使いやがってよ。しかも大体その被害者は私だ。もう許せん。
「そっちの山!……アネモネ!!そこ!!」
小脇に抱えられたまま、自分の髪の毛をあちこちに巻きつかせて、複雑な魔法陣を発動させる。
魔法を消す魔法。国王のおかげでこれが変換魔法なのだと理解し、改善された新技。
補助道具なしの指向性消去魔法だ!
「げっ!?」
ヤマトはどこで手に入れたのかやたら自然に気配を隠す結界魔法道具を使っていたが、知的天才美少女賢者の私は常に頭の中にネタバレコメントが渦巻いている。
もう最初から全部お見通しみたいなものなんだよ。割と感覚的なものなので、いまいち自分が何をどうお見通ししてるのか分からんが、お見通しはお見通し。天才は天才。
ちょっと急激な疲労感で眠くなっちゃったけど、早速ヤマトの防壁の一つを砕いたぞ。
「索敵と、防壁破りでは、私の勝ちだ!!一旦勝ち!!アネモネ!隊長さん!」
「任せてタリア!」
「えっ、何、なんです!?」
アネモネが鎖をブオンと振り回し、光る球体の檻の魔法を私が解くと、中央の隊長と精鋭達が良い感じにバラけて飛んでヤマトをざっくり包囲するように配置されていく。
隊長さん達の「ぎゃあああ」という悲鳴で一瞬不安になったけど、例によって着地箇所にクッション的な空気の塊があったようで事なきを得て、勇者への緊急リベンジ戦が唐突に開幕……
「……あれ!?アネモネ!そのクッション!!いやそうだよね!?やっぱり柔らかい壁出来るよね!?何度か見たことあったもん!」
バネっぽくして飛んだりするのもこちらが求めている弾力性のある壁なわけだし、やっぱり出来るんじゃん。繊細がどうのこうのはなんなんだ。
「あれは壁を作ってるんじゃなくて、こう、その、風をぎゅっと集めて……」
「違いが分からないよ!?まぁそれどころじゃないか、付かず離れず追って欲しい」
中央の人達は南より結構シリアスなので、悲鳴を上げながらの着地からも一瞬でテンションを切り替えて動き出し、既に捕獲戦が始まっている。
「もう終わりだと思ってたって!隊長!タリア!!俺もう封印しない!健康被害とか色々十分調べられたんだろ!?」
拡声器らしきものでヤマトの大声がより響く。
なるほどなるほど。確かにマリウス王子は裏切っていたらしい。情報が筒抜けだ。後で糾弾しよう。
ヤマトの走る方向を制御するかのように隊長がむしろ距離を取るように走りながら捕縛機を使ったり魔法を撃っている。
「王子と勇者様が余計な策略まで練りすぎるから巻き込まれて!上空から投げ飛ばされたんですが!!さすがに俺……私ももうキレたぞ!」
「上空から投げるやつが悪いでしょ!?キレる相手俺じゃないって!!てか一人称言い直してるあたり実は絶対冷静でしょうが!!」
「悪いが全力で逃げてもらい、全力で捕まえさせてもらう!露出狂王女の判断は恐らく正しい」
中央の中間管理職隊長おじさん、今もしかして私のこと露出狂王女って言ってなかった?
「これは来たるべき日の前哨戦だ!問題があると分かっていても巨大封印を使うべきだと勇者が判断した時、我々は貴方をこうやって強引にでも捕まえて止める」
「えー!?いや、そう言われると手を抜いちゃ駄目みたいになるよ隊長!」
「駄目です!被害の取捨選択まで誘拐被害者の異世界人に背負わせる展開になってはいけない!今ここで決着を付けよう、異世界勇者!」
「ええー!?熱い!絶対要らんと思うんだけど頑張りたくなってきたな俺も!」
どうやら隊長さん達も独自に何か色々準備したり考えたりしていたらしく、なんかよく分からない凄い連携とかでヤマトを追い詰めていく。
なぜかヤマトの方も対策の対策を練っていたらしく、前回より更に妙な動きと速さで動き回り、包囲を抜けようと暴れまわる。
「タリア、壁は?どこに配置すべきか、こういうポインタ的に使える照明道具で示せないかしら?」
アネモネが小脇に抱えていた私をお姫様みたいに抱っこしなおし、どうやら事前に色々考えていて準備していたらしい道具を渡してくる。皆やる気満々じゃん。
「なるほど!えっと……ここらへん!」
私が示した位置に見えない壁が作られたっぽいのとほぼ同時にヤマトがそこに追いやられていく。
ふはははは貰ったぞ。スポーツは確かに苦手だけど、ボードゲームとかは逆に負けたことが無いんだ。こういう上空からの俯瞰視点からちょっかい出すのは普通にいける。
「……だめ、硬すぎた!!」
アネモネの若干悔しそうな声と、下から響く謎の歓声。
なぜバレたのか、ヤマトは見えない壁を数歩走って不可思議な方向転換を行い、予想外の動きに隊長さん達の包囲が乱れて抜かれそうになり、若干間を広げて仕切り直す形になっていく。凄い動きに、敵ながら思わず感嘆の声が漏れるくらいだったようだ。
そういえば前回も硬い壁は出したけど抜かれたと言っていたし、読まれたら駄目なんだな。
壁に近づく途中で一瞬小さな魔法弾みたいなものを撃ち出して壁を確認していたので、結構余裕で対処された感じがする。
まさか上空からのポインタ照明が下からでも分かっちゃったんだろうか。ビームっぽい光の線が一点に向かって伸びてたからなぁ。
「言われた通り柔らかく出来ていたら、今ので……!いえ、でも一瞬壁を確認していたから、それも読まれている……?」
悔しそうなアネモネ。
「壁じゃなくてあのクッションは?」
私が示したポインタの位置に今度は狙い通りの柔らかい壁が発生する。
目の前にでっかくて柔らかいクッションが現れるんだ。ぶつかったらもう終わり。勢いは絶対に落ちる。
これこそ私の狙っていた作戦で、天才賢者による勝利の一手だ。簡単に突破出来るわけが
「せいっ」
……何の魔法装備か分からないが、ヤマトから放たれた斬撃のような魔法弾があっけなく空気のクッションを切り裂いて、乱れた風の中を普通に駆け抜けられてしまう。
そういうことだったのか。アネモネはこのサイズでこんなに柔らかかったら簡単に壊せるし、なんなら強引に突破も不可能では無いと分かっていたので、調整に苦労していたわけだ。
私がヤマトの能力を軽んじていたと言うか、戦いにおける力関係とかを全然肌感覚で理解出来ていなかったんだろうな。
「だめ、タリア、やっぱりもっと大きく、もっと硬く、それでいて柔らかくしないと……」
悔しげなアネモネ。これに関しては私がヤマトに負けているだけなのでアネモネは気にする必要ない。
思考を回転させる。本気のアネモネは信じられないほど強い。相手を抹殺出来ないスポーツ的なルールに向いていないのと、私の作戦に従って動いているから勝てないだけ。
その気になればとんでもない大竜巻まで発生させられるんだから、風を操るサイズだって本当はもっと……
「……アネモネが広く柔らかい壁を作りづらいのって、もしかして空気中の魔力を薄く拡散させつつ、その薄い魔力を細かく操作するのが難しいから?」
「うん」
「早く言ってよ!じゃあ魔力が沢山漂ってればもっと自由自在なんだね!?」
「もちろんよ」
恐らく、私にも何度も見せたことがあるから当然分かってると思い込んでいる純粋な顔。私の賢さを一切疑っていない目。
いや。全然分かってたけどね。最初から全部分かってたね。
「アネモネはさぁ、もし私の言っている柔らかくてでかいクッションが上手く出来たとしたら、ヤマトは捕まると思う?」
「隠している切り札によるわ。ほら、明らかに何か隠している」
ほらと言われても。それは何をどう見たら分かるものなの?
いや。全然分かってたけどね。ほら、あいつセコイし。しかも完全に行動も読まれてたから、絶対に何かずるい対策手札を持ってる。うん。全然分かってたわ。分かってた筈。
「……よし!私が魔力を用意する。アネモネはそれで分厚くでかいクッションを作る。そんでヤマトが何か切り札を使ってきたら、こっちも切り札としてアネモネ本体にいい感じに頑張ってもらう」
「急に凄い自由なオーダーがあったわ!?」
「私は一旦ゆっくり落下する魔法で上から把握しておくから、両手を使えるアネモネ本体がいい感じになんとかして」
「全然ダメよ?作戦がよく分からないし、タリアの護衛から離れる気は無いもの」
「でも勇者を止めるのってアネモネにとっては私より大事な事だと思うよ」
「タリアより大事な事なんて無いわ」
凄い。ついに勇者への罪よりも私を優先したぞ。
「じゃあもう一瞬だ。一瞬で決着をつけて。恐らく道を塞ぎ、隠された切り札も潰せば、後は隊長が決めてくれる」
「うーん。うーーーん」
めちゃくちゃ悩んでいる。あまりにも過保護過ぎる。あれかな、一回私が狙撃されたせいなのかな。
生きた弾に狙われたのはあれ一回だけだと思うんだけど、あれを本当にずっと警戒している気がする。
実際いまいちよく分かんなかったもんね。教会の上空でなんか撃たれて、それが防護壁の中からだってなって、どれのせいか分からないまま多分アネモネが全部蹴散らした。
本人曰く見えない敵が小さいのもいっぱい居たらしい。
「まぁどっちにしても選択肢は無い。私を守るためにアネモネが動けず、倒すべき相手を倒せないなら、私達は私のせいで誰にも勝てない」
「そんなこと無い。タリアの索敵も奇襲の先読みも直接戦闘なんかと比べ物にならないほど重要な要素よ。タリアを守る限り私達は誰にも負けない」
すごい、驚くほど頑なに私から目を離すのを拒む。或いは本当に戦闘面ではアネモネが正しく、私が色々甘くて勘違いしているのかな。
「となると、もういっそフェイントとかしてみる?本当に狙っているやつが居るならさ、街が襲われるような防衛の本番よりこういう機会にわざと誘うように隙を見せてさ」
「うーーーーーん」
「ヤマトにもアネモネが突っ込むフェイントをかけるだけ。私を狙うやつも見つけて捕まえる為にフェイントをかけるだけ。一旦これでどうよ?」
「……まぁ、うん、ちょっとだけ。本当にちょっとだけね?」
聖女は押しに弱い。なんだろう、なんか自分がエロ同人の迫る側になったような謎の罪悪感と高揚がある。
下では激戦が繰り広げられていて、なんと隊長が押している。前回ヤマトが中央の人達より私達の方が弱いと判断してこっちを抜いたのは本当に正しかったようだ。なんてムカつくやつなんだ。
そして中間管理職おじさんの隊長が一瞬ちらっとこっちを見て、意味ありげに視線を山頂側に向ける。
「アネモネ、今のは」
「うん。山頂側を塞いでくれって合図ね」
髪の毛を短めに一本切る。あんまり多いとむしろ危ないかも知れないからね。
「作戦は大丈夫だよね?もう一回確認。私が魔力をたくさん作る。アネモネがでかいクッションを作る。ヤマトに切り札があったら、いい感じにアネモネ本体がフェイントで頑張る」
「いい感じに頑張る……いい感じ……?」
うん。まぁよし。いけるよ。だって今回は負ける気がしないもん。
やるぞ!勇者に勝つ!!




