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目的とか無いほうが楽しいのかも



恐らくお父さんの、変換魔法。



はたして物理的なエネルギーとマジカルなエネルギーが実際にはどういう比率で成り立っているのかよく分かんないけど、数学者でも無い異世界人だって普通に知っていたくらい物理世界では凄まじい法則がある。


いや本当はもっと面倒くさいややこしい式なんだけど、異世界ですら見栄え的に整えた式になっていた。やっぱバズる工夫はなんにでも必要なんだなって。



そんなわけで、髪の毛一本と普通に言われたら大した事無いような感覚になるけれど、この宇宙からこの質量のものが別概念のエネルギーに変換されるとしたら、まーだいぶ凄いわけよ。パワーが。すんごい魔力になるわけ。




「いくよ!アネモネ!!」

「う、うん!」




中央の中間管理職な隊長おじさんと、その仲間の精鋭っぽい人らが、こう、いい感じにヤマトを追い込む。


隊長は山の上側に防壁を頼むとアイコンタクトをしてきていた。そしてちょうど魔法を配置しやすく、そこを避けて逃げるには段差や木々が大変そうなポジションが近づいてくる。


凄いな、上からならともかく、よく山中を駆け回りつつ地理的な優位とかまで見れるね。



アネモネも間違いなくポジションを理解した。ビーズを沢山いれた巨大クッションとか、ふわっふわの巨大布団とか、なんかそういう、埋もれたら動けなくなるような、柔らかい空気の壁。



それを、私が今から生み出す大魔力と、アネモネのよくわからん凄い魔法で突然配置する。




「3、2、1、ゼロお!!!」

「!!!」



タイミングを合わせて、私が放った髪の毛が魔力に変換される。最初に知って試した時もそうだったけど、突風が天を貫くかのように立ち上る。



そして、目の前に現れた膨大な魔力を使い、アネモネが巨大クッションを作り上げる。



完璧。予定通り。まぁどっちも風とか空気なので見た目にはなんも分からないんだけど、それを読んでいたらしいヤマトが何らかの魔法弾を壁に撃った事で成功が確認出来た。


なんで読んでるんだろうねアイツ。壁の硬さまで見越して魔法弾で確認してるのは事前に知っていないとおかしいと思うんだけど、この作戦自体さっきやることが決まったわけで、どこから勘付かれたのか分からん。




「タリア!できた…けど、やっぱり読まれてる!サイズを確認された!!横はいいけど、飛び越えられたら!」



アネモネは多分制御の難しい魔法を必死に維持しながら、大きさと形を越えづらいように調整しているっぽい。



多分、隊長が山の上方向を指示したのは、その飛び越えるのも難しくなるからだ。坂の下から上の壁をジャンプで飛び越そうとする場合、足場がそもそも踏ん張りづらい方向に斜めになっている。


実際、一瞬ジャンプしようとしたヤマトが、落ち葉と土で出来た斜めの地面という不利な条件の中で、高さが視認できない壁を良い感じに飛び越すのは難しいと判断したらしく「うげっ」とか言いながら近くの大木に方向を変える。



あいつ不利っぽい演技もするから迂闊に信じちゃダメだけど、常に滑らかに動き回っていたヤマトが一瞬硬くなったのはちゃんと効いたからだと思う。




なんなら今気がついたけど、上空にアネモネが居るからか、あまり高く飛びすぎて突風を当てられたりしないよう警戒している気配もする。



なるほど、高く飛び越えすぎてもいけない見えないハードルなんだこれ。凄い。自分の作戦の知的天才ジーニアスっぷりに震えてしまう。



つまり前回私達が直接突っ込んだのって本当に無駄な自滅だったのでは。離れてるとめちゃくちゃ有利なんだけど。




「いい感じに……フェイントで、頑張る!」



ほんの一瞬だけ私をふわりと浮かせ、本家の光る檻を発動させて閉じ込めたアネモネは、そのまま流れるように腰袋から小石を取り出し、ヤマトが駆け寄ろうとしている大木に向かって投げつける。



「ば……!地上にファイアボールは!!」だめだよアネモネ!と言い終わる前に、ズパァアアン!!という破裂音が鳴り響き、今までそこにあった大木が跡形もなく大爆発する。



「でぇえええっ!!?」

「うわぁあああ!?」



ヤマトとその走りを塞ごうと寄りかけていた兵の悲鳴。まぁね。目の前で爆発したら誰だってびっくりするよね。



もしかして、アネモネはフェイントって言葉を何か勘違いしているのかな?敵への直接攻撃以外がフェイントという扱いなのかも知れないな。ファイアボールほどでは無かったので何らかの手加減を覚えていたのは良かったよね。じゃなきゃ大惨事になっていた。



でもこれで完全にヤマトの体制が崩れた。前回は逆方向にも減速せず駆け抜けるような化け物だったが、とうとう完全に減速する。


こうなれば隊長さん達からもう逃げられない。伊達にシリアスな中央の兵じゃないんだ。動きのガチっぽさが南と違いすぎるもん。




そしてアネモネは、慌てて私を抱え直そうと戻ってくる。ほんの少し離れただけでそんな……に……!?



「……!?タリア!!」




突然血相を変えて本気で私を引き寄せたアネモネが、何かを切ろうとして剣を振る。だけどそこには何も無い。


けど、私にも一瞬聞こえた。ハチの羽音のような、ブーンという本能から恐怖を感じる音が、確かに一瞬凄い勢いで近づいてきた。そしてヒュッという音と共に消えた。



「な、なに……!?なんだった!?」

「生きた弾……というより自分の意志で攻撃してくる弾……?やっぱりタリアが狙われて……!」



下では勇者捕獲戦がクライマックスになりつつあるが、とんだ横槍が入ってしまった。



「本当に狙われてると思ってなかったし、それが何で消えたの?」

「見えない糸のような……あれはタリアの防御魔法じゃないのよね?何かが絡んだ瞬間遠くに吹き飛んだわよ?」

「防御結界は高級なの張ってるけど、何か来たのに何も当たらなかったよ?」




二人して首を傾げる。まさか本当にアネモネの心配通り狙われていると思ってなかった。私ってそれほどまでに戦闘関連の認識が甘いんだ。



ただ、内心をもっと直接言ってしまうと、良いところだったのに余計な邪魔をされたのが凄く不満だった。


私は思っていたよりヤマトとの謎対決に集中していたらしい。集中というか、熱中に近い。




アネモネと協力して、強いヤマトと本気で戦う。正直に言おう。本当に面白かった。何かの為の戦いというのがだいぶ薄れてしまった変な戦いなんだけど、だからこそ本当に面白かった。


何かの為というより純粋な力比べみたいな感覚で、しかも結末がどうなるかに私の頑張りが絡んでいる。



賢者の読みで勝てる試合なので絶対負けない筈だけど、今回のその読みは私の頑張りが前提になっている。私がミスをせず、答えと一致した動きがちゃんと出来れば勝てるみたいな。



ボードゲームのコマが今日はちゃんと前に進めませんとか言いだしたら、いくら賢者の勝利予想でも覆ると思う。そんな感じのヒリツキがあった。


私が動かないと賢者の力の方向性が人命を優先しない案件とちょっと感覚は似ているけど、もっとずっと楽しい感覚だった。




「……狙われたのに、虫どころじゃない?」

「うん」




どうやら思いっきり表情に出ていたようで、アネモネに問われる。どう考えても重要視すべきなのは謎の攻撃の方だけど、第二弾は来ないし、初撃もどこかに消えた。


謎解きは必要だけど、謎解きする前に、今。この瞬間、ここでしか味わえないものを見逃したくなさすぎる。だってこんなにも脳と体が熱い。




「まさかタリアがそんなに楽しそうに戦うとは思わなかったわ。そんなに面白い対決なのかしらこれ。私はちょっとヤマトさん相手だと色々やりづらくって……」


「たぶん、ずっとアネモネとちゃんと肩を並べて戦ってみたかったんだよ」


「………………」



まさかの沈黙。ものすごいまん丸の目で見つめられている。




「……え?今結婚した?今私と結婚したわよねタリア!?」

「いいえ!?」




まさかの返答。どういうこと?毎度のことながらアネモネの中の結婚という言葉の意味が分からない。そもそも勝手に妻を自称して同棲してるのに何を言っているんだ。婚姻とか関係なく常にやりたい放題じゃないか。




「せい!」




私を再び本家光る檻に入れ、自分も入るアネモネ。「せい」じゃないが。何をしてる?




「肩を並べるっていうのは!!横に肩を並べないとダメよね!!?」

「あー、なるほど?うん、まぁ、そう、かも?」


「これは、硬い、刃!」

「なんで?」




檻の中で私の隣に立ち、魔法粘土素材で作る黒い原初の剣を作り出すアネモネ。久々に見た、短剣との二刀流だ。



「いい?タリア」

「何が?」


「恐らくヤマトさんの切り札の一つは閃光弾や爆音魔石。つまり非殺傷兵器」

「え!?」



どうやらアネモネは私にヤマトとの戦いの続きをさせてくれるらしい。それも引け目のある勇者に本気で勝つつもりで。




「音は私がなんとか出来るけど、光が厳しい。隊長さん達もそれは読んでいて普通に防ぐとは思うんだけど、全く無視して視界を確保し続けられるわけじゃない。どうしても一瞬ヤマトさんに時間を奪われるわ」




下では隊長達が一気に攻勢に出て、柔らかい壁に追い込まれたヤマトに幾つもの捕縛機が放たれ、無理に接近しすぎないまま一方的な捕獲が行われようとしている。シリアス勢がガチな事しすぎてて絵面としてはつまらない位だ。



だがヤマトも大分狂ってるので、今まで何度も食らってきたからか完全に捕縛機の挙動が読まれており、色んな段差や木を一瞬一瞬でそれぞれの遮蔽として使いわけ、臨機応変に避けていく。




「いい?捕縛機はそこまで連射し続けられない。回収しないと弾切れになる。それで隊長さんたちは一瞬動く。でもフェイントなの。まだ数に余裕があるのに無いフリをしてヤマトさんの切り札を誘う」


「そうなんだ!?」


「勝負はそこよ。フェイントだとバレていても、必ず状況が動く。後はヤマトさんの作戦や切り札がどれくらい残っているか。それを隊長さんや私達がどれくらい覆せるか」


「う、うん!」




えっやっぱり楽しくなってきた。まだそんなに応酬がある感じなんだ。




「魔力も十分滞留してて私は今なら相当強い。だから無茶な魔法は使わないで欲しい。でも多分タリアの介入が鍵になる」

「わかった」


「何にどう介入するかは任せるけど、無茶しちゃダメよ?」

「わかった」




おかしいな、アネモネが絶対にこいつ無茶するぞという不安と諦めが入り混じった顔をしている。


念入りにダメ押しされているけど、そんなまさか。知的で冷静な私がそんな無茶するわけが。たはは。




「……でも、そうよね。『人生には楽しい目標も必要なんだ。これは必要で仕方のないことなんだ』。確かにあの日のタリアもそう言っていた。勝負とか、楽しさとか、目標とか、きっと大事なんだわ、タリアにだって」



なんかまたアネモネが私の言った言葉を一言一句覚えていて、それをぶつぶつと呟く怖い独り言をしている。



そして下ではまさにアネモネが言っていた様に、隊長達が捕縛機を出しあぐねているような素振りを見せ、ヤマトがそれに反応する。




「肩を並べるなら、絶対に身を守ってタリア。さっきの狙撃を私が気づく前に落とせるくらい」


「急に無理難題が!?」


「そうじゃないと、一緒に立てない」




やっぱり戦いになると急にシビアだよアネモネ。でもそうじゃなきゃ今後もずっとアネモネは私を守る為だけに他の優先度を極端に下げ続けるんだろう。


なんてこった。予想外に大事だぞこれは。今後の戦いすらここで変わってくる。




「まかせて!私ってば最強の知的天才プリンセス戦士でもあるんだよね!」

「戦士では無いわ」

「真顔で否定!?」




そんな軽口を交わした瞬間、アネモネの言った通りヤマトが何かを二つ放り投げる。一瞬で鑑定し、それが本当に閃光弾と音響兵器だと見抜く。



「タリア!!」

「うん!」




アネモネは光る檻の一部を切り裂いて、何らかの魔法を発動させる。恐らく爆音のなる兵器を小さな真空の中に封じ込めた。鑑定した限り発動しているが、音が鳴らない。



隊長さんはヤマトの投擲に合わせるように複数の捕縛機を色んな角度で放った。数が少なくなってそうな雰囲気を出した直後に大盤振る舞いだ。


恐らく、例え閃光が防げても僅かな硬直は絶対に生まれるので、それを利用するであろうヤマトへの牽制技っぽい感じがする。



私は魔力無効化を閃光弾に放とうと思ったのだが、あのクソせこい勇者はゴブリン製の割と物理的なスタングレネードを使いやがったので、一瞬の鑑定でそれに気づいた瞬間脳がカッ!と今までに無いくらい冴え渡り、咄嗟に庇う魔法と組み合わせ、音と閃光から全員を守ろうとする。




脳が加速して時間がゆっくりになるような感覚と、しかし、賢者の力が訴える違和感。



──違う!フェイントだ!あいつスタングレネードは発動させてない!!意味ありげに投げただけ!!うぜー!!まさか私達があからさまに構えてたからか?何かしてくると読んだのか?


多分アネモネはこっちも真空で包んで音は防いだ筈だけど、私は何も動けなかった。




慌てて違う魔法を組み直すが、もう完全に皆から出遅れている。こうなったらいっそ時間がかかる方でなんとか妨害しないと。



アネモネはヤマトの次の動作に物凄く集中している。恐らく高く飛び上がった場合アネモネのテリトリーになり、その瞬間を逃さなければ勝つからだ。



隊長は捕縛装置を使い切ったのかヤマトに向かって突進し、一気に放った複数の捕縛機と連携するかのような勝負を挑む。



精鋭の兵達ももうあまり捕縛機が無いような雰囲気を出しつつ、隊長のアタックによってチャンスが生まれる瞬間を狙っている。



ヤマトは迫る隊長と捕縛機、そして私達の妨害の一斉攻撃に対し……何故かめちゃくちゃ嬉しそうな顔をして、一度大きく息を吸い、とーんと軽くジャンプする。たまにこれやってるの見たことある。一回軽く飛んで、その着地の反動を使うみたいに凄い勢いで動くやつ……。




「ふっ!」



ヤマトが強く息を吐き、柔らかく片足で着地した……と思った途端、それをバネにするかのように猛烈な勢いで隊長さんの方に突進し……ようとして、それをフェイントに逆の足で地面を蹴って急角度で別の方向に逃げ出した……ように見えた。そこで一瞬私はヤマトの姿を見逃した。



は?意味分からん。上から俯瞰してたのに、一瞬見失ったんだが。




たぶん、突進してくる隊長さんを迎え撃つかのように駆け出した、というフェイントをかけて逃げようとした。


というところまでが最初の一連のフェイントで、一瞬見逃した後にはどうやら透明化の装備を発動しつつやっぱり隊長さんの方に向かっていたらしい。



消えるみたいなフェイントしつつ本当に消えてたわけだ。本当にセコい。ふざけるなよこいつ。視界から外れるような動きしつつ本当に姿を消すのは完全にズルだろ。騙されたみたいな気分がある。離れて見るとこんな事しまくってたのか。普通に反則じゃん。



遠くから見てただけの私でも体がビクってなったので、精鋭の兵達も一瞬変に身構えて動きが止まる。




でも隊長さんはどうやら本当にこういうスポーツ的なキモい動きに慣れているようで、そこまで完全に読み切っていたらしく全く釣られずヤマトの動きに食らいついていく。


激しい動きと透明化は相性が悪く、飛んできた複数の捕縛機を弾きつつ隊長に突っ込んでいく見づらい塊は、見づらいだけで殆ど形が見えている。




「勇者ヤマト!!」



ついに間合いにまで突っ込んだ隊長さんが叫び、いつの間にか握っていた筒状のものをブンと降ると、ジャコジャコとそれが伸びてスタン警棒になる。ちょっとおもちゃみたいだけど、多分ウラニアが作ったやつっぽい気がする。




「頑張りすぎ罪で逮捕する!!!」

「罪状だっせぇよ隊長!!?」




遂に打ち合う二人。


隊長さんのスタン警棒はあまり振りかぶらず、むしろ突きをメインにコンパクトな動きでヤマトを狙う。



最初は抜き去ろうという感じだったヤマトもさすがに駆け抜けられず、近接戦での撃ち合いが始まり……いや、始まったと思った瞬間、飛び退いたヤマトから次の切り札が投げられる。



あれは……ウラニアの捕縛機!



見えた瞬間鑑定が働き、その結果に体が動き、魔法が発動していた。無効化魔法が。




「うっ!!?」

「……あれっ!?ビリビリは!!?」




異様に格闘戦の強いヤマトに対しスタン警棒で迫っていた隊長は、まさか得意の格闘では無く投擲で、しかも追われる側が捕縛機を投げてくるとまでは思っていなかったようで、反射的に弾こうとして捕縛魔法の発動部位に触れてしまう。


本来なら筋肉の電気信号自体を操作するようなスタン魔法を食らってしばらく身動き出来なくなってしまうが、その瞬間に部品の魔力が消去されていた為、捕縛魔法も不発となる。



私の若干どんくさい反射速度なので完璧には間に合わなかったように思うけど、運良く大部分を消せた上に隊長さんだからなんとかなった感じもする。



「セコいっ!!勇者がそんなセコい攻撃を!!」

「いや!!なんかズルいって隊長!!そっちのほうが何かズルしてる!!タリアか!?」



正解。




再びスタン警棒による猛攻がヤマトに迫り、今度こそ近接戦が始まる。


恐ろしいことにヤマトは、なんていうか、ゆらゆらカクカクしながら攻撃を避けまくり、時にはギュンって動いて隊長さんの手を弾き警棒を落とさせようとする。まさかこれほどまでに強いとは。



隊長さんは魔力も装備の力も全部使いまくってるのに、それでも当たらない。急に逃げるフリをしたり、かと思えば警棒が振りづらいほど近づいて転ばせようとしたり警棒落とさせようとしたり、見てるだけで動きがウザい。


強敵を逃さず傷つけず捕まえるとかいうルールで隊長も兵も本領が発揮できていないのは明らかだけど、それでもここまでやれるのはなんかおかしいぞ。



魔力は使えない筈なので、装備とバフなのか?




……一瞬、脳裏にマリウス王子の顔が浮かんだ。賢者の力によるネタバレの感覚。


なるほど、裏切り者め。めちゃくちゃ高級なバフアイテムをこっそり渡したな?




「……ドーピングか!?」

「正解!」


「普通そういうのは絶対許されないぞ勇者!?」

「一度、普通じゃないガチ本気の戦いをしてみたかったんすよね!!!」


「スポーツ裏切り罪で逮捕する!!」

「もう俺のスポーツは終わってるから意味ないね!!!」




動きで薄々分かっていたが隊長さんもかなりスポーツが好きらしい。なんなら目的が薄まってスポーツ的な戦いになったほうが表情は活き活きしている。さっきヤマトが異様に嬉しそうだったのも多分それに近いものなんだろうけど、調子に乗った楽しそうな動きからもっと感情が伝わってくる。



あいつは多分スポーツが好きってより、本気になりたいんだ。



魔物の討伐とか、防衛戦とか、そういうのは戦う事が目的じゃない。全力なんて出さずに済む方が良い。でもスポーツ的な勝負は、本気で勝負する事自体が目的だ。


本気で、目の前の勝負だけを目的に、ただ全力を出せるのがプロですら無い野良スポーツの利点。なるほどね。なんかあれでしょ、事情とか金とか色々余計なもの背負うほど消えていってしまうんでしょ。エロ同人で読んだ。


今やっとちょっとだけ目的の薄い戦いの面白みが分かってきたので、アイツの感覚にも少しだけ共感出来る。




ましてアイツは若干感覚が鈍い。かなり強い相手と、かなり本気で戦った時にしか、味わえない何かがあるんだろう。




でも許さん。ここで勝つのは私だ。そういう全力のぶつかりあいじゃなく、知力で。




「せやっ!」

「ぐっ!?」



なんか凄い格闘戦が続いた後、ヤマトが急に顔がくっつきそうなほど距離を詰め、思わず私とアネモネがちょっと違う意味で息を飲む。だってキスしそうだったよ。



でもその瞬間よく分からない手の動きと踏み込んだ足で隊長の重心が崩され、近すぎて振るえない警棒を手首を捻って当てようとした瞬間、ヤマトが変な動きで隊長の手首を押さえながら警棒のお尻部分を叩き、手に持っていた武器を落とされてしまう。


どうやら姿勢が崩れたのと、無理な角度で当てようとして力が入らない変な持ち方になった瞬間を狙われたようだ。



ストラップを付けた状態で異様に強く弾き飛ばされたスタン警棒は手首を中心に不規則に暴れまわり、避けたヤマトではなく隊長さんの体に何度か当たってしまったので、一瞬やられてしまったのかと思った。


ただどうやらスイッチを押し続けている間しかスタンが発動しない仕組みらしく、そこは問題なかったらしい。そういえばそんなんだった気がする。見たことあるというか似たもの作ったことあるけど忘れてた。




本当の問題は信じられないほど接近したヤマトが男同士で変に足を絡め、隊長に抱きついた事だ。思わず柄にもない「きゃー!?」という悲鳴が出ちゃったよね。アネモネと一緒に。


くたびれた中年おじさんと粗野な男も結構いいじゃん。結構いいよこれ。




ただ、どうやらそのサービスシーンも別に本当はサービスじゃなかったらしく、ヤマトは片足を相手の足に絡め、体勢を崩された体に抱きついたままもう一つ残っている後ろ足で前に一気に強く踏み出す。


隊長はなんとか転ばぬように絡まれていない足で踏ん張ろうとするのだが、既に崩れていた体勢でヤマトの勢いに耐えるのは普通に無理過ぎたらしく、足を刈りながら押し倒すみたいな変な投げ技が完全に決まって転ばされてしまう。




「今だ!」



しかし、攻撃を食らった側の隊長が勝ち誇ったように叫び、それに合わせて隊長の兵達が複数の包囲から捕縛機を打ち込む。



なんと、隊長が押し負けるくらいは想定範囲で、何らかの形でしがみつきさえすれば自分ごと捕まえられるというプランが最初から手札の一つに用意されていたらしい。




「それは、知って、ます!」




ただ、ヤマトは一度ノームさんと一緒にウラニアに襲撃された時、捕縛機を食らっている相手に触れてもダメなんだと学んでしまっている。



この流れ自体を完全に想定していたようで、隊長さんが硬く抱きついた筈のヤマトは身につけていた鎧をパージして動物みたいにヌルっと抜け出し、転んだままの隊長を置いて駆け出してしまう。




「アネ…!」



思わずアネモネを見ると同じ気持ちだったようで、隊長さんだけが喰らいそうになっている複数の捕縛機を防ぐ為の空気の壁と、ヤマトの進行方向を塞ぐ壁が発生する。



だが咄嗟に出来るのはそれなりのサイズの壁だけらしく、一応隊長さんが味方の攻撃で自滅するのは防げたものの、ヤマトは壁を蹴って変な方向転換をし、既に大半の捕縛機を使ってしまった事で広い包囲網をカバーしきれなくなった兵の合間を縫うように抜け出そうとする。



恐らく相手を傷つける武器も使って良いならまだ大丈夫だった筈。この即席のルールと兵達の感覚が微妙にズレていて、配置というか距離感覚に隙があったようだ。そしてヤマトはそういうところをつくズルい行動が信じられないほど上手い。


完全に崩された。皆がそう思ったと、なぜだか空気で分かる。突然温度が冷えたような感覚。




──ここだ!




散々学んだ。虚を突く事。皆が意識していない時に、切り札を使うこと。




賢者の力が見出した私達の勝利は、ヤマト相手でも足止め出来る隊長さんが必要だと感じていた。その時間を私は魔法の準備に使えた。



最初に予想を裏切られたあと、私は簡易の魔法生物を作成していた。少し時間をかけて、姿と大きさをきっちり組み上げられる程度に。



きっとヤマトが一瞬混乱するような、白いフクロウの魔法生物。この簡易魔法生物の作成魔法は、国王にお父さんの魔法を教えてもらった時、再現して覚えたものだ。




「あぇ……っ!?」




恐らく勝利を確信したのであろうヤマトの目の前に、使っていない筈の白フクロウが突然飛び込んでくる。


今度こそ唐突かつ予想外だったようで、ヤマトから変な声が漏れる。




「勝った!」



思わず喜びの声が自分から漏れる。もちろんただ飛ばしただけじゃない。あの白フクロウは、ヤマトの落とし物を持っている。




あいつがふざけたフェイントで使った、スタングレネードを。




……まぁ勿論目の前で直撃させるわけでは無い。意趣返しだ。何もせず落とすだけ。それで十分。さすがにね。



ヤマトの後ろからはすぐ立ち上がった隊長が再び迫っていて、兵も一斉に迫っている。一瞬立ち止まらせて、時間を奪うだけ。それだけで、鎧をパージしたヤマトにスタン警棒を掠らせるところまで流れが見えている。



こっちだって、最強の天才がボードゲーム的に何手も先を読んでるんだよね!




キン!という高い音が鳴る。



「あ」

「あっ?」


ヤマトや隊長さんのちょっと気の抜けた声。



「え?」


アネモネの、少し驚いた声。



「あ?」


私の口から自然と溢れた、予想外の事態への気の抜けた声。




……しまった。そこ持たせちゃいけないんだ、その道具。




多分あのピンを抜くと数秒後に発動する仕組みで、そのピンを持って突進した白フクロウは思わずヤマトに抱きとめられて……その瞬間、スタングレネードが発動する。


使い方とかまで詳しくじっくり鑑定しておけば良かった。実戦って展開が早いから細かいことじっくり考えていられないんだよね。



どうやら魔法的なスタンとかと色々組み合わせてあるらしい強烈なスタングレネードが、閃光と爆音と共に猛烈な勢いで発動する。なんか雷みたいのまでバヂバヂバヂって広がった。



なるほど、ヤマトがただ投げただけで発動させなかった理由がよく分かる。もっと専用の対策装備とか付けてないと自分まで危ないもんね。そして今のヤマトは専用じゃない鎧すらパージしている。というかこれ魔力使って遠投する前提の兵器では。




「にぎゃああああああああああっっ!!!!」

「ぐわああああああああああ!!!」

「「「ぎゃああああああっ!!!」」」




直撃を受けたヤマト。そこに勢いよく突っ込んだ隊長さんと、駆けつけようとしていた兵達。下に居た、皆のでっかい悲鳴が山を揺らす。



私は反射的に目を閉じて、更に状況を察したアネモネがガバって私を抱えて真空の防音壁まで作ってくれたので、ちょっと眩しいくらいで済んだんだけどね。アネモネはなんか当然のように全く何のダメージも無いし。




……ただ、まぁ、その。さすがにごめんという気持ちがある。


まさかここまで強烈だとは。発動させるつもりじゃなかったから逆に威力を気にしていなかったんだよね。本当にごめん。


いや違うよ?時間に余裕があったらなんでももっと丁寧に調べて考えるよ?でも本番ってなんか常に忙しいんだもん。アネモネの割り切り方に少しだけ正しさを感じる。



ヤマトがこんな強いスタングレネード持っていたのが悪いという他責も準備しているんだけど、倒れた男達がうめき声を上げながらビクンビクンしているのってあまりにも見た目がヤバすぎて、何かに謝りたいような気分が自然と湧いてくるんだよ。




ここまでするつもりは無かったんだ。こんなヤバい兵器とも知らなかったんです。許して。こんなもん持ち込むなヤマト。




……そして、アネモネが無言で私を抱えて下に降りると、転がっている幾つかの捕縛機を拾ってきて、無言でヤマトにくっつけて発動する。



「ぐえええ!?」




追撃で完全に捕まったヤマトが、しびれながら断末魔を上げる。



「凄いねアネモネは!?この状況で迷わずトドメを!!?」

「ここまでして逃がしたら逆に皆が可哀想だから、つい……」

「あ、あーなるほど。確かにね。分からなくもない」




……うん。まぁよし!


ちょっと予想外にやりすぎたかもだけど、まぁ、その、勝った!!私達の勝利だ!!清々しい気がしてきた!!




「お、鬼か……」

「お前が持ち込んだ兵器だろうが!」




やっぱり他責も出た。


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