【陰謀勇者の視点】
【陰謀勇者の視点】
今日は山中でのキャンプになる。
サバイバル動画を観るのは大好きだったが、自分でやると虫やら湿度やら不快要素がめっちゃ多くて毎回夢が壊れるんだよな。
「新勇者、魚を分けてあげよう」
「お、ありがとうございます!」
キャンプ場ってわけでも無いんだが、隠れ場所に迷って彷徨っていたら釣り好きのサキュバスさんと遭遇し、防虫とか防音とか様々な便利結界を使ってる場所に誘ってくれて、ミニ渓流キャンプ体験会みたいになっている。
もしもこの世界特有のキャンプの作法とかがあって余計な問題を起こして自滅してたらアホ過ぎるし、素人に優しい先輩キャンパーに会えたのは幸運過ぎる。
「異世界人もやっぱり遠火の塩焼きとかしたいのかな。焚き火にはちょっと注意ポイントがあるんだが」
「したいです!ご指導お願いします先輩」
敵に回ったタリアを警戒していなかったわけじゃないんだが、まさか初日に即見つかって襲撃されるとは。
騒ぎが大きくなって、タリア達が俺を捕まえようとしていると無駄に広まってしまった。
「……うちはもう釣りより性的興奮を覚えるものが無くなってしまってね」
「食事中にとんでもない暴露すぎる」
焚き火やらこの世界の魚について色々レクチャーを受けつつ、異世界での風情あるキャンプ飯になる感じだったんだが、軽いおしゃべりが開幕から終わっている。
「悪いが同じテントに誘うほどのリビドーを人間に感じられん」
「逆にもうそういうサキュバス居ないじゃないすか。俺が今までにあったサキュバスは、誰一人としてまともな性癖じゃなかったぞ」
「確かに。今は下手したらエロいサキュバスの肩身が狭くなっているかも知れないなぁ」
「そんなことあるんだ」
「まぁもともと別に一括りの種族でも無いからね……おっと、そろそろ君のお客が来るか?」
少し離れた場所に、空から音もなく影が降り立つ。今の俺にとって最も信頼できる相手、マリウスだ。
「まさか渦中の勇者が優雅にキャンプとはね。どうも、お邪魔します」
「遠慮せず自分の結界を使うと良い。うちのは単なる目眩ましのようなものだから」
「いや、迎えに出てきてくれなかったら僕には見破れませんでしたよ。凄く自然だ」
おお、異世界トークだ!そういうのが普段からもっと聞きたいんだよ。俺には結界の違いとか全然分からないが、きっと何か魔石の工夫とか色々マジカルな話が沢山あるんだ。
「ヤマトくん、この鳥だいぶお気に入りなんだろ?忘れない内に返しておくよ」
「どうだった?」
「古典的過ぎて逆に誰も秘密の連絡とは思わなかったろうね」
白フクロウの足に居場所を記した地図を結びつけてマリウスを呼ぼうと試みたんだが、飛ばしただけでもだいぶ満足していて成功するかどうかは若干二の次だった。でも上手くいって良かった。
「うちはもう少し休憩したらまた夜釣りにいくんだ。内緒話はそこからでお願いして良いかな?」
「いや、先輩スミマセン、ちょっとマリウスとの話にも混ざってもらって良いですか?ほんとにちょっとだけでいいんで」
「ん?」
「それは僕がヤマトくんを捕まえようとしない理由になるものでいいんだよね?そうじゃなきゃ呼ばないだろ?」
「そうだ」
──さて。本題だ。
運良く出会えた釣りサキュバスと、南の国の第一王子に、明日確認して貰いたい事をお願いする。
大体の物事には、「そうなっていない」事にも理由があるものだ。
空の穴を内側からも塞げるような魔法はあるが、そうはなっていない。
勇者には絶対に穴を封印出来る魔法がインストールされている筈だが、他の能力と違いサキュバスの秘密の図書館で禁忌魔法を調べるまで発動方法が分からなかった。
……恐らく、誰であろうと気軽に使って良い魔法ではなく、勇者にもインストールはしているけれど好き勝手に使われたくないようなものなんだ。
本来ならアネモネの持っている短剣も俺に挿入されていた。アレは魔力にもっと直接命令を通せる真の魔法の杖みたいな格好良い話がチラホラ出ている。
きっと死体勇者を操作する重要なパーツだったんだろう。人が近づけないような場所で、ネクロマンサーが結界を発動させるのが本来の形だったんじゃないだろうか。
「息苦しさ、ですか?」
「そうだね。今日は朝から妙に空気が薄いような違和感があった」
マリウスにも釣りサキュバスの証言を聞いてもらう。
「それが俺の封印結界のせいなら、ちゃんと調べなきゃならない」
「調べると言っても……他者への悪影響まであるかも知れないって話なら、僕は今すぐヤマト君を取り押さえるしか無くなるんだが」
「いやダメだ、ここは譲れない。せめて明日だけでも、もう一度結界を張って影響を確認したい。むしろその観測や測定にも協力してほしいんだ」
「うーん。見逃すどころか協力か」
「空からの襲撃自体、こちらを塞げば良いだけなら絶対楽なんだよ。でも今までそうなっていない。そうしなかった理由がある筈で、俺はそれを知らなきゃいけない」
「うーん……」
「む?」
悩むマリウスと、その後ろに何者かの気配。それに気付いた釣りサキュバス先輩が魚用の串を投げ、見えない何かがそれを掴んで防ぐ。
「……失礼しました。バレないつもりだったのですが、非常に重要な話だったのでつい」
透明化の装備を解いて、スラッとした老紳士が姿を現す。
「尾行されてるじゃないかマリウス!」
「ご、ごめん」
「やべ、人の王に攻撃してしまったか」
「いえいえ、こちらがコソコソと侵入したから悪いのです。申し訳ありません」
というか国王が単独で王子を尾行するなよ。
王でさえ無かったら絶対暗躍する老執事で、実際そのままの見た目と実力なんだよな。この国の王族の世界観が未だによく分からない。
「正直な所、この世界の方を封印するのは一番穏便な答えだと私も思っていました。それがダメになるかも知れないとなるとさすがに気になってしまって」
「僕らはそもそもヤマトくんの世界から報復を受けてもおかしく無いわけで、その防壁を張るわけにもいかなくなるなら、王の胃が先に穴だらけになっちゃうよ」
ああ、言われてみれば。俺の世界以外からも報復されそうな事してるかも知れないし、防壁にデメリットがあるのはなかなかマズそうだ。
「なぜ君は他人事なのかな?」
「僕はどうあってもヤマトくんの味方なので」
「いかん第一王子に王の資質が無いかも知れない」
「ご先祖達が『身内の為なら余所者に被害があっても良い』という考えでやらかした結果こうなってる可能性が高いんですから、恐らくもうそれじゃ駄目なんですよ」
「おお……いや資質が有るかも知れない」
王族コントを横目に、釣りサキュバス先輩にも確認を取る。
「というわけで、明日もう一度体調不良が起きるかも知れないんですけど、調査して良いですかね釣りサキュ先輩」
「良いとも。話を聞く限り、どう考えても早くやってくれた方が安心じゃないか」
快諾してくれる先輩。さすがキャンパーはなんかこうおおらかだ。
「おや、話が勝手に進んでいますね」
「王も尾行してきてくれて助かりました。話が早くなった。というわけで一旦タリアを止めて下さい」
「無理です」「無理だよヤマトくん」
「あれ!?」
完全に上手く流れを決められたと思ったんだが、一番肝心な所が。
「結局彼女は正しい。能力だけではなく、人としても私よりは間違いなく正しい。彼女が絶対止めるなら、それは絶対正しい行為だ」
「それは盲信しすぎだって!」
「タリアくんの行動原理は『救助』だ。今の君もまた救われるべき対象であり、超然的なドクターストップの邪魔を素人がするわけにはいかない。そしてどちらにせよ我々に止められるほど賢者という存在は甘くない」
うわそう来るのか。絶対そんな感じじゃないと思うんだが、医療者扱いされると言い返しづらい。
「事情は話して相談してみるけど、君に大魔法を使う許可が降りるとは思えない。本当なら僕だって止めるべきだし」
「しかし俺だって場合によっては自分の世界を守るためにも封印魔法を使いたくなるかも知れないんだ。空の襲撃だって回を追うごとに規模が増している。緊急時に備えて色々調べる余裕が明日以降もある保証は無いんだぜ?」
「わかるよ。だからヤマトくん、一日だけ。明日だけは僕がなんとかする」
「え?」
「僕は君の考えだってちゃんと正しいと思う。タリア王女を止めるのはまず無理だけど、途中経過なら騙せないわけじゃない。一日だけならなんとか誤魔化して、一発で調査しつくそう」
「おお……!マリウスぅ!!」
「どっちにしろ悪影響があるなら何日もやるべきじゃないしね」
確かに。釣りサキュバス先輩の体調不良も本人だから軽く言ってるだけで、結構重い可能性だってある。
「うちのは別にそんな心配そうに見られる代物じゃ無かったよ。だからもしテストしてくれるって言うなら、慎重になって後回しにするより早く形にしてくれた方が良いと思うね。誰か別の天才が別の結界を編み出す前に情報が広まってくれると安心だ」
「なる、ほど。そうか。身近なウラニアとかだけなら話して止めれば良いが、今はきっと他の研究者達だって空の穴を塞ごうとしてる筈だよな」
「すみません、既に各国で様々な研究が動いておりまして……ご負担をお掛けしますが、可能ならご協力を……」
「もちろん」
うんうんと頷く先輩と、若干青ざめながら同調する国王。
「まさかマリウスくんがタリアくんに勝つと断言する日が来ようとは……しかし頼ったほうが良さそうですね」
「頑張るんで、僕が抜ける間の作業は第一から第三王女にまで協力をお願いしておいて下さい。僕からお願いすると死ぬほど言い返されて厄介なので」
「任せたまえ。娘達に言い返されるのは私が一番慣れている」
王の言う事なら聞くとかじゃないんだな。
「まぁ別に、タリアも相談したら普通に協力しそうな気もするんだけどなぁ」
「ちなみに、この話は賢者にも気軽に頼るべきでは無いよ。自分を犠牲に無茶な魔法を発動させられるのは勇者だけではない」
「またタリアに無茶させられないターンか」「!!」
見るからに貧弱な小動物なのでお姫様扱いも分かるというか、そもそも実際にお姫様ではあるんだよなタリア。本人があまりにも有能かつ勝手に動き回って止められないだけで。
そして釣りサキュ先輩の話に何か思い当たる事があったのか、王が凄い反応をして更に青ざめている。
俺にもタリアにも負担をかけたくないっぽいが、かと言って国を守る者としては多少無茶でもお願いしたすぎるみたいな、板挟みの気配がすごい。
「なんならうちは若干タリア王女を贔屓しているので、本音で言えば相談もせず内緒で新勇者に頑張って欲しいね」
「分かった。任せてくれ」
「君の痛みには必ず報いるからね」
「もう今お世話になってるじゃないか先輩。更に負担までかけるのに」
「ハハハ、なんてチョロいんだ異世界人は」
山中。焚き火と焼き魚。眩いほどの星空。秘密の会議と、他愛もない雑談。
さすがに疲労感と痛みはずっと感じているものの、良い出会いと良いシチュエーションのおかげで、なんだか妙に気分の良い夜だった。




