↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

90/98

【大会直前の中央警備兵の視点】

【大会直前の中央警備兵の視点】



気がついたら、俺の値段が勝手に釣り上げられ過ぎていた。


只の中間管理職が、どうしていつもいつも。勝手に過大評価して、無茶ばかり。




いったいどんな話術を使ったのか、中央の国の本隊は莫大な支援を受けつつ勇者と賢者に頼られ、一緒に戦う仲間のような感覚で有頂天になっているらしい。


それはもう、大張り切りで南に出張中の兵を激励してきている。




バカが。只の派兵にそんな莫大な価値があるものか。俺達の値段がそんなに高いっていうなら、相応の給料と待遇をしてみせろよ。



……この誤認は、結局のところ南の警備兵が弱く、協力が無いと指導も間に合わないという見下しまくった甘い基準を大前提にしている。そうでなければ中央の兵による協力や指導という対価が成り立たない。



だが、物事を教えるのには当然相応の経験と知識が要る。正確で効率の良い指導理論が要る。それも自分のような古株では無く、最新の武具や常識に適応した現代的な若い指導理論が望ましい。頭なんだよ。結局はさ。



学問の国の第一王子。身体能力の加護を持ちながら、南の国の高度な勉学も無難にこなしてきたという、文武両道のハイブリッドエリート。


自国の常識だけに収まらぬよう、他国でも研鑽を積んできた。俺も中央側の隊長として合同訓練に参加し、直接その才能と覚悟を見たことがある。



なぜ才能と環境に恵まれた王子がああも必死になれるのか不思議に思ったものだ。兵が敵を倒すのではなく人を守る仕事だというのをあの若さで非常に良く分かっていた。




今、新時代の装備と、それを基準にした防衛戦について新たな指導基準を築いているのは彼だ。




皆との相談という形ではあるが、南の第一王子と勇者信仰の宗教兵達が世界の防衛を構築しつつあり、中央がやっているのはそれを噛み砕いて下に教えるような中間管理職に過ぎない。


自然と俺は上と下に挟まれている。自分の適性がこれなんだとしたら悲しすぎる。




そもそも、あえて勇者ではなく異世界のヤマトさんと呼ぶが、彼を誘拐した国は我ら中央で、邪竜が最初に現れたのも中央だ。


その後、襲撃に関する研究と対策を進めているのは南。勇者と聖女が頼ったのも南で、二人と良好な関係を築き直したのも南。



バカ過ぎる。同盟だの、仲間などと、あまりにも烏滸がましい。



どう考えても中央の借りと責任は重いが、南が勝手に手助けしてくれる。対価として支払われているのが兵である我々なわけだが、何をどう勘違いしたら釣り合っているなどと思い込めるのだろうか。



不釣り合いな関係で莫大な借金を背負いつつあるのに、それに気付かないよう誘導されているような怖さがある。




「案の定警戒しているな。やっぱり来てよかった」

「……!?」




緑髪にメガネ、ぶかぶかビキニアーマーになぜか白衣。一度見たら忘れない特殊な露出狂が、空から降ってくる。地味な衣装を纏った聖女様に抱えられて。




「け、賢者様と、聖女様……なぜ!?」

「関所で会って以来だよね、中間管理職っぽい隊長さん。お久しぶりです。その節は身内ノリで恥ずかしいご迷惑をおかけしました。ごめんなさい」



その格好は恥ずかしく無いんだろうか。見た目の危なさからしたら全て些事だと思うんだが。




「誰かお探しなんですかね?すぐ呼んで参りますが」

「あ、どこにどの隊が居るか大体把握してくれてるの?」


「まぁ、どういうわけか管理職にされやすくて」

「見た目だね。髪型からヒゲまで全てがあまりにも管理職のおじさんに見える」

「今すぐ南のスタイリストを紹介して頂けませんか」




背の低い小動物のような王女がフヒヒヒと笑いながら冗談を謝ってくる。初遭遇時はまさか例の賢者様だとは思わなかったが、王族で伝説の賢者がなぜこうも誰にでも距離が近いのか。他国の事ながら不安になってくる。


そしてものすごく鋭い目で聖女様に監視されている。どういうことなんだ。俺が何かしたか?




「貸しを作りすぎると大変なのは、まさにおじさんみたいな賢く優秀な人ほど逆に警戒して遠のいていく所なわけ」


「何の話でしょう?自分は割とこれでも上と下との板挟みに誠心誠意耐えぬく所存なんですがね?」




にんまりと笑う賢者様。いかん。何かの策にハマった気配がする。なぜ分からないんだ上層部のバカ共は。学問の国だぞ。相手のほうが賢いと分かっている場所に出向くんだぞ。不利なんだよ、最初から。




「魔力抜きの手合わせで勇者と互角に戦った隊長って、あなただよね」




ざわつく周囲。今、間違いなくわざと少し高めの通る声で言った。元の声自体がカスカスなので大して聞こえる範囲は広くなかった筈だが、それが逆に余計な聞き直しを発生させてザワザワと噂話が伝播していく。


マズいぞ。この時点で既に否定しても消しきれない気がする。




「なぜそんな誤解を!?俺……私はですね、あまり強く無いからこそ管理職的な位置に居るんです。加護からしてあまり身体能力に自信が無い」


「つまり、加護があまり頼りにならないからこそ魔力を封じた戦いもそれなりに得意って事か?」



「い、いや、変な言い方をしないで下さい王女様。中年の中間管理職ですよ?それも普段のうちらは国境関連の仕事でして。隣国で変な噂が立ったらさすがに困ります」




なぜか聖女様がフードを取り、美しい金髪をなびかせながら迫ってくる。


ちなみに賢者様の隣にもフードを被ったままの聖女様が居る。え、何?分身?




「タリア、試したほうが早いわよね」

「試さなくても分かるから天才賢者なわけ。本当にいいから。絶対ダメだよアネモネ」




ドゴン!という鈍く重い音。

受け流した筈なのに、衝撃が盾から骨に響いた。




「ちょっと!!?今ダメって言われてたじゃないですか!!!」



そのまま普通に素手での連続格闘攻撃が継続され、仕掛けてきた分身聖女様?に抗議するが、返事は賢者様の隣に居る聖女様からで、攻撃は別に全然止まらない。



「本当にやっていいって言われたわ?」

「違う違う違う!アネモネ!!違うんだよね!言葉の綾っていうか!!」




マズい。まさかこの聖女様って結構筋肉バカなのでは。


勇者様と行動を共にしていた時期にも、確かに話を聞いていないなと思う場面は多々あったが、精神的に病んでいるからだと気の毒に思い深く触れて来なかった。


違う。違うぞ。根本的にあまりちゃんと話を聞いていない。思い込みで突っ走るタイプだ。



しかも……滅茶苦茶強い……!!




「これは……この分身は……ゴーレムか……!!なら手加減は……!」

「そうよ。よく分かったわね」




反撃しても問題にならないか確認の為にあえて口にしたつもりだった。




「手加減も不要と。良いわ。そうでなくては!!死ね!!!」

「違う違う!違います!そういう意味じゃ……暴言!?すんごい暴言!!死ねが出たぞ!!?聖女様から!!!?」



途端に凄まじい連続攻撃が繰り出される。マズい、本当に狂人なのか!?殺される!?


どうも見様見真似で勇者の格闘術を学んでいるようだが、全然再現できていない上に怪力だ。むしろちゃんと学んでくれていたらもっと安全だったのに。



あれほど長く世話になっておいて、勇者ヤマトの凄さを全く理解していない。異世界人の恐ろしさも全く理解していない。




「──兵装解放!」

「隊長!?」「違反では!」

「本番前の稼働テスト!ゴーレム相手に!!」



一般人どころか要人と私闘で装備を解放したなんて話になったら大問題になる筈だが、仕掛けてきたのは向こうだしゴーレムだ。なんとかなってくれ。ならないと死んでしまう。


南のやつらの反応を見るに、そもそもそういう規律すらこっちは緩くてよく分かってなさそう。平和でいいね!



やるしかない。そして多分やったほうがいい。



……勇者と俺が互角などと。勇者様を舐め腐りやがって。彼の格闘術を軽んじやがって。




強力なバフで力が漲る。これでようやく受け流しが可能に。なんなんだこの怪力は。



閃光弾は不発。発動前に叩き潰された。


音響弾はなぜか音が出ない。空気の膜のような謎の魔法が発動して音を封じている。


剣は抜けない。ここまで接近されていたら振れないし、恐らく勇者信仰相手に武器での戦いを仕掛けるのはマズい。剣技のほうが絶対に強い。




「その程度の理解力で!真似出来ている気になられたら困る!!」

「!!」




不意の密着と打撃で支点を崩す。怪力で強引に立て直そうとする動きを崩す。耐えようとする反射的な動きを崩す。やはり上辺だけだ。あの天地を貫く重心も分かっていない。



「軽い!浅い!!」

「!!!」



崩し自体は分かっているようだが、なぜ簡単に崩せるのかは分からないようだ。


だがなるほど、再現性はともかく練習は積んでいるようで、崩されているのに投げや関節技をさせまいと何らかの魔法で空気中に壁を作り、本来なら倒れるような状況からでもありえない場所に手足を着いて反撃してくる。



「違う!足の浮いた打撃など!!」

「!?」



手だけの力がちゃんと通っていない打撃でも驚異的な威力ではある。ゴーレムをここまで強く繊細に操作できるのは明らかに異常だ。聖女ってなんだっけ。


だがもう勝敗は決した。現場の古参を舐めるなよ。崩れた時点でこちらは捕縛武器を絡ませている。旧式に加えて、最近頂いた南の国の自律捕縛兵装もだ。



そのまま三手四手と攻防が続いたのは驚愕したが、崩しに崩してついに転んだゴーレムを地面に完全に捕縛し、狂った襲撃者に勝利する。




「どうだ!!彼の格闘術には程遠いわ!!」



格闘合戦だったわりに、感覚的には絶滅危惧種で絶対傷つけてはいけないけどクソ強い危険な魔物と戦った時の方が近いが、普通に死の危険を感じた所から封じきったので、達成感と解放感が凄い。


いやー、まだまだいけるじゃないか俺も。




一瞬遅れて、周囲からワッと大歓声が上がる。拍手や口笛も鳴り響く。



いやいやいや。どうもどうも。恐縮です。聖女の分身ゴーレム倒してこんな歓声受けていいのかな。




……良いわけ無いだろ。バカか俺は!!?




「やるじゃない。さすが第一王子と勇者が慕う隊長さんね」



賢者様の隣に居る別の聖女様が柔らかく微笑んで過剰な称賛を拍手と共に送ってくる。その言葉にもオー!という歓声。バカバカバカ。違う。間違えた。



捕縛していた聖女ゴーレムはどういう仕組みか黒いスライムのようになって地面の隙間に溶けて消えていく。あれ?これはこれで大丈夫か?なんか相当危険な術を身に着けていないか?



南の第十七王女がニヤニヤと笑って近づいてくる。しまった。術中にハマっていたのか。俺も自分が思ってるより相当バカだった。




「なんだよ、本当にヤマトの格闘技とも互角に戦えるんじゃないか」

「違う!全然違います!今のは見様見真似にしても本質から全く違う!!」


「どう違うんだよ?」




周囲が少し静かになり、視線が集まる。なぜだか物凄く泥沼にハマっている感じがする。




「そのー、彼は、いや彼の世界は、回復魔法が無いんです」

「ふむ?」


「分かりますかね?スポーツなんですよ。彼は手合わせで若者を全員叩きのめしたけど、大きな怪我は全くさせなかった。殺さずに倒すスポーツ武術なんです。ゆえに素晴らしいんです」


「つまり、ヤマトの格闘技はしょせんスポーツで、前線で命を賭けて殺し合う自分らの実戦武術とは相手にもならないお遊びってこと?素晴らしいとは?」




一瞬、頭の血管がはち切れるかと思った。頭が急激に熱くなる。怒りで。




「俺達は殺し屋じゃない!!兵ってのは敵を殺す為じゃなく誰かを守るために居るんだよ!!俺だって殺すための格闘技なんか……!!」


「それで敵を守ってどうする?」



嫌な記憶が脳裏を過り、手の感触が蘇る。生き物の弱点を潰す気持ち悪い感触。



「敵を殺したいだけなら毒でも撒いてりゃ良い!兵もそんなに要らん!!彼は……彼の世界の格闘技は強さの在り方として絶対に正しいんだ。彼自身も甘いスポーツ程度だと言っていたが、甘さを捨てた世界に平和なんて無い!!」


「おいおい。隊長がそんな理想主義で大丈夫なのか?被害者が最優先で、加害者の無事は努力目標だろ」



「現場はそんなに単純じゃないんだ!一目で殺して良いと分かるような悪人や魔物ばかりでそいつが簡単に殺せるほど弱いならいいさ!事件前にそいつの家に行って殺してやる!!」



ざわつく周囲と、俺を肯定するように隣に並ぶ数人の警備兵。中央の仲間も南の人も居る。



「変な魔法を食らっておかしくなっているだけの少年が危険な武器を市民に振り回していた!それに別の少年が抵抗して武器を持ち出し戦闘になっている!市民の盾として駆けつけた我々は事情など分からない!!さぁ!!俺に誰を殺せと言うんだ!黒幕はいつだって現場に居ない!!」




やばい、熱くなっているのは分かるんだが、止められなくなってきた。


あの美しい技は、むしろ警備兵にとって理想であるべきなんだ。なぜアレと今の破壊的な動きが同じに見えるんだ。恐らく近くで同調している奴らも同じ感覚で心に火がついている。



好きなものをバカにされてキレたというのが一番わかり易い。




「民家付近で暴れる魔物を緊急対応で殺したら、その魔物の子供が民家の地下で虐待されていたなんてのもクソみたいな定番話さ。俺達のような兵の仕事の本質は『時間稼ぎ』であるべきなんだ!」


「事前にわかってたら事件なんか起こさせないわけで、現場はいつもまず何も分からない状態からだもんな。誰が敵で、どんな危険があるかも分からないのにすぐさま殺せと言われてもな」


「そう!!」



うんうんと頷きながら妙に誇らしげにタリア王女が相槌を打ってくる。


さすが賢者と言われるだけはある。自分でも駆け回っているというし、実際にその道中で会ったわけで、よく分かっているじゃないか。



……あれ?




「大体、現場判断の権限を与えられるのと、殺しの判断と責任を現場だけで背負えというのはそもそも話が違うよな。何のために法や機関が沢山あるんだ。必死に盾になって時間稼いでる内に、余裕あるやつらが状況とか真相をすぐ探ってくれって話だよな」


「そう!」



そうなんだよ。そうなんだけど。なんで俺が聞く側になってるんだ?




「ってことはさぁ。遠距離から無力化出来るんだったらそりゃした方が良いよな。殺すにしたって危ない勝負するより無力化してから殺せば良いわけだし、その判断材料だって探る時間が欲しい」


「だからこそ、平和ボケした南の国の天才達が作る捕縛装備が甘い甘いと言われつつ現場では喜ばれている訳で……」



「だろう?よく分かってるじゃないか。私とウラニアの作る装備の価値が」


「……そういえば開発者でしたよね。あれ?じゃあなんで……あれ?」


「悪い言い方してごめん。チャンスだったからつい」


「つい???」




ごめんって謝られたが?


頭が冷えてくると言うか、むしろ寒気がしてきた。俺は誰に何を熱弁していた?



なんならこの人は医療や救急に尽力している有名人で、命の重さをこっちから偉そうに話すなんて構図になるわけが……




……釣られたか?罠に。釣られたよな多分。謝ってたし。隣の兵達も何か混乱しながら頷き合っている。



「いやぁ年かも知れない。感情の起伏が抑えられなくなるって言うもんな。嫌だ嫌だ。なんかもう急に熱くなって、冷静な判断が出来ず喚くおじさんとか。隊長に相応しくない。いや本当に申し訳ないです。じゃあそろそろ」



「もう遅い。素晴らしい咆哮だった」




拍手をしてくる王女と、甘さに不機嫌そうなまま拍手する聖女。それに呼応して周囲の兵からのよく言ったという反応。街の人からの、見直したような反応。



違う。罠だ。自分の一番大事な部分を刺激されて意図的に感情を吐き出させた。悪い女だぞ、ちょろいおじさんを上手く操ったんだ。




「……隊長さん達。勇者ヤマトは今誘拐されたという状況を利用して身を隠している」

「は!?」



少し密かな声で、唐突にとんでもない爆弾発言を俺達に囁く南の賢者。



「あいつはかつて少年時代の全てを賭けていた最後の大会を潰された。それが今も深い傷になっている」


「な、な、何の話です!?これ話ちゃんと繋がってます!?」


「勇者はこの世界の子供達の大会を無事に開催させる事で、優しく虚ろな復讐をしようとしている」




思わず数人の兵達と顔を見合わせる。確かに、大会で優勝できるほどの力では無いみたいな話を謙遜として語っていた記憶があるので、そういうのが開催されていたのは間違いないが……




「さっきの話からすると、勇者が大会期間中過剰に敵を殺しまくって強引な平和を作ろうとするのも間違っていると思うよな」




ゴクリと喉が鳴る。てっきり謎の話術で上が簡単に騙されて持ち上げられ有頂天になっているんだと思っていた。釣り合うわけないと。




「ここの兵の皆には、勇者を止めて、尚且つ大会も完璧に守ってもらう」




中央が払った対価の重さがこれなら。俺達はとんでもない取引額で天秤に乗せられている。


いや。バカか俺は。事件対応の認識がそもそも軽すぎた。心のどこかで勇者ヤマトによる助力を勘定していたんだ。逆だよ。助力じゃない。彼の無茶なんか絶対に止めなければ。



……止めるって誰が?

……俺達が?




「ゆ、ゆ、勇者様を止める!!?何を言っているんだ!?彼の本気は……!」


「それも分かるなら余計に安心だ。恐らく一部の人間にしかまだアイツの本気が想定出来ていない。勿論こっちも全面的に協力するさ。対等な仲間としてな」



「対等なわけがあるか!!未知の災害を防ぎながら大会の警備をしつつ勇者様と無駄に戦えってのか!!?」


「もちろん隊長も言っていた通り、勇者を殺したいわけじゃない。未知の敵だってそうだ。大会が終わるまでどっちも無力化し続けてくれ。時間稼ぎだ」



「軽々しく無茶を言うなよ!!これだから机上の人達はさぁ!!!」



ベシっと愚かな自分の頭を叩く。中間管理職になると、上にも下にも無茶を言うやつしか居なくなるのは何故なんだ。



「勘違いも解けたようだし、気合も入ったよね?これで安心だ」




邪悪な賢者が言うやいなや、丁度良く馬車が次々降ってくる。虫の足の生えた化け物馬車だ。


積み荷は最新の装備や消耗品、空の穴にも効くという勇者封印装置の改良型、一時金などなど、とにかくやたら多い。



「南の者はせめて頭では遅れを取るなよ!!王族による現場を知らない強引な支給をすぐに事務処理!!中央の管理職さんとも密に協力しろ!!」


「それ差別っすよ!」「強引過ぎる!!」「金の扱いが雑!!」

「タリア王女!また僕に通さず勝手に!!た、隊長!?スミマセン!!」




南の兵のブーイングに合わせて、今度は第一王子まで降ってくる。もはや前にあった時と別人のような頼もしさ。ところで王女かつ賢者へのブーイングは距離感どうなってる?




「本当はマリウス王子にヤマトを止めてもらうつもりだったんだが、その隊長さん達とサキュバスが適任っぽいんだよね」


「サキュバス?」「止めるも何もヤマトくんは今どこに?」



俺と王子の質問は普通に無視されて、賢者様は何やら民衆に向かって歩いていってしまい、何やら色々声をかけている。




「大会だけじゃない。普通に暮らし、普通に経済を回してもらう。どうやら勇者は自然災害の多い地域の出身で、どうしようもない物に生活を潰される経験が多かったらしい。アイツの魔法への憧れは、魔法でも無いとどうしようもない無力さがきっと心のどこかに巣食っている」


「同人誌で読んだやつ!」「やっぱりその穴を王子が!」「穴を王子が!?」「良くないですよ」「あれ?それでNTRされたんじゃ?」




とんでもなく狂った会話が流れている気がしたが、自分も降って湧いた使命と事務処理に脳が占有されていて真面目に聞く気が起こらない。



そして、見るからに体力のない賢者様は何やらあちこち鼓舞し回った後で地べたに座り込んでしまい、無茶と行儀の悪さの両方を民衆に怒られている。



いったいどういう関係になっているのか、聖女様がタリア王女を心配そうに見ながら駆け寄るべきかどうするか迷っていて、なぜか最終的にこっちに向かって歩いてきた。




「まさか中央の隊長までそんな平和ボケしたロマンチストだとは思っていなかったけど、それを言うだけの実力は確かに感じたわ」


「どうも。いや、その、スミマセンが急に襲撃されて煽られたから過激な反応になってしまっただけで、普段ならこんな無礼は決してやりませんからね?」



「無礼がどうとか言っていられるほどタリアとの会話は甘く無いわ」




確かに。そんな気がする。何かが変だった。自分がこんなにバカだと思った事は無い。




「対等とかもどうでもいいわ。ヤマトさんを誘拐し、ヤマトさんに様々な借りを作った私達中央の人間が、ここでやるべき事をやるのは当たり前でしょ」


「……確かに。まぁ確かにそれはそうだ」



「役割分担も見えた。敵の抹殺は私達が殺るから、その代わりそれ以外は確実にこなしてもらう」




聖女様の言葉と共に、数人のニンジャが降ってきて何やら書類や装備を渡してくる。




「任務自体は簡単なのよ。明日から大会期間が終わるまでのしばらくの間、街に一切危機感を感じさせないレベルで守り切るだけ」


「だけって言うには結構難易度高いですけどね?」



「勇者様はいつも封印装置を突破して活躍してきた。恐らく今回も何らかの手段を隠しているわ」


「なんでそんな謎の攻防をしているんです?」



「それを見破って勇者様の活躍を封じ、それで勇者様の活躍が減った分と同等の活躍をし、ついでに南の兵を実戦教育で一気に使えるようにし、あと試作装備のテスターとして報告を貰って、いい感じに中央と南の橋渡しまでして貰えればそれだけでいいの」



「だけとは!!?俺を超人かなにかだと勘違いしていませんか!!?ただの中間管理職ですってば!!」




首を傾げる金髪美少女。この人この見た目じゃなかったら相当やばいぞ?




「綺麗事を叫ぶなら、それ相応の覚悟と活躍が必要な筈よ。貴方がもっと早く本気を出していれば、その分ヤマトさんの無茶は減っていた」


「ぐっ……!?」




やけに冷たいとは思っていたが、そういう事か。

俺の甘さや逃げを見抜いていたわけだ。


異世界人が体の不調を隠しながら中央で大活躍していた時も、彼自身が余計な影響を抑えなきゃいけないと気付いて身を隠すようなハメになった時も、俺はそれを知りながら余計な手出しはしなかった。



もちろん何も考えていなかったわけじゃない。異世界から来た彼には無条件の味方が居ない。自分の価値を世間に示し、自ら仲間を作らなければ、同情はいずれ無関心となり、罪を忘れたい人々は心の防衛反応から彼を遠ざけていっただろう。腫れ物だ。




彼が今誰からも認められていて、仲間にも恵まれたのは、彼がそう在るようずっと頑張ってきたからだ。


彼にも彼の考えがある。無茶だからと、被害者だからと、邪魔すれば良いというものではない。一つの側面から見た正解だとしても、その正解は全てに対する正解ではない。




……だからと言ってもだ。だからと言って、俺や上層部にはもっと出来たことが沢山あった筈で、勇者信仰も恐らく同様の罪を背負っているんだろう。なるほど同族嫌悪に近い。




「なるほどなるほど。俺達の対等とか、そりゃどうでもいいよな聖女様」


「タリアに夢を見させる理想を語っておいて、実戦では只の理想論でしたで逃げたら絶対に許さない。防衛が本質的な対策までの時間稼ぎというのは実際タリアの思想にも近い。絶対にやり遂げてね」


「あれ、そっちに重いの!?勇者様でなく!?」




言いたいことだけ言い切って、返答というかツッコミを最後まで聞かず普通に去っていく聖女様。


どうやら、疲れた王女を抱えて家に帰るらしい。




「隊長ー!なんか街の人が色々くれてるんですが!」

「まず感謝!でも簡単に換金できちゃうものは受け取るな!あと全て記帳してくれ!」



道行く人々が手を振り応援の言葉をかけてくる。南の兵もやたら懐いたみたいに話しかけてくる。熱弁を褒められて普通に恥ずかしい。煽られてキレただけなんだ。




……。



温かい反応。見渡す限りに緩くなった表情。自分の恥ではあるが、明らかにこう、空気が良くなった。道化にされた代償としてはそんなに悪いことじゃない、か?



……いや。いや、違うぞ。聖女様、貴方も俺も多分タリア王女の意図を勘違いしている。そんな役割がどうとか、策略じみた話じゃないぞこれは。




あの人が来てから周囲に不思議な感覚が流れているとは思ったが、その正体が分かった。安心感だ。


俺すらも、その妙な安心感に甘えて感情を出した気がする。あの人には言っても無駄にならず、理不尽な処罰も喰らわないだろうという甘えは確実にあった。普通ならもっと上手くやり過ごせるんだ。




大会の本番直前にもなって、俺達はまだこんなに南の民や兵に余所者だと警戒されていたわけだ。落差でようやく気付いた。



地元民に警戒されているというと言い方は悪いが、俺達だって別に一時的な緊急派兵で仕事以上の関係を築く気など無い。多少空気の変わった今でも別にここから仲良しになろうなんてつもりもない。



だが、何を考えているのかも分からない余所者達が大勢武装してウロチョロしていたら確かに警戒心以外に何を感じれば良いんだって話だよな。




要は、皆の不安を和らげに来ただけなんじゃないか?皆とは、俺達中央の兵も含めてだ。




あの人は俺の話を綺麗事だと断じていたが、大事そうに抱えていった賢者様は多分もっともっと恐ろしいほど綺麗事を信念にして動いてるぞ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。