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ライバル


南の国の中枢。優秀な人達がゾロゾロ集まって色々する会議場とか、様々な組織の本部が立ち並ぶ、まさに国の中心って感じの重要な場所。


王とかが色々集まってガヤガヤするでかい建物で、私は久々に賢者ではなく王族由来っぽい作業をしている。



結構昔に外交で聖女状態だったアネモネに会ったことがあるように、別にこういう仕事も出来るんだよね私。天才で美少女だから。



でもなんか事務作業がノロノロしていてイライラするというド失礼な意見が寄せられていて、なぜか第一王子の一派がやたら手伝いにくる。



不服だけど楽で助かるので文句も言いづらい。絶妙な表情の私。その隣では、期待を裏切られたかのような、納得のいっていないような、そんな顔のマリウス王子がテキパキと書類仕事をやってくれている。



「なんかもっと、謎の凄い外交とか、繊細なおもてなしみたいな話かと思ったんですが」

「だから、そういうのは仲間や友達じゃないだろって」


「……じゃあ僕は出来ることを頑張りまくっていても仲間とは認めてもらえないのでは。あ、その、ヤマトくんの」

「急なメンヘラやめろ。仕事しすぎて病んでるじゃないか」




指示を回し、現場で駆け回り、その休憩に事務をする男。どう考えても働きすぎだとは思っていたが、ついにおかしくなってしまったようだ。



こいつがヤマトを押し倒す側の同人誌で闇堕ちパターンも沢山見たけど、やっぱりエロ創作って本当なんだ。


そうだよな。尽くすのが得意な人って、『いつも尽くされていたらそれが普通になる』って当たり前の現象に何の対策も持たないのが危ないよな。




「見返りの求め方が下手すぎるんじゃないかお前。友達や仲間ってのは対等を維持できている関係の事だろ。」

「じゃあ対等じゃないと仲間になれないじゃないですか」

「王もお前も多分、対等というものに唯一の正解を求めるからダメなんだよ」


「おや私もダメなんですか」

「王が王女を執事みたいに補佐するわけないだろ」



ちょうど私とマリウス王子にお茶を持ってきてくれた国王が巻き添えになる。いつも老執事みたいな格好をしているので、本当にそういう事をしているとあまりにも違和感が無さ過ぎる。




「私は別に、親戚や知り合いの子らと平等な関係なんて改めて探る必要が無いですからね。これも趣味のお茶を出して効果を確かめたいだけですし」


「執事の出すお茶が生体実験なの嫌過ぎるだろ。えー、成分と香りにリラックス効果。どうマリウス王子。ヤミ堕ち回復した?」


「僕は別に闇堕ちしているわけじゃなく、理屈と事実からなる当然の疑問を聞いただけなんですが」




ううむ。ヤミ属性の人って大体自分の理屈に自分で苦しめられてるよね。闇と病みのダブルで。




「例えば最初に言っていたおもてなしってさ、まずその相手を持て成すと利益があるって前提のものだろ?」


「割ともっと無償の善意的な性質かと思っていましたが」


「なんなら相手を喜ばせたり、相手に求められて嬉しいってのも利益であって無償ではない」


「……」


「おい無言になるな怖い。まさか本当に貢ぎ体質なのかマリウス王子」


「…………」


「怖い怖い!」




なぜだろう。マリウス王子だけではなく、背後に居ない筈のアネモネまで絶望しているような気配を感じる。


申し訳ないんだけど、誰の許可も得ず人の家で勝手に暮らして妻を名乗ってるダークナイトに貢ぎ体質とかそういう属性は絶対にないと思うよ。逆によくその大雑把な性格で病んでたよ。




「何でも分かる賢者でさえ正解は一つじゃないって言ってるんだから、お前らが一つの理屈で分かった気になって絶望してるのはおかしいだろ」


「そういうのいいんで、具体的にどうすれば対等な仲間という扱いになるのか例を見せてもらっていいですか?あ、その、外交の続きで」




どうしよう、マリウス王子の目に光が無い。




「例って言っても、対等ってのはつまり天秤のバランスだろ?」

「そういうのいいんで具体的に」


「うぜー!だから、この中央宛てのも、貸し借りの天秤が釣り合ってて、舐められても崇められてもダメなんだよ」


「タリアくんが妙に優位を捨てたがるのはなぜです?兵の指導と国境を越えた防衛協力のお礼というのは一見筋が通っているが、どう考えても貴方達の新装備の方が圧倒的に優位だ」



国王も割り込んできて細々と文句を垂れる。




「良いやつほど借りが苦手で心の距離は遠ざかるじゃないか。でも優位を取りたがる相手に貸しだと思われたら仲間ではなく奴隷にされる。一側面から見た理屈で平等かどうかじゃない。対等に助け合ってる仲間だと相手に思って貰えるかっていう心の話なんだよ」


「仲間になりたい相手にそうやって色々と策を講じるのは真摯な関係でしょうか?」



「その真摯かどうかは自分だけの基準で、自分が気持ち良いかどうかだろ。相手の事を考えるって話を策だと否定して、自分の快感だけを押し付けるのか?」


「ギャー!」「うわーっ!?」




何かが刺さってしまったのか、誰も居ない筈の背後からアネモネの悲鳴が響き、それに驚いたのかマリウス王子も倒れ、国王は無言で硬直している。老人の前で急に大声を出すんじゃない。




「別に、能力でズルできる私も失敗だらけだからな。明日をより楽しくする為に失敗を抱えていくのは良い事だと教わったから自分を棚に上げて堂々と語っているだけで、私にもギャーってなる感覚があるのは忘れるなよ。これで自分だけダメだみたいに病まれても困る」


「……僕に慰めは結構です」


「『明日を楽しくする』というのは私が一番尊敬していたお母さんの考え方だ。勝手に捻くれて慰めだけの綺麗事扱いする気ならぶん殴るぞ」



殴るぞ、というか既に頭を叩こうと手は動き出していて、しかも皆にいつも避けられるから油断していて本当に当たってしまった。




「暴力を受けたので捻くれ者の失言の貸し借りは無しです」


「なんかちょっと違うけどまぁ了解だ。どちらかといえば王子には借りの方が大きいんだけどな。ライバルに負債があるのは実際ちょっと不満だ」


「……ライバル?僕が?」



「あ!?お前私が敵対候補だと認識すらしていないのか!?最近活躍して調子に乗ってるな!!?」




マリウス王子が国王と私を交互に見ながら困惑した顔をしている。まさかこいつ、本当に私と王座を取り合ってる自覚が全く無いのでは。へりくだって病むやつが地味に傲慢なのはなんなんだ。




「確かにお前は現状だと頼りになる仲間だけど、あくまで最終的には私の覇道を阻むライバルなんだ。賢者の力的にもマリウス王子が最有力候補になっている。散々貸し借りを語っておいてなんだが、いざとなったら踏み倒すからな」


「タリアくん、賢者の力まで彼が王座を取ると感じているなら、もう勝負は決しているのでは?」


「黙れジジイ!王としての正解じゃない、有力候補の最適解だ。まだ隙間がある時の答えだね」


「しかし君は試合が始まる前から結果が分かってしまうじゃないか」


「まだ試合開始前でしょうが」




減らず口を叩く老執事王をあしらいながら、書類作業を進めようとする。



でも、ふと手が震えているのが目に入る。


何かを本能的に恐れているとか、怒りに震えてるとか、そういう深い話では無い。私の手がただプルプルしている。痛みで。




「……ねえ。たぶん突き指した。痛い」

「さっきの音すら鳴らない殴打でですか!?貧弱すぎる!!!」


「マリウスくん、避けないとダメですよ」

「申し訳ありません!まさかここまで運動能力がカスだとは!?」

「カスゥ!?」



知らなかった。殴った方の手だって痛いってやつ、鬱々とした創作物の加虐者役しか言わない邪悪な理論だと思ってた。



ただただ事実として殴った私の手だけが負傷して痛い。




「私が被害を受けたからやっぱり私の貸しねマリウス王子」

「そんなバカな!?……いや、あの、僕らは……その、一時的でも、対等な仲間で良いって話じゃないんですか?」


「だから、今は助け合う対等な仲間だけど、王座の取り合いでは私に暴力を振るったカスとして貸しを利用させて貰うね」


「……良し!ヨシ!!僕は、僕は……!!!」


「良いのか!?本当に!!?」




なぜかガターン!と椅子から立ち上がって握り拳を作り、自分の胸をドンドンと叩いたり天に掲げて喜ぶ王子。


嘘でしょ、怖すぎる。




汚い策略を仄めかされて大喜びする人、絶対に洒落にならない報復を考えて興奮してるよね。


そういえばこいつ結構正義寄りだからな。正義執行に性的な興奮を覚えているギャグ系エロ同人のキャラ付けパターンで合ってる可能性まである。



二次創作が広まると本人より変なキャラ付けの方が強まっていくものだけど、やっぱり本家が一番凄いよ。眉毛は泣きそうなのに全体はめっちゃ笑顔で、同人ですら見たこと無い表情だもの。



野郎共は悪を倒すのが本当に好きだけど、あれって多分性的に興奮するくらい本当にヤバい欲なんだな。悪い敵を求めすぎている。なるべく正々堂々戦おう。いやほんとに怖すぎる。


また一つ王子の嫌な性癖を知ってしまったかも知れない。




「ねえタリア。じゃあ私も南の王を目指すわ」



そして遂に堂々と姿を現すアネモネ。



「じゃあじゃないが。普通にダメだよ。本当に全く絶対にダメ」

「なぜ!?」



「なぜじゃないが!?他国から来た宗教の代表者に王座を取られるのって大定番の侵略だから!!負けちゃってるから!私じゃなくて国が!!」


「ぐ…っ!政治的な常識がよく分からない!!どういう意味かよく分からないわ……!」


「じゃあもう絶対ダメだね!そもそも南の人じゃないでしょって!」

「タリアと結婚したのに!?」

「してないね!?」




怖すぎる。ねえ、多分だけど意外と私が一番真っ当な王になれるって。ほんとに。



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