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異世界ネタの解説者が居ない


「……娘達?」



夜。研究所内の休憩所。ウラニアと合流してお互い協力しあうと進捗はかなり良い感じになり、心にも余裕が生まれて、軽く休憩と軽食を取ってから家に帰る所だった。



どこから入ってきたのか半透明の何かがフワフワ浮いていて、備品を勝手に盗んだりお菓子を勝手に食っている。


多分アネモネの人形だ。半透明の人形が菓子食ってる。




「タリアさま、娘が居たんすか」

「違うんだけど居る。人形の私の娘が」

「ぜんぜん何言ってるのか分からないっす」



私にバレたと気付いたのか半透明だった人形が透明になる。逃げる気だろうか、この悪ガキめ。




「あ、ちょっと待て娘達!質問がある!!」


半透明に戻る人形ふたり。やっぱり娘達だ。




「お前らが渡してきた盗難本は結局なんだったんだ?」


キョトンとした顔。なんで分かんないんだろうという表情に見える。煽られてるか?




「調べたんだけど殆どただの超人おとぎ話で、最後の章とか丸ごと抜き取られててオチも分かんなかったぞ」


自分の頭をペチッと叩く人形達。「あっちゃー」みたいな古いリアクションに見える。煽られてるか?


それから私を含めてここに居る人間をぐるーっと指差す人形。「これだから愚かな人間は」みたいなリアクションに見える。煽りだな。間違いない。




不意にペペンという軽い破裂音が聞こえ、今度はアネモネが姿を現す。どうやら娘達のケツを叩いて叱ったようだ。




「盗み聞きした範囲では、風の魔法使いと星の魔女が賢者を封印する場面らしいわよ」



アネモネの不穏な証言に頷く人形達。ノームさんも似たような事を言っていた。


アネモネが操作していると思いたい人形達が、アネモネどころか現代では誰も知らない本の中身を知っているのはどう考えてもおかしいが、一旦ここも目をつむる。



……ここに迂闊に突っ込むと、本当に命が宿っている精霊みたいな娘達を認知させられかねないので、一旦。一旦ね。




「もしかして、賢者をどうやって封印したのかが書かれていたとか?」


私の質問に頷く娘達。



「その知識が事件の解決に役立つ筈だった?」


頷く娘達。




「なんでそんな大事な情報を検閲しちゃったんだろうね!?」


やれやれというポーズを取る娘達。これも「これだから愚かな人間は」のポーズかも知れない。



どうやら娘達はあの本の中身を知っていて、でも検閲されている事を知らず、あれをヒントに私が何らかの対応を進めている想定だったようだ。




腕を組んで何やら悩んでいる人形と、それをツンツンつついてから腰袋を指差すもう一体の人形。どっちが姉でどっちが妹なんだろうね。双子でそういうのも無いのかな。腕が短くてうまく組めていないのは可愛いが、大人を舐め腐っているガキ仕草過ぎる。



なんとも言えない表情で再び悩んだあと、人形が腰袋を開けてゴソゴソと中身を取り出す。


人間の子どもの更に半分くらいしか大きさが無い人形なので、腰袋もだいぶ小さい。




小さな見た目や動作自体はあまりにも可愛いので思わず見入っていたが、その愛らしい娘が腰袋から取り出したのは……小さな黒いトカゲだった。




「……ちょ!?ちょっと待って!研究所内に放さないで下さいよ!?変なとこに入りこまれたら危ないっす!!」



疲れもあってぼんやりと成り行きを見守っていたウラニアが、突然のなまものに驚愕して声をあげる。


しかし、急な大声で驚かしてしまったのか結果は逆効果になり、小さなトカゲは俊敏な動きで人形の手から逃れ、床に着地した途端どこかの隙間をめがけて駆け出そうとする。



私は基本的に俊敏さで誰かに勝った経験が全く無く、素早いトカゲを捕まえるとかもう絶対に無理なので、最初から諦めてアネモネの方を向き、身体能力最強のダークナイトがなんとかしてくれるのを見ようとする。




私の視線に気付いたアネモネは、何を勘違いしたのか黒い粘土素材を取り出して「硬い刃」とだけ呟き、瞬時に生成した剣でトカゲを貫こうとする。




「や…っ!」「!?」




やりすぎ!!



と言おうとした。その瞬間。



トカゲからカエルみたいな声が一瞬聞こえて、突然ちいさな炎の塊がアネモネに向けて発射される。


威力や熱さ的には大した事ないだろうけど目眩ましとしては十分な脅威で、あのアネモネでさえ反射的に炎をみじん切りにしてしまい、なぜ火をバラバラに切れるのかという疑問は置いておいて、トカゲの逃走を見逃してしまう。




「手加減した魔法…!?トカゲが、私に……!?」

「タリアさま、鑑定を!!」



珍しく普通に戦闘で驚愕しているアネモネ。どうやら牽制の為だけに加減された魔法だと感じたらしい。確かにあのアネモネがトカゲに手加減される日が来るとは。


ウラニアに鑑定を求められて、恥ずかしながらようやく自分にも出来ることを思い出し、棚と棚の隙間に隠れてしまったトカゲを観察する。



何かおかしいのはもう明らかだが、こいつは……



「魔法生物……?」

「やっぱり!」



剣を構え直すアネモネと、それを阻止しようと前に出る人形達。ちょっと待って欲しい、私もまだ鑑定中なので。




「待ってアネモネ、こいつ結構鑑定が難しい!」

「タリアが!?」「タリアさまでも!?」



黒い体で分かりづらかったのもあるが、改めてきっちり観察すると何やら特徴がややこしい。




「まさか、あのバカでかい邪竜の幼体じゃないっすよね!?」

「いやそれは無い。現代も居る種だし、これで成体だよ」



判断に困って唸るアネモネとウラニア。私もよく分からなくて困っている。娘達は一体どこで見つけてきたんだ。



「でもこいつ、元々からして普通のトカゲじゃないぞ」

「さっきは現代も居る種だって……何かの邪悪な実験動物とかって話っすか?」

「そういう物騒な話じゃなくて、もっともっと根本的な話」




私の真剣な様子に周囲もピリッとした空気が流れている。



でもごめん、そういう意味の話じゃないんだよね。




「答えは分かるんだけど知識と一致しないんだ。見た感じ水場に居そうな雰囲気で、イモリとかサンショウウオっぽいだろ?でも両生類じゃなくて爬虫類なんだ。だいぶイモリなのにヤモリなんだよ。結構希少種だ。」


「?」

「あれ!?全然どうでもいいっす!!」




一瞬で理解を諦めて遠くを見るアネモネと、自分で天才美少女賢者の偉大な鑑定を求めた癖に結果に興味を無くすウラニア。ふざけるなよ。


ヤモリとイモリだって爬虫類と両生類だからだいぶ別物だぞ。近そうに見えてだいぶ他人だ。というかイモリは割とサンショウウオだ。




「分からないのか、あの不自然さが!」

「それはマジカルな話っすか?」


「違う!よく見ろ、かなり両生類っぽいだろ!?カエルとかサンショウウオとかそういうにゅるっとした感じの!でもこいつ両生類じゃないんだよ!」

「全然どうでもいいっす!!」

「ウラニアが鑑定しろって言ったんじゃん!!結果も丁重に扱えよ!!」




アネモネは既に全く話の続きを聞く気が無く、恐らく小さな影縫いで捕縛を試みようとしている。


体と影と地面をデカい針で縫い合わせる、ヤマトの世界由来の邪悪な技だ。




「!?」



不意にパキィイイイン!という破裂音のようなものが鳴り響き、後からそれがアネモネの針が破壊された音だと気付く。



トカゲが、アネモネの影縫いも防いだんだ。嘘でしょ!?




「……待って!!動かないで皆!!こいつ本当に強いわ!?」



緊迫したアネモネの声。動いてるのはアネモネだけなんだけど、あまりの迫力にツッコむ余裕もない。



パン、パン、と火の塊が不定期にアネモネの前で破裂し、確かに手加減した攻撃というか、無駄な争いを避ける威嚇行動のような魔法が断続的に放たれている。

「ゲッゲー」「ゲコー」という、握ると音の鳴る子供向けオモチャみたいな鳴き声が微かに聞こえるので、もしかして呪文を唱えているのかも知れない。



再びアネモネの影縫いが放たれるが、それもあっけなく再びパキンパキンと砕かれる。



どうやら想像以上に高等な魔法を使いこなしているらしい。


よく見たら小さな小さな魔法陣も浮かび上がっていて、それが何らかのバフ魔法を発動させているのか、非常に強い魔力がトカゲから……




「……アネモネ!ストップ!!影縫い禁止!!もう攻撃しちゃダメ!!」

「えっ!?何!?反射持ち!?」

「違う!!」




近くでふわふわ浮いている娘達を見ると、「ようやく分かったか」みたいなドヤ顔で私を見て頷いている。いたずらっ子どもが!


自分の持ってきたトカゲが逃げて攻撃されていても、なぜか人形達は全く動じていなかった。多分捕まったり倒されたりしない自信があったわけだ。




種別も珍しいが、その上で更にただの魔法生物じゃない。




「よく見てアネモネ!あのトカゲ!小さな小さな魔法陣が光ってるでしょ?」

「……?」



よく見てと言われても、めちゃくちゃ牽制されていて目の前に炎が断続的に現れるので大変そうだ。ごめん。


暗い所にいる黒いトカゲを見ようとしてるのに目の前が燃えて光るのは確かにキツイだろう。




でもよく見て欲しい。大事だから。多分アネモネの目の方が確実で、判別も信頼出来る。だってあの魔法陣は




「……!?」




驚愕して後退りするアネモネ。




「……多重円に、楔……!?」




やっぱり間違いない。アネモネの視力と知識で見てもアレがそう見えるなら、こいつもノームさんと同じ案件。




──トカゲの小さな体に、ヤマトが使うバフと同じ魔法陣が輝いている。



「勇者の紋章!?」


「トカゲの勇者っすか!?」



驚愕して叫ぶアネモネとウラニア。それに呼応してざわつく研究所。天才美少女の私ですら予想外で結構驚いている。




「くそ、先にヤマトを探し出しておくんだった。あいつの異世界知識が欲しい」

「ど、どういうことなのタリア!?これ邪竜じゃないの!?敵が勇者!?」

「すごい、本当に全く私の話を聞いてなかったね!?」



なぜかアネモネの声が下から聞こえて目を向けると、最強のダークナイトはトカゲに向かって異世界の謎風習である土下座を発動していた。


ノームさんの時は私を攻撃してきたからか勇者関係者でも余裕で敵対してたけど、さすがに何もしていない勇者トカゲを勇者信仰の聖女が攻撃するのはマズかったらしい。



絶対トカゲには通じないと思うんだけど、なぜか牽制も撃たなくなったので、意図を汲んでもらってるんだろうか。聖女がトカゲに意図を汲んで貰う光景、だいぶ嫌だな。




「こいつは魔法生物で、尚且つ種別がかなりややこしい。もしノームさんみたいに異世界ネタで視野が広がるならヒントが欲しいんだ」


「ヒント……」



「アネモネ、下手したらこいつも過去の勇者の仲間だよ」


「……!!!!」





ゴッという音を立てて、床に頭を叩きつける聖女。なぜかそれに倣ってウラニアもペタンと折りたたまれて座り、なんか私だけ立ってるのも変なので私までペタンコになる。


なんか嫌だな、ペタンコという響き。妙に許せない。




「賢者なら、何か学名とか鑑定出来ないんすか?」


「普通に分かるよ。現代も居る種だって言っただろ。見ての通りの名前、『サラマンダーゲッコー』だ。サラマンダー、つまりサンショウウオとかイモリみたいなヤモリってことだな。むしろ賢者の力が示す学名からして変で混乱したんだよ」


「ゲ?」



ヤモリがこっちを見る。なんだろう、何かに反応した。正解って意味なのかな。




「うーん……。その、ボクにはそもそもイモリとヤモリの違いが……」

「私もタリアが何を言ってるのか全然分からないわ」


「聞いておいてその反応かよ!」




やっぱりヤマトに聞かないと。滅多に無い雑学活躍チャンスなのに何やってんだアイツ。



「しかしノームさんはまだしも、サラマンダーゲッコーの英雄兵器とかあり得るのか?まさか希少ペットを不死にしたオチじゃ……」


「……ゲコー!」

「うわ!?」「ひぃい!?」「!?」




突然カエルみたいな声で鳴いたヤモリが隙間から飛び出してきて、私とウラニアは悲鳴を上げ、思わず迎え撃とうとしたアネモネが自分で自分を殴って吹っ飛ぶ。


どうやらヤモリも暴れるつもりでは無いようで、ピタッと私の前で止まってじっと顔を見てくる。




……うむ。意図が全然分からない。めっちゃ見てくるけど全然わかんない。




「なんだ?何かに反応したのか?」

「ゲー」


「なんか肯定してそうっすよ!?」

「えー!?なんだろう!?」


「会話!なんか会話して下さいタリアさま!ほら、首の長いドラゴンともちょっと話せたじゃないっすか!」

「よ、よし……」



黒いヤモリのつぶらな瞳が私を見ている。その、多分だけど対話してくれるんだよね多分。




「あのー。そのー。あれだ。あなたは勇者の仲間?」




……無言。すごい。微動だにしない。完全なノーリアクション。爬虫類特有の、時が止まったみたいな見事な停止っぷり。


頼む何かリアクションしてくれ。トカゲに一方的に話しかけてる変な人みたいになるだろ。




「あのー。あれ。あなたはトカゲのゾンビ……いや、サラマンダーゲッコーのゾンビ兵器でいいんだよね?」


「ゲコーーー!!!!!!!」


「「「うわあああああ!!?」」」




今度は突然飛び跳ねる両生類みたいなヤモリ。でかいカエルが突然飛んできたみたいな恐怖に、ウラニアと私は悲鳴を上げて仰け反り、思わず迎え撃とうとしたアネモネが再び自分の拳で吹っ飛ぶ。



サラマンダーゲッコーの方は、そのまま唐突にパパパンと小気味よい音を立てながら飛行して、私の娘達という事になっている人形の腰袋へと勝手に帰っていく。


どうやら火をいい感じに手足から噴射して飛行や高速移動も可能なようだ。見た目的には絶対に水辺関係の生物なのに火を自在に扱っている。


属性を分けたがっていたヤマトもコイツを見たらまた頭を抱えるのかな。絶対異世界ネタで何かが分かる予感があるんだが。異世界雑学を聞きたい場面なんて滅多に無いのに何やってんだ。




「なぁ娘達。これ本当にどういう話?」




何がどうなってるのかさっぱり分からず私が娘達に近づくと、サラマンダーっぽいヤモリが袋の中から再び出てきて、何かの魔石を咥えて見せてくる。




──何?鑑定しろって事?




「え、それはもう何の効果も無い破片かも。魔力の塊。あれじゃない?真の魔法生物の破片」



ゴソゴソと潜り直し、別の魔石を見せてくる。



「えっ?何やってるんすか?何か通じてる?」

「私にも分からないけど何か見せてくる……それは火が出る魔石の破片」



ヤモリのつぶらな瞳と目が合う。意図が分からない。というか爬虫類の意図を想像するのは難しすぎる。


ちなみに娘達はニヤニヤしている。絶対何か分かってるだろお前ら。




イモリ風ヤモリは再びゴソゴソと袋に戻り、また別の魔石を見せてくる。


「それは……なんだ……?魔石というか、何かすごく大きな術式のパーツの欠片じゃないか?随分古そうだが……」


「ゲコー!!」


「うわぁ!!なに!!だからなんなんだよこのやり取り!!」




また何かの反応があったが、意味が分からない。


そしてサラマンダーゲッコーと人形が目を合わせて頷き合ってる。そもそもそこはどういう繋がりなんだ?なんで通じ合ってるの?


どうやら何かの話がまとまったのか、ヤモリは咥えていた魔石をプッと吹き出して、もう一人の娘人形がそれをキャッチし、私の元に持ってくる。




「あ、え?だから多分でっかい術式のパーツの一つで、この破片だけじゃさすがに私にも分からないよ?何にでも使えるネジを見て完成品を言えっていわれても分からないみたいな……」



よりによって判別出来なかった欠片を渡されたので、つい早口で言い訳してしまう私。全知って万能じゃないんだよね。答えが一つじゃない時に一つの答えを出せって言われてもそりゃ困るでしょうが。



「……って!居ねぇ!!!」




手に持たされた欠片を見ながらブツブツ言い訳していたら、既に人形達は姿を消していた。袋に入っていたサラマンダーも当然居ない。


前の勇者の関係者だとしたらとても重要な情報だらけなので、もう少し色々調べたかったんだけど。




「……タリアさま……あの、結局なんだったんすか今の?」

「私にもよく分からん。アネモネ、娘達はあれどうなってんの?」

「子は親を超えるものなのよ」

「素直に何も分からないって言えばいいよ」




いや、ほんとになんだったんだ?


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