【北で重大案件を目撃したノームの視点】
【北で重大案件を目撃したノームの視点】
異世界の転生者は二人とも奴をティラノサウルスと呼んだ。邪竜の中でも比較的新しい時代に滅んだのか、賢者が生み出したと言われるドラゴンゾンビ兵器で一番目立つ存在だ。
どうやらどの世界でも強い竜と言えばこいつになるのだろう。向こうでは恐ろしい竜の代名詞らしいし、こちらでは邪竜の代表格。
だが何かがおかしい。
事前に見聞きした情報では、謎の超巨大なヤモリとヒョロナガの手足を模した化け物が襲ってくるという事になっていた。
だが今回はオレの知る邪竜も現れた。その巨大ヤモリと気持ち悪い手足も居たのが余計に話をややこしくしている。
他の細々したのも大体倒すには倒せたが、姿を消した敵に侵入されてどこかに潜伏された可能性は払拭できん。厳密に警戒するよう忠告はしたが、どうも平和ボケしすぎていて温度感が分かっていない気がする。
透明化も使えて繁殖もする敵と聞いたら、その時点で普通震え上がって必死に対策するものだと思うのだが。どうも何をやればよいか分からんみたいな情けなさが漂っている。
穴の空き方もおかしい。長い時間をかけて空にヒビが入り邪竜が現れたなら完全にオレの知る災害なのだが、明らかにヤモリが何らかの魔法で意図的な穴を開けていた。
ヤマト達の知る襲撃と、オレの知る襲撃が今回初めて混ざった形になる。
意図的な穴だからこそ簡単に先が読めて防衛出来たとも言えるのだが、戦略的に邪竜も投入されるという話になると危険度が違いすぎる。
……まず、デカいヤモリには殺意が無い。生命を模した魔法道具のままにも見えるし、世界に穴を開けるのも含めて本能のままに行動しているだけにも感じる。餌や熱を求めて動く動物そのままのような、それでいて意図的な指示もあるような不自然さ。
そして、気持ち悪い手足は明らかにヒョロナガだけを殺そうとしている。害虫駆除魔法のような無慈悲さと、その害虫への圧倒的な恐怖を感じる。
このどちらも我々や大きな人達にはあまり関係が無いのだが……邪竜は明確に違う。
元々ヒョロナガが魔物と勝手に名付けた種族を一方的に蹂躙するための魔法兵器だし、それが繁殖の獲得によって別種の生命と呼べる状態になった今はヒョロナガも襲う。誰にとっても危険で邪悪なドラゴン。まさしく邪竜。
こいつらが現れたからには、我々も本気で自分の身を守らなければならない。ヒョロナガのせいだからと言って自衛せずバカどもに対応を任せたら自分達が死ぬ。選択肢は無い。
どういう偶然なのかはよく分からんが、中央を発端に「人間とオークの緊急時協力体制」とやらが結ばれていて、つまりはヒョロナガと大きな人達が最初から共同で防衛する約束になっていたのが幸いだった。
平気で約束を破れるカス生命体のヒョロナガと違い、普通の種族にとって契約は絶対だ。協力し合うと約束したのなら、絶対に協力する。
本来ならヒョロナガのクソ雑魚兵が戦闘中の大きな人達の前でチョロチョロしていたら確実に巻き添えになっているし、逆に危険な道具を使いこなすヒョロナガの達人が大きな人達を巻き添えに大魔法を使う展開も当然のようにあり得ただろう。
「英雄!お手合わせを!!」
当のヒョロナガをちらりと見て、目があってしまった。
空から襲撃のあった山間部の開けた場所。オレはただ待ち合わせ中なのだが、余計な奴らが絡んでくる。
「やらんと言ってイル!!」
生やした土壁に激突する貧弱兵。かつての勇者が作った長期間の平和を誇らしく思うが、平和ボケの恐ろしさも実感する。よくもこの程度で南の国のヒョロナガより強いなどと言い切ったものだ。
「手合わせナラ我らが優先だろうガ!!」
「だから大きな人達は侵入者を警戒しに行ってクレ!!繁殖されたらマズいと何度言ったら分かるんダ!?ヒョロナガには任せておけん!」
飛びかかってきた巨体を投げ飛ばす。オークとも呼ばれる彼らは相変わらず好戦的で、体格差の都合上シンプルに強い。強者との戦いも好きなので、延々絡まれている。
但し今の彼らは縄張りから全然出ないらしく、何度言っても余計な外出を嫌がる。罠猟に慣れすぎて引きこもりを満喫しすぎたようだ。昔はここまでじゃなかった。
どうやら北の一部は彼らの猟場という認識らしく、ヒョロナガの方もそこでのオーク狩りは合法だそうで、どうもお互いが事あるごとに狩り合って戦闘しているらしい。
そんな彼らの縄張りに邪竜が現れたわけで、事前の協力体勢とオレ達の介入が無ければ双方に無駄な被害が出ていたのは間違いない。
本当に無駄としか言いようのない被害だから無視しても良かったが、平和ボケの代償と言うならアイツの仲間として多少の面倒事はこなしてやらねば。そう思って割と真面目に守ったわけダガ……
「グワァアア!」「ぐええ!!」
吹き飛ぶ大きな人達とヒョロナガ。
終わった後に絡まれているのは本当に面倒くさい。強いならオレだって手合わせは嬉しい。戦いも好きだ。でもここまで弱すぎて手加減の難易度が高いのは嫌だ。
ヤマトの仲間が小僧まで強いから基準を勘違いしてしまった。
『強さ』にも色々あるが、その全てで比較にならん。過去の者達と比べても、今の南で会った者達と比べても、力量以前のもっと根深い覚悟みたいな部分から弱い。
──不死の誘惑に悩み倒れた小僧が、別種族の病とまで戦い続けていると知った時の罪悪感が、この甘ったれたザコ共に分かるだろうか。
もっと超然とした存在だと思っていて、実際に異様な豪運を目の当たりにもしたが、調査すればするほど出てくるのは他者の命と現実的に向き合い続けてきた地道な努力の痕跡ばかり。
つまりオレは医療関係者を無差別に攻撃したのと同義なわけだ。それはさすがに苦しい。善意こそ危ないという理屈は分かっていたが、実態を知れば知るほどこうも苦しくなるとまでは分かっていなかった。
一度覚醒したら二度と倒せない不死の怪物の筈なのに、奴は他者の命を背負う重みを知りながらそれでも不死を拒絶した。他者の死も背負うことを選んだ。
……こうなると、最初の賢者の事情まで気になってきてしまう。それ相応の事情が出てきたらと思うと自分の正義が不安になる。敵は邪悪であって欲しいという我儘。
世界の破壊者は罰せられるべきだし、それと同じ力を持つものが現れたなら行動を見張るのは当然の話で、そこは事実として曲げようが無い。一度攻撃した以上、今後もその役割はオレが適任となるだろう。色々知った上で、オレがやるべきだ。
だが、上から目線で監視すると偉そうに言える気分にももうなれない。奴はオレより強い。戦闘では分からんが、命の防衛者として明らかにオレより強い。
医療関係者だけが特別なわけじゃない。例えば魔法道具の開発者だって一人の英雄なんかよりずっと強い。実際にオレは道具に負けているし、あの小僧単体にも負けている。
そういう強さは、本当なら戦うものこそ知っていなければならない。
……こいつらはダメだ。北のヒョロナガは知恵と武器だけに頼るのを否定しているようだが、それが誰のどういう努力を否定しているのかまるで分かっていない。加護の身体効果が多少強いだけ。それに甘えて強さを履き違えている。
自分も反省している最中だからこそ、余計にダメさがハッキリ見えてイライラする。
「はぁー……。この一大事によくもまぁ……」
さすがに溜め息も独り言も漏れる。
北に急いだのはヤマトに無理させない為でもあるし、あわよくば穴から向こうに侵入してアイツを救う方法が無いか探索したかったのだが、それよりも早くウラニアと呼ばれる小僧の道具が想定を遥かに超える大戦果を上げてしまった。
さすがにオレもどうなるのか知っておきたい。だからここで一旦連絡を待っているのだが……
「……せめて、一撃でも!」「うおおお!!」
「しょうもない自己満足に巻き込むナ。当たらんし、当たっても意味が無い」
再びヒョロナガ達を容赦なく吹き飛ばす。ダメだ。よっぽど戦略知識と身体能力に自信があったのか、それが通じないと次の策が全く出てこないらしい。
多少強そうな奴も紛れては居るが、そういう奴こそ気まずそうな目でオレを見るだけで、絡んでくるのはザコばかり。どういうことなのかサッパリ分からん。
別に暇だったら多少はガキの相手をしてやってもいいが、そもそも襲撃されてるのはお前らだろうが。
「アンタと!」
「む?」
土壁を破壊して一人のヒョロナガの小僧が突っ込んでくる。
「アンタと南の王子が戦う創作物がある!!アレはフィクションか!?それとも実際に戦ったのか!?」
「戦ったが?」
「本当に戦いになったのか!?」
「……ふむ?なるほど、ハハハ、なるほどお前ら!何を必死に挑んでくると思ったら!!くだらなすぎて笑えてきたぞ!!ハハハハハ!!!」
情けない顔。不安そうな顔。確かに傾向の話は知っている。南は頭脳。北は身体能力。
この非常時にとんでもない無能共を、教育も兼ねて少し強めに吹き飛ばす。
「うわあああ!!」「ぐああっ!!」「王子!!」
あー。なるほど。しかも同じく王子と。どれの事かよく分からんが、無駄な装飾の多いどれかが王子なんだろう。
「なめるなよ若造共。あのアホが戦えるなら、自分達はろくな武器も持たずオレと競えると?」
「し、しかし!」
「強い装備は南の国が開発しているカラか?」
「……!」
更に吹き飛ばす。
「オ、オイ、英雄殿!戦ってくれるなら我らとも!!」
大きな人達も吹き飛ばす。
「……この!平和ボケの!!バカ共がぁあああ!!!!
現状ではどこを見回っても問題が見当たらなかったので、一旦連絡のために別れた勇者信仰の奴らを待ちつつ、考え事をまとめておきたかった。
だがもういい!後にしよう!
「ハハハハ!!!なるほどな!賢者め!悠長に訓練などと言ってる場合かとも思ったが!!平和ボケがこれほど恐ろしいトハ!!!」
ある程度攻撃の強度を高めると、大きな人もヒョロナガも対応できているのは数名ずつしか見当たらない。
多少身体能力に自信のありそうな奴が飛び出てくるが、何の効果も無いただの物理装備でオレをどうにか出来ると思っているのが怖い。もっと強めに土の塊で吹き飛ばす。
「……!ば、ばか、な!!こんなのと、どうやって南の王子は……!」
ようやく力量差が見えてきたのか、勢いが落ちていくヒョロナガ達。
「比較対象にアレを選ぶ事すら烏滸がましい。貴様ら全員、勇者封印装置の力を見たダロ。あの開発者の小僧は一人でオレとヤマトを倒したんダゾ。非戦闘員の坊主にすら劣るザコ共がよくもそんな大口を叩けるものだ」
「い、いや、それは……!」
追い打ちをかける。言葉と打撃の両方で。。
「装備を使うなら開発者の小僧の足元にも及ばん。何も使わないというなら魔力を持たぬ異世界人並に体も技も鍛えてから言え」
再び土の塊で吹き飛ばす。なるべく同じ攻撃にしていても、全然対応出来ず喰らい続けている。
魔力を持たぬ異世界人という言葉に青ざめた顔の小僧が居たので、どうやらややこしい事になっている原因の一つも分かってきたぞ。
まぁ、そうじゃないかと思ったから言ったわけだが、ヤマトもかつてのアイツと同じ事をやらかしていたようだ。生まれ持った環境の差。
実際の所、加護を含めた身体能力だけで言えば確かに南の国であった奴らより明確に優れているし、南の警備兵の貧弱さを思えば北のヒョロナガが自惚れるのも分からないでも無い。
ただ、この世界のヒョロナガでは異世界勇者の身体能力にまず太刀打ち出来ないだろう。加護込みなら勇者の力、無しなら魔力に頼らず生きている世界の人間の力と比較される。
現場でよっぽど鍛え上げてきた強者ならともかく、平和に暮らす若造では話にならない。
であれば、心の支えが揺らぐのも分からんでも無い。加護も戦闘も確かに強いが、道具ありなら南が強く、純粋な肉体の強さも大して鍛えられていないと異世界人に分からされてしまった。
じゃあ北は何が出来るんだと。
南のアホ王子はアレで想像以上に必死に頑張れていたわけだな。戦闘もだが、ヤマトと並び立つ為なら雑用でもなんでもすぐに勝ち取って動いていたあの王子を見た後に、思考が固まって全く動けない北の小僧達を見るとさすがに放置できん。
そして大きな人達も懲りずに突っ込んでくる。
「オイ!英雄殿!我らにも説教ヲ!!説教欲シイ!!」
「だから侵入者の捜索や再び穴が空いた時の警戒準備を頼むと言ってイル!!!!」
「敵がまだ居るなら更に戦える!!警戒など不要!!」
「甘すぎる!!楽な狩りに慣れて戦いの勘が鈍りすぎているようダナ!?」
「ム!?」
「苦戦していた癖に!!!」
「ム!!!」
「相手を警戒しなくなったのは、死を恐れないからじゃない!楽な狩りばかりでアンタらの戦い方が弱くなったダケだ!!昔はもっと戦い方も強かった!!」
多少は動きは鈍ったが止まらない。若干嘘だが効いたラシイ。実際には昔から死を恐れず警戒心の緩い種族ではある。
残念ながら死を恐れない戦士は弱い。短期的な強みはあるが、長期的には自滅しているだけだ。
しかも本当に不死の軍団を相手にして、こっちは実際には死んで負けてしまう戦士だ。劣化品にも程がある。
種族的な傾向なので正直ある程度は仕方ないのだろうが、死を恐れないという耳心地良い言葉を「最初から負けを認めて対策から逃げているザコ」にまで失墜させる必要がある。
これは、同じ事を昔もやった。異世界の勇者が。
かつてアイツがやった事を真似しているだけなのでオレの知識や成果では無いが、アイツの代わりをオレ以外のやつにやられるよりは良いだろう。
「……勇者信仰が居ない時に勇者の説法とは!」「まさかかつての勇者の偉業を再現していたりしませんよね!」
そして、不意に空から影が降り立つ。
ようやくずっと待っていた勇者信仰の奴らが来たようだ。只の連絡に時間かかりすぎダロ。待ち時間にとんでもない目にあった。
「お前らを待っている間に絡まれまくって大変だったンダ!で、勇者封印装置の量産や出力は!」
「量産は本日から対応、単体の出力はさすがに短期の強化が不可能らしいですが、以前のヤマト様の巨大化を余裕で範囲に入れられるように複数個の並列使用を元々想定しているとの事」
つまり数があればあるほど広範囲に展開可能という事か。
数人の宗教ニンジャが着陸すると同時にオレの周囲の者達を吹き飛ばし、捕縛装置で無効化する。無慈悲。
これも本当はオレやヤマトを止める為の装備なので、その使いこなしと連携っぷりに若干恐ろしさも覚えるが、届いた情報はあまりにも吉報だ。
例の賢者のよくわからん能力なのか、ウラニアという小僧の力なのか。あるいは両方か。
「ウラニア博士は、もし効果が本当に確認出来れば、他の優先度を下げてでも次の襲撃までに遠隔発動を実用化させるとの事」
「残念ダガ恐らく次は相当近い。オレが記録映像を持って駆けつけるか」
「いえ、アネモネ様がもう動いています」
「アイツか……あれは一体何者ナンダ?」
「聖女様です」
腕の筋肉をパンパンと叩きニッコリ笑う謎宗教のニンジャ。絶対聖女ってそんなジェスチャーで表される存在じゃないと思うんだが。自称されたら失笑だが、他者からの扱いが変だとそれはそれで不安になる。
「仕方ない、こいつらを一旦叱り飛ばしつつオレは北の警戒ダナ。あのアホ王子と小僧達なら遠方の余計な心配事が混ざらないほど早く仕事を進めてくれる筈」
「流石です。実は私も北出身なので、甘ったれたエリート層を今すぐ叩き直してくれるなら本当に嬉しいです」
「なるほど、中身が薄い癖に妙に高い立場を得てしまったパターンなのかコイツら」
「北の全員がこんな甘えん坊ばかりだと思わないで下さい。現場はちゃんと強いです」
「上がこれではそうもいかんだろうが」
「仰る通りで。エリートほど負けるのに慣れていないんですよ」
小声で酷い暴露と頼まれ事をされる。やれやれだ。なるほど、強そうな奴ほど動かんのも大体察しがついた。
まぁ吉報で気分が良くなったので、面倒な役目も引き受けてやろう。
ウラニアという小僧は本当にお気に入りなので、奴を褒める状況になると妙な嬉しさがある。異世界勇者という仕組みの天敵。過去の醜悪な魔法を否定してくれる未来の若者。
「勇者召喚を殺す。素晴らしい決意表明だと思ったが、まさかここまで真に迫る話だったとはナ」
飛び立とうとしているニンジャに軽く声を掛けてしまう。まるで自分の事のように自慢げな声が出る。
「未来は良くなっているとかつての勇者の一員に思って貰えるなら最高ですが、その役目は我ら勇者信仰が担いたかったですね」
「道具には使い手が必要ダ」
「それは是非お任せを!」
怪しい飛行道具で飛び立つニンジャ。ニンジャってのもこんなんじゃ無かったとは思うが、自分達でそう言っているからな。
「……あの、僕ら甘ったれたエリートお坊ちゃんにも、事情を教えて頂けませんか」
降参のジェスチャーをしながらヒョロナガが一人近づいてくる。結構小声だったがガッツリ聞こえていたようだ。感覚が鋭いタイプの加護なのかも知れない。装飾が多いしこいつが王子なんだろうか。
「オレが空の穴を再封印したわけじゃないのは分かっているノカ?」
「えっ!?」
何度も説明したがやっぱり聞いていなかったようだ。
「諦めがついて落ち着いたなら勇者信仰と合流し、すぐに新防衛道具の講習を受けろ。その使い方の訓練には付き合ってヤル」
「我ラもか!?」
「だからアンタ達は警戒してくれって言ってるダロ!ヒョロナガには任せてられん!」
「何を警戒スルんだ!?」
「もおおおおお!!!話を聞ケ!!!」
こっちは結局また突っ込んできたので弾き飛ばしながら説明する。
話しても話しても通じない地獄の説明会が繰り返され、それにようやく一息つくと、ふらふらとさっきのヒョロナガが近づいてくる。
「……という事は、まさか、南の国の新防衛道具は」
「そうだ」
なんだ。別に全く頭が回らんわけでも無いらしい。
「──ウラニアという小僧は、封印の開閉を許さない再封印装置を作った。無茶な事をする異世界勇者の力を封じる為のものだったが……」
「空の穴をも修復できてしまうんですね!?」
一緒に戦って同じ光景を見たのだから普通ある程度推測出来ていた筈だし、最初から何度もそう言ってんのに、ようやく閃いたみたいな反応で話に割り込んできやがった。こいつら。本当に。バカが。
……アイツの守った数千年間の平和に意味はあった。順当な技術の進歩と、特別な天才が同世代に揃うまでサイコロを振り続けられる長い長い猶予期間。
勇者の生贄なんて古臭いものはもう要らない。新たな賢者と……恐らく星の巫女のタッグは、過去の災害をもっと根本的な部分から対処しようとしている。
どちらも危険な存在ではあるのだが、オレだけでは救えなかった者が救えるなら悪魔の手も借りたい。
「そういう事なら早く言って下さいよ英雄様!」「そうですよ!」「で、つまりどういう事なんです」「何の話ナンダ!ヒョロナガ!!英雄!!」
……ドガーンというギャグみたいな音が鳴り響いて、それが自分の放った魔法によるものだと一瞬気づかなかった。どうやら自分の意思よりも早く土の塊が発射されてバカどもを吹き飛ばしていたようだ。
恐ろしいことに、どうやらここまで来ても半数以上が話を理解していない。
この緊急時にこの理解力、思わず反射的に拒否したくなる自分の心を許したい。
南の国も知力を自慢する割にアホばかりだと思っていたが、オレが悪かった。北は……いやさっき全員一緒だと思わないで欲しいと言われたんだった。そうだな。
……北も南も全員アホばっかりだ!この平和ボケどもが!のんびり暮らせてきた事を、イサムに感謝しとけ。




