無自覚に何かやっちゃう系主人公は、本当に活躍が無自覚なままだと不安になる
結局、その日私の出番は無かった。
割ともう国というか世界を揺るがす大事件になってると思うんだよ。どの国に逃げても、空が割れて化け物が襲いかかってくるかも知れない状況だ。
そんな時にさぁ、なんでも分かっちゃう知的で最強な天才美少女賢者が頼られない事ってあるのかな。
私の嘆きが声に出ていたらしく、さっきまで机に突っ伏していたマリウス王子の使いが不意に顔を上げる。新しく追加でやってきた若干エリート学者風の青年だ。確かこの人も山の観測所で一度会っている。恐らく邪竜の出現予測に関わっているチームなんだと思う。
長時間私と激戦を繰り広げていたので大分疲れている。日が暮れて戦いの舞台が庭から客間に移っても進捗が無さすぎて絶望しているらしい。
「地図が分からないからですよ。そこがダメだと話にならないからって勇者様が地図習得セット渡した筈ですよね」
「勉強したの!してこれなんだよ!」
「自分の小動物感と迫力のないカスカス声に感謝すべきですよ。本来なら逆ギレなんて一切許さないですからね。緊急時に王族だからとか女だからとか遠慮するならここに派遣されていない。むしろ自分の甘さに驚いています」
ヤバい、ノンデリ学者タイプだこいつ。理屈が全てで誰にも全然容赦ないやつ。そしてうちのメイドさんが頷きながらお茶を出している。なぜ頷いてる?
「わかります。健気でずっと頑張ってる所まで含めて貧弱な子犬のようでしょう?」
「こっちのほうがよっぽど持って生まれた才能ですよね」
「わかりますー」
おい。
失礼な奴らに適当にあしらわれながら、再びよくわからん計算式や地図の数字をチェックさせられる。
くそっ。じゃあ皆勉強したらなんでもすぐ理解出来るのかよ。全知じゃなくても公式は知れるけど、知るのと理解するのは全然違うだろ。なんで皆は山しか無い地図の上下すら簡単に分かるんだ。形も色も全部同じようなパズルは反則だろ。
どういうわけか北の国の穴は特に問題なく塞がったらしく、私がやらされている計算は多分次の予測だ。知的天才美少女王女が、計算機にされている。頼られるってこういう事じゃないじゃん。
でも、答えは分かるんだけど、何がどうなってそうなるという式は分からない。特に地図と位置関係がまったく感覚的に掴めない。
地図が分かるやつの話をちゃんと聞くと、あいつら実は理屈じゃなく感覚で理解している部分も多いんだよ。頭の中に地形や街の立体がぶわーって浮かんでる。ズルしてる。さも理屈だけで誰でも分かるみたいな顔してさぁ。
おかしいな。おかしいよ。私何気に色々準備や練習してて、今度こそアネモネみたいな大活躍をする筈だったんだけどな。なんでこんな地味な作業やらされてるんだろう。
「そういえば被害とかは本当に大丈夫なの?」
「国外はオークの怪我以外に報告が無く、国内は怪我人が一人だけですね」
「怪我人!?」
「そりゃ怪我くらいはどうしてもありますよ。危険を承知で爆音放送を回しましたから、寄ってきた魔物と戦闘になった場所も幾つもあるので」
「そ、そうか、あの、私も治療面ではかなり……頑張っている警備兵の応援くらい……」
「兵では無いです」
「一般人に被害が!?」
別の男の人がメモを持ってくる。一応賢者の真面目な質問には即対応するよう言われてる気配がある。つまり今日の大半が真面目だと思われていないわけだが。嘘でしょ。
「えー、夜中の緊急放送の際、全裸で公園を散歩していた中年の男性がスピーカーに寄ってきたエロいハーピーを目撃」
「急に心配じゃなくなってきた」
「周囲の静止を振り切って兵を踏み台代わりに跳躍し、エロいハーピーにしがみついて胸を揉みながら愛の告白をした結果叩き落とされて足を骨折したそうです」
「それはもうハーピーと踏まれた兵の方が被害者だよね?」
「そうですね。エロいハーピーは悲鳴を上げ離脱。男を犯罪者として捕まえようとしましたが現在逃走中との事」
「骨折は!?」
「恐らく回復魔法も使える兵が居て応急処置してしまったのかと」
「次からは先に捕縛しておこうね」
なぜだろう。急に凄く疲れた。
いや被害は被害だけどね。やっぱりどうしても絶対完璧に被害ゼロとはいかない。でもなんかそういうシリアスな話する気分になれないなって。
要らないでしょ。変態の被害報告。大怪我ならまだしも逃走してるし。逆に治安が心配だよ。絶対捕まえて欲しい。
########################
……もっと深夜まで頑張るつもりだったんだけど、私の疲労を勝手に察知して計算機扱いも打ち切られ、それなりにゆったりとした夜を過ごす事になる。
まだまだ頑張れると主張したんだけど、「余裕のある今徹夜して、もし明日の夜中が大変だった時に全力を発揮できなかったら理屈的に絶対に許せないがどうします?」という話になり、ちょっとビビって受け入れた。
そういえば夜更かしがあまり得意じゃないんだった。ちゃんと寝てても夜中は怪しいので、寝不足はかなりヤバい。地図以外にも弱点が露呈している。おかしいな、無敵の天才美少女が新たな力も習得してきてる場面の筈なんだけど、駄目なとこしか目立っていない。
我ながら子供かよとは思うけど、力が強いなら負担も強いという指摘を受けた今では睡眠を軽んじるのも難しい。
本当に必要になった時、万全であるべき。既に大事件は起きているけど今じゃない。そんな雰囲気に、周囲も私自身もなっている。
「──でも、何か出来そうな力を持つ私が、何もしないのってやっぱりちょっと怖いよ」
まるで普段の日々のように穏やかな夜を終えて、それに言いようの無い焦りを抱えながら布団にもぐる。
呟くように漏れた弱音が暗い天井に吸い込まれていく。
「もう少しタリア自身とウラニアさんの力を信じるべきね」
「うわっ!?アネモネ!?」
いつの間にか一緒に寝ていたアネモネが私を優しく諭そうとする。
いつどうやって部屋に侵入してるのか一切分からないのに、気がつくと布団で抱きつかれているパターンが最近多いんだよね。親しい美少女だから許されてるけど普通に結構ホラーだよ。
「何かが起きて、誰かの危機に動きたくなるのは尊いけれど、実際の事件や災害で大事なのは結局起きる前の準備なのよ。タリア達はそこをもう頑張った。もっと信じて」
「あの、先にどうやって侵入したか説明して貰ってもいいかな」
「恐らく次は近日中に複数個所、その次はもっと多く広く、最終的にはそれらを繋げた世界の大穴を開けてくるつもりだと思うの」
「あ、え!?」
抱きしめられて頭を撫でられながらとんでもない話をされている。それって本当にとんでもない大事件で、今起きていることが序章に過ぎないみたいな話だよね?
「敵もタリア達も戦術的な知識は全く無い。獣と素人同士の戦いみたいな感じだから逆に読みにくい部分もあるけれど……賢者の力を敵も味方も本人さえも過小評価し過ぎている」
「ご、ごめんアネモネ、もう少し分かりやすく説明を……ちょっともう眠くて余計に理解が……」
「安心して眠っていいの。今回は防ぎきって当たり前。勇者信仰は反撃に出る。一番手をゴブリンに取られているのは不満だけど、ウラニアさんと第三王女に大量の装備を与えられ、サキュバスがヤマトさんを抑えてくれている今こそ、私達が動く。償いのチャンスが来た」
声は優しいんだけど内容が武人過ぎる。償いのチャンスってなんだろう。サキュバスがヤマトを……?
ダメだ、思っていたより今日はかなり疲れていたらしくて、もう頭が回らない。
「タリアがくれる情報の価値をタリアが分かっていないだけなの。スポーツが楽しめないと言うだけはある。勝負は事前に決まっている。大丈夫。大丈夫だから、今日は安心して眠ってね」
アネモネの声が遠のいていく。どうやら私は完全に寝かしつけられてしまったみたいだ。
でも正直今日一日全然姿が見えなかったから、近くに居ると分かっただけであまりにも安心して力が抜けてしまった。
特に戦闘態勢のアネモネは本当に格好良いからなぁ……どうしても頼りになりすぎて……甘えちゃって……憧れてしまうから…………。




