露呈済みのしょうもない弱点
目覚めたら、大変な事になっていた。もそもそ朝ごはんを食べて庭に出た途端大騒ぎである。
「北の国で邪竜による襲撃が発生!」「勇者様が北に居るとの報告!」「オークも戦闘していると報告が!!」
「いや本当に一大事すぎるが!?何で静かに待ってたの!!?」
なんで皆私をすぐ起こさなかったの?この状況で賢者の判断を後回しにするか普通?
「緊急報告!」
「今度は何!?」
「勇者様が謎の魔族と戦闘後、行方不明になっているそうです!」
「はぁ!!?北の国にヤマトが居るって話は!?」
「どちらかがゴブリンの勇者なんじゃないでしょうか!」
「なんなんだよもー!」
頭を抱えて天を仰ぐ。うちの庭でぎゃあぎゃあと色んな人が色んな報告をしているが、どれも混乱していて訳が分からない。
北の話とは別で、ヤマトと互角以上に戦う魔族が南の国に居るって事?アイツが簡単に負ける筈無いけど、何か重大な事件が起きているのは確かだ。
色々話を聞いてみると、どうやら朝までアネモネがこの家に誰も接近出来ないようにしていたらしいんだけど、そのアネモネも居ないのはどういう事なんだ。
……ヤマトもアネモネも居ない。頼るべきじゃないと言いながら、こんなに不安な事は無い。賢者が真っ先に探しに行った二人だもんなぁ。
「とにかくマリウス王子と合流する。あいつ今どこで何してる?」
「各国と連絡を取り合いながら国内の緊急警備体勢を指揮する為に駆け回っています!」
「やばい。それ合流できるの?ちょっとでも邪魔したら大変な事になったりする?」
「わかりません!」
頭を抱えて天を仰ぐ。大変だって事以外なんも分からんが。
人の話を鵜呑みにせず、迂闊な断言を避けるのはとっても賢くて絶対正しいことの筈なんだけど、それを伝えられる側に立つと曖昧な情報だらけで動きづらすぎる。
訓練が必要ってこういう事か。平和でゆっくり熟考しがちな国民性が緊急対応に向いて無さ過ぎる。
「……ウラニアは?研究所で寝泊まりしたまま?」
「はい!」
「よし!まずウラニアと合流する。防衛道具が今どこにどれくらい配備されてるのか把握したい」
「賢者様がうろうろ動き回ってしまうと、向こうから頼りたい時にすれ違ったりしませんか?もしマリウス王子が駆けつけた時に行き先の伝言ゲームになってしまったら一番肝心な時に遅れが……」
「もーーー!!それは、まぁ、あるかもね!!もーー!どうすりゃいいんだ!」
動きづらい!!動きづらいよ!!!
今すぐ絶対にやるべき事を感じ取っている時はこんなに悩まないんだけどなぁ。
「大丈夫。もっと賢者様を信じて下さいタリア様」
「それって実は同一人物なんだよね!いまんとこ信じる要素が無い」
いつの間にか背後にちょっと見覚えのあるお姉さんが立っていて、腕の筋肉をパンパンと叩きながらニッコリ話しかけてきた。
前に会った元聖女候補の人。再開の挨拶がその動作なのは本当に合ってるのかな。
「タリア様が悩んで動かないなら準備が間に合っている筈なので、そのまま大人しく待機させてくれとアネモネ様とマリウス様に頼まれていまして」
「勇者信仰の人に私の監視役を!?どういう状況なんだ?」
「まぁほら、結局マリウス王子もタリア王女もあくまで南の国だけの偉い人で、国境を越えた組織となると私達かウラ……間違えた、私達くらいしか居ないですから」
……改めて言われると、確かに私には北の国をどうこうする権限がそもそも無い。同人誌で国境を越えた繋がりを持つウラニアにも負けているわけだ。
宗教ってそんな越境防衛隊みたいな組織じゃ無い筈なんだけど、戦闘の話なら任せてくださいよ!みたいな顔で庭の皆を宥めていく。
「緊急時に動かないのも不安で怖いんだけどなぁ……」
「だからもっと賢者様を信じて下さい」
「そんなこと言われても、私なんだよねそいつ」
「聞いたことも無い事故的な最初の襲撃は防げず、一度敵の存在を知れば奇襲を予測して防ぎ、二度目は襲撃準備すら察知して事前に打ち砕いた。賢者様を相手にして、三度目はもう通じませんよ!」
どうしよう。私の知らない私がとんでもない評価を受けている。本当に申し訳ないんだけど、あんまり戦闘には詳しく無くってぇ……。
それに通じないとか言って普通に北の国が襲われちゃったんでしょ?全然ダメじゃん賢者様。
「……特別な英雄がその身を犠牲にして勝った所で、それは人類の勝利なんかじゃない。今の勇者信仰は誰よりもその事を理解しているし、恐らくは賢者様もそれを理解して手を打っています」
「凄く良い事言ってるんだけど、あの、私なんだよね。私が賢者の打った手を知らないのはちょっとマズいかも」
再び腕の筋肉をパンパンと叩く元聖女候補のニンジャのお姉さん。本当にごめん、どういうリアクションなのか全く理解出来ないよ?そのニッコリ笑顔はどういう事なの?
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結局誰も何も判断できず、一旦保留にして情報を待つ。賢い選択を取ろうとするほど逆に陥りがちな停滞だ。
でも実際に今勝手に飛び回るべきじゃないというのは妙に説得力があって、楽な選択肢に甘えるような不安を抱えつつも一旦自宅で待機し続けている。
家の規模はボチボチだけど庭が広くて良かった。多少誰かが相談に来てもあまり混雑もしないし、ちらっとサキュバス格闘家のライラさんが空から着地して様子を見に来たりしても、難なく対応出来ている。
「何か起きたら皆ここに相談に来る!切り札が体力を浪費せずここで待機してくれるのが結局皆にとって一番有難い!我はそう思う!」
「うーん……」
何かライラさんが若干ぎこちない。
「もしかして私に隠れて警備とか付けまくってるから、動かれる方が面倒なのか?」
「ハっ!!」
掛け声と共に天高くジャンプして飛んでいくライラさん。誤魔化すのが下手すぎる。戦闘中は高笑いと大声が多いが、普段はあんなにハイテンションに叫ばない。間違いなく何かある。
「なんでこの一大事に謎の推理合戦をしなきゃならないんだ」
ぶつぶつと文句を垂れながら庭のテーブルへと戻る。
気になることは沢山あるが、今はとてもとても難しい問題にも直面している。色々情報を渡されまくっている内に、厄介な問題が見えてきたのだ。
次々と来客から情報を渡されるので、待機も間違いでは無かったっぽいんだけど……
「あの、タリア王女、本当にどうか賢者の威厳を……白衣メガネなのに……」
「まるで私が衣装にすら負けているアホみたいな言い方をやめろ」
「しかし……」
学習風の人が色々報告する為に持ってきた紙を並べ、ものすごく不安そうに私の力を疑っている。許せん。
こいつ確か山で会ったマリウス王子の一派だ。あいつのお使いと考えると今一番欲しかった情報ではあるんだけど、どうやら数回会った中で私の信頼が地に落ちていたらしい。そんなバカな。
「いいですか?北の国の情報ですからね?」
「だから分かってるって言ってるじゃん」
「じゃあなんで西の地図を見ているんです!?」
「……北は、上じゃないの?」
「ダメだぁああああ!!!終わった!!!!」
「だまれ!!だからちゃんと分かりやすく並べろって!!!」
「地図に分かりやすくなんて無いんですよ!見たままでしょ!?なんで分かんないのか分かんないです!!」
「だからどこからどう見たら見たままになるんだよ!!太陽はどっち!?」
「地図に太陽は関係ないんですって!!!」
「じゃあどっちが北か分かんないだろうが!!」
「ダメだぁああああ!!」
白熱する議論。
さすがマリウス王子と一緒に居るだけあって、私相手にも一歩も引かないし、事務能力もビックリするくらい高い。まさかこんな高難易度な書類が来るとは。
そしてなぜか周囲の目線が生暖かい。おい私は賢者だぞ。勉強できない子供を見るような目をやめろ。
全知だって全てを知っているだけで理解しているわけじゃないんだぞ。辞書を持つだけで天才になれるなら誰も苦労はしないんだよ。
「地図は持つだけで誰でも地理が分かるんですよ!」
「そんなわけ無いだろ!まず私がどこに居るのかが分かんない!!」
「自分の家が地図で分からないんですか!!?賢者が!!?」
「だまれ!!」
まずい。本当に大事件中なんだけど、私かなり出遅れるかも知れない。
盲点だった。あんなに色々準備して魔法の練習とかもしてたのに、まさか一番大事な勉強が地図だったとは。




