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【かなり不安になっている国王の視点】


【かなり不安になっている国王の視点】




子供達の大会を軽く考えすぎていたようです。



自分の若い頃はもう少し身体加護の優劣に差別的な風潮も根強かったので、あろうことか国王という立場を任されながら古い感覚を捨てきれず、過去の醜い風潮を引きずってしまう。典型的な害悪老人だ。



似たことを自覚したことは何度もあり、常に直すべしと心に決めるのですがね。成長しない。理屈での対応は出来ても、どこか体の奥底に染み付いた感覚が全く変えられない。



若い頃に一番苦手だった、間違いを直せず反省も出来ない老人の姿がここにある。なぜあれほど頑固で醜いのか不思議だったが、自分が成ってみたらよく分かる。単純に成長出来ないのだ。心も体も若かりし頃の残滓に過ぎず、もう変化する力が無い。



死とは突然訪れるのではない。日々緩やかに死んでいるのだ。心も体も。


自分の醜さと老いに気付いてばかりの日々は悲しいものですね。反省できるだけマシだと他人事なら思うのですが、王座とはそんな情けない存在が居座るべき場所ではないのです。




ウダウダと萎れる自分に喝を入れ、やるべき事はやるべしと自分を騙し、もう一度改めて机に並べた複数の地図を確認する。直前に迫った学生大会の会場と、その防衛配置。


更には、他国の地図も。




……南の国は学問の国。特に最初に賢者様と勇者様が守った街は、各国から貴族の子や優秀な特待生が集まる世界有数の学園都市。


その各国の子供達も大会に出るという意味を、もう少し深く考えておくべきだった。




もはや国の要と呼べるほど実務を回している第一王子のマリウスくんが、こちらの懸念を読み取って解説してくれる。




「万全の筈です。タリア王女が偵察も感知して退けました。他国からの支援も、勇者信仰の協力も、そしてウラニア博士の新防衛道具も過剰なほど揃っています」


「ふむ……他国から見て、南の国の警備は弱すぎるという話でしたが」



「割と平和な国だし、身体能力の加護持ちも少ない。なので絶対的な能力の差も、練度の差も、急に覆せるものじゃありません。ただし頭脳と金は負けない。その差を埋めるのに余りある道具と資金を回しています」




勇者による入れ知恵なのか、自分の欠点を受け入れて成長出来た者の力なのか、絶対的な差に対するアプローチが冷静で、余計な拘りを感じない。


ここは本当に素晴らしいのですがね。彼もまた悪い癖が残っている。確かに絶対的な差は覆らないが、自分より上の人間を過大評価し過ぎてもいる。




「……確かに、私もここは万全だと思うのです。他国の貴族や王族まで集まっているので、悪い言い草ではありますが彼らの警護兵すらも追加戦力になる。守りきれなかったら大変な事になるが、現在ここより安全な場所は無いとも言える」


「タリア王女とヤマトくんの想定通りじゃないですか?開催したほうが安全な大会にしたいという話だったじゃないですか」



「そこなのです」

「はい?」



「うちの賢者様は恐らくある程度まで襲撃時期を予測し、安全な場所に子供達や各国の貴族まで集めて、過剰なほど防衛させている。そして偵察を迎撃した」


「何か懸念点があるんですか?」




勇者の発案と賢者の力に疑いでも?という怪訝な顔をしている。なんなら、憧れる存在を軽んじられたような敵意まで伝わる。やめなさい。親戚のおじさん相手でも国王だからね。そういう目はやめなさい。




「恥ずかしながら、最初に気付いたのはノーム様なのです。彼はもうこの国を出た」

「は!?」


「我らが勝手に区切っている地上のテリトリーにも理解を示し、他国で面倒事にならぬよう南の国の使者扱いと入国許可、教会の協力を緊急で用意させられました。恐らく、他国の仲間を守る為に。彼はどちらかといえば人間ではなくゴブリンやオークの味方ですからね」



「バカな、確かタリア王女に頼まれ事を……」


「どうやらそれでゴブリンの長老と相談する機会が発生し、そこで緊急事態だと判断されたようです。その頼まれ事も私と長老が引き継いでいます」




賢者の頼み事を途中で放棄するなんて、とでも言いたげな顔の第一王子。気持ちは分かるがそれはこちらでなんとかするので、そんなに不安そうな顔をしないで欲しい。



「冷静になって下さいマリウスくん。もう一度今の話を聞いたうえで、机に並べた地図を見て下さい」



より分かりやすいように、沢山の地図を広く並べる。


恐らく内心どこかでゴブリンの英雄がゴブリンを守り、前回のような謎の襲撃を抑えてくれると期待していたようで、彼の目線は国内の洞窟やダンジョンに向かっている。



違うんですよマリウスくん。そこはゴブリンの長と人間の王族、そしてウラニア博士の別チームによる対策道具でなんとかしなければならない話だ。


何より、他国に向かった英雄の話を聞いて、自国の心配が真っ先に来てはいけない。普通の王族ならそれが正しく、身内をまず最優先で守れなければならないが、学問の国の王族がその程度の視野ではいけないのです。




「そうではないのです。最初にタリアくんが自ら体を張って守ったから余計に分かりづらいのかも知れませんが、本来なら防御を固めるのは『攻めさせない』為なんです。まぁ偉そうに語っておいて、これこそノーム様の受け売りなのですが」



「……まさか、これは……」



「繰り返しますが、ここだけは賢者様が現れて偵察も迎撃した。前回は焦って無理にこじ開けようとして、聖女様によるとんでもない反撃も受けた。……ゴブリンの勇者曰く、『自分なら別の場所から攻める』そうです」




バーン!と大きく机を叩く第一王子。


よくないですよ、老人の前でそういう急な動作は。心臓が止まるかと思った。




「アネモネ様に相談を!!」



慌てて駆け出そうとする第一王子を一瞬遅れて引き止める。皆からは落ち着いている老執事みたいだとよく言われるのですが、急な大音とかに上手く反応出来ず一旦フリーズしてしまうだけなのです。



「勇者信仰の方々はとっくに動いています。ゴブリンの勇者にも頼るわけにはいかないし、教会はこの国だけの存在じゃない。恐らくはアネモネ様もかなり早い段階でこの事に気づいて手を打っています」


「何で教えてくれないんですかね!?じゃあ学問の国の王族とか言いながら僕らだけが何も気づかず、なんならもっと危険かも知れない他国の助けに甘えているって事じゃないですか!?」



「そうかも知れないので慌てて君だけを呼んだんです。勇者様にまで知らせたら間違いなく彼が解決してしまう。自分を犠牲にして。既にもう一人の英雄は動いていますからね」


「僕がヤマトくんを出し抜けるわけないじゃないですか!!」



悲しい絶叫を聞いてしまった。で、でも、勇者様は知恵の分野ならあくまで何の加護も無い人間であり、そこはそんなに卑屈に負けを認めちゃ駄目だと思うんですがね?




「国王はまだまだ自分の常識に囚われてヤマトくんの世界を舐めている。彼にとってはどんな奇抜な展開も『あーそういうオチね』で済む程度の話なんです。サメが空を泳いでいても、巨大な怪獣が海から現れても、大げさにリアクションするだけで内心驚いたりしないんです」


「どういう評価なのかなそれは?意外と冷笑しがちなのかね彼は」



「違います!毎日無数の創作物を楽しめる世界で過ごしたヤマトくんは、基礎的な想像力の幅が桁外れに広い。体の筋肉量と同じように、脳の基礎的な筋力が違う。ダメだ、きっと僕だけが呼び出された時点でもう気付かれている…!」



今もしかして脳の筋力って言ったのかな?あまり学問の国の王族から聞きたい表現じゃなかったかも知れないです。君はもしかして思ってるより筋肉が基準なのかな。




「恐らくヤマトくんにとって子供達の大会は信じられないほど大事で、他国を守りに飛んでいくよりも留まって警備する可能性はある。でも……他国に被害が出たら結局大会は中止だ」


「どちらにしても勇者様を戦わせるべきでは無いので、ややこしい事になる前にマリウスくんに止めてもらいたいのですが。最悪、勇者封印装置は完成しているわけですし」


「もしかして、魔法抜きの彼の強さをまだ知らないのですか?」




……。


そういえば、以前会議の時に手合わせで色々聞いていた気はする。しかし、そうは言っても精鋭を率いる第一王子が魔力のない人間一人を抑えられないのは不自然じゃないかね?




「誰とでも仲良くなれるヤマトくんは、既にゴブリンやサキュバスと言った別種族とも非常に仲が良く、最新の装備や未知のアーティファクトを幾つも譲渡され、今回の訓練で遭遇した様々な国の人達からも多種多様な提供を受けています。その身を犠牲に世界を守ってくれているお礼も兼ねて」


「君はなんでそれを止めていないのかな?」



「勇者封印装置を悪用された場合に、身を守るすべが必要だとも思うからです。だからこそ皆が色々渡しているわけで」

「それは本当に護身用の範囲で済む話なのかね?」


「今のヤマトくんなら魔力抜きでもまず誰にも負けないでしょう。一度ウラニア博士に襲撃されたのが幸運だった。あの時ですら生身だけである程度対応出来ていたのが恐ろしいですが、あれで完全に油断が消えた」



「どうしよう。もしかしてマリウスくんは結構おバカなのかな」

「どうしようはこっちの話です!」

「えっ!?そうかな!?」




再びバーン!と叩かれる机。最近の若者は怖い。思わず素のリアクションが出てしまった。




「そもそも僕は結局大会の警備から動けないですよ!?子供達や来賓を守るこの国の防衛の責任者は僕だ!ここで僕が子供達の安全を最優先にしなかったら、友も、国民も、他国の信頼も裏切っちゃうじゃないですか!他の要素を背負うわけにはいかないです」



「おお。まぁ、確かに。いや、その、出来れば本番がどうこうではなく事前になんとかして欲しいという話なんですが」


「多分、まだ事前だと思ってるのが僕らの甘えだと思います」




マリウスくんが不吉な事を言い終わるのとほぼ同時に、会議室のドアがバーン!と開かれる。


国王と王子の会議中なんですけど。娘達のようにいちいち防音結界とか張ったほうが良いんですかね。




「大変です!国王!!」



慌てふためいて入ってきたのは親衛隊の一人。その手に持っているのはどうやら通信記録のようだ。




「北の国に邪竜発生!!空からの砲撃の報告もあり、被害は不明!!」




結界なんて張らなくて本当に良かった。やはり大事な連絡は即座に受け取るべきですから。




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