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部分的な規制ってさぁ



庭の木陰で読書三昧の日々。



以前裁判所ダンジョンに行った時、生んだ記憶のない娘達から渡された本は風の魔法使いと星の魔女の逸話集。


ノームさんから貰った古い本も、勇者の逸話が散りばめられた神話集のようなもの。



暇な時に何度も取り出しては確認していて、改ざんの跡も見つかっている。「本に細工されてないか調べろ」って結構前に言われてたやつ。



勇者組が無駄に勿体ぶって細かい情報を隠していたせいで、ちょっと時間を浪費してしまった。ようやく見つけて相談したら「やっと気付いたのか」みたいな反応された時は普通にキレそうだった。


まぁノームさんが私と一時敵対してたから変な感じになっていただけなんだけど、どうせ隠し事がバレる賢者の私にコソコソする意味とか本当に無いから。さっさと言っておけよ。




どうやらこの超人逸話集は本来なら最終的に賢者を封印して、その偉業と教訓を語り継ぐものだったらしい。でも検閲されている。


魔王がどうとか風の英雄がどうこうみたいな「別の呼び名を探せ」って話の方は本当に全く見つからないので、恐らくその表現も一緒に規制されている感じだ。


ウラニアの流通ルートとかお姉様達が動いても一切見つからないので、恐らくこの見つからなさこそが「明確な意図で検閲されている」という答えだと思われる。




陰謀とか闇の組織を警戒したくなる事実だし、ヤマトとかウラニアは薄っすらそういうダークな想定に内心ちょっと興奮しているみたいなんだけど、実際にその賢者である私が抱いた印象はもっと地味でどうしようもない現実的な空気だ。



なんて言うんだろうこの感じ。こう……雑で、その場のノリっぽいというか。



結果的には、賢者を封印する話と、風の英雄と星の巫女みたいなもっと印象の良い呼び名が隠されている。じゃあまぁ賢者かそれに類する誰かが闇の組織みたいなのを作って何かしたのかなって思うのが自然だけど……




……もし、そんな闇の組織とか謎の暗躍者みたいな存在が本当に居たとして、それがゴブリンでも簡単に分かる改ざんの跡とか残してたらダサすぎないか?




世界中の本から一部分だけ消すなんてとんでもない労力だし、焚書自体も別にあるのに半端に残してあって、でも中身は只のファンタジックな逸話集。


果たして、謎の悪役が暗躍したのなら、こんな地味な内容の本が半端な検閲だけで見逃されるものだろうか。検閲から逃れた上で、ちょっと検閲されている。ここさえ消せば残していいよ、みたいな謎の地味さ。




それこそ、健全誌でやりすぎたエロの修正騒ぎとか、揉め事や犯罪が起きて過剰な規制をかけられた時の場当たり対応とかのほうが、こういう雑な残り方をするような……。




「なあ小僧。まだ何も分からんノカ?全知の賢者に分からない事があったら詐欺じゃナイカ?」


「そんなこと言ったって、何を分かれば良いか分からないんだよ」




そして定期的に英雄ゴブリンのノームさんが進捗を確認しにくる。


最近はさすがにアネモネも慣れたらしく、以前のような警戒態勢が薄れ、今日はもう昼寝したまま動こうともしない。一緒に本を読もうとすると大体途中で寝落ちしてしまい、しばらく目が覚めないのだ。かわいい。夜中に変な訓練をしまくってるらしいから寝不足なのかな。




「とりあえず前の勇者を助ケル方法を見つけろって頼んだじゃナイカ」

「長老からもっと別の本も借りてきて。多分あのゴブリンおじいちゃんが一番過去に詳しい」


「まぁ確かに何百年生きてるのか分からん体をしていたが……それでもその本の時代よりは若いゾ?」




前に裁判所ダンジョンに行って、博物館のような場所で長老に会った時の事を思い出す。



「……あのおじいちゃんゴブリンは、『星の魔女なんて現れたら即座に殺した方が良い』って言ってたんだ」


「ム……?賢者と混同している時代があったという話か?」


「そうかも知れないけど、そもそも賢者の話が検閲されているんだから普通は混同も出来ない」


「フム……確かに……?」




やるべきことが積み上がって焦っていたせいで、ちょっと気になっても細かく追求しなかった部分に多分取りこぼした情報がたくさんあるんだよね。


特に知的天才美少女賢者の通り道なので、少なくとも私の能力の方は的確な場所で的確な情報を回収している。私が何に気付いているかよく分からんだけで。




「解決してはいけない問題があるとか、魔力を捨てろとか、長老は明らかに今の私達と違う知識と常識に従って警告していた。美少女を男子と見間違える老いぼれの戯言と思わずその場でもっと追求すべきだった」


「他種族のオスメスは見分けつきづらいからナァ」


「あんたもだよ。私は人間の中ではとんでもない美少女なの」


「ハハハ……」


「その乾いた愛想笑いはなんだ!?おい!?どういう意図なのか言ってみろジジイ!」




ゴブリンの美的感覚はおかしい。そして勇者という存在はどうして人の反撃を避けるんだ。頭を叩こうとしたが全部簡単に避けられる。無礼への反撃は甘んじて受けて良くないか?




「じゃあ早速行っテこよう。他に必要なモノがあれば今言え。オレにそれが分かって持ってこれるかは別ダガ」


「ちょっと待って、少し考える。前の勇者を救うための情報探しだよね」


「そうダ。目的は絞ってくれ。全知はアレだな、無駄なものを拾いすぎて逆に何を持ってるか分からんノカ」


「よく分かったね」


「賢いのにバカな奴は見覚えがあるンダ。前の勇者も今のヤマトも余計な知識が多すぎて逆にアホな場面が多い」


「一緒にするな」




私の返答を待ちつつ、ノームさんはメモ帳を取り出して次の予定をまとめている。意外過ぎる。


謎の魔力素材に脳まで置き換えられている英雄ゴブリンゾンビなので、自分自身の記憶や意志も疑っているらしい。



唯一この英雄に命を狙われた私が言うのもなんだけど、勇者の行動はもっと根深い所で一貫しているので、多分変な操作とか洗脳も必要ないと思うけどね。


賢者の目でこれだけヤマトやノームさんを見ていれば、さすがにもう分かる。




彼らは……『勇者』は、単純に自分の命よりも他者を優先する。



犬でもハチでも人間でも、群れる生物ならその群れの為に自己犠牲する本能がきっとあるんだろうけど、彼らは恐らく過去のトラウマや元々の性格の兼ね合いでそれが異様に強い。




生存本能に従って逃げるべき場面で、仲間より前に出る別の本能。すなわち勇気。




相反する本能のバランスが壊れているとも言える。本当は意志の力として扱う方が美しいけど、そういう思考が挟まる前に彼らはもう動いている。葛藤が無い。まず助けてしまう。


危険な賢者を消すために自分の手を汚す事を躊躇わないのも根っこは恐らく同じだ。他の誰かに重荷を背負わせるより、自分が動く。



絶対に悪用されてはならない善良で儚い存在だ。その尊い犠牲の死体を掘り返して兵器化とかする奴が居たらそれを許した国ごと滅ぼしたほうがいい。元気な生身勇者でも気軽に傭兵扱いしようとするだけで借りが大きくなりすぎてしまうんだから。ほんと良くないよ。




「……ねぇノームさん、前の勇者も自己犠牲しすぎな感じだった?」


「アイツは幼い子供を救おうとして死んだらしい」




あっ……やっぱりそういう……その死体を利用した子孫としてとても気まずい……。




「異世界の死体を拾ってきて勇者にするならそういう奴が適任だろうなとは思うが、その子供を救えたのかも分からないまま、知らない土地で防衛兵器にされるのはどんな気分なのかオレには図り知れん」



気まずすぎる。




「アイツもヤマトも異世界とか転生にやたら好意的で明るいから、実際どう思っていたのかはよく分かラン。ただ、オレは良いやつだとしか感じないから、自分のその感覚だけに従って接しタ」


「やっぱりもっと気合入れて協力するよ私も。えーっと。ちょっと待って。あの、あれ。長老に星の魔女辺りの事を確認したら、ノームさんの安置されていた神殿の破片も回収してきて欲しい。出来れば機械っぽいパーツを沢山」


「フム?」



「本当は私がどっちもついて行って自分で見たほうが絶対良いんだけど、やっぱりウラニアを手伝いに行く。目先の襲撃ばかり優先してると動けない」


「……フム。分かった。……結局次の襲撃は子供らの大会と被るノカ?」


「うーん?いや、そんな詳しくは分からないけど……もう偵察とは遭遇したし……」


「…………そうか。ヨシ、まずは言われたものを持っテこよう」



何やら考え込みながら、ズブズブと土の中に潜って消えていく勇者ゴブリン。そんなことも出来るんだな。庭に穴をあけるのはやめてほしいが、潜り切ると普通に元の綺麗な地面に戻った。不思議。



通りすがりに昼寝しているアネモネの頭あたりを少し凹ませてイタズラしていったが、頭が落ちる瞬間に突然目覚めたアネモネが一瞬で長い剣を生成して地面にぶっ刺していたし、地中からは鈍い悲鳴が聞こえたので多分失敗したんだと思う。


ゴブリンって英雄でもイタズラの本能には耐えられないんだな。




「びっくりしたわ。落ちる夢を見て急にガクってなるやつ。恥ずかしい」



あ、先に気づいてたとか、殺気に反応みたいな話じゃないんだ。普通にビックリして起きたんだ。それで迷わず犯人を刺すところまで無意識にやっちゃうんだよね。逆に怖いよね。



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