【割と背負ってるウラニアの視点】
【割と背負ってるウラニアの視点】
夜の研究所に、あちこちで働き回った後のヤマトさんが訪れる。
「何かおかしいぞウラニア」
「ボクもそう思ってるっす」
ヤマトさんが入れ込んでいる訓練と大会の準備は思ったより上手くいっていない。強いのは指導に来てくれた中央の人達とか教会のニンジャ。ボクの防衛道具試験でもあるので、他人事ではないというかボクも当事者として焦っている。
なんなら教会ニンジャさん達はヤマトさんが無茶しそうな時に強制的に止める為、ボクの作った範囲型の勇者弱体化装置の秘密検証までしてくれている。
今の勇者信仰の人達は勇者の健康の為になら勇者の力を封印して縛り上げる事も辞さないみたいだ。なんか変な構図。
ヤマトさんが喜ぶ異世界再現料理を研究して捧げたり、元の世界に帰れるようなアーティファクト探索しまくってたり、勇者の代わりに戦ったりと、一周まわって勇者信仰って名前っぽい挙動になってきているような気はする。
それがなんで女ニンジャだらけになるのかはよく分かんない。
元聖女候補の男の子の童顔女ニンジャ男子とかいうもっとよく分からない人も居て、早速一部の特殊な人達に大人気になってエロ同人を作られていた。
「タリアがこっちに来たらしいじゃないか」
「王さまから禁忌魔法の資料を見せて貰って、その後ボクの手伝いという名目で色々見回ってたんすけど……」
「何か進展は?」
「一番気にしていたのは、対ヤマトさんとノームさんに使った勇者封印道具っすね。強化と量産を頼まれたんすよ」
「おい。まさか俺らと敵対するのを一番警戒してるのか?」
「実際ヤマトさん達が本気で怒ったら邪竜騒動よりよっぽど怖いことになるとはボクも思ってるっす。しかも既に怒らせて当然の事をしているし。でもあくまで健康目的っすよ多分」
「それなら俺が頑張る必要無いような強い防衛道具にこそ注力すべきだろ」
「……確かに」
二人して首を捻る。先日はヤマトさんの方に。今日はボクの方に賢者が来た。
安静にしていて欲しいという皆の頼みを優しいタリアさまが無視して動いた以上、どっちも何か次の展開を見越した行動の可能性が高く、実際ヤマトさんの方では何かと戦闘になったらしい。
「やっぱり、何か変じゃないか?前は国宝を盗んで国を飛び出してまで対応したんだろ?」
「道中で街の防衛設備のチェックもしてたっす」
「そもそもタリア自身がまだ空からの襲撃があると断言したんだ。しかも封印劣化による綻びの穴と、人為的な穴のどちらも想定すべきみたいな話で。そのわりに、なんていうかこう、前ほど慌てている感じが無い」
「うーん……」
最初の襲撃では、ボクも広範囲を庇える緊急の魔法道具を頼まれている。あまりにも分かりやすい頼み事で、もうその時点で何が起こるのか皆薄々分かっていた。でも今は違う。
明らかに襲撃が迫っていると賢者さまが断定しているけど、その対応がなんだかフワフワしていて掴めない。
ヤマトさんの様子も見に行ってるし、ボクの防衛道具も見に来ている。でも、なんだろう?何かこう、違和感が……
「あいつ、ゲームやスポーツがつまらないって言ってたじゃん。勝敗が分かるから」
「そうっすね」
「なんかそれと同じ感じの気配がしているんだよ。何か手を打って、もう焦って対応する必要が無くなった感じ。もしかしてだけど、賢者の中ではもう次の襲撃って対応済みなんじゃないのか?もっと先を見始めているというか」
なんとなく言わんとする事は分かる。
……しかも、実はちょっとだけ心当たりがあるんすよね。いやーな心当たりが。
タリアさまにめちゃくちゃ色々頼まれていて、国王、姉妹王女、マリウス王子から直々にサポートを受けている、賢者の一手の心当たりが。
「……その場合、今タリアさまに色々頼まれてるボクって、説明されていない必勝の手段を答えが分からないまま完成させなきゃダメだったりしないっすか?」
「そうだよな。やっぱりそうなるよな。それで負担大丈夫なのかなって今ちょっと見に来てみた」
「大丈夫かどうかも分かんないっすよね!?」
「そういやそうだな。うわ怖」
「怖いのはボクっす!!」
内心薄っすら自分でも危惧していた事を普通にヤマトさんに言及されて冷や汗が脇を伝う。
いや、本当に、何か妙に広範囲な頼まれごとをされている気はしてるんすよ。頼られたいとは思っていたのでそこは嬉しいけど、なんかボクいつのまにか研究開発の範疇を超えて結構重いものを背負っているような。
「そういえばノームもめちゃくちゃウラニアに期待してるじゃないか。あれだ、魔力から何か剥いでるんだろ?」
「ああそうだ、それもタリアさまに今日聞かれたっす」
「やっぱり何か重要なのか」
「やっぱり?」
「いや、その、俺の世界での物語では定番のやばい設定なんだよ」
怪しい。
聖女さまが編み出し、勇者達がやたら気にしていて、賢者さまが防衛より気にする、純魔力。
良く分からないのが、どうも純魔力の方じゃなく剥がした不純物の方に注目してるっぽいんだけど、スライムがどうとか言われてもエネルギーの不純物って言うのは比喩であって物質じゃない。
「ヤマトさんの世界だって、電流や音のノイズ除去とか絶対してると思うんすけど」
「あれ!?純魔力ってそういう感じなの!?」
「エネルギーの不純物っすよ?不安定さとか、干渉とか、そういう絡み合った見えない力の話なのに、皆スライムがどうだとか粘菌の意志がとか、固体生物前提の話をしてきてよく分かんないっすよ」
「あ、もうめっちゃ話してるんだ。い、いや、でもファンタジーの魔力だぞ?もっとファンタジックなエネルギー生命体スライムが寄生しててもおかしくないじゃんか」
「生命体とかスライムの定義から修正しないと。エネルギースライムは何がどうスライムなのかちょっとよく分かんないっす」
「でもスライムって言ったのは俺じゃない、タリアだぞ?」
「ボクもさっき色々聞いたんですけど、うーん……」
一体何をもってスライムなんだろう。
「ヤマトさんの世界って、何にでも変身するものをスライムだと定義するんすか?」
「え?ああ、うーん。そういうスライムも居るかも」
「例えば、音声を記憶して再生する魔法素材があったとして、それは音に変身するスライムなんすか?」
「それは録音機と再生機」
そりゃそうだ。
「じゃあ、火や電気という現象を記憶して再生する魔石は、ファイアースライムとかになるんすか?」
「スライム要素どこだよ?」
いやそうなるよね?
「そっちが言ってきたんじゃないすか。何にでも変身するエネルギースライムでしょ?例えば火や電気だって記憶してそれになれるモンスターっすよ?」
「あ……あ?いや、ちょっと待ってくれ。記憶と再生……?この世界の魔法ってそういう感じ……?」
「純魔力っていうのは、そういうのを含めた様々なノイズを取り除き、何にでも応用できる上に出力がバカ高くなったものなんすよ。でも何にでも使えるエネルギーの方じゃなくて、剥がした不純物がスライムなんすよね?」
ヤマトさんが頭を掻きむしって何かを思い出そうとしている。何か似た設定を見たことがあるんだと思う。
創作物の知識はどれほど科学検証されていてもあくまでフィクションだけど、『予想もできない出来事』を『ありがちなネタ』にまで堕として解決の糸口に出来る事はある。
むしろフィクションだという前提があるからこそ、信じ過ぎて間違える定番のミスを回避して思考を重ねやすいまである。想像力の引き出しを柔軟に増やすけど、確定事項として鵜呑みにする事も無い。
いいなぁ異世界。それくらい大量の創作物に一度溺れてみたい。
「ヤマトさん。言ってみれば、普通の魔石とか魔力って、既に何かのものまねをしてるんすよ。それが物理的な話に留まらず、電気信号だったり、ベクトルだったり、風や火みたいな現象だったり。そのモノマネが固着してノイズになっているのが通常魔力。それを剥がしたクリーンな状態が純魔力」
「ものまね……スライム……」
「だからタリアさまも、メタモルフォーゼモンスターみたいな表現をしていたんすよ。やっぱり名前を付けるのって賢者的に大事っぽいっすから。電流や突風みたいな、見えないものまで全てを真似出来るスライムタイプのモンスター」
「……いや、待て。急に不安になってきた。警戒していた方と違うタイプのしょうもない警戒心が今すげー勢いで俺の中から湧き上がってきてる。そこから先は慎重な発言を求める」
「なんすか?何か思い当たる名前があるんすか?タリアさまは、メタモルフォーゼとモンスターをちょっと可愛く短縮して、メタモn」
「あぶねぇ!!?」
「むぐーっ!??」
突然口にクレープを突っ込まれる。激烈に甘い。差し入れ持ってきてくれるのは本当に嬉しいんだけど、何してる?
何がどうダメなのか分からないけど、必死にボクの発言を制して何かブツブツ別の名前っぽい候補を上げまくっている。
別にボクはなんにも拘りが無いのでどうでもいいんだけど、とりあえずクレープを離して欲しい。普通に食って待ってあげるから。
「……アカシック・レコード!いや、アカシック・レコーダーと呼ぼう!人類史とか物質の記録なんて甘いもんじゃない。もう、その、なんだ、過去から未来まで宇宙の全ての現象の記録!!」
「むぐ……?な、なんすかそれ……語感がやたら格好良い」
「秘められし中二属性に気付いてて良かったー!そうだろう!?格好良い方がいいだろ!?」
「何か変な認識されてる気がするんですけど」
ヤマトさんは一度コホンと咳払いすると息を大きく吸う。マズい、長文早口が起動する。何かが雑学語りへの隙を生んでいたらしい。
「火風土水の四大要素は、まずそこに時空があってこその概念だ。さらなる必須属性、全てを包括する第五要素、アーカーシャ。虚空や空間を意味する言葉。それに全てが記録されているってのはまぁちょっと後付けされたオカルト系の話だけど、アカシック・レコードという名前がもうシンプルに格好良い」
たしかに。いつもの謎理論ではあるけど、めちゃくちゃ格好良い。翻訳を挟んでるとは思うんだけど、つまり世界を超えてなんか凄く格好良い語感なんだろうなって。クールなボクも思わず胸が熱くなったもん。
まぁ四大要素ってカテゴリ自体が前にタリアさまに否定されてた気はするけど、固体液体気体プラズマは時空間あってこそみたいなニュアンスでぼんやり受け止めれば自分を誤魔化せなくはないっす。
「それめちゃくちゃ格好良いっすよ。第五要素?への記録装置、アカシック・レコーダー。うん。感情の薄いボクでもクールな感じがするもん」
「クールな感じって緩い表現されるものがクールである確率は限りなく低いし、自認感情薄いキャラはだいぶ感情の塊だよ」
「でもなんで純魔力じゃなくて剥がした方なんすか?純魔力こそもっと自由に何にでも応用出来て出力も圧倒的に高いのに」
「それってこっちが剥がしたスライムの真似をしているだけじゃなんじゃないか?」
「え?……あー、うーん。なる、ほど?」
「今まではモノマネするモンスターとそいつが食ってるエネルギーをそのまま丸ごと利用していた。だからモンスターを剥ぐとそいつが自分の維持に使っていたエネルギーも使えるようになって出力が増す」
確かに。元が濾過なのもあって純水をイメージした純魔力だけど、水に対する純水みたいな認識よりは、未知のバッテリーを取り出しているイメージに近いかも。
「モンスターっていうか、今までは小さなロボットを丸ごとパーツとして使ったり、そのバッテリーからの出力だけ分けてもらったりしていたけれど、装甲を剥ぎ取ってバッテリーを奪うほうがどう考えても便利みたいなのがボクの感覚にもっと近いかもっすね」
「どっちにしろ野蛮な気がしてきたが、この異世界の魔法がアネモネ以外妙に地味で生っぽいのもちょっと分かるわ」
「通常科学から相当逸脱していないと地味に感じるのってどうかと思うっすよ?」
「俺らの世界ではもっと逸脱していて自由なのが魔法なんだよ。本来は観測も出来ないような未知のエネルギーと、それを利用する高次の何かが、低次元の俺達の世界の現象を真似ることで不自然だけど観測できる現象になっている……みたいな方がワクワクするし、割とこういう感じっぽくないか」
「そうっすね。純魔力とか言ってるけど、これですらボクらの世界と反応した後の劣化状態かも知れないし」
「それかなり熱い。やっぱ異世界はこうじゃないと!」
「ヤマトさんやアネモネさまが本気出すと光るのも格好良いけど、あれも設計者目線だと余分な光とか熱の発生って漏れた何かが無駄な反応を起こしてロスしてるだけっすからね」
「それかなり寒い。程々で頼む」
違いが分からないっす。なぜ同じ話で真逆の評価に?程々って何?
「まぁテンションは上がったよ。我ながら良い名付けだった、アカシック・レコーダー。低次元の事象をモノマネする高次のスライム。だから低次の俺らでも本来ありえない魔法が観測出来る。うん。いいじゃん」
どうも未知で制御しきれないものが好きっぽいヤマトさんがとても喜んでいる。高次だの低次だの大雑把で適当な事言ってるし、対処不明の危険物に喜ぶ不吉な性癖してるのもヤバい。
ボクの世界では大体そういう怪しいものを使う創作物ってとんでもないしっぺ返しを食らうオチなんだけど、向こうの世界ではそんなに定番じゃないのかも。




