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お父さんにも強火のファンが居るっぽい



賢者は滅多に現れない。今ある情報だと、数千年に一人の稀有な天才だ。理解できない才能への比喩表現的な天才ではなく、持って生まれたものの格が違う、真に天賦の才。



そういう強力な加護には私達の想定以上に負荷があるっぽい。



そして私の父は、加護を調整できた。




この条件で思いつく、よくあるパターンは二つ。



一つは、私が意図的に生み出された賢者だから負荷も普通じゃないというシナリオ。


もう一つが、本来ならまともに生存出来ないほどの力を調整したシナリオだ。




私はお父さんを知らない。

だけどお父さんの身近に居た人を知っている。



もしお父さんが娘の加護を弄って天才にしようなんて考える浅はかな人間だったら、私のお母さんの結婚相手には相応しくない。


悪性が後から出たパターンだったとしても、きっとどこかで悪口を聞く機会があったはずだし、私のお母さんはそんな悪を見抜けない程度の人じゃない。



そもそも娘で人体実験しちゃうような奴だったら、国王がわざわざ娘の前で友人だったと明かす事も無いだろう。




……状況的にもう答えは出ているようなものだが、賢者の力も、私の心も、正解は後者だと断定出来る。私は一度もお父さんの悪口を聞いたことが無い。


むしろ、死を惜しんで悲しむ気配しかしないから、気になってもあまり触れてこなかった。皆を悲しませたくなかったから、無理には聞かず生きてきた。稀に話題に登っても「良い人だった」くらいの話を当たり障り無く済ますだけ。




こうなると唐突に、とてもとても分かりやすい構図が浮かび上がってくる。



お父さんが優しい人だと仮定し、娘には体を蝕みかねない強すぎる加護があって、加護を調整できる禁忌魔法が使えたとする。さすがに、何もしない訳が無い。




そもそも、賢者はあまりにも珍しすぎる神話レベルの存在だ。


誇張や過大評価、或いは詐欺師を除けば、賢者だと断定されている人はほぼ実在しない。明確に特別な知力を持つ私と、現在の騒動の元凶だと思われる伝説級の一人だけ。



なんなら誰にでも分かるほど明らかに違う私が登場したせいで、過去に賢者かもと思われていた大半の普通の天才が否定されたから、稀有過ぎる伝説の存在になったとも言える。




でも、現実に自然発生する加護なら、なぜそこまで珍しい存在なのか。確率の問題にしてはいくらなんでも希少過ぎるのでは無いか。


私みたいに明らかに逸脱していると簡単に分かる存在が一定確率で産まれるとして、何千年も一回も見つからないなんて事がありえるのだろうか。



『誰にでも分かる強さ』でありながら、『何千年も全然見つからない』という異常な低発見率を満たす解。単純な答えが脳内に提示される。




……恐らく、自然発生した賢者の子は、賢者だと知れ渡る前に死んでいる。




もしかしたらノームさんの攻撃のような対賢者の思惑が他にも沢山あって、判明次第正義の存在に殺されてきたパターンもかつてはあったのかも知れないが、私の貧弱さを考えればもっともっと単純な答えがある。




負荷で死ぬんだ。恐らくはかなり幼い段階で。


それ程までに強い加護を持って生まれ、それが身体能力を上げるもので無いのなら、うまく成長しきれず死んでしまうんだろう。




本来なら私がその反証だ。確かに貧弱だが、ちゃんと元気に生きている。



──でも、その反証を崩す資料が、今ここにある。




「何らかの手段を取らないと、賢者は成長前に死ぬ?……いや、『本来なら生き残れないほど強力過ぎる頭脳の加護』の持ち主が、何らかの手段で生き延びた場合に賢者と呼ばれる超人に到達するって表現の方が正しいのか?」



「彼とタリアくんがその結論に至るなら、それで間違いないのでしょう」




国王が確信を持って頷く。それ程までに私の父を信じているらしい。ウラニアとアネモネはそれを引きつった顔で見ている。シンシアちゃんは割と早くからこの理解に届いていたようであまり動じていない。




農業や畜産、あるいは多少なりとも医療に関わっていれば、遺伝的な強みが遺伝的な弱みにも成りうる場面と遭遇する場面は多い。なんなら遺伝という仕組み自体が良かれと思ってエラーを後世に残しがちだ。それの、目に見えない魔法の加護版。



結局何事も表裏一体。メリットにはデメリット。強い力には強い代償。間違いなく天賦の才だと断定できる強い力は、放っておけば間違いなく死ぬ呪いになりうるわけだ。



ヤマトという比較対象とシンシアちゃんの強引な行動は、この世界の常識が常識では無かったことを暴いた。『体質』とか『疲れ』みたいな曖昧な言葉で片付けていたものの中に、きっと加護による問題も沢山隠れていた。




そして……父の死は……




王は私を手招きして少しだけ皆から離れ、声が漏れない小さな結界を張って問いに応える。まだ私が口にしていない「私のせいで死んだのか?」という問いへの解答。



「あなたが自発的に親と加護を選び、自発的に犠牲を要求し、父が嫌々従ったのならばそうなりますね。でも、そうでは無いでしょう」

「……」


「望んで子を作り、望んで子供の人生を守った。自由と責任が完結しているし、成し遂げた事を誇れるものです。娘の犠牲になったなどと憐れまれるべきでは無い。何の落ち度も無い娘に罪悪感を与えたとしたら、それは周囲の伝え方のミス。私のミスだ」


「うーん……上手くて優しい理屈だとは思うけど……」



「もっと長生きして欲しかったとこちらが惜しむのは個人の自由ですが、長生きじゃないから不幸だったと勝手に決めつけて憐れむのは価値観の押し付けです。そこを一緒にしてはいけない」


「それは、その、分かってるよ。でも、娘の長生きは願ったじゃないか」




「もう一度言いますが、長生きして欲しいと願うのは個人の自由なのです。無論貴方が早く死にたかったのなら不要なプレゼントを押し付けた愚か者なので、貴方だけは彼らを否定出来るのですが……」


「あーもう、分かったよ。一旦降参するよ。無限ループだ。なるほど、友達の意志や幸せを勝手に決めつけて憐れんだり引け目を感じるのは娘でも許せないんだ?」


「さすが賢者様。大正解です」




普段は完璧な老執事にしか見えない謎の王なので、こんなにじっとり重い感情が見え隠れしたのは初めてだ。


さすがに本人からしたらそう簡単に割り切れるものでも無いんだけど、熱い友情に免じて一旦受け入れておこう。



もうその件は切り上げるというジェスチャーによって皆の場所に戻る。




「しかし、私の健康だけだったら別にそんなに大げさなことしなくてもと思っていたけど、これはもしかしたらもっと大勢の人を……未来の子供達の健康の為にも……」


「ああ、タリアくん、そこも結界内で話せば良かった。これが禁忌魔法の資料なのを忘れないで下さい。加護と遺伝子を調整すれば不老不死ですら夢では無くなるでしょう。体組織の限界だって素材を変えれば良い」



「うわ!またそこに繋がるのか!?」



「誰にでも出来る魔法では無いとも言いました。貴方にしか出来ない魔法で未来の子供達を守るという事は、まず貴方が普通よりも長生きしなければ」




不意に背後にノームさんがスタッと着地する。やばい。話題の内容的にやばい。確かに結界内で話しておくべき内容だったらしい。一番マズい相手に聞かれた。正義の勇者が悪を見定めようと私を見ている。



「……」

「無言で見ないでノームさん。しないから。気軽にやって良い不老不死とか無いから」




ややこしい日だな本当に。父の早死を勝手に憐れむなと頼まれ、不老不死には勇者が怒る。


死を惜しむのは良いけど勝手に憐れまないって感じの話を、よりによって命を賭けて救われた娘が対応させられる構図は絶対何かおかしいだろ。どういう感情になればいいんだ。



大体、どう考えても善行しかしていない素敵で無敵な天才美少女王女なのに、なぜこうも勇者から白い目で見られなきゃならないんだ。




「……救える子供を見殺しにするノカ?」


「うわっ!だるっ!!自分が不死を否定してるくせにさぁ!!いやいやいや、話を飛躍させすぎなんだよ!大体、私が変な手段を取らなくても、シンシアちゃんとウラニアが真っ当な人類の力でなんとかしてくれるよ」


「えっ!?」「えっ!?ボク!?」



重そうな話になって若干逃げ腰になりつつモソモソと昼食を摂っていた二人が、とんでもない仕事を急に丸投げされて驚愕する。許して。でも私の為に色々やってくれていた事が結局そのまま未来の子供達の為になるやつだから。多分そう。




「フーン……」



ゴブリンの英雄が私を見る訝しげな目と、ウラニアやシンシアちゃんから希望を見出そうとする目が違いすぎる。なんて露骨な贔屓なんだ。



協力体制を築くのと、全面的に信用されるってのは話が別ってわけだね。私とノームさんは明確な目的でしっかり協力体制を築いているけれど、別に全面的な信用をされているというわけでも無い。


まぁね。根拠のない盲信が必要な協力関係はその方が不健全ではあるよ。疑うなって怒る奴なんか絶対疑うべきじゃん。


でも改めて態度に出されると嫌だなぁ、英雄に薄っすら疑われてる協力関係。言葉にすると私が悪者っぽすぎる。




「まぁ安心してよノームさん。この資料だって元々私じゃなくてウラニアに渡されるものだ」

「フーム。……まぁそれならば」


「ちょ、ちょっと、今の重い感じでボクに全部託されても困るっすよ?ボクはめちゃくちゃ優秀でカッコいいだけの普通の天才クール美女で、超人じゃない」


「相変わらず自己評価が凄いナ小僧」




ファイルをウラニアに渡して、食べそびれていた残りの昼食を摂る。調べ物が出来たし、別の場所にも出かけたいから、栄養を多めに確保しておかないと。



「……タリアくんは、もうその資料を見なくても良いのですか?」



何か言いたげな顔で王が私を見る。


私は小さな魔石と魔法粘土素材を一つ取り出し、自分の髪の毛を数本抜き取って腕に巻き付け、自分の体を簡易の魔法道具にしてちょっとしたオモチャを作る。


虫の羽を模した加護を得た小さな魔法生物が軽く飛び回って、私の手に止まる。



ノームさんや近くに居た研究者は驚愕しているが、王の反応は違う。よく知っているものを見る目。



「なるほど。賢者様に分からない筈もありませんでしたな」

「資料を見せてくれてありがとう、お父さんのお友達さん」




これはお父さんの魔法なんだ。


遺伝で引き継いだとかそういう話ではない。私だって賢者と呼ばれるだけの理由がある。資料を見ればさすがに分かる。なぜ隠していたのかもすぐ分かる。




お父さんの加護がここにある。同じ魔法を私が使えるのではない。私に後天的に加えられた護り、後天的な人工の加護が『体内を魔法回路化する魔法』によって賢者の力を調整する魔法陣のようなものを形成しており、私はその技術の一部を流用出来るだけ。



どうやらとんでもない魔法によって、特殊な加護と未知の魔力源を譲渡されている。私やウラニアの作る魔法道具はあくまで物質的なものだが、お父さんの魔法は生命体の別次元レイヤーに宿る守護霊のような、文字通り魔法の次元が違うものだ。



私に優しい魔法をかけたのはお母さんだけじゃなかった。




じゃあもう、完全に分かってしまうよ。


お父さんはきっと信じられないほど優秀で、その分ちょっと体が貧弱で、娘が無事に育つまで護れる魔法を有り得ないほど無茶な方法で編み出したのだろう。




私は最初、ファイルの人名にすぐ反応出来なかった。




皆「タリアちゃんのパパ」「あなたのお父様」みたいに、今覚えば決して名前を呼ばなかった。


私が名前を知り、その人を詳しく知ろうと思えば、隠しておきたい事情がバレてしまうかも知れないから、出来る限り呼ばなかったんだ。



私のお父さんは、私が生まれてすぐ亡くなっている。



今もそこを詳しく知ろうとすると、アネモネほど格上の相手の情報は見えないのと同じく、認識が曖昧になる。恐らく只者じゃなかった。まぁ私のお母さんの夫で、国王の友人だしね。



皆が隠していても一応名前自体はこっそり見つけて知っていたけれど、皆よりも私よりもお父さんが一枚上手で、直接的な答えは結局見えない。印象すら薄くなる。




……もしかしたら、賢者の力が『何』にどうアクセスしているのかある程度把握していたのかも知れない。伊達に賢者の父では無い。むしろかなり賢者に近い存在だったからこそ、私が生まれたんだろう。



でも甘いよお父さん。じゃあもう確定じゃん。そんなに必死に隠したら、娘に隠し事があるって分かってしまう。




お父さんは自分の体と魔法の全てで私を守ったんだ。




果たして、人知の及ばぬ賢者の加護にたった一人の人間が対抗しようと思えばどれほどの代償が必要なのか。


魔法を扱う仕組みそのものの頂点に魔法で挑むような無謀な行いだ。


でも。爪の一欠片でも、髪の毛一本でも、物質をエネルギーに変換すれば莫大な力が発生する。本来は結局それも只の物理的なエネルギーに過ぎないが、お父さんは違う。




王もウラニアも英雄も、あのファイルの本当にヤバさには多分到達出来ない。お父さんの魔法を直接この身に宿す私にしか、お父さんの真の禁忌魔法には届かない。


あんなの極一部ですらない只の派生だけど、実際の魔法を体感していなければ資料の前提のおかしさにすら気づけ無いだろう。


私の反転魔法や、魔力消滅魔法も、実際にはただ賢者の力がお父さんの力を借りていただけ。私の手柄なんか全然無かったんだ。




試しに上空に飛ばした一本の髪の毛が魔法に変換され、高い所で天に向かって風を起こす。



「……!?」



恐ろしい事にアネモネだけが何かを察知して驚いた顔で空を仰いだけど、それは見なかったことにする。



変換だ。物理的な力を魔法的な力に変換する。髪の毛一本程度の質量だって、そのエネルギーを魔力に丸ごと換えて自在に操れるなら、固定した現象を再現するような魔石に頼るよりも遥かに強く便利だ。



死体兵器の有用性が更に飛躍しそうだったり、巨大ロボットを大爆発させたらしいアネモネとかも脳裏にチラつくけど、そこも一旦無視する。



魔力で火や風を起こせるなら、火や風を魔力にするのも不可能では無いのかも知れない。本来ならそういう単純な考えは机上の空論止まりで現実の壁に阻まれる筈だが、その反転をお父さんは実行出来た。反転魔法というより、自在変換だ。




魔法と物理をそのまま相互変換する異常な技術が、お父さんの真の禁忌魔法。


自分の体の全てを使った大魔法なら、きっと出来ないことなんて無かっただろう。



お父さんはきっと、ヤマトの解釈が一致するような、本当の魔法使いだった。その力の全てが、今は私の中にある。



……ヤマト。そうか、これもまた勇者を作成する魔法に近いのか。きっと、強い魔法というのは突き詰めれば結果的に似たものに収斂していくものなのかも知れない。



これも後で調べなければ。ちょうど先日ノームさんから勇者についての詳しい本を投げ渡されたばかりだし、なんとなく今、正解のルートに導かれ続けているのを感じるよ。



いや、気がついたら正解ルートに居るのはいつもの事か。私はいつも正解の上に居る天才だった。これは多分誰でもない私だけの賢者の力だよね?お父さんの力に気付いてちょっと心が温まった後にまだ別物があったらなんかちょっと話変わってきて怖いもんね?



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