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禁忌魔法の開発者


「タリアさんはなるべく安静にしていて欲しいって私言いましたよね」




上手いこと脳筋共を丸め込んで多少外出可能な空気になった私は、後日ウラニアのお手伝いをしようと研究所に向かい、そこの屋上でまさかの元同級生シンシアちゃんに遭遇して叱られていた。空からの侵入が仇となった。



「あ、あれ、なんかもう自由でOKみたいな空気だったわ?」

「簡単に騙されないで下さい聖女さん。強い人だけが集まった会議でもしたんですか?まったく、丈夫な人達はこれだから。健康診断したら数字が酷かったって言いましたよね?そんなすぐ治るわけ無いでしょう」


「ご、ごめんなさい」

「加護の悪影響について精査してるって言いましたよね?特にタリアさんほど逸脱して強い加護には危険な悪影響があるかも知れないんです。せめて対応案がまとまるまで大人しくさせておいて下さいって話になっていましたよね?」


「ご、ご、ごめんなさい……」



私が脱走したせいでめちゃくちゃアネモネが叱られるという、あまりにも気まずい状態になってしまった。




「ま、まぁまぁ、悪いのは私だからアネモネにはそのへんで……」

「それは後でみっちり叱るけど、この聖女さんも『私に任せて!』ってドヤ顔で言ってたんです」

「言ったわ」



言ったんだ。どうやらウラニアとシンシアちゃんと姉妹王女達が何か頭脳的なことやってて、アネモネがボディガード兼見張りを頼まれていたようだ。


そして私は後で叱られるらしい。助けて。



「なのにキスに釣られて自分から脱走に協力したんですよね」

「釣られたのは今日でまだ二回目よ」



もう釣られないって言ってたのにね。



「怒られるに決まってますよね!?」

「ご、ごめんなさい」


「ちなみに二回目って事は、最初の分はもうやったんですね?」

「おはようのキスをしてみたかっただけよ」

「うーーん。まぁそういう可愛いのならギリギリ……?」



そういうのって普通寝ぼけてる私のほっぺにチュってやるものだと思うんだけどな。起きた瞬間激しめに接吻されたんだが。濃厚というか普通に舌を入れられた。


そもそも割と初期から「しまった、つい!」みたいなノリでキスしてきたし、割とアネモネは口づけが一般的な挨拶の国系の人なんだろう。中央ってそんなだったかな?



「寝起きのふにゃふにゃ可愛いタリアをどうしても一度押し倒したかったの……」

「いややっぱり大犯罪者かも!?タリアさん、この人結構近づけたらダメな感じよ!?」



どうしても仕方なかったんですって顔で自白したアネモネが余計に怒られている。



「どうせ私もウラニアさん待ちなので、彼女の手が空くまで二人ともお説教するわ!伊達にタリアさんの元同級生じゃないのよ?エリートの頭脳による執拗な説教から簡単に逃げられると思わないで下さいね二人共!」

「「う、うわ……」」



シンシアちゃんは度胸があり、会話に勢いもある。それがお説教になると怖すぎる。


助けてウラニア。本当に今すぐ助けに来て。





################################




研究所の中でもそれなりに人気スポットである、お昼時の中庭。ベンチや芝生には若くて元気な人が和気藹々としていたり、疲れ切ったおじさんがボーッとしながら食事を摂っている。


結局ウラニアは昼休憩まで休憩時間も無かったらしい。



「なんですぐ助けに来てくれないんだ」

「何言ってんのか全然分かんないっす」


「小僧、これも食え。これもヤル」

「そんでノームさんは何をしとる?」



全然助けて貰えずしこたま叱られた私の訴えは軽く流されるし、ノームさんはどうも事あるごとにウラニアに何か貢いでは去っていく習慣があるらしい。なんか妙な道具と旨そうな屋台料理渡して帰っていった。どういう関係?



どうやら事情を知っているらしいシンシアちゃんが本人を差し置いて解説してくれる。



「推しらしいです」

「何を言ってる?」


「実際にウラニアさんは若いけど、どうもゴブリンには成長期の貧弱な少年が知恵だけで必死に頑張ってるように見えてるらしくって」


「なんかそんなような事は前々から私にも言ってたが、どうしても性別の誤認は解けないのか?」


「何より勇者召喚を殺すと宣言した者なので、だいぶ気に入られまくって色々道具とか渡している内に習慣化してきたみたいです」


「別にそこの解説だけで良かったっすよね!ボクが少年扱いの部分要らないじゃん!」



ノームさんを適当にあしらったウラニアがこっちの話に不服を申し立てる。同じくゴブリンどもに男子キッズ扱いされてる同士なのでその不服はよく分かる。



「で、ウラニアは私に何か手伝って欲しい事とか無い?また脱走が封じられると暇で頭おかしくなりそうなんだ」


「うーん」

「えっ嘘?なんでそんな微妙な反応?」


「第三王女のメレテさまが、それはもう完璧にボクをバックアップしてくれてるのは知ってるっすか?」

「そうなんだ」


「それと国王も直々に協力してくれてるんすよね。あ、ほらまた来た」

「呼ばれましたかね?」



凄い、国王が単身のこのこ中庭を歩いてる。また警備の人とかを上手く撒いて勝手に動いてる気配がする。




「こんな感じで無限に手助けされてるので、タリアさまに頼み事どころかボクが誰に何を頼むか迷ってるくらいなんすよ。いっそその配分を助けて貰うっすか?」



おかしいな、ウラニアって私の専属の筈なんだが?

というか天才美少女の私への頼み事を代用できるやつなんて居ないだろ。他を後回しにして良くないか?もっとよく考えて欲しい。



「で、なんで王がふらふらこんなとこに?」

「タリアくんに言われたくは無いんですが。まだ療養中で出回らない筈では?」

「あれ?確か自由にしていい空気に」

「警備体制と療養は話が別でしょう」



まずい、余計な追求されるとまたシンシアちゃんの説教が伸びる。話を逸らして欲しい。頼むウラニア。


意図を汲み取ってくれたのか、単に王の用事を優先したのか、私の目線に応じてウラニアが話を進めてくれる。



「ちょうど良かったっす王さま。例の心当たりの件ですよね?」

「はい」




国王が謎の分厚い業務用ファイルみたいなものをカバンから取り出してウラニアに渡す。早速ざっと確認するウラニアと、ついでにちょろっと見せてもらう私。


これは……加護の制御魔法?



どうやら本来は禁忌魔法らしく仰々しい封印器具の跡があちこちにあるし、こんなところで気軽に見てはいけないっぽい術式や論文が無造作に詰め込まれている。


驚いたことに、今のところ私にしか設計出来ないものだと思っていた無機物への加護の生成や移植まで普通に言及されている。これはとんでもない資料だぞ。賢者の私より先に私と同等の技術を?


いや、でもよく考えたら禁忌魔法の話が前に出た時にこれが対象に入っていたんだよね。焚書で消された技術の消し残りの可能性もあるけど、単純に近年他の誰かが開発済みかつ封印済みの可能性の方が高いじゃないか。



思わず目を見合わせる私とウラニア。そしてちょっと覗いて難しすぎて一気に興味を無くしたアネモネ。




「まぁタリアくんが偶然居合わせるのも運命なのでしょうね」

「何の話?」


「この禁忌魔法は、結局一人の天才だけが扱える特別なものでした。ここを見て下さい」



王が付箋の場所を示す。


どうやら本来なら魔法陣とか魔石とか実際にどうやって使うのかを示す箇所だと思われるが、そこにはどうしてその天才しか使えない魔法なのかが明快な理由と共に書き残されていた。



「自分の体を魔法回路に……!?」



ウラニアが私を見る。



「そうです。ウラニア博士が求めておられる加護の悪影響を抑える道具や魔法ですが、それらは突き詰めると『生体回路を操る禁忌魔法』となるのです」




どうやらウラニアはヤマトの医療器具開発と並行して私の医療器具も作っていたらしい。その流れで国王直々に何か資料を持ち出して来たんだ。恐らく封印図書館みたいなとこから。


いや、そこはともかく、その禁忌魔法の内容にあまりにも身に覚えがありすぎる。



「これ普通に私も出来るけど」

「知っています」


「ここに書かれた天才だけの特殊な禁忌魔法って話はどうするのさ」

「タリアくんが例外なだけですね」



ごめん。私が知的天才美少女賢者ゆえにいつも常識の範疇を超えてしまって。




「賢者だからという意味では無いですよタリアくん」

「心を読んだ!?」


「君の健康に関わる問題なので隠している場合では無いと判断したのです」

「私に隠し事とか絶対に無駄だぞ」


「年の離れた大事な友人からの頼み事だったもので」



不意にファイルを一旦閉じて、また最後の部分だけ開く国王。


なぜだか寂しそうな顔をしている老執事みたいな見た目の王が、トントンと書類の一部分を指で示す。


「?」「?」



よくある人名が書かれているだけで、私達には意図がよく分からない。




「内緒にして欲しいとは頼まれたが、彼が君の健康より望むものなど絶対に存在しない。彼との約束を、彼の為に破ろうと思うのです」




……ふと思い当たる事があって、老いた国王の顔に視線を戻す。何かを懐かしむような、悲しむような顔で頷く王。




「これは君の父のファイルだ」


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