いちゃつき?
「アネモネはどう思う?下の訓練」
「優秀な道具を使っているのに、出来る人と出来ない人の差が大きすぎるわ」
相変わらず戦闘に関係することならアネモネはものすごく聡明だ。聖女っていう肩書のふわふわ金髪美少女であるという事実に対し、中身が武将過ぎる。
そしてアネモネを慕う謎の忍者っぽい元聖女候補の人達も、久々に見かけたけど大体クソ強い。どういう意図の訓練をしているのかいまいち私にはよくわからないけど、結局活躍しているのはそういう元々強そうな人達ばかりで、合間合間に指導タイムが入っている。
勇者信仰自体が想像よりだいぶ筋肉寄りのパワータイプ宗教だったのもあって、えっと、その、迂闊に言ったら怒られると思うんだけど、国境の影響を受けない防衛組織にしか見えないし、そこの最強騎士団長みたいなのがアネモネだよね。だいぶファンタジーしてる。
……ただ、そのパワー集団と、ついでに中央の兵にも指導を受け、最先端の防衛道具を渡されていても、南の防衛は勇者発案の予行訓練に全く歯が立っていない。訓練の訓練でもうだいぶダメ。
「ゴブリンは悪戯の対応で慣れているみたいだけど、武闘派サキュバスはかなり厳しいわね。道具で対応と言ってもサキュバスだって同じものを使えるわけで、体格で負けて魔力は一方的に負けて道具は同等でしょ?明らかに勝ち目が無いわ」
「そこは私も真っ先にヤマトに突っ込んだんだが、これ何が狙いなんだろね?試すまでも無く結果が見えていたけど、別に賢者だから分かるなんてレベルじゃないでしょ。当然の結果過ぎる」
二人して首を傾げる。
ヤマトが色々干渉してこうなった筈だが、アイツはこの訓練を万全に成功させたかった筈で、こんな一方的にボコられるだけの事前訓練していたら本番が開きづらくなると思うんだが。
「まぁ現実を見せるのが先というのは分かるわ。厳しい言い方になるけれど、マリウス王子とその周辺の兵がとても優秀に見えるのって、他が弱すぎるだけという意味でもあるの」
「王子がそれ聞いたら多分絶望して泣いちゃうよ」
「本人がその認識で常に鍛錬を怠らず、私にも色々質問にくるのよ。むしろあの人が一番自分の弱さを探して頑張っているわ」
「そうなのか。そういえば勇者ゴブリンにも色々聞きまくって怒られてたね」
「ただの双剣逆手持ちでさえ、通信の時に見せてから必死に教えを請われたもの」
「それは多分オタクなだけだよ」
マリウス王子は基本的にアネモネにビビっている印象なんだけど、どうやらよく分からないコミュニケーション方法で色々教えてもらっていたらしい。イケメンの割に、興味ある事だけなら女性とも元気に会話できるやつみたいな何かをちょっと感じる。
しかし、私目線だとあまり目立たないから意識して無かったけど、あの第一王子に今協力しているのって賢者、聖女、勇者、第一から第三王女、天才発明家、現国王みたいな錚々たる肩書じゃないか?
そのうちの賢者は私なわけで、別に全然私のほうが上位互換だけどね。全然負けてないけど。全然ね。でも、なんていうんだろう。世間の目?
詳しい事情まで知らないとさ、もしかしてマリウス王子って今わりととんでもなく国民から評価されているんじゃなかろうか。
なんなら他国にも顔が利くわけで、国内外から評価されてたりしないだろうか。同人のせいで絶大な女性人気もあるし。いや、私は全然負けてない筈だけどね?
「仮に、もしもなんだけどさ」
「?」
私を抱き抱えて空に浮いているアネモネが、きょとんとした顔で軽く首を傾げて腕の中の私を見返してくる。状況は凛々しいが顔は可愛い。
ちなみに、基本話をあまり聞いていないからこのキョトンとした可愛い顔を見る場面が多いのも分かってきた。
「もし今すぐ南の国王を次世代に変えるってなったらさ」
「マリウス王子が国王になるでしょうね」
「即答!?私は!?」
「タリアはそもそも他の全員から阻止されるから無理よ」
「なぜ!?」
難しそうな顔で、うーんと唸って悩むアネモネ。病んでいた頃のシリアス顔は怖かったが、最近のシリアス顔はだいぶ緩い。中身をよく知ったから、外見から受ける印象自体も変わったんだろうけど。
というか病みで表情が死んでいただけで、昔見た時は朗らかな聖女様って感じだったから、本来の姿が戻ってきたのか。
「第一王子を表に立てて姉妹王女の傀儡政権にしようって話で思ったんだけど」
「とんでもない初耳情報なんだけど!?」
「よく考えたら私もタリアと結婚したいから王になられると結局困るじゃない?」
「そんな、さも当然のように言われても」
どうしよう、気軽なノリで聞いたら何かとんでもない思惑がしれっと動いているし、完全に私欲で私の野望が防がれようとしている。え?ガチ?
まぁお姉様達は大体常にとんでもない思惑を繰り広げているので別におかしな話では無いんだけど、そういえばあの人達は基本過保護だから私を国王になんか絶対したがらないよな。
勝手に応援される気でいたけど、私の安全の為なら平気で私を国外追放とか軟禁とか出来るタイプの応援なので、無難で安全な人生以外は大体邪魔されてしまうのでは。
「だからトップの姉妹王女達はタリア溺愛ゆえに全員マリウス王子派だし、ヤマトさんはマリウス王子のツガイだし、兵や事務方は身近に活躍を感じるマリウス王子を推すじゃない?」
「あ、あれ?そうなると私の味方って全然居なくない?」
「なにより他国からも尋常じゃない人気を誇っているわ。BL同人で」
「嫌だ!!BLは読みたいけどそのせいで負けるのは絶対嫌だぞ!!?」
「まぁタリアも結構エロ同人売れてたわよ……あ、こっちは内緒だった」
「聞き捨てならなすぎるけど一旦置いておくね」
ま、まずい、分かっていたつもりだけど、改めて人から言われると結構差がついている気がしてきたぞ。大丈夫なのかこれ。
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下で大きな歓声が上がり、何やら届いた道具とか勇者のバフとか色々あってマリウス王子が大活躍しているっぽい。
ついさっきまでそれについて話をしていたので気になる状況ではある。
だが、こちらはこちらでちょっと急に事情が変わってきた。
姿は見えないが、何かが飛んでいる。
「アネモネ、あれって前回海のそばで飛んでいた透明な鳥と一緒だと思う?」
「そうね」
既にアネモネは何かを投擲して鳥に攻撃を仕掛けたが、どうやらそう簡単に倒せる相手では無い上に近づいてこないので膠着気味だ。
「どうやら私も訓練しなければいけないらしい」
「?」
ゴソゴソと腰袋から魔法道具を取り出す。実は割と常に役に立ってる超高級結界と、もう一つは初お披露目の最新装備。
「うおおー!落下事故防止結界ー!」
「???」
不思議そうに私を見るアネモネの腕から、ふわりと飛び立つ。
高いところは怖いし、落ちるのは絶対に嫌だ。そんな私が密かに作るものと言ったらこれしか無いでしょ。
賢者の力に頼り切ってまで作ったので私もいまいち原理がよく分からんが、この結界を発動していれば落下速度がとてもゆっくりになる!
浮いたままの事故とかも無い。飛行魔法のヒヤリハットを散々見てきたが、飛ぼうとするから落ちるんだ。ゆっくり落ちればいつかは地上に無事帰れるでしょ。
「タリア、いまいち意図が分からないわ?」
「前回の一番の反省点なんだ」
「?」
「つまりさ、アネモネが私を抱いたり守ったりしないで済む状況を作るのが最優先って事。私が足を引っ張らなかったらタコだってきっと倒せた」
ゆっくり落ちていく私と合わせながらアネモネがちょっと悩んでいる。あれ?完璧な案だと思ったんだけどな。
「私が敵の鳥だったら、ふわふわ落ちていくタリアを狙い撃ちするけど……」
「いやいやいや。防御結界あるから。私って遠距離攻撃無効だし、近接は近づけないから。皆が強すぎて軽んじられてるけど、無敵だよ今の私の装備」
「本当かしら」
アネモネも袋から何かの道具を取り出す。いつもの黒い魔法粘土素材と、なんだろう、ウラニアがよく使っているゴーレム関係のやつっぽいが。
「えい」
アネモネが何か大きなものを瞬時に作り出す。でっかい箱。それが、私とアネモネを丸ごと収納する。
「あ」
「ウラニアさんから聞いていると思うけど、どんなに直接攻撃を防いでも真空や丸呑みみたいな周辺攻撃は耐えられないわよ。毒ガスとかもそう」
「一応庭で見たウラニアの装着型ゴーレムをパクる予定ではあるんだ。あれをベースに色々改造したら環境攻撃も耐えられるし、スラスターとか強化して脱出や逃亡手段にもなるから」
「ふつう先にそっちじゃないかしら」
「高い所より優先したい怖いものってあんまり無いもん」
「……まぁそうね。賢者の方が本気を出したら別に反撃してどうにかなるって事っぽいわね」
「なんでわざわざ賢者の力と分けたのさ。私も多少は戦えるぞ」
「多少じゃない。前回の寝ぼけていたタリアは危険なレベルで強かった。多分自分の体を壊すくらいに」
「えっそんなに?」
「「ヤマトさんと同じね。やっぱり勇者も賢者も活躍させてはいけないんだわ」」
アネモネの声が同時に複数聞こえる。
私を丸呑みした巨大な箱がいつの間にか乗り込み型のゴーレムのコクピットみたいになっていて、後部座席に私が安全ベルトで縛り付けられ、その手前の台座みたいな所にアネモネが立っている。
いつもの壁に共有画像を投影する仕組みがこのコクピットにも採用され、箱の上下左右に映像がほぼリアルタイムで映っている。
そして外ではもう一人のアネモネが生身でも戦っている。多分さっき声が重複していたのであのタイミングで人形を投入したんだろう。明らかに強そうな兵器出しておいて、戦うのはそっちなんだよね。
そして、様子のおかしい白いフクロウが私達の周囲を飛び回り続けている。あれはヤマトのお気に入りだ。明らかに私達だけを撮影している。
大体分かってきたぞ。全方位モニター方式のコクピットに一瞬感心していたが、これ異世界の兵器だな?人型巨大兵器を撮影して喜んでるバカの顔が目に見えるようだ。
「ねぇ本当に。私がアネモネの足を引っ張る構図なの本当にもう嫌なんだけどなぁ」
「それは愛の告白よね!?」
「どういうこと!?」
凛と立っていたアネモネが興奮してぐりんと振り返る。もしかして分身人形を使うと注意散漫になって余計に話を聞いていないのでは。
「分かったわ。私はいつだって愛する人を全力で守る。タリアは守られるだけじゃ終わらないように頑張る。これもライバルね。……でも、今回程度じゃまだまだ私の圧勝よ」
前に立つアネモネがせり上がった台座のような場所に短剣を突き刺すと、ついに巨大ゴーレムも動いて戦闘を開始するが……もう予備動作からして酷かった。
ゆっくりと腕を突き出すと、突然手首の辺りが爆発する。膨大な魔力を用いた部分的な自爆。切り離された拳がその爆発の勢いで吹き飛んでいき、遠くで見えない何かに当たった瞬間大爆発を引き起こす。
「──多段式、ロケットパァンチ!」
突然のことで全てを把握するのは難しかったが、見えない何かをもう一人のアネモネが羽交い締めにしていて、動けない敵にロケットパンチが突っ込んでいった。なんてエグい戦法なんだ。
前のロケットパンチよりは確かにロケットだったけども、いいのかこれ。多分ヤマトの思惑とも絶対違うぞ。
アネモネは質量の事を爆発エネルギーだと思っているのでは。巨大ゴーレムで戦うってそういう事じゃ無いぞ多分。大小様々な自爆が基本技の兵器ヤバすぎる。
……でも、あまり突っ込む余裕が無かった。なるほど。これもライバルなんだ。
私は、私を守る為にアネモネが全力を出せない状態が嫌。
アネモネは、自分の全力を敵ではなく私の防衛に使いたい。
ふーーん。なるほど。なるほどね。
なぜだか頬が熱く、手に汗が滲む。
お母さんが言っていた、「目標が私の人生を彩る」という言葉の理解度が変わってくる。王になるとかそういう目標が大事なのかと思っていたけど、本物はもっと心で明確に分かる。心の底から体の先まで熱くなる。やっぱり、答えを得るのと答えを理解するのは全く違う行為だ。
「……今回も私の負け。まだまだ、私のせいでアネモネは敵と本気で戦えない。次までにもっと準備しておくよ」
「私の全力は、あなたを守るためにある」
ちょっと面白くなってきたかも知れない。ちょっとだけね。ちょっとドキドキするだけ。
私は今、いたずらっぽくドヤ顔するアネモネの可愛い顔に様々な気持ちが沸いているところなので、その背景はあまり見ないようにしているが、外では複数の別のアネモネがゴーレムの壊れた腕を更に砕いてぶん投げている。
爆発音が連続で聞こえているので、恐らくファイアボールの乱れ撃ちだ。多分ヤマトは解釈違いで泣いている。
まぁゴーレムでの戦闘って話で、その体を砕いて使うのが解釈通りだって人が居たらその方がヤバいと思うが。




