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【不二山斗の思い出語り】


【不二山斗の思い出語り】




腹の立つ話だ。


結局、人ってのは顔と声だよ。いや、自分の感情の表現力?



演技力って言うとズルい感じもするが、タリアとだって匿名のSNSとかでレスバしたらそう簡単には負けない。直接だから勝ち目が無いだけなんだ。



全然迫力の無いカスカス声で。心配しすぎて震えてる手で。人を傷つけるのを怖がる顔で。本当は見ないフリした方が得なのに、必死に、それはもう必死に説得してくるから。心底俺の為の行為だって分かってしまうからさぁ……。


毎回だけどあれは無理だよ。人に感情と意図を伝えるのが上手すぎる。おろおろしているアネモネもズルい。



本人の中では知的で冷静に論理的に上手くやってるつもりっぽいのが余計に腹立つ。いや別に論理的にも結構丸め込まれてはいるが。白衣メガネのビキニアーマー痴女のクセになんでああもペラペラと舌が回るんだろな。




それに、嘘をついた負い目もある。俺が具合悪くなっていたのはタリアのノンデリ発言のせいじゃない。



最初は楽しく見学していたバスケっぽいスポーツの練習試合で、相手のエースらしき選手を怪我させて青ざめている子供を見た瞬間、脳の奥に封印していた苦しみが溢れ出してきちゃっただけなんだ。


それで一旦上空に逃げていた。




なんでバスケっぽいんだろうと思っていたけど、先天的な加護の差があっても試合が成り立つようなスポーツとなるとああやってドリブルとか接触プレイに逐一制限をつける感じのルールになるんだろうな。交差点間の青信号ダッシュでなら車にも勝てるみたいな。


ラグビーとか絶対に無理だ。バスケ風のスポーツで、更にジャンプの高さなどにも厳しくルール制限があるみたいだけど、それでも接触時に子供が遠くのフェンスまで吹き飛んで額が割れて流血した。もっと助走出来る広いフィールドでタックル可能なスポーツなんかやったら首がもげてもおかしくない。



そういえばマリウス達に色々見せて貰った時も、力を溜めて飛んだり跳ねたりしていた。百メートル走を一歩で三秒みたいなノリ。大雑把で直線的な動きが基本の世界だ。散々制限をつけても、ぶつかる時はそれはもうド派手にぶつかってしまうんだろう。




タリアも治療魔法がある世界で自分の常識を押し付けるな的な事を言っていたが、その割には凄い治癒が出来る人って希少っぽい感じだし、痛みは体に記憶される。


あの子は次のプレイでも痛みを恐れず飛べるんだろうか。


傷つけた子は次のプレイでも全力で飛べるんだろうか。




俺は一度挫けた。




──二年生の時。人を傷つけた俺は、次の大会で全力を出せと約束させられた。絶対に逃げるなと。


ライバル校の、皆に慕われていた三年のキャプテン。朗らかで、他校の俺達とも仲が良かった。たった一歳の差なのに、遥か格上の大人に見えていた。


怪我しても本人は全く怒らなかったし、その時は大した事無いと言って痛みを隠し、仲間にも口止めをして、彼が最後の県大会に出られなかったと知ったのはしばらく後の事だった。俺が、彼の部活人生をケガで終わらせた。



頭が真っ白になりながら謝りに行って、運良く勝ち進めた関東大会も自分は辞退しようとした。そこで初めて、当時二年同士だったライバルに激昂されて、お見舞いに近づくことも許されなくなった。



俺は人の痛みに鈍くて、加減が下手だと言われた。


相手のキャプテンは逆に心配してくれて、自分自身が出なくても仲間の勝利が自分の勝利であり、勝負はこれからだと言ってくれていた。全国がまだあると。




ややこしい話になるが、山梨は関東大会で、練習では常にライバルだった隣の県の静岡は別の地域の大会になる。全国大会でしか決着を付ける手段は無く、俺達は結構強いけど都会の強豪に勝てるほどでも無かった。



……その年、二年生の俺は、ライバルのキャプテンを潰しておきながら、そして自校の先輩からレギュラーを奪っておきながら、団体も個人も関東の途中でやっぱり負けてしまい、静岡の方も途中で敗退していた。




辞めようと思った。




どうせ全く集中できない。怖くて動きも固くなった。どうして大会間近なのに無茶な戦い方をしてしまったのか。どうして自分ではなく相手を怪我させてしまったのか。あまりにも愚かだ。


でもアイツ以外誰も俺を責めなかった。誰もが、絶対に辞めるなと言った。罰が欲しいならそれが罰だと、ありがちな言葉を沢山言われた。優しいトゲが体中を常に刺していた。




やがて、ケガをさせたキャプテンが逆に俺達を激励しに来る。もう治ったし、自分は大学でも戦うと元気そうに俺に笑いかける。うちの主将と仲良く話して、終わりなんかじゃないんだと俺を諭す。



高校での戦いだって、育てた後輩の決着こそキャプテン同士の戦いだと。俺と、同じ年のライバルの戦いこそ、高校最後の決着なんだと。だから来年を楽しみにしてるんだと言って、去っていった。大学の大会でまた戦おうとか言って。




先輩達は仲良く去った。多分、俺の為に。


そして、俺達の知らないどこかで、先輩同士の決着をつけたんだと思っている。翌日、妙に満足そうだったから。本当はあの人達にも自分が主人公の物語があったんだ。俺はそれを壊した。



もしかしたらキャプテンを怪我させたせいで静岡が敗退したのかも知れず、気付いてもいない物語まできっと沢山壊したんだ。


恨まれるような事をしたのだから絶対に負の感情は与えている。それを表に出すかどうかが優しさであって、負の感情が発生しないわけじゃない。そこを絶対に間違えてはいけないし、自分で察して償わなければならない。



……呪いだと思ってはいけない。全てが優しさを素にしている。だからこそ絶対に逃れられないし、拒否も許されない。



ライバルだけが俺を罵る。全力を出せなかったら許せないと。次の大会でこそ絶対に決着をつけると。アイツだけが単純な答えをくれる。償い方を決めてくれる。



アイツはバカだから、俺が本気で戦えるようになったと確認できるまで何度も何度も執拗に練習試合にやってくる。


主将も、俺がレギュラーを奪った先輩も、頻繁過ぎて呆れられるくらい何度もやって来る。



そして、俺なんかに憧れる後輩達の大会も背負っているんだと理解した辺りで、覚悟が全てを凌駕した。




怖さを乗り越えたんじゃない。他の全てがもっと怖くて、裏切るのが怖くて、優しいトゲが痛くて、耐えきれなくなった。覚悟を決めて駆け抜けるしか無かった。


最後の大会に向けて、本当に人生の全てを賭けた。ライバルも、俺を気遣ってる余裕なんか無くなるほど練習で叩きのめした。それがキッカケだったのかアイツも何か一線を超えて、メキメキと強くなって互いに切磋琢磨した。



どう考えても倒されるべき悪が俺で、アイツが正義の主人公だけど、簡単に負けたら手を抜いたとキレられるし、アイツの勝利も穿った目で見られてしまう。誰もが認めるほど絶対に全てを注ぎ込んだ全力で、後輩の為にも絶対に負けられない最後の舞台で、真の決着をつける以外許されない。




アレは、間違いなく人生だった。部活という、本来なら学業のオマケに過ぎない活動が、あの頃の俺達の全てだった。戦うために生きていた。




約束をした。全力で戦うと。絶対に逃げないと。それを果たすだけの覚悟を、練習を、実際に成し遂げた。アイツを納得させられるくらいに、やってみせた。双方の元キャプテン達に見せて恥ずかしくない、最後の決着をつける筈だった。




……色々と不穏な状況が続いていて、制限がどんどん増えて、個人練習ばかりになっても、決着は付けられるつもりだった。




…………中止になるとまでは思っていなかったんだ。




延期でも、縮小大会でも無く、中止。




そうするのが正しくて賢い事だから、文句を言うとむしろ叩かれるような空気だった。

下手したら生死に関わる事と言われたら、中止の撤廃を求めるだけでも怖い。




『それはつまり、大会のせいで誰かが死んでも良いって事?』




無理だ。命を守る為の正論に勝てる筈がない。皆バカじゃない。我慢するしかない。




それでも代替大会が用意された競技はちゃんとあり、陸上や野球みたいなメジャーどころとか、そのスポーツの連盟とか振興会が強い所は何か色々やっていたみたいだった。



スポーツも要は得意科目みたいなもので、レベルによっては受験とか就活と同等の試験が部活の全国大会になる人も居る。


何の危険も許すべきじゃないという空気が強かろうと、その後の人生がかかった一番重要な大会を消したらそれはそれで人の一生を左右する。



特に氷河期世代がどうこうで苦労したらしい先生とかは特定世代を捨てる事に敏感で、パニックとかヒステリーにも怯まず色々尽力してくれていたらしい。一度見捨てられたら二度と救われないのを知っているから、絶対に見捨てない。仕方がないで済ませない。


命は大事だけど人生も大事だと、死ななければ助かるとは限らないと、同級生たちに色々悲しい事があったらしい先生が意外なほど協力してくれていた。




常識的にも感情的にもパニック的にも中止がちゃんと妥当で、開催したい側の理由にも感情だけじゃない様々な理屈や理由がある。例によって正しさは一つじゃない。



中には後で非難されるような無茶な大会をしてしまった所もあるし、そこまで潰す必要もない大会まで無駄に潰してしまったものもある。前例の無いトラブル中に、全部が全部正解だけを選ぶなんて普通は不可能なんだ。そんな中で、俺達の部活はなんとも言えない結果を引いた。



どうしても格闘技は難しい雰囲気だったし、代替大会の主導が県になると関東とか全国大会までは出来ない部活もやっぱり多くて、俺達の場合は何かよく分からないネット大会的なものが急に開催され、どう練習すべきかも分からない状況のまま気がつけば全てが終わってしまっていた。




想いを飲み込んで、色々な綺麗事を沢山綴って、誰に向けた強がりなのかも分からないまま、納得いかない終わりを我慢した。



仕方ないじゃないか。少なくとも今は我慢するしか無いと皆が思っていた。泣いてる奴は悲劇に酔ってるとバカにされ、悪いことをしたと思いたくない大人達に文句を言うなと何も言って無くても脅されて、全てのムカつく要素を我慢した。我慢したんだ。




……必死に我慢したら、これで良かったんだって事になった。




良くねーよ。良くはなかったんだ。


結構ちゃんと全国レベルの代替大会が出来た部活が羨ましかったし、その恵まれた側の奴らですら完全に満足できたわけじゃない顔なのがキツかった。分かるけど、キツい。



きっと探せば話を聞いてくれる大人もいっぱい居た筈なんだ。でも探さなかった。そういう人達は自分から余計な干渉をしない。求められない限り、余計なお節介を控える。話をせずに我慢したから、そういう味方を作れなかった。


我儘言うなって声だけが聞こえていたけど、それにビビって黙ったら話を聞いてくれる人にも言葉が届かなくなるという罠だった。



本来の俺ならこういう話にもすぐ頭が回って、何か出来ていたと思う。多分あの時にはもう心の糸が切れていたんだ。背負っていた荷物が重すぎて、強制的に下ろされた瞬間、ホッとしてしまったんだろう。情けない。情けないよ。口実を得て逃げたんだ。



推薦とかで考えれば、受験や就活が終わってから代替の大会する意味なんて無い。理屈だけで考えるなら、後年の大会は基本無駄なんだろう。


でも、当時の中止や代替大会に納得いかなかった人達を集めて、納得行く引退試合しようぜって声をかけたら、もしかしたらどこかに企画が通ったかも知れない。テレビとか、有名な配信者とか、なんかこう感動を食い物にされるような企画だって、納得行く終わりの対価としてなら食われたって良かった。


或いは、何かした上で駄目だったという敗北を得られるかも知れない。やれることはやったという納得が心の支えになるなら、今からでも正直その感覚は欲しい。思ったより自分の支えがスカスカだと今更気付いた。




大会が消えた空っぽの年。あれ以降誰もその事に触れなかった。まるで腫れ物のように。禁句のように。人と会いづらい状況的な問題もあって、アイツも二度と来なかったし、俺も行かなかった。熱が冷めて、大人になってしまった気がしていた。



実際にそのまま大人になって、部活に全てを捧げた甲府のフジはどこにも居なくなって、燃え殻の俺は空っぽな事を隠すかのように様々な趣味に熱中するようになり、たまに居る運動得意なオタクとして手当たり次第何にでも挑戦しまくって、本当に挑戦したかったものを記憶の奥底に埋めていった。




──普通そういう過去があって異世界に来れたらさ、力を活かしつつ新しい何かを得て、人生をやり直せるもんじゃないのか。もしくはスローライフとかハーレムで癒されてもいいんじゃないか。


本当にやるべき事をやらない限り本当には満たされないとか、異世界に来てから指摘されるのはあまりにも容赦が無さ過ぎるだろ。しかも俺の意志で来たわけじゃ無いのによ。棚上げパワーが高すぎる。



転生だったら違ったんだろうな。前の人生自体がもう絶対に取り返せないんだから、全力で第二の人生を楽しむしかない。なるほどテンプレって上手く出来てるわ。帰れる可能性がちょっとでもあるとこうなるわけだ。




俺の大会も、俺の人生も、まだ不二山斗のまま終わっていない。異世界勇者ヤマトとしての人生にはまだ早い。賢者が言うには、どうやらそういう事らしい。


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