怒らせたらマズい人
皆が慌ただしく各自で動き出し、私は案の定あまり出番が無くなってしまった。
健康診断の結果も別にそこまでとんでもなく悪いわけじゃなかったんだけど、元々ちょっと儚い美少女のせいで数字が良かった事も無く、話の流れ的にそれはもう過剰に心配されてしまってほぼ強制的に家で休まされている。
このまま軟禁されてお姫様扱いされ続けていると、外出の記憶がうんちを病院に届けた恥ずかしい記憶で終わってしまうんだが。
さすがに何の目的も無く無意味に抜け出したりもしないが、こう何日も暇だとジワジワと言いようのない焦りが溜まっていく。
たまにメイドさんがぱたぱたと駆け回り、どこからか鑑定するものを受け取ってきてくれるので、今はもう本当にそれを待ち望んでいるところだ。
今日もあまりにも暇だったから、昼間から庭に出て柔軟体操とかしていたくらいだったが、どこかに出掛けていたメイドさんの一人が何らかの包みを持って帰ってきたので、ようやく久しぶりの出番が訪れる。
「タリア様、どうやら次は聖女様が抹殺した鳥の魔法生物の内臓らしいです」
……とんでもない物が今更出てきたな。言われてみればそういう敵の情報を集めて研究してくれている対策チームもあちこちに発生している筈だ。
しかし、今になってこれが出てきて、尚且つ私に話が回ってきたとなると、相当重要なものがずっと忘れられていたっぽい気配がする。
しかもこれ、一目見ただけで重大な発見がある。死んだ魔法生物の内臓。黒くて魔石みたいだが、魔力もない。
私達にとって身近な魔法生物とは、あくまで動物などを模倣した疑似生命的な魔法道具であって生物ではない。
でも、これは、『死体』だ。
命を獲得した真の魔法生物がどこかで繁殖して襲ってきている。そういう推測は随分前からしていたが、唐突に裏付けが転がり込んできた。
疑似生命は別に生きてるわけでは無いから死にもしない。壊れても直せる。でもこれは死んでいる。部品を探して集めて起動しても生き返らない。
「……アネモネって今何してるか知ってる?」
「料理の練習と仰って魚を捕まえに行かれたと思います」
釣りじゃなくて手づかみで捕まえてそうな気配がする。というか料理の練習って素材の確保からなんだね。
「呼んだ?」
「呼ぶべきか迷ってたところ」
そして噂をすると高確率で本体が隣に出現する。人形を色々使って分身みたいな事をしているという認識なんだけど、じゃあなんで手に魚持ってるアネモネが突然ここに居るんだろうね。
「……アネモネ、もしかして前回の戦いの時にさ、透明な鳥の魔法生物をなるべく原型残るように倒した?」
「そういえば良い感じに幾つか落としておいたわ。ほら、うっかりゴブリンに当たって首の骨折ってたらしいのよね」
そういえばなんかあったなそんな話。
「ちなみに、その重要な研究素材になりそうなやつを蹴落とした地点とか、そもそも確保したって話は誰かに言った?」
「……」
「言ってないんだよね!いや、もしかして言ったかどうか全く覚えてないパターンかな!?」
「誰かに言ったような言ってないような……もし言ってなかったら本当にただゴブリンの骨折っただけだったわね」
申し訳なさそうにえへへと笑うアネモネ。かわいいね。
「最近さ、不死身をテーマにした話題が色々あったじゃん」
「なんか大変そうなやつよね」
うーん、認識が既に雑。
「今更だけど、これアネモネなら死の概念があるかよく分からない魔法生物も殺せるって事だよね?」
「ゴブリンゾンビの事?次はちゃんと殺すわ」
「違う。ダメだからね、ノームさんはダメ」
「だってタリアを狙ってるのよ?英雄の称号ごと殺すべきだわ」
物騒。でもそういう話ではなくて……いや、そうか。アネモネは始めからこれが不死でも道具でも無いと認識しているのか。実際殺しているもんね。
「……アネモネが普通に殺せる相手って不死じゃないよね?」
「そうね」
「割と最近のあれこれが全部無駄になるんだけど??」
「どういうこと?」
アネモネはいつのまにか魚を黒い串に刺し、空中で焼いている。
もう焚き木に火をつけるとかですらない。たぶん直接熱い空気で焼いてる。黒い串はいつもの魔法粘土素材だろう。
そしてこちらの質問に対し終始不思議そうな顔である。うーん。アネモネからしたら何も隠し事は無いし、前からずっと大勢の前でやってる事だ。
こっちが勝手に色々頭の中だけで推測しまくって、グルグルと似たような話題で悩んでいるだけで、アネモネは実際に実戦で敵を倒し続けてきた。分かっていなかったこっちが悪い。
……おいヤマト今すぐうちに来い。多分あいつも私と同じミスをしている。
アネモネがギャグみたいに強すぎるから、ついシリアス条件から無意識に除外していた。最強のダークナイトの事もちゃんと想定すると、何かが根本から崩れているぞ。
そういえばいつも穴の向こうから来た敵は塵一つ残らないから、敵の死体を実際に調べようという本来当たり前かつ真っ先にやるべき事が抜けていたよ。アホか。何やってるんだ私は。
もう一度しっかり魔法生物の死体の内臓を見る。黒い魔石のような塊。でも魔石じゃない。魔法生物でも無い。
成分がどうとかはこれから色々調べるけど、『死んでいる』という鑑定結果より重要な事は多分無い。道具が壊れたのでも無く、魔石に戻ったのでも無く、石みたいな何かが死んでいる。
別にこれも何も隠されていたわけじゃないし、アネモネやヤマトが空の敵と戦ってる場面はちゃんと見ていたのに、目先の忙しさに囚われてうっかりやるべき事を見逃してしまった。
多分、はーやれやれ皆ちょっと休憩しようみたいなタイミングで裁判とかあったせい。ゴブリンとかオークのせいにしよう。おのれオーク。いつか必ずセクハラ発言の報いを。
「一応確認なんだけどアネモネならさ、石とか道具も殺せるの?こういう鳥型の魔法道具とか」
「生きてないものを殺すのは無理じゃない?」
観測用の鳥の魔法生物をパタパタと飛ばして聞いてみるが、何言ってるの?みたいな顔をされた。まるでこっちが非常識みたいな目で見られるの納得いかないんだが?
「じゃあこの石みたいな魔法生物の鳥はどうやって殺したの?」
「生きてたから殺した」
そっかぁ……。たし、かに。うん。それはそう、かも。
絶対聖女の口から出るべきではない名言が飛び出てしまったな。そうか。そうだね。生きてないと殺せないよね。
そして突然人の家の庭に降ってくる勇者。
「神様でもか!?」
「……?」
鳥を飛ばした時にヤマトの姿がチラッと見えたので、向こうも通りすがりに気になって何してるのか見に来たんだろう。
どうやらまたヤマトのファンタジー好き琴線か何かに触れる話題だったようで、もんのすごい食いついている。
でも、人の家の庭で宗教の代表者に神殺しを問うの、なんか不安だからやめて欲しい。
「い、生きてるなら、神様でも……!?」
「神さまかどうかって、戦いと何か関係ありますか?」
「ああっ!若干違うけどそれはそれで格好良い!格好良いよアネモネ!」
謎に褒められて困惑しながらえへへと笑うアネモネ。そして満足そうに再びどこかに去ろうとするヤマト。
「おいバカ帰るな。ちょうど今すぐ来いと思ってたんだよ」
「何?俺早く避難訓練の準備を進めたいんだが。まじで通りすがりに熱いセリフを感知しただけだ」
「いいからちょっと私も活躍させろ」
どうやら例の避難訓練付き部活大会に向けて色々話が進んでいるらしく、ヤマトはそっちに入れ込んでいたようだ。
こいつはこいつでなんか重要で深刻そうな話を進めてたはずなんだが、ヤマトにとって子供らの大会開催はそれと同等以上に重要らしい。
部活が終わったら部活の中で生きていた自分は死ぬみたいな事まで言ってたから、本当にもう一つの命を賭けるくらい大事な大会って認識なんだろうな。ハマり過ぎだろとは思うが、言ったら絶対怒られる。
実際最近はちょっと私もアネモネと勝負してみたい気持ちとか無くもないので、全く気持ちが分からんでも無いし。
「ヤマトもアネモネの強さが若干ギャグに見えてるだろ」
「若干ではないかな」「私いつも真面目よ?」
「最近不死について私達結構真面目に考えたじゃん」
「そうだな」「そうだったんだ」
やっぱり気付いていない。いや気付いてるんだけど意識の盲点みたいな感じで、真面目に考えようとすると例外的に強すぎるアネモネを除外してしまうんだよ。
「多分だけど、前の賢者も、死竜兵器も、魔法生物も、この仕組みなら全然不死じゃないぞ。魔法効果なら私やウラニアがなんとか出来るかもだし、そもそもアネモネなら普通に殺せる」
「あれ?なんか話の前提が……じゃあお前何のために凹んで自宅療養してたの?いや死者の復活はやっぱり重いシリアスか。悪い、そこは凹んでもいい」
「……死者の復活に関しても思うところがある」
話が長くなり始めて興味を失い焼き魚を食べ始めたアネモネを見る。
「ヤマトが一番私の能力の凄さを実感出来ている筈だが、実は日本とか富士山よりアネモネの方が全然分からない。アネモネの方が格上過ぎるから、辞書へのアクセスが許されない感じ」
「え、嘘、そんな熱い感じになってたの。めっちゃ能力バトルじゃん。もっと早く言えよ急に楽しくなってきた」
「ちなみに何故かお前の部活での活躍も分からないし、ノームさんが兵器化してからの情報も分からない」
「ノームは気になるが、俺のは部活中だとあだ名で呼ばれてたからかな…?もしくはあまり人に言いたくないものは拒否出来るのか?」
部活の話は、あまり深く触れない。大事な大会が中止になったのを今でも引きずってるのは誰の目にも明らかだしな。
「私自身あまり能力の詳細を理解していなかったけど、ある程度魔力が強くて、その本人が触れられたくないものは拒絶できるのかも知れない」
「うんうん。いいね。やっぱり謎スキルって変な条件が細かく出て来ないとダメだよな」
「でもそうなるとノームさんはおかしい。元の穴堀り二郎という名前の情報は拒絶しそうなトラウマっぽいのが真っ先に分かっちゃったし、兵器にされた後の事はどちらの名前にも全く情報が無い」
「……うん?それも単にノームになってから強くて干渉出来ないって話じゃないのか?」
「穴掘り二郎の時点で英雄だ。というか特別な英雄だからこそ兵器にされた筈なんだ」
「確かに。……という事は、あの黒い魔法生物兵器的な状態は、本人と別の……あっ……」
「兵器にされた後につけられたノームという名前にも全く情報が無いけど、正直アネモネほど完全に拒絶出来るような逸脱した強さじゃないと思う。……お前との重大な違いは、死体を利用したか、生きたまま勇者にしたかだ」
二人してアネモネをじっと見る。何を勘違いしたのかデカい焼き魚を私達に分けてくれる。かわいいね。
腹が減っていたのかヤマトは普通に嬉しそうに食っている。私は少食だから一匹丸ごとは大変だ。
「あれ!?ヤマメの塩焼きにちょっと酢醤油がかかってる!?うっま!!!やるじゃんアネモネ!!酢醤油とかあるんだな!?」
「えへへ」
「舐めるな異世界人。魔法で調合も出来ない世界に保存料や調味料で負けるかよ」
ヤマトに文句を言いつつ私もちまちま食べるが本当に美味しい。皮がパリパリ。そもそも火を起こしてすら無いが、空気でどうやって遠目の強火とか調整してんだろうね。
「……ということで話が逸れたが、多分だけど例の恐竜とかノームさんは元の存在を模倣した再現体であって、本人そのものでは無くなってるんだと思う。実際体の成分が黒い別の魔法素材で再現されてるわけで、肉体からして別物だ」
「うわ。いやもうちょい続けてくれ」
ものすっごく嫌そうな顔をしたので、異世界からの勇者には何か心当たりがあるらしい。相変わらずなんて隠し事が下手なんだ。
「恐らく私の能力と一緒でどこかから定義や記録を読み取って、魔石化した本人の遺骨を回路とか設計図にして再現体を作る。本人のパーツがあればあるほど再現しやすいだろうし、多少曖昧な部分があっても形を補正して貰えるだろう」
頷く勇者。もう意図は伝わっているようだ。
「でもそれはどこまで精度を高めても本人じゃない。コピーだ。……正直ここ最近ずっと悩んで考えていた事だけど、やっぱり死んだ人が生き返ったりはしないんだよ」
「……そうだな。俺は、その結論を出すタリアが正しいと思う」
「もう治せず、蘇生も出来ない状態を『死』と言うんだ。だから死者の復活も、不死も、きっと言葉として間違っている」
「なら延命はどう思う?不死ってむしろそういう寿命克服的な表現がメインじゃないか?」
「それもずっと考えてたよ。でも寿命の克服はそもそも種か個人かの視点次第だ。老朽化していく体を取り替えながら無限に生き続ける仕組みが元々生物にはあるだろ?」
「種か個人かって、もしかして子作りの事を言ってるのか?」
「そうだ。私達は生命である限りこっちの機能に最適化されている。お前がよく言っている表現に合わせるなら、私達は誰もが過去の命を引き継いで生まれ変わった転生主人公だ。恐らくだが個体だけの延命は限度を超えると、この最適化とぶつかって壊れると思う」
「壊れる……。くそ、誰もが転生主人公ってのはちょっと気に入ったのに、その後が不穏すぎる」
「まぁ壊れる以前のもっと単純な前提として、食料生産力より人口は増やせない。死なない老人が延々と増え続けるなら、いつか出産を規制して子供を口減らしするか老人を殺すしか無くなる」
「不死ってのは食わなくても死なないものじゃないか?」
「存在するだけでもエネルギーは絶対に必要だ。だから食べなくても存在を維持できるとしたら、それは不死という曖昧な何かじゃなく、食べる代わりに魔力などの別のエネルギー源を得て存続するようになっただけだろう。ノームさんも魔力が無ければ復活出来なかったわけだし」
「うーん……確かに、定義を突き詰めていくと不死って表現では無くなっていくか?」
「そうだ。それに、命を食べて生きるという仕組みから逸脱するなら、体もそれに適応した別の概念になっていく。体が別の仕組みに置き換わる。……それは不死になった人ではなく別種の異質な魔法生物だ。もう本人のコピーですら無い。只の別物だ」
どっかり座り込む勇者。めちゃめちゃ眉間にシワが寄っている。正解、というジェスチャーをしたように見えるが、何がどう正解なんだ?
「……タリア。やっぱりお前自身には何も問題無い」
「どういうこと?」
「俺が得た情報とお前の推測には全く違いがない。恐らく例によって全部正解だと思う」
「そりゃそういう天才美少女だからな私は」
「だがバカだ」
「なんで!?」
「……異世界から来た俺に今の話をして、気づかないほうがおかしい。先日も魔法を唱える意味に気付いていたわけだし、お前の能力自体は完全に全てを把握してる」
不意に、最初の襲撃で燃え尽きたヤマトの惨状が脳裏をよぎる。
強大な魔法を使った代償なのか、体から灼熱の魔石が生えたヤマトの姿。
加護を持たない異世界人が魔力を使うと、肉体の機能でなんとか排泄しようとしてトゲトゲの魔石の結晶が尿管に詰まったりする。もっともっと凄い巨大化みたいな魔法を使うと体が魔石に侵食される。
侵食される。
体が別の仕組みに置き換わる。さっき自分で言った言葉だ。
「……うわ。ちょっと待てよ、侵食……」
「分かったなら気軽に言うなよ?」
恐らく賢者の力はヤマトを見た時点で全て理解していた筈だ。真っ先に魔力の摂取を控えさせようとしていたんだから。
侵食。
「……なんてことだ。ヤマト、お前どこかで誰かに服だけを溶かすスライムが欲しいとか言ってたよな」
「んん?それは常にあちこちで言っている。急に何の話だ?」
「バカが。私は賢者の力が何に接続しているのか、今の話で真っ先に粘菌を連想したぞ」
「……待て、マジで何の話?」
「アネモネが好きな魔法粘土素材も、脳とは別の群体的な情報システムも、侵食も、擬態も、特徴を思い浮かべる度に思い浮かぶのは……スライムじゃないか。服以外も全てを食べる魔法スライムだ」
「!!?!?!?」「なにィ!?!?」
自分の持っていた情報とズレがあったのか、いつもの解釈違いダメージなのか、はたまたそういうのが全部合わさって混乱したのか、ヤマトが頭を抱えてゴロゴロと転げ回る。
そしてどこかから盗み聞きしていたのか、ノームさんがビックリして飛び出して来た。どこかの屋根か木の上に居て飛び降りて来たのか、何もない空中から透明化を解いて着地する。
そうだよね。あれだけ賢者を警戒していたんだ。襲撃しない約束はしたけど、警戒して様子を見張ったりはするよね。
だからこそ皆が過剰に警備したりアネモネがすぐさま臨戦態勢に入ったりするわけだけど。
「待テ!約束通り絶対に襲わナイ!痛!痛イ!ちょっとその小僧の話を聞かせろ!!聞きたいダケ!!今まで聞いたこともない重要な推論かも知れんノダ!おい!問答無用で刺すナ!!無慈悲すぎル!」
「アネモネ、ストップ!本当に殺しちゃダメ!」
外から慌ててなだれ込んでくる警備や、迷わず腹を剣で刺したアネモネに両手を上げて無抵抗をアピールするノームさん。
「ノームさん、先にアネモネが殺した魔法生物の内臓を見せておくね。本当に下手に暴れないように。死なないつもりで無茶してるんだろうけど、死ぬよ」
「見てたから最初から無抵抗アピールしてるんダ!でもコイツ降参してる相手を迷わず刺したゾ!?」
「タリアの家を監視していて不法侵入したというだけでも死に値するわ」
「お前もこいつの部屋とか不法侵入しまくってんダロ!!」
「私は妻だもの」「アネモネ、鍵を勝手に開けるのはダメだって何度も言ってるよね」
なんとか宥めつつノームさんと話す。実際一度落ち着いて話したい相手だったのでちょうど良い。
「ノームさんは確かに過去の情報を持っているけどさ、こっちからしたら太古の古い存在でもある。現代の賢者と現代の知識をあまり舐めないで欲しいんだよね」
「非を認めるとも。それで出てきたんダ。小僧があっさり辿り着いた推測に興味がアル」
「小僧じゃないって言ってんだろ!何千年前も同じ話に辿り着いたって感じ?」
「違う。異世界から来た勇者だけが魔力の問題に気づいタ。オレはアイツが最も真理に迫ったと思っていタ。だが、お前の推測を採用するとまだもう一歩先がアル。秘密にすべきと思っていたが、更にその先に進んでいくとは思わなかった。……倒せるノカ?」
「他人事みたいに言ってるけど、私もアネモネも、多分ウラニアもまずノームさんを倒せるんだよ。同じ仕組みの不死もどきなら、スライムだろうが昔の賢者だろうが簡単に倒せる」
「ほゥ……。ヤマト、例の訓練に協力する話、承った。確かにそうだ。似た仕組みの勇者やオレを倒せればイイわけだ。確かにナ。だから助けテくれヤマト!痛イ痛イ!」
「アネモネ、頼む!剣をぐりぐりしないであげてくれ!」
勇者に懇願されて、ようやく渋々剣を引き、私を守るように間に立つ。
まぁ私って遠距離攻撃効かないし、自分でも超高級結界張ってるし、メイドさんがめちゃくちゃに防御結界使いまくってきてるので、安全どころか過剰すぎて動きづらい状態なんだけども。
「なるほど?避難訓練で襲撃側を勇者達がやると。それを防げるなら、勇者の力を悪用せず自分の力で守れる証明にもなるし、結構いいんじゃないか」
「元々俺とマリウスはそのつもりで王様とも連携して動いてるんだよ。もう一つ、勇者だけじゃない。賢者に頼らずともだ」
「私は頼れよ!家でずっと軟禁は可哀想だろ!!活躍して王になるんだよ私は!除け者にするな!」
「いやー、王はちょっと。というか色々調べてくれってお願いしただろうが。本とか色々。どうやらそっちは全然進んでないな?」
ぐっ。確かに風の英雄がどうとか魔王がどうとか全然調べられていない。今の話のどこかにそれがバレる要素があるのか。
私みたいな超絶天才美少女賢者にとって頼まれごとが出来ていないなんて状況になる事はほぼ無いわけで、そこを指摘されると滅多に味わえないムカつきがある。
でもなんとかここで打開を。もう暇は嫌だ。
「……あ」
「なんダ?どうした小僧?」
遠くから聞こえる様々な馬車の音の中に、特殊な音が混じっていて、それが近づいてきている。
「一つだけ。今すぐヤマトとノームさんに重大な急ぎの提案があるよ」
「お?」「ナンダ?」
「模擬戦闘はこちらとしても非常にありがたいんだが、私としてはまず模擬戦闘をするための事前の模擬戦闘をオススメするよ」
「おお?いや勿論事前に色々やるつもりだけど……」
「そうじゃない。ノームさんも参加して単なる訓練以上の実験をしたいなら、先に戦ってどれくらい手加減が必要なのか見てもらった方が良い」
「いや、まぁ、手加減って言ってもな。そりゃ殺傷性の高い武器とかは使わないぞ?」
──遠くから馬車の音が迫る。ヤマトに怒りを向ける、特殊な馬車の音が。
「何を勘違いしているんだヤマト。逆だ。お前とノームさんにこっちがどれくらい手加減すべきかって話だよ」
「……ほゥ?面白いジャナイか小僧」
挑発に乗ってやる気を見せるノームさんと、それに呼応して殺る気を見せるアネモネ。ダメだよアネモネは。
さっき言ったよね。無効化魔法が使える私と、単純に殺せるアネモネと、そしてもう一人。
──次の瞬間、ものすごい勢いで突進してきた白い物体にノームさんがふっ飛ばされ、咄嗟に避けたヤマトがそのままゴロゴロと転がって受け身を取る。
凄いな。本当に生身の体術ならヤマトは過去の英雄にも全く劣らないわけだ。人んちの花壇に転がり込んで土だらけになってるが。
「……ナン……ダ!?体が重イ……!避けられなかっタ……!」
「……そうか、しまった!?……ウラニアか!!やべ、忘れてた!」
予想外のダメージに驚愕するノームさんと、ようやく危険に気づいたらしいヤマト。
「ヤマトさん。ボクに、何か、言うべきこととか、無いっすか?」
問答無用で勇者組を吹き飛ばしたのは、白く小さなゴーレム。そしてそれを装着している、若き天才研究員のウラニア。
滅多に見れない、ブチギレウラニアのお怒り先制攻撃だ。
「あ、いや、どれだろう。またまたグリッチ使ってる事への謝罪か?いや、ウラニアの道具よりゴブリンの道具を使ってる事?あ、待てよ、タリアを危険に晒したのもマズいか?……まさか、サキュバスフィギュア販売ルート構築用の賄賂もバレてるのか!?」
何やってんだコイツ。なんでフィギュアの事業拡大まで……いや分かったぞ、初量産を成功させて第二弾以降のバリエーションまで望んでいるわけだ。それで勇者としての貸しや人脈まで投資してると。何やってんだコイツ。
「いやーよかったっす。色々怒られる理由が分かってくれてるなら、ボクに制裁されても全然問題無いっすよね?勝手に自白した罪も増えたし」
「し、しまった!どれだ!?喋りすぎた!」
「でもまだありますよね?」
「沢山あって分からねぇ!」
ゴーレムから怒りのホーミングミサイル捕縛機が発射され、動けないノームさんには直撃し、ヤマトは必死に避ける。なんか謎の盾とかも使っている。ゴブリンの武装というか、彼らが集めているアーティファクトを色々貰っているようだ。
「グアアアア!」「ノームぅ!!」
どうやらウラニアはヤマトの力を封印するベルトを改良し、範囲魔法化させている。どちらも既存技術なわけだし、本人にベルトを渡しても悪用されて、ノームさんに効くのも判明していた。こうなるのは当たり前の結果なんだよね。
というか怒りの矛先はヤマトなので、ノームさんは割ととばっちりな気がする。捕縛機を執拗にぶつけられている。もう捕縛ですら無い、クワガタ的な何かがひたすらぶつかってるだけじゃん。
「ヤマトさん。本当に、ボクを特別怒らせる心当たりとか無いんすね?」
「だからありすぎて分からないんだって」
「……勝手にボクにちんちん生やしたエロ漫画を流行させたでしょうが!?とんでもないモデルさせられたっすよ!なんてことするんすか!」
……。
あまりにも衝撃的な内容に言葉が出てこなかった。
さすがに天才賢者の私にもそこまでは読めなかった。なんてアホなんだこいつらは。そしてメイドさんの何人かが財布を確認しだしたのはなんでだろう。
「それはお互い様だろ!!!俺やマリウスにやりたい放題しやがって!!」
「性転換はライン超えでしょうが!根幹ジャンルが変わってる!!」
「いいやアリだ!そしてふたなりは性転換とも違う!大体アリだからこそ流行ってんだろ!!」
「無い!よりによってボクが竿役で二人のどっちかを寝取ったりしてるんすよ!!どうしてくれるんすか!最高のジャンルに唯一萎える最悪の異物が混ざっちゃった!!しかもなんでボクが挿入する側なの!?本当に意味が分からないっす!!」
「だからお互い様だろうが!俺だってドスケベ百合えっち漫画だと思ったら自分が割り込んできたんだぞ!!お前らなんにでも寝取り役を挟むんじゃねぇ!しかも竿役が美化された俺!萎えすぎて泣きそうだったわ!!」
あまりにも下らない言い争いをしながら、妙な道具も駆使してホーミング捕縛機を避けまくる勇者。本当に凄い。体術もアホさも。そしてノームさんは本当に全く動けないらしく、無駄に追撃され続けている。ボコボコである。
怒涛の勢いに、思わずアネモネもどうすべき迷っているようだ。分かる。私もこんなに下らない戦いになるとは思わなかった。
白いゴーレム……というかパワードスーツみたいなのを着たウラニアが腕をガシャンと交差させて何か唱えると、恐らく近くに停めた馬車から追加の装備が飛んでくる。
なぜかヤマトは目を輝かせて喜んでいるが、その飛んできてる兵装ってお前を捕まえる為の追加装備だぞ。
「いやー。まぁ、その、ウラニア、ちょうど避難訓練の前に模擬戦闘をしたほうがいいんじゃないかって話をしてたんだ」
「さすがタリアさま!ベストなタイミングで、素晴らしい口実っす!」
「それ正当に殴るって事だろ!?暴力ヒロインは滅んだんだ!そういうのダメなんだよ!?」
「やばい、全然動けなイ。ヤマト、助けてクレ」
「何やってんだよノーム!『ほゥ?』とか強者っぽく挑発に乗っておいて即落ちするな!!」
「割と本当に恥ずかシイ。助けてクレ」
慌てる二人の前で追加兵装と合体し、完全武装が完了する白い有人操縦ゴーレム。
ノームさんもヤマトも自分の力を封印する道具に今まで何度か遭遇してる筈なのに、一番怒らせちゃいけない人が誰なのかまだ良くわかっていなかったようだ。




