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俺が恋したオッサンは、元ヒロインの皇子様。  作者: DAKUNちょめ


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64・将来の夢はただのスーツアクターじゃない

真弓に背を向け足早に浴室に向かった俺は、汗ばむ身体にシャワーを浴び、汗やなんやかんや…色々なものを洗い流した。


正直言って、自分でも驚いた。

真弓を好きなんだから、そりゃ性的に意識してるって自覚はあったけどさ…

あんな風に身体が興奮するなんて…

真弓に対して、すごく悪い事をしたような気がする。


「ごめん、真弓…!ホントにごめん!

だって、すごく!なんかもーすごく!

好き過ぎて、たまんなかった!」


声に出して言わないと気が済まない、と俺はシャワーを顔面に当てながら、その場には居ない真弓に謝った。

口にワワワわとシャワーのお湯が入り、ゴボゴボと口をゆすぐ状態で「ごめん」と「だって好きだから」を繰り返す。

シャワーの音で、声を掻き消しているつもりでもあった。


「遊んでねぇで、さっさとあがれ。」


「ゴバァッ!?」


いつからそこに居たのだろうか…

脱衣所の真弓に声を掛けられた俺は、口に溜まったお湯を思い切り噴き出して浴室のドアに目をやった。

すりガラスの向こう側にぼんやりと映る真弓の姿を見て、慌てて浴室のドアを開く。


「今の、聞いてた!?」


「はぁ?何の話だ。」


ドアを開いてマッパで浴室に立つ俺の方を見ようとしない真弓。

洗濯物を脱衣所にある洗濯機に入れながら、俺の事を意識していないフリをして、こちらをめちゃくちゃ意識しているのが分かる。

耳が赤っ…全部聞いてたんだよね。

俺が真弓に興奮して出しちゃった事も分かっちゃったと。

でも気付いてないフリをしてくれてる。

ああああッもぉ…優しいし可愛いいし!

真弓の全てが好きだ!大好きだ!


好きだ!真弓が好きで好き過ぎて、キスもしたいし抱き締めたい!もっと、もっと真弓となんか…!

なんか、をしたいんだけど…なんかってナニ?

俺は結局、真弓をどうしたいんだろ?




シャワーからあがってパジャマに着替えた俺は、茶の間に向かった。

真弓は長めの髪をひとつにくくり、「野菜切って塩コショウで炒めただけ」の野菜炒めと目玉焼きとか、普段料理はしない真弓が頑張って作ったらしい夕飯をちゃぶ台に並べている所だった。

慣れない事をしているせいか微妙にぎこちなくて、中途半端に乱れた長い髪がゴムから外れてこめかみ辺りに垂れてくるのを指ですくって、まだ赤い耳にかける仕草をするんだけど……なんだかもうエロい。


「ケーキもないし、一日遅れちまってるし、ちゃんとした誕生日パーティーみたいにはならねーけど…」


「いやもう…胸いっぱいで…ケーキとか無くていいよ…」


真弓と二人きりで俺の誕生日を祝うとか、それだけで…ホント、胸いっぱいで…

昨日の事、完全に忘れ去る事は出来ないけど、それでも…嬉しい…。


「で、な、お前の気持ちを疑ってるワケでも、軽く見てるワケでもないのに…

ランに俺の仕事をきちんと教えてなかった俺も悪かったんだよなと思ってな…。」


真弓はノートパソコンを出して俺の前に出した。

純日本家屋に不似合いなこんなもの持ってたんだ、どこに片付けてあったんだろと少し驚いた。

好きな人の意外な一面を知ったと「へえー」と感心したように目を見開いた俺の表情は、とても子どもらしかったと思う。

そこに映る真弓を見るまでは。


ノートパソコンに映し出された、派手なステージのような所で上半身裸に帽子をかぶって黒いジャケットを羽織った数人の男性ダンサーが踊っている動画。

その中の一人がステージから降りて━━一人の女性に手を差し出し、女性が手を差し出された男性ダンサーの手を取ると、派手なステージや男性ダンサー達が消え、二人だけの世界になったような暗い場所で、光の粒を撒きながら、その男女が踊るという…なんか外国の映画でも見たようなシーン。

女性は昨日会ったスパロウ令嬢だ。

男性ダンサーの顔は深くかぶった帽子のせいで見えない。

でもこれが真弓だと俺には分かる。


俺は真剣な顔をして動画に見入った。

さっきまでとは急に表情が変わった俺に、真弓は少し困ったような顔を見せた。


これは彼女が立ち上げた新しいジュエリーブランドのコマーシャルだと俺に説明する真弓の声が少し遠くで聞こえる。


息もピッタリで、まさに「二人だけの世界」をダンスで演じる真弓とスパロウ令嬢に見入った俺は、強い嫉妬心が沸き起こるのを感じた。

けど、それ以上に…

俺は初めて、自分が進むべき道がハッキリ見えた気がした。


今は手が届かない、その場所に━━

同じ世界に、真弓の隣に、いつかそこに俺も立つ。

芸能人になりたいんじゃない。

ただ、プライベート以外でも真弓と関われる「きっかけ」をたくさん増やしておきたい。


「…そう言えば真弓って、モデルだったもんね… 

モデルとしての真弓ってほとんど見る機会無かったからさ…こんなダンス踊ったりもするんだ…。」


「ダンスはまぁ…一応はな…今回は頼まれたからたまたまだ。

普段はローカル系の小さな広告とか、秋に行ったペンションのポスターとか…そんな仕事のが多いからな…

いちいちランに報告すんのもって。

今回のこれはネットでだけ流れるCMらしいんだが…お前に話してなかった事を悪かったと思っている。」


正直言って、俺は仕事をしている大人の真弓の事をあまり考えないようにしていた。


そこには、どうやったって俺は立ち入れないし、心のどこかでプライベートの真弓さえ独占していれば、それ以外はどうしょうもないから自分には関係ないと思い込んでいたのかも知れない。


「俺も…自分からもっと、仕事をしている真弓にも興味を持つべきだったと思う…。」


動画の真弓に見入っている俺を見た真弓は、俺がショックを受けていると感じたみたいだ。

確かにショックは受けた。

息もピッタリで、お似合いの二人。

敵いそうもない恋敵。

だから諦めようなんて思うほど俺は聞き分けの良い子どもじゃないし、奪われたなら奪い返すだけだ。


俺は今まで漠然としていた「将来の夢」が、もっと現実味を帯びて感じるようになった。


「あのな…マジで、そいつとはそういう仕事の繋がりだけで、お前が考えてるような仲じゃねーから。」


「…俺、将来はスーツアクターになりたいって言ったじゃん?

特撮が好きだから、アクションが好きだから、そうなりたいんだー位に思っていたけど、俺本気でそこを目指す。

監督とか俳優さんとかスタッフさんとか…芸能関係のたくさんの人達と仲良くなって……そーゆー業界の誰もが……

真弓と言えば俺、俺と言えば真弓ってみんなが知る程、俺と真弓の仲をみんなにアピールする。」


真弓は「えっ?」って一瞬だけ、意味が分からなかったみたいなキョトンとした顔をした。

それから俺の言葉をもう一度考えてからボソッと意見を口にする。


「アクションスターとマイナーモデルじゃ畑が違い過ぎる気もするが、それは……

もし俺とランが付き合っていたとして、それをカミングアウトしちまうって事か?

お前モテそうだしな…ファンの女のコが泣くぞ。」


答えに困った真弓が、何とか導き出した無難な答えを口にしたつもりだったのかも知れないけど、俺にはそれ全部が納得出来ない答えだ。


「付き合っていたとしてじゃなくて!

その頃にはもう付き合ってるに決まってんだろ!

俺が真弓と離れるワケ無いじゃん!それに!

俺は真弓にしかモテたくないから!他の誰にもモテなくていい!ファンだっていなくていい!

それから!!俺がなりたいのはアクションスターじゃなくてスーツアクター!顔出さないから!」


「……お、おう……」


ちゃぶ台の近くにペタンと尻を着いて座った真弓は、立ったままの俺の迫力に「そ、そうか」と頷いた。

畳に尻を着いて座った真弓の前に行き、両手を当てた腰を曲げて覗き込むように真弓の顔に自分の顔を近付けた。


「真弓ってさぁ、俺の事を軽く見てないとか俺の気持ちを疑ってないとか言うクセに、俺の未来からは自分を遠ざけようとする事あるよね。

その割には俺が真弓を好きって気持ちを軽く見ないでくれていたりしてさ。

どうしていいか分かんなくなってんの?変なの。

スパロウ令嬢の事だって、俺が嫉妬したの分かったから、こうやって説明してくれたんだろ?」


「いや、普通に…ちゃんと仕事の説明してなかった事を悪いなと思ってだな…」


言い訳下手くそか!!腹が立つほど可愛い!

そんなんで俺が納得すると思ったんだ?

どこまでも子ども扱いする真弓に腹が立つ。

俺が嫉妬したと分かって、何とかしなきゃと考えてくれた真弓が可愛いくてたまらない。

変なのは真弓だけじゃない。

俺だって、どうしていいか分からなくなる時がある。


「……ね……真弓、キスさせて。」


「ッッッはぁあ!?はぁ!?なんで!!!」


俺の要求があまりにも唐突過ぎて、真弓は大袈裟な位に大きな声を出した。

お尻を着いて座っているせいか、僅かに後ろに傾いた体勢が腰を抜かしたみたいに見える。


「俺、真弓とキスしたい。駄目?」


「だっ…!駄目に決まってんだろうが!

約束…!約束が守れないならな…!」


うーん、やっぱり駄目か。

真弓は約束を守る人だから、中学を卒業した時に初めてのキス、は逃げたりごまかしたりせずに、ちゃんとさせてくれそう。

だから、その約束を破って今、キスをしちゃったら俺たち「恋人」じゃなくなるんだよね。


恋人って言えるほどの恋人らしい関係じゃないけど、今の俺には未来に続くとても大事な関係だ。


「口にはしないよ。ほっぺた。

誕生日プレゼントに指輪ともうひとつ。

真弓のほっぺたにキスさせて。

それとも、真弓から俺のほっぺたにキスしてくれる?」


真弓はブルブルと首を横に振った。

小声で「そんなの犯罪だ」と言ってたけど、照れ臭過ぎて出来ないってのもあるよね。多分。


で俺がそんな二択を出したせいで、焦った真弓は二択以外に道が無いと思い込んでしまったみたいだ。

「どちらも断る」選択肢を完全に忘れてしまった様子。

仕方ねぇなと言わんばかりに、真弓は目をつむって「ほらよ」と左側の頬を俺の前に向けた。


ぶっきらぼうに、「大した事ねぇわ」って態度を見せてるつもりなのかも知れないけど、真弓はそういうのを隠すのが下手。

目の周りも耳も、真っ赤だし、目をつむってるのも至近距離に来る俺の顔を見てられないからだよな。


真っ赤になった、そんな可愛い顔して無防備に目を閉じたりなんかしたら…


唇に一瞬だけ触れるようなキスならバレないんじゃない…?





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