63・同棲3日目、気が重かったハズな水曜日。
俺の目の前に出された真弓のコブシは大きくて、俺が通う少林寺拳法の先生のコブシみたいに強そうで…
いや、少林寺の先生は「少林寺拳法は人を攻撃する格闘技とは違う」と言っていたから実際にケンカしたら先生より真弓のコブシの方が強いかも知れない。
あ、でも真弓っていかにもケンカっ早そうな見た目だけど実際にはケンカした事なさげだしな。
いや、俺…こんな時に何を考えてんの?
真弓のコブシを見た瞬間、それはゲンコツだと思った。
殴られたりする?と思ったら、凄い速さで頭の中を色んな考えが巡ったけど、殴られるかもって事に対する恐怖は不思議と無かった。
怖さよりも『真弓は絶対にそんな事しない』って当たり前のように信じている気持ちと、嫌われたままでいる位なら真弓のゲンコツ食らっても全然構わないって気持ちがあって。
てゆーか…ゲンコツ食らわすほど俺にムカついてるなら、そっちのがショックだ。
俺の目の前に出された真弓のコブシが、お花が咲くみたいにパァっと開かれた。
どうもゲンコツではなかった模様。
で、開かれた真弓の手の平の上に、小さいけど造りが派手な指輪が置かれていた。
………は?指輪?意味が分かんないんだけど。
なんかたくさんの翼で巻いたようなデザインの金色のピカピカな指輪…あれ…これ見た事ある。
俺は指輪をガン見してから、そろそろと真弓の顔の方に目を向けた。
俺と目が合った真弓は、少し目線を逸らして照れ隠しのように小さな咳払いをした。
「…本当は…昨日、渡したかったんだがな…
とりあえず…ラン、11歳の誕生日おめでとう。」
誕生日…?…俺の?俺の…俺の誕生日だ!!
「お、俺、昨日、誕生日だった!?
そうだ、昨日って俺の誕生日だった!!!
誕生日だったじゃん!!!」
自分の胸の上に手を置いた俺は、大袈裟なくらい驚いた声を出し、自分に問いかけ自分で答える。
そりゃ驚くよ!自分の誕生日を忘れた事なんて今まで無かったもん!
誕生日を忘れる位、昨日の出来事は俺にとってショックが大きかったんだな。
俺は驚いた顔のまま、真弓の顔と真弓の手の平に置かれた指輪を何度も交互に見た。
━━それにしても指輪?なぜ指輪?誕生日に指輪?
まさか結婚指輪!?
いや、そんなワケ無いし!それに、お揃いの指輪ってワケでもなさげだし………うわ!コレは!!━━
「あああっ!こ、これ!見覚えあると思ったら!
メタトロンの中でラファエル皇子が子どもの頃に着けていたやつぅ!!」
つまり子役の真弓が、ラファエル皇子を演じていた時に作中で着けていたやつ!
「どっ…どうしたのコレ!」
「……なんか貰ったのを捨てずに持ってたみたいで。
ま、単なる撮影時の小道具なんだがな…。
ランがラファエル皇子が大好きだって言うから、誕生日に渡そうと思ってた。」
恐る恐る指輪を受け取った俺は、真弓の手から俺の手に来た指輪をジィっと見詰めた。
真弓は単なる小道具なんて言い方をしたけど、メタトロンの大ファンの俺にとってはこの上ないほど貴重なお宝であり、俺の初恋の相手のラファエル皇子の持ち物で…
ラファエル皇子は、今の真弓と俺を引き合わせてくれた天使だ。その天使が身に着けていた指輪。
つーか天使みたいだった子役時代の真弓が身に着けていた指輪。嬉しくないワケがない。
何より、俺が喜ぶだろうから誕生日に渡そう、と俺の事を思ってくれた真弓の優しい気持ちが入った指輪だ。
てか、俺の誕生日…覚えていてくれたんだ…。
え、マジ?嬉し過ぎる。
思わずギュっと指輪を握り締めると、キュウゥと胸も一緒に握り潰される感じがする。
ヤバい心臓痛い、キュッキュッと小刻みに何度も強く締め付けられて息詰まりそう。
ひょっとしてコレが「キュンキュンする」ってヤツ?
すげー胸が痛くて苦しくて…なのに、この痛みはなぜか止めたくなくて…。
「ッあ…ありがとう…真弓…俺…真弓に…」
━━今、すっげーキスしたい!!━━
「おう、喜んでもらえて何よりだ。
早くウチ入れ。」
そう言って真弓はすぐに俺に背を向けた。
真弓の態度はまだ何だか、ぎこちない。
照れのせいもあるかもだけど、昨日怒鳴った事にまだ罪悪感を感じているからか、俺から一歩距離を置いている気がする。
いや…俺も朝までギクシャクした態度を取っていたワケだし、指輪貰った瞬間から浮かれてる俺が単純なのかもだけど。
キスは無理でも、俺は今、真弓との距離をゼロcmにしたい。
「真弓…!」
俺は靴を脱ぎ捨てると急いで大股で玄関に上がり、背を向けた真弓の身体を後ろから抱き締めた。
……いや、正確に言えば抱き着いた……か。
抱き締めるには、背も腕の長さもまだ色々足りてないし。
「なっ、なんだ急に…!」
俺に抱き着かれた真弓は、胸回りに貼り付く俺の手に重ねるように手を掛け、驚いたように首を傾けて肩越しに背後の俺を見た。
俺は自分の手の上に真弓の手が重なった瞬間、何だか堪らなくなって、真弓にしがみつく手にギュッと力がこもる。
「俺、真弓が大好きだ!だから真弓とキスしたい!」
真弓は「ハァ!?」と驚いた顔がさらに驚いた顔になり、声が出ない状態で口をパクパク動かした。
何かを言おうとして、でも何を言っていいのか分からないって感じの戸惑いが顔に出ている。
「でも約束だから、口のキスは中学卒業まで我慢する。
我慢するけど、俺は真弓が好きだからずっとキスしたい気持ちは変わらない。
真弓が好きだ、ずっと好き!だから嫉妬だってする!」
「ちょ…待て、昨日のは本当に嫉妬だったのか…」
嫉妬だっての、真弓は分かっていたハズだ。
ただ、俺の嫉妬の部類を「子どもの独占欲」的な嫉妬だと思った部分もあるんだろうけどさ。
「当たり前だろ!
俺がどんだけ真弓を好きかって分かってるのに、真弓があまりにも無防備だし、取られるかもって不安になるし
腹立つに決まってんじゃん!」
「いや、だからアイツとは仕事上の付き合いしか無いし、アイツが俺なんかに興味持つワケねーから。」
「だから!そーゆートコもなんだよ!腹立つのは!」
真弓は、自分がどれだけカッコいい男なのかを分かって無い。
自分が好きなモノを否定されるのってムカつくじゃん。
大好きな俺の真弓が、真弓自身に軽く見られてるのも腹が立つんだって!
ムカッとイラッとした俺は、抱き着いた真弓の身体を力任せに思い切り押した。
「うわっ!ま、足がもつれ…!」
普段の真弓なら俺が押した位じゃ、びくともしないんだろうけど、密着し過ぎた俺の身体のせいでバランスが上手く取れなかった真弓は、首を後ろに向けたままよろけて倒れそうになり、慌てて廊下の壁に手をついた。
真弓に後ろから抱き着いたままの俺は、腰を曲げ壁に両手を付いた真弓の後ろにピッタリくっついた状態になったワケで━━
足の長い真弓の腰とゆーか……お尻が突き出てて……
今の俺、真弓のお尻の上に身体を乗せてるのに等しいんじゃない…?
「急に何すんだ、危ないじゃねぇか!
身動きが取りにくい、もう離れろ。」
「……………ごめん、今、離れるの、無理…」
離れたら真弓にバレてしまう。
俺のロケットが今、発射準備状態になってしまった事。
「は?なんで」
なんでって…真弓にキュンキュンして、キュウゥってなったら、ビンってなっちゃったもん…だから見られたくないしって言えるワケ無い。
真弓が好きで好きで、たまらない。
触れたくて、くっつきたくて、具体的に何をどうしたいのか分からないけど、真弓をどうにかしたいって強い気持ちだけは沸々と湧いてくる。
とにかく、今は真弓から離れられない…
離れたら、俺のズボンがビンってなってんの見られるから困る。
「なんでって…真弓が好きだから離したくない。」
「だったら背後からじゃなくて、向かい合っての方が良いんじゃねーか?」
向かい合って…それって…抱き締め合うって事?
めちゃくちゃ恋人同士って感じ!
でも真面目な真弓がそんな事してくれるなんて…無いんじゃないの?
「そんな事言って俺と抱き締め合うとか、してくれる気無いくせに!」
真弓と正面から抱き合うのを想像をしたら、ますますロケットビンッッてなっちゃって、ますます真弓から離れられなくなった。
真弓が好きだから離れたくないってより……
恥ずかしいから…ビンってなってるのを見られたくない。
「ハグくらい普通にしてやるが。
まぁ多少、照れ臭さはあるけど…誕生日祝いだしな。」
マジで!?って言うか…もう…
真弓にキュンキュンするのは止められないし、これからだってキュンキュンしたら真弓の前でビンってなる場合もあるだろうし。
「ハグして欲しい!」
もう見られてもいいや。
真弓と正面から抱き合えるなら、そっちのが大事。
俺は一旦、壁に手をついたままの真弓の腰から離れ、真弓に向け両腕を拡げた。
真弓は壁から手を離し、前倒しだった身体を真っ直ぐに直すと両腕を拡げた俺を見下ろした。
「………………ほれ」
俺を見下ろした真弓は少し間を置いてから、お前の方から来いと言わんばかりに両腕を拡げた。
なので、俺の方から真弓の胸に飛び込むように抱き着く。
真弓の背に手を回して身体を密着させると、真弓の身体が、緊張したみたいにガチッて一瞬強張った。
でも、すぐ俺の背に腕を回してくれて…ゆるーく抱き締めてくれた。
正直に言えば、そこには「もっと強く!」って不満を感じるんだけど、その分俺が真弓の脇下に入れた手で強くしがみつく。
…ああ…正面から抱き着くと、真弓の胸に俺の顔を押し付ける事になるんだな…。
薄いシャツ越しに、真弓の胸の筋肉の盛り上がったトコと谷間とかが、すごく良く分かる。
わ…この匂い好き。
会ったばかりの頃には一番強かったタバコの匂いが、今は全くしなくなった真弓の匂い。
なんか香ばしい匂いの奥に、かすかに石鹸の匂いがする。いや、柔軟剤の匂い?
それが混じって、俺の好きな匂いになってんの…たまんない。
「ッッ!顔、胸にグリグリ押し付けんじゃない!」
頭の上で真弓の焦った声がする。
それがまた、可愛くて可愛くて仕方ない。
あ……真弓の胸に顔を押し付けてグリグリしていたら、頬の下にプックリとした感触が………
これ、真弓の…チク……
「…真弓、ごめん…先にお風呂入って来ていいかな。」
「……風呂はまだ沸かしてないからシャワーで…
着替え…脱衣所に置いておく。」
俺は頷くと真弓から離れ、即、回れ右で真弓に背を向けて浴室に向かった。
色々と、見られたくなかったけど…もうモロバレだよな。
俺が真弓に発情してしまった事。
11歳になった俺は大人に一歩近付き、よりエッチになったようです。




