十八話 北極筋肉伝説
ハジメ達が魔力の話をしていた頃、北極ではマイケルとオルタスが寒さと戦っていた。しかもマイケルは半裸である。見渡す限りの銀世界というような情緒溢れる光景ではなく、-40℃の上、吹雪で1m先も見えない極限の状況で半裸なのである。-40℃というと、水で濡らしたタオルが振り回しただけでカチカチに凍ってしまうという。防寒対策を完璧にしなければ、とても人間が生きていける環境ではない。みんなは北極で半裸になっちゃダメだゾ!
この厳しい環境に適応し、進化した種族もいる。主にイエティと呼ばれる彼らは、全身が白い体毛で覆われ、身体は平均身長230cm、平均体重100kgと大きい。皮膚は分厚く、生半可な武器では傷も付けられない。主食は魚ではあるが、同族以外の肉なら何でも食べる。
そしてマイケルとオルタスはそのイエティの村に飛ばされていた。
「マイケル!なぜ脱いだ!?」
マイケルはポーズをとりながら言った。
「あ、ああああああのじょせせせせせいと、ややややや約束しししししたからね」
「マイケル!無理するな!俺でも震えるほど寒いのにお前!半裸て!意地じゃ生きていけないんだぞ!しかもあれ約束じゃなくてお前が言ってるだけじゃねぇか!死ぬぞ!てかなんでポーズとってるんだ!!」
「己の心を偽るくらいなら死んだ方がマシだ!!」
マイケルの震えは止まり、やけにきっぱりとした口調でそう言った。
「身体の訴え無視してんじゃねぇか!!まず身体を大事にしてあげてっ!」
「体は大事にしてるぞ!それよりもオルタス!体の震えが止まったんだ!人間やればどこでも適応できるんだな!」
「マイケル違うそれ低体温症だ!震え止まったんならもうすぐ死ぬぞ!」
低体温症が重傷化すると震えが止まるらしい。みんなも寒い夜に震えが止まったりしたら重傷だぞ!気をつけよう!ちなみに作者は独りの夜をぶるぶる震えて過ごしていたけど最近は全く平気だ!
「それただの慣れだろ!あと自分語りは嫌われるぞ!」
うるさいぞオルタス!この野郎プロット変更して次の話で殺してやる!突然異世界からトラックが突っ込んでくるパターンで殺してやる!
「とにかく服を着ろマイケル!死にたくないのなら!」
ようやく服を着るマイケル。しかしもう体は冷え切っていた。
「寒い。寒いよオルタス……そうだ!こういう時は抱き合うと良いらしいぞ!脱げオルタス!」
「やだよ俺そんな趣味ねぇよ!とりあえずどうにかして火起こさないと死んじまう!」
「わかった!木探してくる!」
「北極に木ねぇから!!動物の死骸探せ!アザラシなら油も多いし燃えやすい!俺がファイアで火付けるから!」
さすがに過去に一週間北極で生き延びた経験は伊達ではない。しばらくしてマイケルが戻ってきた。
「あった!あったよ!アザラシの死骸!!」
「でかした!」
オルタスはアザラシの死骸に向かって右手で十字を切る。
「わりぃ、使わせてもらうな」
ファイアと呟くと、アザラシが燃えだした。パチパチという音がする。
炎に照らされたオルタスは右手を見つめていた。
「あったかいなオルタス……」
「ああ……それよりなんで密着してくるんだ……?」
マイケルはオルタスのすぐ隣にいる。それどころか腕をオルタスの腰に回している。
「冷たいこと言うなよオルタス……」
「それ、上手くねぇからな?」
火の音につられて来たのか、イエティ達が集まってきた。マイケルとオルタスを囲んでいる。
「┣゛⊆
Lζ┼=┼=゛/│=∩│┼゛∩┼┐’゛==│=∥g?」
「_┤&?」
「⊆∉ξ⊆┼=゛┼∂’」
「⊃щζ┼┐’≠∃⊆」
イエティ達は何か話しているがわからない。
「何言ってるんだ?」
とオルタスが言った。
「多分僕の筋肉に触りたいんだよ!」
とポーズをキメながらマイケルが言った。
「いや絶対違うから」
そうオルタスが言った後、イエティ達はマイケルの体を触りだした。
「┼┐‘┼=││!」
「┼♀=゛┼=≠&└│ξ⊆!」
これにはマイケルも大喜びである。
「ほらみろオルタス!僕の筋肉触ってるぞ!!」
「嘘だろおい…!」
オルタスは頭を抱える。
その隣で、少し焦げたアザラシの死骸を食べるイエティに、オルタスもマイケルも気づいていなかった。
イエティ達に連れられて、イエティの村の広場のようなところにやってきた。イエティの家はテント式で、分厚い布には様々な刺繍が施されている。それが広場の周りに点在している。
オルタスとマイケルはイエティ達が作った高台にいた。高台の周りには火が付けられている。イエティ達はさらにその外側で踊っている。
「×L┼=゛!×L┼=゛!」
イエティ達が歓声を上げる。
「さすがにあっついな」
とオルタスが愚痴をこぼす。
「オルタスはまだいいよ。僕なんか動物の毛皮着させられてるんだぜ?」
「そりゃお前、待遇が良いって言うんだよ」
「下でなんて言ってるんだろうね」
「筋肉サマー筋肉サマーだろ」
「さっすが!さっすがイエティ!わかってるなぁ!あっははは」
マイケルがまたポーズをキメる。
「わかった。わかったから落ち着け。暑苦しい」
「いやぁ異文化交友は素晴らしいな!」
「確かにわからないことだらけだが、楽しいといえば楽しいな」
と、二人は笑いあった。
「そういえばオルタス、君って亜人種に差別感情あるんじゃないのかい?」
「どうして?」
「だってロザのことを
「それはハジメを試しただけだ。俺に差別感情は無い」
少し食い気味にオルタスが言った。
「そうだったのか。でも今時亜人種差別しないなんて珍しいんじゃないのかい?」
「……俺の娘はな、その亜人種だったんだよ。ビースト(獣人族)だ。人間と獣人のハーフらしくてな、爪と牙が鋭い以外はヒューマンと何も変わらない」
「オルタスの奥さんはビーストなのかい?」
「……いや、ただのヒューマンだ。娘は養子だよ。父親がビーストらしい。強盗に両親を殺されたんだ」
「オルタス……君は良い奴だな」
「いや、クソ野郎さ。本当に大切なものを守れもしない」
「何があったんだい?マウロイで」
オルタスの顔が少し曇った。
「なあ、マイケル。祈る神を忘れた人間は、一体誰に裁きを任せりゃいい?」
「それは復讐の話かい?」
「ああ……いや、やっぱりその話はまた今度にしようか」
「わかった。それじゃあ……うーん。どうしてハジメを試そうと思ったんだい?」
「それはな、これから旅を共にする男が一体どういう奴なのか知りたくてな。まさか剣を突きつけられるとは思ってなかったよ」
「ははは……それだけ仲間思いってことさ」
「マイケル、お前はあれが仲間思いに見えたか。ずいぶんとお人好しなんだな」
「どういうことだい?」
「あれは仲間思いなんかじゃないぞ。あいつはまず仲間をカテゴリーとして見ている。すなわち共に戦う者か、敵として戦う者や裏切り者か、あいつはそういう風に人を見ている。俺たちが裏切り者になれば、あいつは迷い無く俺たちを殺すぞ?」
「オルタス……それは……」
マイケルが何か言いかけた時、エルザが突然現れた。
「やあ!元気してた?イエティ達に燻製にされるところじゃない!さ、帰るわよ」
「エルザ!?どうしてここに?」
「それより燻製って?」
「イエティはね、人も食べるのよ。ヒューマン限定だけどね。亜人種差別が始まる前は同種に近いヒューマンなんて食べなかったんだけど、北極圏にまで追いやられてからヒューマンも食べるようになったのよ」
「「嘘だろ!?」」
「ホントよ。さ、帰るわよ。捕まって」
エルザが光り、その光がオルタスとマイケルにも伝染していく。光が彼らを全て包み込んだら、そのまま消えた。
「││┼∂’││ξ゛!!」
「<ξ~!」
イエティ達の落胆の声が北極に響いた。
イエティの言葉作るのに時間がかかって更新が遅れていました。




