十七話 取り巻く魔力
突如現れたエルザという女性のおかげで無事入国できた。そのエルザはオルタスに抱きついている。なぜかオルタスは震えている。どうしたんだと聞くと、エルザが答えた。
「昔ね、北極圏に置き去りにしてやったの。あの時のオルタスったら、ブルブル震えちゃってかわいかったわぁ」
なるほど、オルタスが青い顔してる理由が分かった。
「どうやって帰って来たんだ?」
「一週間くらい経ってから迎えに行ってやったのよ。しぶとく生き延びてたわ」
死んでたらどうするつもりだったんだ…?あとオルタスなんか喋れよ。
「はっはっはオルタス!情けないぞオルタス!軟弱だな!僕のように鍛えていれば北極だろうと南極だろうと裸で暮らせるよ!」
エルザはふぅん。と呟きオルタスから離れてマイケルの肩に手をかけた。
「ホントに?逞しいわね」
それから耳元に口を近づけこう言った。
「あたし逞しい男って、好きよ」
マイケルが赤くなっていく。ロザがムッとしたような顔になった。
「じゃあ、行きましょうか、北極圏」
そう言った瞬間、目の前からエルザとマイケルが消えた。
「なっ!どこ行った!?」
「マイケル!?」
ロザが叫ぶ。
「どこ行ったって、決まってんだろ。北極圏だよ。可哀想にな」
オルタスが言った。
「あんなの冗談で言ったんじゃ?」
「あいつはな、冗談みたいな事を本気で言うんだ。怖い女だぞ。お前らも気をつけろ」
「あら、久しぶりに会ってようやく喋ったと思ったらひどいこと言うのね」
オルタスの後ろにエルザが現れた。
「今度はどこ行きたい?」
「い、いやぁ、今旅行行く気分じゃねぇからよ」
オルタスは明らかに動揺している。
「あっそ、じゃあ北極圏ね」
えぇ!?という叫び声と共にオルタスとエルザが消えた。消えたと思ったらすぐにエルザが現れた。
「今回は何日もつかしらね……」
「あんた、一体何者なんだ?」
「名乗る時はまず自分からでしょう?北極行きたいの?」
エルザが笑顔でそう言った。
「お、俺はハジメ・クロイヤード。勇者だ」
「勇者?ふーん。んじゃあたしね。あたしはエルザ・ヒューストイ。この魔術国家アルベリートの大師長。『攻』『守』『補』『究』からなる四本の枝を束ねる麻紐。そして一介の魔法研究者よ」
「そんなお偉いさんがどうしてこんなとこに?」
「巨大な魔力を感じてね、しかも二つも。君と、そこの小さい子ね。人間のレベルを軽く越えているわ」
「俺とロザが?」
「あなた魔力が見えるの?」
とロザが言った。
「見えるわ」
と得意気にエルザは言った。
「どっちの方が強い?」
ロザが興味津々といったように聞く。
「こっちの男の子よ。最初見たときなんか魔王が攻めてきたのかと思ったわ」
俺がか……?
「でも俺、魔法なんて使えないぞ?」
「そ、そうよ!なんで魔法使えないこいつの方が私より強い魔力持ってるのよ!」
ロザがは目に見えて動揺している。
「さぁ?あたしにはわかんないけど、おかしいのよね。あなたの魔力、時々ぷっつり途切れるのよ。無くなるの、魔力が」
魔力が無くなる…消えるということか?
「そりゃあたぶんこの刀のせいだな。確証がある訳じゃねぇが、触れたモノの魔力を消滅させるみたいなんだ」
「嘘!? 魔力を無効化するアイテムなんてめったにあるもんじゃないのよ!」
エルザが驚きの表情を浮かべる。この刀、そんなに珍しいものだったとは。
「触ってみてもいいかしら?」
「良いけど……」
盗られたりしないだろうか。エルザの顔を見て思う。
エルザは刀に恐る恐る手を近づけていく。
「…ッ!!」
エルザが刀に触れた瞬間、彼女は脱力し、倒れてしまった。
「おい!大丈夫か?」
俺は倒れたエルザに手を差し出した。
「ありがとう。大丈夫じゃないわ。魔力回復しないじゃないの!消えたわあたしの魔力!回復まで1日かかるのよ!その間に敵が攻めてきたらあたしだけ戦えないのよ!」
えぇ!? いやだってほら不可抗力じゃないの。
「だって俺他人が触ったらどうなるかなんて知らなかったしさ!」
俺は魔力が回復するのか…?だが他人…そうだ、今まで倒してきた奴ら…オルタス、ギルバート、あの2人のエンチャントを消滅させたのはこの太刀だ。そうだ…マウロイでオルタスがしてくれたエンチャントも刀を抜いたら消えた…他人の魔力を消滅させる魔法…?この刀…もしそうであるならば、とんでもなく強い力を持っている事になる。
「ねぇ君…その魔力、本当に君の?」
「どういう事だ?」
「私の魔力が消えたから、より鮮明に君の魔力が見えるようになったの。そうしたらその魔力、君の周りを這いずり回っているけど、魔力に不規則な動きが無いのよ」
「つまりどういうことなんだ?」
「魔法…?」
ロザが呟いた。
「そう、君のその膨大な魔力は、誰かの施した魔法である可能性が高いのよ」
俺に魔法が…?だが他人の魔力もとい魔法は刀に触れると消滅するんじゃ…?復活するのか…?もしくは誰かがかけ直しているとか…?そうだ、俺に魔力はあるのか?魔力とは確か生命エネルギー…失えばエルザのように脱力する…身体が弱ければそのまま死んでしまう可能性だってあるはずだ。俺はいくら触っても体力は奪われない…
「俺本来の魔力はあるのか?」
「うーん、見た感じでは君の纏っている魔力に不純物は無いわ」
俺には魔力がそもそも無いのか…安心だ。
「そうか、じゃあこれが魔法だとして、一体誰がかけているのか予想できるか?」
俺の問いにエルザは少し考え込む素振りを見せる。
「それが魔法だとしたら、どこかに居る発動者の魔力のほんの一部って事になるわ。しかも魔法効果が失われてもすぐに復活するように設定されているようね…となると、とんでもなく強い魔力の持ち主…魔王クラスでもなかなか居ないわ。あ、でもクロエなら…彼女なら…原初の魔女ならそれくらいの魔力を持っていても不思議じゃないわ」
「クロエ?原初の魔女?」
それにはロザが答えてくれた。
「そんなことも知らないの!?魔王でしょ!魔王!原初の魔女クロエは膨大な魔力と多彩な魔法を操る最強の魔女よ!しかも魔王の中でも最強って噂よ!私たちの最終目標でしょ!まったく、しっかりしてよ勇者様!!」
まぁ、答えてくれたっていうか怒られたっていうか。
「そう、でもそうすると、どうしてクロエが君に魔法をかけているのかっていう疑問が残るわね」
「見張っているとか?」
「たぶん、クロエは千里眼が使えるわ。遠くにあるものを観る魔法よ。魔力によって可能な範囲は変わるけど、彼女だったら地球の裏側まで見えるわ」
「へぇ、そりゃすごいな」
「かなり難しい魔法よ。例え成功しても大量の情報が頭に流れ込んでくる。人間の脳じゃ焼き切れちゃうわ」
だから別の魔法で追ってるってことなら辻褄が合うんじゃ…?
エルザはさらに続ける。
「でも魔王クラスなら、原初の魔女ならばあっさりと使えると思うわ。魔法で脳の代わりを作り出せるもの」
そりゃすごいな。強敵だ。俺はそんなのまで倒さなきゃいけないのか。
「で、これが監視魔法だとして、そしてこのクラスの魔力はクロエ以外考えられないとして、千里眼を使えるクロエがどうして別の監視魔法を使っているのか。それはたぶん、千里眼を使うためのコストが高すぎるからじゃないかしら」
とエルザは言う。
「千里眼というただでさえ大量の魔力を使う魔法に、さらに大量の魔力を使う擬似脳。そしてそれを維持し続けるためのコスト。原初の魔女でさえこれほどの魔力の消費はマズいんじゃないかと思うの。だから代わりの監視魔法を使ってるのよ。あくまでも推測だけどね」
「でも刀を触るたびに魔法効果が消えるんだろ?一緒じゃないのか?」
俺の問いにエルザは再び考え込む。
「うーん……あらかじめ魔法をかけておいたアイテムなら、永続的に魔法をかけていられるんじゃないかしら」
魔法のアイテム…長刀はただの切断魔法…太刀は魔力消去…銃は…いや、これには魔法はかけられてないとフレンドリーちゃんから聞いている…他には…うーん……
「魔力の出所とか分からないのか?」
「そうね、ちょっと待って」
エルザは俺の体を舐め回すように見つめた。
「腰の辺り…そう、ちょうどその銃の周りが一番魔力が濃いわ」
「なんだって!?」
この銃が魔力の発生源…?だとするとこれをなぜフレンドリーちゃんが…まさかクロエと同一人物…?だとしたらあの強さも納得だが……いやしかし、なぜ最強の魔王がアルトリアなんて小国の小さい酒場の経営なんてやってるんだ…?移動手段もバイクだった。エルザのように空間転移魔法は使えないのか…?あえて使わなかった…?なら使わない理由とはなんだ…?うーむ……
俺は腰の銃を抜き、近くのゴミ捨て場に投げ捨てた。
「あ、魔力が移動した。やっぱりあの銃ね」
とにかく、あれが誰のモノであれ、監視されてるというのは気分が悪い。フレンドリーちゃんには悪いが捨てて行こう。
「ああそうだ。エルザさん、あんたに頼みがあってこの国に来たんだ」
俺はすっかり忘れていた目的を思い出した。
「なぁに?」
「あんたの空間転移魔法で、俺たちをアースガルドまで運んでほしい」
エルザは驚いたような顔をする。
「アースガルド!?あんな所へ?無理よ!内部を見たこと無いもの。千里眼でも無い限り行けないわ」
「どうして行けないんだ?」
「どうしてって、あたしの空間転移魔法は安全に転移できる距離かどうかはもちろんだけど、転移先をイメージする事が一番大切なのよ。だから知らない所へは行けないの」
なんだ、ただの便利魔法だと思ってたのに。
「でもイグトラシル周辺には行けるわよ。あそこは昔研究で見たことがあるの」
「それでいい。頼む」
エルザはまた考え込んだ。
「いいわよ。でもこちらからもお願いがあるの。勇者様♡」
あれ、なんだか嫌な予感がするぞ。
「この国が戦時中ってのは知ってるわよね?」
「あ、ああ…」
エルザはニッコリ笑って言い放つ。
「あんた強いんでしょ?勇者様だものね!だから戦争に参加してちょうだい!アルベリートが勝ったらしてあげるわよ!」
またか……と言いつつも、内心また戦えることを喜ぶ自分が居た。
エタりそうになったら夢落ちにして、普通の高校生ハジメ君が遅刻しそうになったから朝食の美少女を咥えて走っていると曲がり角でパンとぶつかって結局学校には遅刻して席についたら転校生を紹介されてそれが今朝ぶつかったパンでした。というラブコメを一話投稿して完結させる。ちなみにパンはクロワッサン。いやイチゴジャムを塗った食パンでもいいな。
※エタりませんよ




