十二話 追放
「これは一体どういうことじゃ」
エンデメリコ王は窓から城下を眺め言った。
「反乱にございます」
側近の男が言った。
「誰がやった?」
「オルタスです」
「なんじゃと!!」
王は急ぎ戦闘区域へと走った。
マイケルは最後の一人を倒し、ホッとため息をついた。ちょうどそこへハジメがやってきた。返り血で真っ赤になっている。
「ようマイケル!手伝う必要も無かったか」
「ハジメ、お前真っ赤になって、悪魔みたいだぞ」
「ああ、着替えたいんだがな、服の代えがねぇんだよ。どうしたもんかね」
ハジメの服から血がポタポタと垂れている。
「怪我は無いのか?」
「ああ、無傷だ。騎士も大したことないな」
「ずいぶん強いじゃないか」
「マイケルだって、めちゃくちゃ強いだろう。8人の精鋭相手に一人で勝っちゃうんだから」
マイケルの周りには、口から泡を吐いて気絶しているものが数人。
「ハジメ、お前何人殺したんだ」
「さぁ?途中から数えるの面倒くさくなってさ」
マイケルはそれを聞いて怖くなった。これから旅を共にする仲間に一つ疑問を投げかける。
ーー殺すことに躊躇いは無いのか?ーー
それを聞いたハジメは、ふんと鼻を鳴らし言った。
「当たり前だ。躊躇すれば即ち死。相手も殺す気で戦うのだぞ、さすれば俺も全力で殺してやるのが礼儀ってもんだろう?何の問題がある」
このときマイケルには、ハジメがとんでもない怪物のような気がして、身震いした。
王はよろめきながらも走り続け、どうにかたどり着いた。王に見えているのは全滅の風景。屍の山と血の川。そしてそこに立つ三人の男。オルタスと、長い剣を脇に抱える男と筋肉メン。物見櫓には女が二人。側近はもう隣に立っていた。
「どういう状況だ」
「オルタスが城内に侵入、それを兵士が発見。そこでオルタスが城門を破壊。そばにいた勇者一行を強引に参加させ、戦闘開始。こちらの一方的な大敗。オルタスがロバートを殺しました。」
「オルタスはなぜ侵入してきたのだ」
「ロバートに妻と養女を殺され、騎士団へ報復に来たとか」
「そうか、勇者一行が戦闘参加。アルトニア王の策略では無さそうだ」
「いかがなさいます?殺しますか」
「いや、止めろ。勇者を殺せばアルトニアと戦争になるかもしれぬ。そうなってはわが国は滅ぶ」
「いえ、確かに騎士団の損失は痛いですが、まだまだ十分な兵士がおりまする。アルトニアにも勝てましょう」
「お前はなにもわかっておらん。アルトニアは兵士などただの飾りだ。最も恐ろしいのはあの王。たった一人で何万もの軍勢を打ち倒した百年前の伝説だ。東方からやってきてアルトリアの王になった。誰も勝てん。世界で最も戦ってはならぬ者だ」
「ではアルトニア王こそが東方不敗?」
「いや、定かでは無い。二人居たとも伝えられている。アルトニア王に直接聞いてもはぐらかされた」
「ふむ、いや、ではいかがなさいますか?オルタスと勇者一行は?」
「国外追放せよ。オルタスもだ。奴にはこの国を支えてきた厚い忠義がある。反乱が我が国への反逆でないのならば、反逆者とは呼べん。」
「よいのですか?オルタスまでも」
「オルタスだけを殺すことはできん。オルタスを殺すことになれば、勇者一行も殺さねばならなくなる。それが見せしめというものだ。仕方がない。この国は中立国だ。戦力が落ちたことを気取られぬようにせよ。この国にこれ以上の戦禍をもたらしてはならん」
「承知いたしました。我らが王」
側近はすぐに動き出した。
俺はオルタスの元へと向かった。オルタスも俺に気づいて近づいてきた。
「よう!お前強いじゃんか、俺を殺しかけただけはあるな」
「うるせえクソ野郎!テメェのせいで危うく殺されかけたんだぞ!!一発殴らせろ!」
「あっはは、悪い悪い、さすがにあの数一人で相手にするのはきつかったんでな」
「クソクソクソテメェクソ!死ね!」
俺はオルタスの顔面を狙って殴りつけるが、あっさりかわされた。
「あー!ムカつく!!」
「ところでよ、お前本当に東方不敗なんじゃないか?あの戦い振りはよ?」
「なんだ?東方不敗って?」
「知らねぇのかよ、伝説だよ伝説。東洋の最強の戦士の話さ。『その者は最強なり、数多の屍の山を築き、数多の血の川を流し、赤い雨の中に佇む赤い鬼』ってやつ」
「知らねぇな。そんなに有名なのかよ?それ」
「有名だと思うがな、まぁ、知らなくても別に問題ないしなぁ…」
そのとき、視界の端に何かユラユラとしたものが見えた。
…ん?今、何か居た…?
「どうした?」
「今何か居なかったか?」
「ほほう!ばれてしまいましたか」
ユラユラと空気が揺れ、一人の老人が現れた。
「ワシは王の側近の一人、お主らに言うことがあっての、よぉく聞きなされ!ほらほらそこのお嬢さんがたも筋肉も!」
俺たちは皆老人に注目する。
「お主らに国外退去を申し付ける!即刻この国から立ち去れぃ!!!」
「あ!?なんだと!」
「そりゃ好都合だ!」
「宿代払わなくてすむじゃん!」
「コクガイタイキョって何?ねぇ何?」
「俺もなのか?」
老人はオルタスに向き直り言った。
「オルタス、お主もじゃ、準備せい」
「そうか、俺は許されたのか」
「許すも何も無いわい」
老人はそう言い残すと、またユラユラと消えていった。
「ありがとうございます、王よ」
オルタスは城を見上げて言った。
俺たちはその後国を出た。そこで第七部隊が見送りに来た。
「ゴース!次の隊長はお前だ」
「なぁに言ってんだよオルタス!もともと俺の役職だったんだよ!」
「はははそうだったな!今までと大してやること変わんねぇだろうが、ま、頑張れよ!」
「ああ、もちろんだ。お前なんか居ても居なくても大して変わらねぇんだ…」
「今までありがとうな」
「それは…俺が言うべきことだ…」
ゴースの声は震えていた。
「ありがとうございました…あなたの下で働けて、幸せでした」
オルタスとゴースは抱き合った。そして、お互いに手を胸の前で交差させた。そのままくるりと別々の方向を向いて歩き出した。これからは別々の人生が待っている。別れだ。
「ハジメ、ハジメ・クロイヤード。マイケルにロザリンド、ハル。俺も連れて行ってくれないか。もう帰るところが無いんだ」
「ふざけんなっ!…って言いてぇところだが、お前強いし良いぜ来いよ」
「来るもの拒まず、神だってそう仰っている。俺の筋肉もそう言っている!」
「ま、仲間が多い方が楽しいよねきっと」
「よろしくねー!!!」
こうして、俺たちは一人仲間を加え、五人で魔王オーディンの討伐へ向かうのであった。
強さ的には、強化ハジメ>オルタス>ハジメ>マイケル>ロザリンド・ハルって感じに考えてる。ちなみに腕を交差させるのはこの世界の敬礼。エド・ウッドのプラン9で宇宙人がやってたやつの丸パクリ。プラン9は深夜に見ると名作だぞ!!




